王都へ
あれから無事に帰ることはできたが、本当に大変だったのはアジトを出たあとだ。
まず帰り道が一切わからなかった。二人とも意識を奪われたうえでつれていかれたから、どこに村があるか一切わからなかったのだ。
食料とか盗賊たちの荷物から拝借したからお腹が空いたりとかしなかったから良かったけど。
帰り道がわからないのは困って色々方法を考え、なんとか迎えを呼ぶことができた。夜の森が危険ということもあって、迎えに来てくれたの冒険者たち、ガインツたちだった。
それはいいんだけど事情を聞かれるのは困るな……。
「別に取り上げるとかそういうことはしないし、あれだけの荷物をどこから持ってきたのか教えてくれないかい? とても重要なことなんだ」
私がありえないほどの荷物を持っているのを見て驚いていたよね。一番驚いていた理由としては私の体が発光していたことだろうけど。あれは強化魔法の結果だし、仕方がないんだよ。
あと、あの荷物は戦利品というより慰謝料としていただいたんだよ。入口を埋めるんだから勿体ないし、学校に通うための費用とかにできないかと思ったわけじゃないよ?
ケイネスの問いかけにイラついたのか、ガインツが頭を掻いて聞いてきた。
頭を掻くとか汚いから止めてよ。
「遠回しに聞くのは面倒だぞ。もしかしてって思って聞くだけだが、この辺りを根城にしているだろう盗賊を倒したりしたか? 俺たちはこの辺りを根城にしているかもしれないから調査、できれば討伐するように依頼を受けんだ。もし討伐しらのなら報告はしないといけなくてな。依頼者が領主さんなんだよ」
「…………そうだとしても、私のことは秘密にしてくれる?」
「――っ!」
魔力を放出して威圧もしておく。私のアビリティのことを考えれば威圧して何か起きても問題はない。そんな問題が発生する前に圧倒してやるけどね。
まあ、二人の顔が血の気が引いていたけど、ガインツは目を見張るだけで済んでる。
さすが三人の中で一番強いだけはある。驚いて切りかかられたら困ったけど。
「わかった。秘密にするから話してくれ、あの言動だけで納得はできるが」
「私が盗賊を倒した。倒した盗賊は十八人、他にいるかわからないけど、十八人は……殺した」
「……そうか。秘密にしなくちゃいけないしお前たち、何かいい言い訳はないか?」
「見つけた時には討伐されていた、ではいけないですか?」
「そうなると誰が討伐したかで騒がれないか? 最近は色々あったみたいだし」
「ガインツさんたちが倒したことにはしないの?」
そう提案してみるとガインツさんは嫌そうな表情を浮かべた。
何が嫌なんだろう。ただでお金がもらえるしいいと思うんだけどな……。
「お前の成果を横取りするのは駄目だろう。報酬はお前が貰うべきものだしな」
「私のお願いを聞くのは駄目? そのお願いの報酬ってことでなら、報酬をもらってくれる?」
「お願い次第だがなんだ?」
「私は魔法の学校に通う。盗賊の持っていたお金の中に金貨もあったし。だから私がお願いしたいことは――」
☆ ★ ☆
「やっぱりここにいた! アリシア、ちゃんと荷物の準備はできた?」
「………………」
「アリシア! ちょっと魔法を使うのを止めて聞きなさい!」
「…………ん? あれ、お姉ちゃんどうしたの! 凄い髪が乱れてるよ」
「これはアリシアがやったんでしょ~!」
「痛い、痛いから手を離してよ。お姉ちゃん!」
思い切り引っ張られた頬をなでて下がる。この一年の間、お姉ちゃんは意地悪だ。去年までは優しくしてくれたり、甘やかされたり、心配されたり、甘やかされたりと……。
なんかお姉ちゃんに甘やかされた記憶しかないけどいいか。なんで態度が変わったかわかってるし、それを思えば文句は言えないよ。
あのお願いをして四年。ガインツさんたちがいてくれるといいんだけど。
「アリシアも髪が凄い乱れてるよ。あんな強い風を起こすからそうなる。髪直すから待ってて」
「う、うん。お願いするねお姉ちゃん」
ポケットから櫛を取り出して姉が私の髪を整えていく。
いつもより大切って思ってくれてるのが不思議と伝わってくる。お姉ちゃんとしては、やっぱり私が村の外に出るのは寂しいのかな? でも、私は外の世界を知りたい。
転生の定番といえるものは体験したい気持ちはあるけど、今はやっておきたいこともある。
だって魔王だと知って襲ってくる勇者がいないとも限らないし。
できればそういう人たちがいたら説得しておかないと色々と怖いからな……。
「うん。綺麗になったよアリシア」
「私はお姉ちゃんの方が綺麗だと思う! 皆言ってる!」
「ありがとね。アリシア」
この四年の間に身長も伸びたし、十二歳になったから胸も大きくなった。重く感じて困ってきたけど、何より困るのがこれからの成長だ。
記憶が戻った時にわかったけど私の体は、全てが幼かったけどゲームのアバターの姿だ。
名前までアリシア、と同じだと不思議に思うけど考えることじゃない。
「風の魔法はあまり使っちゃ駄目だよ。スカーチが捲れるからね」
「捲れるなら風で押さえつければ大丈夫」
「押さえつけたりとか、対策するならあまり使わないの」
あと、スカートってスカーチって呼ぶって知った。服のことも色々教えられたけど、ズボンをホットパンツにしたら「足を出しすぎ」と叱られた。
意外と穿いてみたらよかったけど、隠されるのは困ったしせっかくだから凝りたい。
「? アリシア、なんか変なこと考えてる?」
「ううん、考えてない。今日、村を出るから動きやすい服にしようと考えてて」
「もしかしてあの、ホットパンツっていうのを穿く気? あれは駄目って言ったでしょ。あんなに足を出したら変な人に狙われるよ」
「ならその人の身包みを剥いで私のお金を増やすから大丈夫!」
「お姉ちゃんはアリシアに盗賊のようなことは許さないからね!」
「痛い、痛いよ。頬が伸びる!」
また頬を引っ張られた。また、お姉ちゃんにふざけたことが言えるようになるに日は三年後。
学校を卒業してからだけど定番としてはトラブルで帰って来れなくなったりかな。
嫌だけど、定番は気になる。そうなったらお姉ちゃんの下に絶対に帰るけど。
「アリシア。怪我とか病気とか、男には気をつけてね」
「お姉ちゃんいってきます」
「男に気をつけてって言ったけど、結婚相手は見つけてきなさい。収入が安定している人ね」
「収入が安定している人なんていないよ思うけど……。結婚頑張ってねお姉ちゃん」
「アリシアが帰ってきた時には、アリシアは伯母さんになるかね」
「じゃあ、楽しみにしてる。だからお姉ちゃんも私が立派になって帰ってくるのを楽しみにしててね!」
月に一度来る行商人の馬車に乗せてもらって私は村を出る。お姉ちゃんはこの一年頑張って妹離れをして、私も姉離れをできたと思う。
一つ残念だったのは行商人の馬車が少し遅れたから、ちょっと恥ずかしかったぐらいだ。
格好をつけた分だけ本当に恥ずかしかった。今度からは気をつけよう……。