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朱染戦姫の大剣  作者: クロル・N・ロイズ
第一章 幼少期
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村に来た冒険者

 先頭を進むアリシアの足が動く度にひるがえるスカーチ(スカート)。あれには見た者の目を釘づけにする力が込められているかもしれない、とばかなことを考えている場合じゃない。

 今大事なことはアリシアの友達らしきカフルくんだ。エレスくんの弟ということしか私は知らない。どんな子なんだろう。でも、冒険者に憧れているのかな凄く嬉しそう。

 でも本当にアリシアとどんな関係なんだろう。

 普通に友達だといいな。付き合っていたりしたらお姉ちゃん、凄い驚いちゃうからね。


「カフルくん。聞きたいことがあるんだけどいい?」

「あ、はい。なんでも聞いてください」


 なんか表情が硬い。それにさっきアリシアと話す時は明るかったのに、一歳しか違わないのに、それでも年上って緊張したりするのかな? お姉ちゃんは気楽にしてくれると嬉しいよ。

 カフルくんの緊張は置いておいて、アリシアとの関係を聞かないと。

 アリシアみたいな世界一可愛い子には、悪い虫が多いらしいから、お姉ちゃんが守らないと。

 なんたってお姉ちゃんだからねっ!


「カフルくんとアリシアってどうやって知り合ったの?」

「…………」


 答え辛い質問だったのかな?

 アリシアってほとんど魔法の練習をしているみたいだから。男の子と遊んだりとか、まず知り合いになることがないから気になったんだけど。もしかして言い辛いこと?

 親とかが関係しているのかな、でも(うち)の親は関係しなさそうだし……。とりあえず聞く内容とか変えないと、何ならカフルくんは答え易いかな。


「カフルくんはアリシアと、いつもどんな遊びをしているの?」

「…………」


 ついに目を逸らされた! 一体どんな遊びをしているの!? 言えない内容な遊びじゃないよね。それだったらお姉ちゃん、どうすればいいかわかんないよ。

 これはお母さんに話してなんとかしてもらわないといけないのかな?


「よくしてる話は、将来なりたいものの話です。アリシアが秘密にしているんで、僕はそれ以上言えませんけど……」

「え? お姉ちゃんは将来なりたいものとか教えてもらったことないのに」


 答えてくれたことより、その内容に対してちょっと悲しくなった。

 お姉ちゃんには教えてくれないのにカフルくんにだけは教えるなんて、お姉ちゃんは悲しいよ。お姉ちゃんはそんなに頼りないのかな……?


「それは気にしないであげてください。きっと、いつか、絶対に言うと思いますから」

「なんでカフルくんが焦っているのかわからないけどわかった。……カフルくんはアリシアのことをどう思ってるの? 好きなの?」


 ちょっと胸がもやもやするけど聞くべきことは聞いておかないとね。

 とりあえず、アリシアが将来なりたいものを言ってくれるよう、頼れるお姉ちゃんにならないと。でもまずはカフルくんのことだ。

 アリシアの将来の相手としては不安だけど、冒険者に憧れているし……。


「好きだけど、今は……そんなこと言えないし。アリシアは興味ないみたいだから今はいい」


 質問と答えとしては満足だけど。でも、やっぱりカフルくんは将来が心配だから、今はお姉ちゃん認められないかな。カフルくんも告白する気もないみたいだし。

 そんな二人の会話は耳のいいアリシアには聞こえる距離だったが、アリシアには聞こえてしまうほどの余裕はなかった。捲れそうなスカーチ(スカート)の相手をしていて。



   ★   ☆   ★



「フェズさん。冒険者さんがいると聞いてきたんですけど、冒険者さんはいますか?」


 私たちを代表して姉が村長に聞く。私たちの中では姉が一番年上だからだ。

 私としては誰が聞いても同じだと思うけど、気にしなくていいかな。それに今の私には戦わなければならないもの、スカート……いや、風と!

 なんで今日はこんなに風が強いのか、誰かが魔法を使っているのだと思いたい。

 だって、いたら習いたいし。


「リンシアちゃんか、いつも孫の相手をありがとな。それで冒険者たちなんだが、今は出かけておって家にいないんだよ。すまんな」

「え? 今って冒険者いないの!?」


 別に冒険者がいない、ということで驚いているわけじゃないよ。冒険者だってなんらかの依頼で来ているかもしれないしね。仕方がないと諦めるしかないけどタイミングが悪い。

 だって今の状態でいないというのは私自身として凄い困る。このまま待つことになったら私としては最悪だ、今はミニスカートだから。

 本当にどうしてくれよう、あの姉め。まあ何かする意思はないからしないけど……。

 それより私は早く聞きたいことだけ聞いて家に帰りたい。

 ここに来るまで年の近い少年たちがじっと見てきたし、あの視線は嫌だ。


「ああ、今は調査で山に行っているんだよ。言っても問題ないから言うけど、山の方に行っちゃ駄目だよ。この付近で盗賊の被害が多いらしくて、どこかに盗賊の家があるかもしれないからね」

「わかりました」「わかった」「わかったぜ」

「皆いい子に育っているな、(うち)の孫は嫌そうにしてたのに。冒険者たちは遅くとも日が暮れる前には帰ってくると思うから、(うち)で良ければ家の中で待っているといい。では用があるから失礼するね」

「村長、ありがとう!」


 家で待っていていいというのは凄い助かった。とってもありがたい。

 これでスカートを襲う風の被害から逃れることができる。でも村長が話した内容、盗賊の被害が村の近くであったのは知らなかったな。もしかして冒険者が受けた依頼って盗賊の調査か退治、もしくは両方なのかもしれないな。

 それより私は家の中に入りたい。今でもよく吹く風から耐えているんだから。


「じゃあ村長がいいって言ったし家の中で冒険者を待とうよ。立って待ってたら疲れちゃうし」

「…………」


 姉は何か言いたそうだったけど気にしてられない。ちゃんと許可はもらったし、勝手に入るわけじゃないからいいじゃん。それにこの村で盗みをする人っていないし。

 そんな悪いことをする人がいたら村で話題になって村にいられなくなるからね。

 でも、ようやくスカートが捲れそうになるという脅威から救われる……。それを思うと嬉しくなるね。スキップをしたいほどだけど、したら見えちゃうかもしれないからしないけど。

 どうやら私は嬉しくて気が緩んでいたらしい。

 玄関の扉を開けようとした瞬間、今日一番の強い風が吹いた。


「…………あ」

「っ! 俺は見てないからな!」



   ☆   ★   ☆



「それで顔がそんなんなってんのか、いいもん見れた代金として思えば良かった方だろ」

「ガインツさん、そんなことを言うのは駄目ですよ」

「事故とはいえアリシアちゃんは見られた被害者なんですから、可哀想ですよ」


 確かに被害者といえば被害者なんだろうけど、私はもう気にしてないしな。だって見事なビンタを決めちゃったからね。あれはやり過ぎたかも、とちょっと反省しているんだよ。

 動揺していたとはいえ手を出すのは駄目だったからね。

 まあ、とりあえず悲しんでいるわけじゃないから気にしないでほしい。続けても面倒な話だし。


「可哀想って、見た感じ気にしているように見えないし、大丈夫だろ」

「でも……わざわざお姉さんの膝に座ってるんですよ。あれは気にしていない振りをしているだけだから、言っては駄目なんです」


 私のこれはそんな可愛い理由じゃない。これはお姉ちゃんが膝の上に座ってほしいってお願いしたからだし、そんな恥ずかしがり続けるような可愛げはないよ。

 そんなのあっても困るけどね。今の私にモテたいって考えはないから……。

 というかそれでこっそり話しているつもり? 丸聞こえなんだけど。

 ほら、お姉ちゃんが心配そうにしてるし、カフルもなんか後悔しちゃってるじゃん!


「よし! まあ、なんだ。知っていることや話せることは教えるから聞いてくれ。お前たちも冒険者に憧れて来たんだろうしな」

「ガインツさんも僕たちも、王都でしか活動してないから、冒険といえる冒険はしてないけどね」

「おいおい、ケイネス。少しぐらい格好つけさせてくれよ」

「事実だから仕方がないでしょ。彼女たちを悲しませるわけにはいかないし」

「クラリスまでか、俺の味方はいないのか……」


 うな垂れる振りをしている男がガインツ、盾を使う前衛の4級冒険者。苦笑いを浮かべている優男はケイネス、剣を使う前衛の6級冒険者。そして彼の幼馴染だという女性のクラリス、同じく6級冒険者で弓を使うそうだ。と紹介してくれたが使う武器はどうでもいいな。

 この三人が村に来た冒険者らしいが、そんなことより階級は数字なのか。S級的な位置はなんて言うんだろう。0級かな? もしくは特別級とか? 


「俺は冒険者が村に来てくれただけで十分嬉しいよ!」

「おお! ありがとな坊主。この村には一週間、あと五日ほどだがいる予定だ。だから、その間だけなら剣の扱いを教えてやろう」

「本当に教えてくれるの!? ありがとうガインツさん!」

「なら僕も教えようかな。ガインツさんは盾職だし、練習相手がいた方がいいでしょう」


 よかったねカフル。現役の冒険者に剣を教えてもらえるなんて。

 私の場合は、まず魔法使いがいないから教わることは少ないけどね。それに私はガチで剣を使えるようになりたいわけじゃないから。ガチの練習はお一人で頑張ってください。

 それでクラリスさんはどうかしたのかな? なんでかこっちをチラチラ見てるけど。


「その、二人は弓とかに興味があったりするかな?」

「…………最近ちょっと気になってたので、弓を教えてくれるなら嬉しいです」

「本当! それなら張り切って教えるね。それでアリシアちゃんはどう?」

「私は興味ないからいい」

「そ、そうなんだ……」


 本当に興味がないからね。前にお父さんが同じように聞いてきたけど断ったし、その時もお姉ちゃんが空気を読んで弓を教わってたな……。

 その時、突然カフルが「あっ!」と声を上げた。ちょっと驚いたじゃないか。


「アリシアは魔法に興味があるみたいなんだけど、何か知らない? 初級魔法とか、他に魔法に関係している話とか知らない?」

「魔法は生活魔法ぐらいだと。俺とこいつは生活魔法も怪しいほどだ」

「私も生活魔法ぐらい。でも魔法の話でいいならサヴァン魔法学園の話でも大丈夫?」

「魔法の学校は興味がある。……いつかは通いたいと思ってるし」


 魔法の学校はあるだろうと思っていたけど学園か。学園となるといくつかの学校が交ざってる聞くし、もし通えても私は友達を作れるのか難しそうだ。

 昔から仲のいい子で固まってて、私が仲良くできる可能性が低いかもしれん。

 でもお姉ちゃんがなんの反応もしないのは驚いたな。お姉ちゃんなら何か言ってくるかもと思ってたけど、言わないのは予想外だ。何を言っても止める気はないけどね。


「細かいことはわからないんだけど、入学料を安くして平民も入学できるようになるって聞いたの。王様の末の息子が提案してきたことだから、天才だって王都では噂なんだって」

「ん? 王様の末の息子って、今八歳じゃないか。本当にそんな提案したのか? 誰かの代わりとかじゃないのか」

「ガインツさん。最近では今八歳の子には天才が多いと話題なんですよ。隣国の方ではお忍びで街に出ていた姫を助けたと言われるスラム街の少女の話とか耳にしましたし」


 八歳ぐらいの子って、私と同い年か。

 もしかして他にも転生者がいるのかな。興味はあるけどこれは聞けないし、できればお目にかかりたくないんだけど。なんか怖いじゃん。特に最後の方に話題になった少女とか。

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