同志
第3部分の最後の方に文を追加しました。
私は魔法以外に練習していることがある。ファンタジーの王道といえば魔法とあともう一つである……剣の練習だ。でも残念なことにこの村には剣を扱える人がいない。
いるのは狩りのために弓を覚えた狩人たちだけ。私のお父さんも一応は狩人になる。
そこまで実力が高いわけでもないと言っていたけど、別に興味ないし弓には。
「はっ! やっ! とうっ!」
だから魔法と同様に独学でなんとかするしかない。
戦士と剣士の違いはわからないけど、剣を使うってだけで名乗れるのは羨ましいものだ。魔法使いの条件である初級魔法とか習わないといけないんだから……。
でも、魔法と違って剣は独学で覚えようとしている人が村に一人いた。
練習はいつものその人、一つ年上のカフルと一緒にしている。
「カフル! 今から練習に参加するけどいいよね?」
「ん? アリシアか、今日は遅かったけど何かあったのか?」
「ちょっとお姉ちゃんと遊んでただけだよ」
「……もしかして今もいるってことないよな? 怒られるのはいやだぞ」
素振りなら姉が見ても……微妙に問題はないだろうけど、木剣とはいえ斬り合う姿を見たら注意されそうだ。私は体に傷が残ったら、カフルは女の子が相手なんだからとか。
それにカフルは兄にも怒られる。カフルの兄が私の姉のことを好きだから、嫌われないように頑張ってるし、弟が注意されたら兄にまで飛び火しかねない。
さすがにそれで怒られるのは、カフルとしては嫌だろう。私も嫌だ。
練習相手がいなくなるかもしれないなんて。
「お姉ちゃんはいないよ。家に帰る途中でリッカさんに呼ばれてそっちに行ったから」
今カフルに説明したように、帰る途中にリッカさんに呼び止められ、姉はリッカさんの家について行った。正しくは行ってもらったんだけどね。ちょっと私に思うところがあったから。
ちょっとね。練習し足りない気分だったから仕方がないことだったんだよ。
「いないなら、いいが……。それで今日はどうするんだ? 時間もないしやるか?」
「戦い練習だよね? いいよ。いつも通り寸止めでね、お姉ちゃんに凄い心配されるから」
「わかってるよ。あと、練習じゃなくて稽古な。稽古」
別にそこまでこだわらなくていいのに、私たちのは剣の稽古というより、剣の練習じゃないか。
私たちは本気でやってはいても、習っているわけじゃないんだから。これは稽古というより練習だよ。練習。子供の思いつく限界だしさ。
まあ、そんなことは別にいいしとっととやるか……。
「木剣借りるね。じゃあ、いつも通りだけどかかってきて」
「いつも俺が先に動くと思ったら大間違いだからな!」
「でも、いつも先に動くでしょ。カフルは我慢ができないからすぐ来る」
「睨み合いは男のすることじゃない。男は体で語るもんだ」
「私は女だから視線で語る。だから早くかかってきて、返り討ちにするから」
「今日の俺はちょっと違うぜ。今度こそ俺の勝ちだ」
そう言ってカフルが腰を落とし、木剣を構える。カフルの構えはシンプルなものだけど、私は普通と違って両手で持った木剣を右肩に担ぐように構える。見る限り構えに見えないが、これが私の構えだ。違う構えとか色々したけど、これ以上に落ち着く構えがなかったのだから仕方がない。
今更だけど、この構えって普通の剣でする構えじゃないよな? 日本に暮らしていたはずだけど、剣道の持ち方でもないし……。
とりあえず今は練習だ。ようやくカフルも動く気になったし、問答無用の方が早いのに。
「おらっ」
足はちょっとずつ早くなってきてるけど、振る度に声を出すなんて、カウンターを叩き込んでくださいって言っているようなものだ。慣れないことはしないけど。
カフルの振る剣を身を捻ってかわし続ける。慣れないカウンターをするより一番楽だ。
でも一番得意なことは――
「ぐっ! ってえー、相変わらずのその一振りだけ手加減がないな!」
「これの寸止めはむりだから仕方ない。それに、ちゃんと剣だけ落としてるし」
私の一番得意なのは、構えた状態からの一撃だ。
担いでいる状態から腰を捻って振り下ろす、その動きは……あれだ。バッドを振るような感じなんだけど、もっと長かったり重かったりすれば……。
今の私じゃ持てないな。あれ? もしかして私って野球部だったりしたのかな?
あの振り下ろしも慣れたものだったし、でも剣でする動きじゃないな。うん。
それに私って野球やるよなタイプじゃないと思う。あんな説明になるんだからね。
「まだ時間あるし、もうちょっとやるぞ。今度は絶対にくらわないからな!」
「頑張って。私はただこれを振り下ろすだけ」
「その自信はもう終わる。次ので終わらしてみせる」
それからカフルと日が暮れ始める頃まで、十回以上やったけど十勝してみせた。カフルの攻撃は単調だから、もうちょっと頭を捻ってほしいものだ。
私は動物じゃないからカフルの単調な攻撃なんて効くわけがないんだよ。
「今日はもう終わりにしようか。いい加減に帰らないとお姉ちゃんが心配するし」
「……そうだなリンシアさんに心配させたら困るからな。あっ木剣は置いといてくれれば片づけるぞ。それと明後日って用事あるか?」
「用事はないからいつも通り練習するけど、明後日がどうかしたの?」
「明後日ぐらいに冒険者が村に来るかもって村長が言ってたんだ。だから色々と話を聞きに行かないか? アリシアは冒険者になるんだしさ」
「カフルもなるでしょ冒険者に、冒険の話とかいっぱい聞かなくていいの?」
「いっぱい聞くとしたら、アリシア絶対に来ないだろ。興味ないって」
確かに私は冒険者の冒険の話なんて興味がない。
私は冒険者に憧れているのではなく、冒険者という職業に憧れがあるんだ。冒険者と言えば定番だろう、ファンタジーの。それにならなきゃ異世界を満喫できない。
命の危険性があろうともね。でも一応は自分の腕が十分に立つか確認するけどね。それもあって私は冒険者になるより先に、魔法学校に通わないといけない。女の体だし腕力には自信がないんだよね。剣を振る時に腰を使うのも、威力が上がるからだし。
それに魔法の学校も定番とも言えるもの。これは大人になってからでは体験できない。
……まあ、話を聞きに行かない理由はないしね。
「外とか、王都とか気になるから行くよ。明後日だよね」
「明後日だよ。でも来てくれなかったらどうしようか本当に悩んだよ」
「その時は一人で行けばよかったじゃん」
「せっかくだし友達と一緒に行きたいじゃんか。そう思わないか?」
友達? 誰と誰が友達?
私にとってカフルは友達というより、いつか王都で一緒に冒険者をやる同志って感じであって、友達って感じじゃないんだよね。
「……うん、そうだね。じゃあ私は家に帰るね。また明日」
「おう。明日こそお前に勝ってやるからな!」
カフルの元気な声を背に私は家に帰って、部屋でのんびりしていた姉に抱きつかれたけど。
結局リッカさんとなんの話をしてたんだろう。お姉ちゃんは何も言わなかったし、特に問題のあることじゃないよね。リッカさんだし恋愛そうだんかな?
色々と話している時にカフルとの約束。一応友達と遊ぶ約束として行ったら凄い驚かれた。まあ気にしていたら切りがないだろうしいいかな。ボッチ行動してた私が悪いし。
でも私は気づかなかった。その時の姉の顔が私のことで考えている時の顔だったことを……。
☆ ★ ☆
頬が熱を持つのを感じる、きっと赤くなっているだろう。それは目の前にカフルがいるということが理由ではない。そしてカフルの頬も赤くなっているけど、これは私が理由か?
もしそうだったらカフルとの付き合い方を変えないといつ襲われるか堪ったものじゃない。
でも、カフルがそうなるのも私はわかるし、わかってあげられるけどその視線を上げろ。
「やっぱりアリシアに似合うね。これはもうちょっと下げないと危ないかな……」
お姉ちゃん。いっそのこと足首までのに変えていいんだよ。
ミニスカートにするから、パンツが見えそうな危機が訪れるんだからね。
「お姉ちゃん、これで本当に行くの? 別にいつもの服で良くない?」
「アリシア。冒険者は都会にも行ったりするんだから、お洒落しないとだめ。お姉ちゃんはアリシアがばかにされるのは許せないの」
「この格好は悪いんじゃないかな。目に悪いと思うんだけど……」
見る側からしたら眼福だろうと思うけど、今の私にとっては悪い。何が悪いって風で簡単に捲れそうな短いスカートが悪い。
それより女子はよくこんなのを穿いていたな。心臓に悪くないの? 恥ずかしくないの?
今の私が感じている感情は恥ずかしい、なんだろうけど、この感覚は知りたくなかった。いっそのこと開き直ればよくなるかな? でも嫌だな、パンツを見られるのは。
「これいいと思うのに、カフルくんもいいと思うよね?」
「え、そうですね……凄くいいと思います」
消え入りそうな声でも認めているのは聞こえているぞカフル。
今度の練習で、あの一振り目を絶対に当ててやる。後悔しても知らないからな……。
こうなったら、必要な話だけして帰ろう。風や人目がある外から帰ってやる。
「二人とも行くんでしょ。早く話をしに行くよ!」
「お姉ちゃんはゆっくりがいい。今の可愛いアリシアを人に見てもらいたいよ」
「お姉ちゃんは静かに、普通についてきてよ。カフルも行くよ!」
先頭を歩き始めた私の後ろで、二人が何か話をしているようだけど、私にとって気にかける余裕はない。何故なら風でわずかにでも捲れるスカートが気になって仕方がなかったんだから。