花畑って……
「どうかなアリシア。花畑すっごく綺麗じゃない?」
「うん。凄い綺麗だと思うけど、ここまでが本当に長かった……」
目の前に広がる花畑は息を呑むほど本当に綺麗だったのだが、私は感謝の言葉より苦情を口にした。ちょっと遠いと言ってたけど、あの距離を私はちょっととは思わない。
徒歩で三十分ぐらい、それも山道を歩いてだったから、思っていた以上に疲れた。
途中で姉のお願いを聞いたことを後悔するほどだ。
「えっと、ごめんね。アリシアにはここまでってきつかった?」
「ちょっとだけ。じゃあ魔法の練習をするけど、お姉ちゃんはどうする? 一緒にする?」
「お姉ちゃんも一緒に? お姉ちゃん、あんまり魔法が得意じゃないけどいいの?」
「得意じゃないから練習するんだよ。私はもっと上手くなるために練習するけど……」
「でも魔法の練習って何をすればいいのかわからなくて。詠唱を早く言ったりとか、とか……しかお姉ちゃんには全然思いつかないし」
何も思いつかないからって落ち込まないでほしい、別に私はそれを責めるわけじゃないし。
とりあえず姉の言う早口の練習は置いておくとして――普通に短縮詠唱とかできるし――まずは魔力操作を教えるのが先だ。
それに短縮詠唱などを覚えるには魔力操作が駄目だとできない。
でも、普通に教えて大丈夫かな? 村の人は早口以外の練習のやり方を知らないのか、気づいてないみたいだし。大人がそれなのに子供が気づいたら変に思われないかな?
……お姉ちゃんは「アリシアは天才だー!」って喜びそうだけど。
「アリシアは他にいい練習のやり方とか知らない? 早口だと舌を噛みそうで……」
「知ってるけど……。その練習の仕方とか、秘密にしてくれる?」
まあ、魔力操作程度は教えても問題はないだろう。一応秘密にしてくれるように言っとかないと、姉は広めてしまいそうだから、私の自慢という形で。
偶然聞いてしまった時は凄く恥ずかしかった。どうしてあそこまで褒めちぎれるのか。
とりあえずそのことは置いておいて今は練習のこととか考えないと。
「アリシアがお願いするから秘密にするけど。言っちゃだめな理由があるの?」
「皆に変な子って思われるかもしれないから……」
大人と同じか、それ以上に賢かったら変に思われるだろうし。天才扱いをされるのは、それはそれで困るから避けたいんだけど。天才扱いで注目を浴びるのは恥ずかしい。
私には天才と言われて堂々としてられるような、毛深い心臓を持ってないからね。
「変な子じゃないけど、天才だとは皆が思ってるよ。昔から物覚えはいいし、計算もできて賢いから皆将来は大物になるって言ってたけど、最近は魔法の練習してるから心配してたよ。色んな人が時間をむだにしてるって」
「それは本当にいらないお世話だよ……」
本当にいらないお世話だ。私の人生は私が決めるし、村の人が知らないだけで私の魔法は上達してきてるんだよ。そう言っても苦笑されるのは目に見えてるけどね。
それより私が天才と言われているのは知らなかった。これもボッチであったからか。でも計算しているとことか見せた覚えがないんだけどな。まあ終わったことだからどうしようもないし、気にしない方がいいかな。
今はお姉ちゃんに魔力操作を教えないと駄目だしね。
「じゃあ、お姉ちゃん! 他の練習を教えるから頑張って覚えてね!」
「任せて! アリシアのことなら忘れないから」
「忘れてほしいことは忘れてね。覚えられているといやなことあるから……」
「お姉ちゃんにとってはいい思い出なんだけど、努力するね」
その努力は信用ならないけどいいや、いい加減に練習をするぞ。
私の練習時間が減るし、お姉ちゃんがわざわざここがいいと言ったのは見せるため、だけではないだろうから。久しぶりにお姉ちゃんも普通に遊びたいはず。でもなー。
花畑でどう遊ぶんだろう……。
★ ☆ ★
「ううぅ……頭いたい……」
姉が頭を押さえて荒い息を吐いている。頭が痛いのは魔力を使いすぎたせいだが、荒い息を吐くことになったのは詠唱のせいだ。でも連続で、しかも早口に挑戦するから自業自得だ。
舌を噛まなかったことだけ良かっただろうけど、考えて魔法は使うべきだね。
まあ魔力操作を覚えるためには、魔力の減りを感じること、最低でも魔力が尽きかければ覚えれるだろうし、実際コツを掴めたみたいだから安心だ。
私はお姉ちゃんに教えている間は魔力操作と、特別な練習というより検証をしていた。
結果が良かったし姉も魔力が尽きかけている状態だから、これ以上は止めるべきだろう。
「お姉ちゃん。練習はこれぐらいにしよっか」
「アリシア、ごめんね。多分お姉ちゃんのことを考えてだよね。お姉ちゃんはアリシアが練習してる姿を見ているだけでもいいから、練習してて」
「大丈夫だよ。お姉ちゃんに教えながら魔力操作はしてたから、お姉ちゃんは休憩してて」
「本当にいいの? それなら少し休憩したら一緒に遊ぼっか」
「……うん」
やっぱり花畑で遊びたかったのか。でも本当にどう遊ぶの? 花の冠を作ったり、作ったり……私には他に思いつかない。元男だからってわけじゃないよねコレ。
男でも女でも、花畑での遊び方を元現代っ子じゃ普通は知らないよね?!
「アリシア、もう大丈夫だから遊ぼう……その前にお昼ご飯にしよっか」
「昼……うん、わかった。お腹が空いてきたしいいよ」
気づけば太陽も高く昇っているし、私のお腹も空腹を訴えている。
今のところ空腹だと、腹の虫がならないだけいいけど。姉からサンドイッチ、黒パンに焼いたハムを挟んだだけだけど、あまり美味しくなかった。
まあこんな時代だし仕方がないのかな? 王都とかに行ったらどうなんだろう?
うちの村が貧乏なだけかもしれないからちょっと気になる。それより花畑で遊び、遊びって結局何をするんだろう。とりあえずは……。
「ここにお姉ちゃんの好きな花ってあるの?」
「お姉ちゃんの好きな花? この花だよ。名前はわからないんだけどね」
姉が指さしたのは、水色がかった四つの花びらを持つ花。私も名前を知らないけど、私のはボッチ行動の影響だし。でもお姉ちゃんが知らないのか。
大人たちに聞いたりしてないのかな? いや、姉ならそれは聞くか。
でも、姉のことだから私の髪色と同じ花を言うと思ってた。
「それでお姉ちゃんの好きな花がどうかしたの?」
「ただ気になっただけだから。……なんでお姉ちゃんは嬉しそうな顔をするの?」
「アリシアがお姉ちゃんに興味を持ってくれたから嬉しかっただけだよ」
「そう……それでお姉ちゃん。遊びって何をするの?」
確かにお姉ちゃんに本人のことを聞いたこととかなかったけど、顔に出してしまうほど喜ぶことではないと思うよ。お姉ちゃんは変に反応しすぎだ。
とりあえず姉の考えを聞こう。私には花畑での遊び方は浮かばないから。
「花の輪っかを作ったりとか……かな」
「…………」
……お姉ちゃんも遊び方を知らなかったんだ。
その後、姉と昼寝をすることにした。だってお姉ちゃんが花を摘むのは可哀想だとか言うし、ただ時間を無駄にするのは嫌だったから、昼寝は妥協の結果。
まあ見張り&膝枕をしていた姉は、それで十分満足したみたいだけど。