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朱染戦姫の大剣  作者: クロル・N・ロイズ
第一章 幼少期 リメイク版(?)
19/19

知り合い

 私は午前中を魔法の練習に、午後は剣の練習をしている。

 この村には弓やクワを扱える人はいるが、剣を扱える人がいないから私の剣の練習は、ゴッコ遊びにしか思えないものだ。残念だけど、いないものはいないのだから仕方ない。

 それでもよかったと思えることは一つある。私と同じように独学で頑張っている人がいたことだ素振りをしているだけより、模擬戦ができるだけよかった。それに私と目的は違っても、独学で夢を叶えようとするのは共感が持てるよね。

 私にとっては同志とも言える素晴らしい仲間だ。


「はっ! やっ! たあ!」


 素晴らしい仲間なんだけど、その知り合いが男の子なのが問題なんだよね。

 お姉ちゃんに男の子と仲良くしてる。なんて知られたら彼氏だと思われかねないし、何よりそんな風に思われると練習に行きづらくなる。だからできるだけ黙っておきたいんだよ。

 まあ、黙っておきたいのは知り合い以外に理由が一つあるんだけどね。


「カフル! 今から練習に参加するね。それで私の剣はどこ? カフルの部屋?」

「アリシアの剣ならそこにあるぞ。今日は遅かったな、何かあったのか?」

「何かってほどのことじゃないよ。お姉ちゃんと出かけてたから、遅くなっただけだよ」

「えっ、リンシアさんと? もしかして、今もついて来てるなんてないよな?」


 カフルの心配はわかる。だけど、姉が一緒にいたら私は練習に来ないから、今いるわけないじゃん。こっそりついて来ていたら別だけど、姉は今リッカさんとこだから大丈夫だね。

 家の壁に立てかけられている木剣を片手に取る。私用の木剣の形はカフルの持っている両刃型の木剣と変わらないが、違いとしては赤い布が柄を覆っているぐらいだ。それでも十分わかるからこれ以上弄る必要はないけどね。


「お姉ちゃんはいないよ。そんなことより練習をしようよ」

「そんなことって、下手したら俺が兄貴に怒られるんだぞ……」


 カフルの兄は、私の姉のことが好きらしく、カフルに「俺に影響がある悪印象を作らないでくれよ」と言っていたそうだ。カフルが作りそうな悪印象なんて私のことぐらいしか浮かばないな。

 そうカフルが言われたのだって、私と剣の練習をしているのを兄が知った後らしいからね。きっと私に関して、変なことをするな、怪我をさせるなってことだろう。

 まったく、カフルのお兄さんは心配し過ぎだな。私はなるべく怪我をしないよう頑張ってるのにさ。


「ま、いないならいいが……それで、今日は何をするんだ? いつも通り素振りから始めるか?」

「今日は途中からだから、素振りは止めて模擬戦をしようと思うんだけど」

「模擬戦か。やるのはいいが、やる前に素振りでもいいから一応体を動かしておけよ」


 山道も含めてだが結構歩いたんだけどね。まあ、ただ歩いていただけだから、少しでも体を温めた方がいいか。言われた通り軽くでも素振りしよう。

 肩に担ぐように木剣を構え、上下左右好きに木剣を振る。色々な構えを試したのだが、一番しっくりきたのは肩に担ぐような構えだ。なんでかはわからないけど、しっくりくるんだよね。

 前世の私って何をやっていたんだろうね。前世の記憶がないから、わかるわけがないけどさ。

 でも、この構えって剣を振るって構えじゃないような気がする。


「……今更なんだけどさ。そんな持ち方じゃ使いづらくないか?」


 そう聞かれてもこれがしっくりくるんだよ。上から下とか、右から左に振るのが意外と楽だったりするんだよ、一応。逆に関してはやり辛いものだけどね。

 それにこの変な持ち方をしていても、模擬戦の結果は今のところ勝ち越しているんだし大丈夫。

 カフルがそんなことを聞いてきた理由はわからないけど、ただ普通の疑問だろうね。


「この持ち方がしっくりくるし、別に今のとこ問題はないから大丈夫だよ。……それと剣の持ち方とか、どうでもいいから模擬戦をしようよ?」

「アリシアが大丈夫っていうならいいが、もう模擬戦をしても大丈夫なのか?」

「十分。問題ないから大丈夫。早くやろう。今日も剣を落としてあげる」

「そう簡単に落とせると思うなよ。今日こそ剣は離さないし、久しぶりに一勝するからな」


 私とカフルの模擬戦の結果は、私が上から下への切り下ろしを木剣に当てて叩き落すことが多い。それと拾わせる隙を与えるわけがないからね。でも、ちゃんと一戦毎に拾わせてあげるよ。負けを認めないと拾わせないけど。

 カフルがする基本的に多い構えは正眼の構えのようなものだ。あとは右手一本で持ったりするけど、なんでどちらかに決めないのか。片手一本にするのなら盾は必要だろうに……。

 作ってくれるお父さんに頼まないのかね? 模擬戦をするような相手がいることを言ってないから頼めないのか、真実はわからないから今はいいや。今は模擬戦だ。

 カフルが木剣を構える。この試合は正眼の構えか、両手で持っているから落とし辛いんだよね。


「アリシア、いくぞ!」

「私はいつでもいいからね!」


 そう私が答えてすぐにカフルが走り寄ってくる。正眼の構えを維持したまま走るのは今までなかったことだから驚いたが、あの構えから何をするんだ?

 何をしようといつも通りかわし、剣の腹に向けて振り下ろして剣を落とせば勝ちだ。

 別に気を抜いているつもりはなかったのだが、いつも通り、という考えが甘かったのだろう。カフルが振るのではなく突いてきたことにわずかに対処が遅れるが問題ない。いつも通り剣の腹を叩き剣を落とす。それなのに剣に当てた感じは軽く、力がこもっていないように感じた。


「アリシアは同じ行動をし過ぎだ!」

「!」


 カフルの手が私の手首を掴んでそのまま引っ張ってくる。

 振り下ろしてすぐだったからか、それとも動揺してしまっていたからか、簡単に取り押さえられてしまった。まさか、剣を捨てて捕まえにくるとは思わなかった。剣を捨てて相手を捕まえる行為は、模擬戦として一応いいかもしれないけど、これは剣の練習じゃないよね?

 それは後から話すとして、今は……。


「カフル。色々言いたいことがあるけど、その前に手を離してくれないかな?」

「あ! ごめん、アリシア!」


 八歳のない胸とはいえラッキースケベを起こすとはね。別に胸を触られたことはどうでもいい、ちょっと体重がかけられていて痛かったぐらいだし。でも顔を赤くするのは止めてほしい。

 さて、そんなことより私の記録に、あれを負けとカウントしたくないとこだ。だって私は捕まっただけだからね。それにあの体勢では私にトドメはさせないし。


「カフル、さっき剣をわざと手放したよね。それに、捕まえるだけじゃ剣の練習にならないじゃん。模擬戦としては良くても、剣の練習としてはだめだよ。だから引き分けにしない?」

「えー、引き分けか。まあ、アリシアを驚かせれたしいいか。次はちゃんと剣で勝つぞ」

「今度あんな勝ち方をしようとしたらお姉ちゃんに言うからね。カフルに胸を揉まれたって」

「そんなの言われたら兄貴に怒られるじゃないか! でも、その、触ったのは本当だから、ごめん。次はわざと剣を手放したりはしない。……それでやるんだろ? 模擬戦」

「もちろん、やるよ。今度は不意を突かせないからね」


 その質問に二つ返事で答え、時間の許す限り模擬戦をした。

 模擬戦の結果は、もちろん私の全勝だ。いつも通りと考えていたから不意を突かれたんだ。文字通り(剣で)突かれてできた不意だしね。だから不意を突かれないようできる限りやった。

 視線や手の動きフェイントをいれたり、隙を作って攻撃を誘導したり、私にはまだ手がある。

 なにより精神年齢とはいえ、年下に負けるわけにはいかない。全力を出したのは別にいいんだよ。ほら、私よりカフルが(肉体年齢に)年上だから。

 でも、いつかは剣以外も使って模擬戦をした方がいいよね。この世界、盗賊がいるそうだし。


「あー、今日もアリシアに勝てなかった! やっぱりアリシアは強いな」


 カフルが芝生の上に大の字で寝転がった。土が剥き出しではないとはいえ、寝転がったら服が汚れるだろうに……。

 どうなっても知らないや。そんなことより、またお姉ちゃんと遊ぶかもしれないから、時々は練習に来れないかもってこと、伝えておかないとね。

 元々、それ言うことを考えてここに来たんだから。


「私はカフルと違って力がないから、ちゃんと頭を使っているんだよ。負けるわけにはいかないよ。あとカフルは攻撃する時がわかりやすいから考えた方がいいよ」

「え、そうだったのか、気づかなかった。アリシアに言われて声を出さないよう気をつけたんだがな……」

「もっと頑張ればなんとかなるよ。それと、私ときどき練習に来ないかも」

「え、なんで? もしかして胸を触っちゃったからか?」


 なんで胸の話に戻る。胸の話は関係ないよ。


「いや、そんなことが来ない理由にならないよ」

「そんなことって……」


 私に胸を触られた女の子の反応を期待されても困るんだけど。そういう反応は私以外の女の子に頼んでくれ。私がイラッとしたのは剣以外にカフルが走ったからだしね。

 もしかしてカフルはまだ気にしてるの? そんなことを気にするなんて面倒だな……。


「今日は途中でリッカさんに呼ばれたけど。今日みたいにお姉ちゃんと遊ぶかもしれないから、一緒に遊ぶ日は来ないってだけだよ。お姉ちゃんが来たら困るでしょ」

「リンシアさんが来たら困るな……とりあえず、わかった。あー、あとアリシアに聞きたいことがあってだな、明後日なんだが村長の家に行かないか。明後日ぐらいに冒険者が村に来るって、村長が言ってたのを聞いたんだ! アリシアも来るよな?」


 冒険者が村に? それは珍しいことだ。この村を通るような冒険者や商人はいないし、この村は魔物による被害ってそうないから、依頼を出したこともない。

 だから冒険者が村に来るというのは凄く珍しい、というより私もカフルも冒険者を見たことがないからね。本物の冒険者を見れるのは楽しみだが、きっと姉も冒険者が来たことは知るだろう。それに私が会いに行くと知ったら気づいてしまうかもしれない。何よりカフルと一緒か……。

 お姉ちゃんにそれで気遣われるのとかあったら嫌なんだけどなー。


「お姉ちゃんのことがあるから難しい」

「……リンシアさんに言ってなかったからか。冒険者になりたいって。それならもう一つのことで聞きに行けばいいじゃないか? 王都の魔法学校に行きたいから色々話を聞きたい、というのなら大丈夫じゃないか? 聞きに行こうぜ、村の外のこと」


 あ、それは確かに聞きたいかも。村の人たちは魔法学校があることは知っていたけど、入学条件とかは知らなかったから残念だ。でも冒険者なら知っているかもしれない。

 そう思うと聞いてみたいところだがカフルと行くと、お姉ちゃんが彼氏だと思いそうだし。それに私の将来の夢が冒険者って知ったらお姉ちゃん、反対するだろうなー。

 冒険者は危ない職業の一つとして有名だが、同時に一攫千金や、冒険という夢がある職業だ。

 と、私とカフルは思っている。思っているのは単純に、聞いた話のイメージだが……。

 それに魔法学校はテンプレを体験したいことと、ちゃんとした魔法を習いたいという考えがあってだ。試験次第か、入学費次第では諦めるしかないけど。


「でも、別々に聞いてもいいんじゃないの?」

「せっかくなんだから一緒に行こうぜ。リンシアさんに何か言われるかもって思ってるだろ。もし一緒に来たりした時は誤魔化すからさ。一緒に行こうぜ」

「わかった。その時は任せるね。じゃあ、私はいい加減帰らないといけないから」

「ああ、またな」


 木剣を預けて家に帰った私を待っていた姉から、誰と友達なのか聞かれたのは別の話だ。

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