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朱染戦姫の大剣  作者: クロル・N・ロイズ
第一章 幼少期 リメイク版(?)
16/19

今世の私

第一話のリメイク版(?)になります。

待っていてくれる方々、ありがとうございます。

 上半身を起こしてぐっと伸びをする。寝ていたのが簡素なベッドだからあまり疲れが取れた気がしない。まあ、元から疲れるような手伝いなんてさせてもらえないけどね。

 それはこの体が幼いことが理由だ。自分の体をこの(・・)体と言えるのは、この体が自分、植木紅だった時の体でないからだ。私は生まれた時から前世の記憶を持っている。その前世の記憶はほとんど欠けていて、覚えているものは前世の名前に死んだ時の状況、それにちょっとした知識ぐらい。

 植木紅だった時の自分の容姿は別にいいが、家族も覚えていないのはちょっと悲しい気がするね。

 それでも死んでしまったのは仕方がないし、せっかく転生したんだから異世界転生の定番、数々のテンプレを堪能したい! でも、個人的な問題としては今の自分の容姿がちょっと問題だ。

 窓に視線を向けると一人の少女が目に入った。気の強そうな灰色の瞳に、腰に届くまで長い赤い髪。そして何より幼いながらも美人に成長することが容易にわかるほど整った顔。これが前世が男だった自分の今世の体でなければ、将来が楽しみだったかもしれない。でも、これが今世の体であることは変わらない。

 それに性別を覚えていただけで容姿はわからないし、日常の記憶もないから男としての自覚なんか、ないにも等しい。ある意味、心は男性と言うより無性と言った方がいい感じだ。

 まあ、無性とかどうでもいいか。今はそんなことより気にしないといけないことがあるからね。


「アリシア、起きてるー? もう朝ご飯できてるよ!」

「っ! お姉ちゃん、扉はもう少し加減して叩いてよ。音が大きくて驚いたよ」

「うぅ、驚かせてごめんね、アリシア。ちょっと部屋に入るね」

「いつも聞かなくていいって言ってるよ、お姉ちゃん。ここはお姉ちゃんの部屋でもあるんだから」

「わかっているけど、ちゃんと聞かないとだめだと思って……それじゃあ、入るね」


 本当にお姉ちゃんは気にし過ぎだよ。あっ、ヤバイ。いつもの流れでお姉ちゃんに入っていいと言っちゃった。お姉ちゃんがやってくる前に髪だけは直そうと思ったのに、お姉ちゃんは些細な寝癖も気にするからね。私は寝癖がついてても気にしないのに……。

 部屋に入ってきたのはリンシア・フェルムル、私の今世の姉だ。今世の、といっても前世の兄弟がいたかすら覚えていない状態なんだけどね。でも、この姉がちょっと過保護、というよりシスコンなんだよね。

 そうじゃなかったら可愛くて優しい自慢の姉なんだけど。


「お姉ちゃん。今日も髪を直しにきたの? 前にも言ったけど、私は別に寝癖があっても気にしないから大丈夫だよ?」


 自分のことを私と言うのは、あれだよ。俺と言ったら駄目だと思ったからね。兄弟というより姉妹しかいない状態で、自分のことを俺と言うように育つわけがない。それと子供っぽい言動も、体に引っ張られているわけじゃないよ。怪しまれないよう気をつけるためだよ。

 だって今の私って八歳、小学二年で大人と同等に話をしたり、前世の記憶があるとか言ったら気味悪がられるからね。この歳で独り立ちとかできる自信がないから生き残るのに必死なんだよ……。

 今は身につけさせられそうな女子力から逃げるのに必死なんだけどね。


「それは大丈夫とかじゃないからね、アリシア。女の子なんだから、もうちょっとお洒落に気を使わなくちゃだめだよ。本当にどうしてアリシアはそこまでお洒落に興味がないの?」

「興味がないからだけど。それに夜までには寝癖は直ってるからあまり気にする必要もないし」

「それは直ってるって言わないと思うけど。……とりあえず、髪を直すからここに座って」


 姉がぽんぽんとベッドを叩いて座るように言ってくる。まあ、いつものことだしこれ以上の抵抗は無駄だろうから、いつもの位置に腰を下ろして姉のお世話を受け入れる。

 お姉ちゃんは私にとって優しくて可愛い自慢のお姉ちゃんなんだけどね……私に構い過ぎなければだけど。

 困ったり迷惑って思ったりするけどお姉ちゃんに髪を直してもらうのは好きだな。

 ……本当に構い過ぎなければなー。


「今日の髪型は何にしようか? 一つに結ぶか、二つに結ぶか、それとも結ばないか……」

「お姉ちゃん、そこまで気にしなくていいよ。それより早く終わらせて、服に着替えて下に行こうよ。早くしないと――」

「あ、服を考えてなかった! アリシアは今日どんな服を着る予定?」

「私が選んでいいなら動きやすい服がいい。ひらひらしたのは、なんか苦手」

「アリシアの言う動きやすい服だと、男の子っぽいものになるでしょ。そんな格好してたらお嫁さんになれないよ。ちゃんと女の子らしい服を着ないと」


 チッ、服装からも逃げられないか。それも仕方がないか……お姉ちゃんは私に可愛い服を着せたいとかで、両親に「アリシアに可愛い服を着せたいの!」と涙ながらにお願いして周囲を引かせた経歴があるからね。それも全部私のためって言うより、大好きな妹に構いたいだけの行動だけどね。

 でもお姉ちゃん、服のセンス凄くいいんだよね。センスが良くても女の子らしい格好は苦手なんだよ。

 なんとうか心がその服装を受け入れない感じかな?

 だって一応(?)元男だから受け付けないのか、まあ違和感があったからね。


「……結婚なんか考えてないよ。興味ないし」

「ん、何か言った? アリシア」

「なんでもないよ、お姉ちゃん。それより、まだ?」

「あと、もうちょっと……できた。可愛くできたと思うけど、どうかな?」


 どうかなって聞かれても鏡がないから見えないじゃん。

 窓ガラスには室内が反射して映っているから、窓を見れば今の姿を見ることが出来る。

 わざわざ見る気になれないだけなんだけどね。髪型にあまり興味ないし。まあ、一番興味がないのは結婚だけどね。今でも違和感を覚えているからね。

 あと七年もしたら私は十五歳、その歳になったら成人だし、結婚も考えないといけない。

 なんとかしたいところだ。違和感がなくなれば別にいいけど、八年経った今でも残っているのだから、きっと一生なくならないだろう。


「今日は三つ編みにしてみたんだけど、もしかして嫌だったりした?」

「嫌とかじゃなくて。どうなってるか見えないから、可愛いかわからないよ」

「鏡とか、うちにないからね。お姉ちゃんがぎゅってしたくなるほど可愛い、って言ったらわかるかな? だから大丈夫、可愛いよ」


 今の私は女性だし、男性だった時の自覚も薄いから可愛いと言われるのは別にいい。

 それより大丈夫って何がなんだろう? お姉ちゃんが今私をぎゅって抱きたいってことだけしかわからん。

 なんか一人で納得しているようだし放置しよう。いつもと変わらないし。


「じゃあ、お姉ちゃんは服を選んでくるから待っててね」

「この格好で出たら怒られるよ……」


 だって今着ているのは寝巻きじゃなく肌着。単純に下着姿だから、こんな姿で歩いていたら怒られる。前に実際怒られたからね「もうすぐ七歳になるんだから」ってね。

 確かに七歳辺りから周囲の目が変わった気がしたからね。お姉ちゃんに向けた視線で気づいてたけど。

 まあ、そんなことよりお姉ちゃんが服選びに行っちゃったからどうしよう?

 とりあえず魔力操作の練習でもしていよう。時間の無駄にならないし……。


「……」


 親はあまり魔法について詳しくなかったから村に来る商人から聞いた話だ。

 この世界に生きている人たちは皆魔力を持って生まれてくるらしい。魔力量の多い少ないという差はあれど、魔法を使えない人は全くいないそうだ。この世界の人たちにとって魔力とは生命エネルギー、気のようなものなんだろう。……だとすると魔力を使い過ぎれば気を失うのかな?

 平民が使える魔法程度では意識を失うことがないそうだが、元から使い過ぎない方がいいよね。


「…………」


 魔力操作は単純だ。体の一部分に魔力を集め、更にその魔力を違う部分に動かしたり体全体に送ったりといった練習で、成果としては魔法が発動するまでの時間が短縮されるもの。

 それでも短くなるのは僅かで、一秒以下の差を縮めるぐらい。生活魔法だからわかり難いかもだけどね。

 でも……魔力操作って代わり映えしないから暇で仕方がない。

 それにお姉ちゃん、今は二択で悩んでるのか。とっとと服を決めないとお母さんに怒られるよ?


「………………」

「お姉ちゃん、まだ悩んでるの? どっちでもいいから早く服を決めないと――」

「何を言ってもアリシアが選ぶのはだめ。アリシアに男の子みたいな格好はさせないからね! 本当にどっちもいいけど……今のアリシアなら」


 私は服を選ばせてなんて言う気はないよ。お母さんに怒られるから早くしてって注意しようと思ったのに、でも早くしないと本当に怒られるよ……。

 最近は「リンシアって妹離れできるか心配で」と、よく両親が心配してるから、呆れるかもしれないけど。


「今日はこれが似合うはず! じゃあアリシア、これに着替えて下に……あ! お母さん忘れてた!」


 お姉ちゃん、どれだけ服を選ぶことしか頭になかったの。呆れを越えて尊敬できそうだよ。

 急がないとご飯が冷めちゃう。もう冷めてそうだけどさ。

 渡された服に急いで着替えていたら姉が心配そうに私を見てきた。これ心配して……いや、してないな?

 これは私の着替えを手伝いたいだけだってこと、私はわかってるんだからね。


「アリシア。ちゃんと一人で服着れる? 大丈夫?」

「ちゃんと一人で服を着れるよ! それに前も言ったよ、お姉ちゃん!」

「そ、そうだよね。ごめんね……」


 そんなに残念そうな顔をしないでほしい。なんか私の方が悪いことした気になる。まあ、お姉ちゃんのしようとしている行動は悪くはないけど、迷惑ではある。

 現在進行形で両親が迷惑しているだろうからね。もちろん姉に謝ってもらうけど……。

 だって私は被害者(?)の方だからね。一応。下に行く前にお姉ちゃんに頼まないといけないことがある。


「お姉ちゃん、後から私のズボンを返してね。ちょっとやりたいことがあるの」

「……男の子っぽい格好をする気?」

「違うよ。ちょっとズボンを弄りたいから返してほしいの。お姉ちゃんが穿いてもいいって言うように弄るから」


 ズボンが男の子っぽくて駄目なら女の子っぽくすればいい。具体的な案としてはホットパンツだ。ホットパンツなら女の子が穿いていたし。

 何よりズボンだから、今現在、私が下半身に感じている違和感がなんとかなる。

 もしお姉ちゃんが認めてくれたら、私はずっとホットパンツを穿きたい。

 ワンピースやスカートは、今の私でも違和感を覚えて仕方がないからね……。

改善点や誤字脱字があった場合、教えてもらえるとありがたいです。

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