観光? 前編
昨日はエリィーナさんに魔力操作を教え、それ以外は宿の中でのんびりしながら明日以降の予定を話した。試験は明後日にあるから今日と明日の二日間は、余裕があるから王都の観光ができる、と思っていたけど王都を観光するには問題があった。王都にある見栄えのする場所は、王族や貴族が威厳を見せるために作ったものが多く、歴史を感じさせるものとかないらしい。
せっかくだから観光しようと思っただけで、別に観光とかしなくてもいいんだけど、威厳のための銅像は微妙かな。だって威厳とか私は気にしないから見せられてもね。
とりあえず今日は決めていたし観光をしよう。見る場所は人任せにすればいいと思うし。
「クラリスさんとベヌツェさんは、王都で知っておいた方がいい場所とかありますか?」
「知っておいた方がいい場所ではないでけど、私が二人に勧めたい場所があるよ。お菓子を多く扱っている食事処。内装は地味だとか言われているけど、紅茶も美味しいから私のお勧めだよ」
お菓子も紅茶も出す食事処って、喫茶店のようなお店かな?
この世界に来てからお菓子は食べれてないし、ちょっとだけ気になるな。
「……私としては、学園に通う時に必要になる物を扱っている店を見ておくといいと思います。前もって確認をしておけば、通えることになった時に困りません。それ以外だと、私には他に良さそうな店は思いつきません」
確かに試験に受かってから大忙しで探すよりいいよね。試験を受けるためのお金は登録の時に払っているから気にしなくていいし。まあ、まずは受かるかだけど……。
おっと、エリィーナさんにも聞かないと。私と同じで王都が初めてだけど聞かなきゃね。
皆で見て回るし、せっかくできた友達だから。ガインツさんとケイネスさんは用事があるとかで別行動になっちゃうけど。
「エリィーナさんはどう? こういうものを扱っている店に行きたいとかある?」
「服とか気になりますけど。受かってもいない今、買わない方がいいでしょう。私としてはせっかくですから王都を見て回りたいです。それに王都を歩いていれば行きたい場所もできますし、色々なお店も見れますし、いいと思ういますがどうでしょうか?」
「じゃあ、エリィーナさんの言うとおり、今日は王都を見て回ろうか。色々なお店の位置を覚えて、あと、クラリスさんが言っていたお店でご飯を食べよっか」
「私はアリシアさまの考えに賛成します。それなら皆不満もないですね」
皆の意見をまとめるとその方がいい。ベヌツェさんの言うことはわかるし、クラリスさんの意見はあれだね、私が食べに行きたい。この世界に来てから頑張ったし、私のアビリティは戦闘以外で優遇してくれないから。まあ、そのおかげで学園に通える資金ができたけど。
それから皆で荷物をまとめるために泊まっている部屋に戻り、荷物をまとめはじめる。
私とエリィーナさんは一緒の部屋だから、なんか興味津々といった視線を感じる。
「アリシアさまはお金の入った袋と、その袋しか持って行かないのですね。そちらの袋には一体なにが入っているのですか?」
「これはお姉ちゃんから貰った物で、とっても大切だから持って行くの。中身は見せれない」
「中身を見せてほしいなど私は言いませんから安心してください」
お姉ちゃんから貰った大切な物はレメリナの花だ。これを置いておくことはできない。
昨日、エリィーナさんに貨幣を教えてもらっている中で、レメリナの花の買取の高さがどれぐらいかわかった。詳しく聞いたら教えてくれたエリィーナさんのおかげだ。
貨幣を日本円で表すと、大体こういう感じだと思う。
白金貨が一千万円。
大金貨が百万円、金貨が十万円。
銀貨が一万円。
大銅貨が五百円、銅貨が百円。
石貨が十円。
そしてレメリナの花が一輪で大金貨一枚、大体百万以上は確実らしい。品質でさらに値が上がったりするそうだが百万以下にはならないそうだ。それだけ高価だとわかれば置いておけない。
姉から渡された物だし、盗まれるのは嫌だ。それに、いつかレメリナの花が必要になるかもしれない。自分や友達の病気を治すために、いつ必要になるかわからない以上は持っていた方がいい。レメリナの花を使わなきゃ治せない病気があるだろうから。
☆ ★ ☆
王都を観光する前に二人から王都について教えてもらった。
王都は王族が住む王城を囲うように、貴族の住む区画、商店のある区画、平民が住む区画の四区画に別れているらしい。スラム街と呼べる場所は平民の住む区画の隅にあるそうで、平民の住む区画と一緒の扱いだ。まあ、私にはそこに行く用事がないから教えてもらっただけだけどね。
それで私たちが見て回ることにした場所は、商店のある区画だ。
見て回れる場所がそこしかないからだけど……ついでに宿は商店のある区画になる。他の区画はあまり見に行かない方がよかったり、見るものがなかったりするから仕方ないね。
だから、最初から商店のある区画しか見れないのは残念だ。もっと何かあると思ってたのに、私はもうこの世界で観光するのは止めようと決めた。だって他のところも同じものだろうから。
あと、サヴァン魔法学園は貴族の住む区画と商人の住む区画の間にある。
試験に受かれば学園の寮に住むから、ある意味私は貴族区画の人間になるらしいから驚きだね。
「エリィーナさんはどう? なんかいい服あった?」
「そうですね。私はこの服がいいかもと思って、どうでしょうか。アリシアさまに似合うと思うのですけど?」
「……私は自分の服でいいのがあったか聞いたんだけど」
「でも、私は今持っている服で十分ですから、アリシアさまにいい服を選びたいと思って」
まさかエリィーナさんもお姉ちゃんと同じ生き物か!? 服の着せ替えはこりごりだよ。お姉ちゃんだって私が出発する年の一年は止めてくれてたのに。
それなのに、まさかここでお姉ちゃんと同じように服の着せ替えを狙う人がいるなんて。
せめてお姉ちゃんと違って強引じゃなさそうなのが助かるところだけどね。
「選ぶのはいいけど今日は買わないし、今のところ買うことは考えてないし」
「でも入学したらアリシアさまも服を買うでしょう? 今の内にいいものを探して覚えておいた方がいいと思うのですが、気になる物はありませんでしたか?」
「気になるものというか……元からあまり服に興味がないし、別に今あるのでいいと思うし」
村で着ていた中でいい服を持ってきているし十分でしょ。それにお姉ちゃんからなんとか返してもらったホットパンツがあるからね。
今更なんだけど、私がホットパンツを穿いた時にお姉ちゃんが「足を出しすぎ」と注意したけど、ミニスカートは許されるのかな? それとも女性らしくなったからかな?
胸が大きくなってきた辺りでミニスカートも穿いてないから、許されるのは子供の時だけか。
まあ、私にとっては動きやすい方がいいし、何より私のアビリティは傷つくこと前提だし。
布の多い服って破れたり、切られることを前提にしないと、いつかアビリティを使う時に困るからね。寒いところに行ったりする時はさすがに布の多いのにするけど。
そんな服の話より目の前のことだ。エリィーナさんがなんか凄い呆れた顔してる気がする。
なんかお姉ちゃんと同じ空気を感じるな……。
「アリシアさまの容姿は素晴らしいのですから、服などもこだわりませんと」
「……でも、本当に興味がないからね。それにお金の無駄な気がするし、美味しいものの方がいいと思うけど」
「色気より食い気が許されるのは子供だけですよ、アリシアさま。せっかく美人に生まれたのですから、もうちょっとちゃんと着飾るべきです」
「それはいつかでいいよ。それよりエリィーナさんはいい服はあったの?」
「今の私にとってはアリシアさまの方が優先です。少しでも似合う服を見ましょう。そして試験を合格して一緒に服を買いに行きましょう。私、凄い頑張りますから」
ここは妥協した方がいいのか悩んだけど、結局妥協して服を選ばせた。
お姉ちゃんと違って服を強引に着せてこないからいいけど、お姉ちゃんよりちゃんと似合う服を着るべき、と主張してくるから困る。一番悩む問題として言うなら問題は胸だけどね。
思い出したら重く感じて仕方がない。どこかの商人にでもブラジャーを提案して作ってみてもらおうかな。これ以上重くなることがわかってるし……。
ついでにこの後に行ったアクセサリーのお店でも同じように言われた。
「別に装飾のついた髪飾りとか、指輪とかも興味ないし。あまり買おうと思わないよ」
「……アリシアさまは、ほんの少しでも着飾った方がいいですよ。せっかくの容姿が勿体ないです。この髪飾りの装飾はアリシアさまに似合うと思いますよ?」
「勿体なくても、私は別に着飾るのはね……。その髪飾りもいつか買うから」
「いつかってアリシアさまは買う気がというより、着飾る気がないのですね」
「…………」
だって面倒じゃん、毎回考えるのって……。