宿と試験の登録
エリィーナさんは、私とガインツさんたちが待ち合わせしていた町で商売をしている商人の娘らしい。学園に通える年齢になったのと、自分も学園に通える余裕があるほど入学料が安くなっているのもあって、親にお願いして試験を受けさせてもらえるようになったとか。
試験に受かればそのまま学園で学び、受からなければ花嫁修業をしないといけないそうだ。
そうクラリスさんオススメの宿に向かう最中、エリィーナさんがずっと話していた。私としては別に構わないんだけど、ベラベラ家庭の話をするからお付きの人が凄い困ってたよ
まあ、お付きの人が困っていようが、私には関係のないことだし。試験合格できるかな……。
「嬢ちゃんたちはそこに座って待ってな。部屋の登録している間に二人で話をしたらどうだ。お願いの内容を聞くだけ聞いたらどうだ? 今の内に話しても問題ないだろ」
「んー、確かに別に問題ないけど……わかった。あそこで話しているので部屋の方をお願いします」
「おう任せとけ。クラリスが良さそうな部屋を選んでくれるさ」
良い部屋に関してはガインツさんには期待してない。ガインツさんが気にするように見えないし。とりあえず、ガインツさんが言うとおり、広間には私たちしかいないし問題ないよね。丁度食事する場所が空いているみたいだしね。
それでも、できるだけ私が火柱の正体だと気づかれないようにしないといけないけどね。
エリィーナさんのお願いは関係しそうだし、宿の人に聞かれて誰かに広まったりとか困る。……一番の理由としては、面倒なことになりかねないからだけど。
「それで、エリィーナさんがお願いしたいことって何? 一応言っておくけど、無理だと思うものはどんなにお願いしても無理だからね」
「は、はい。それはもちろん、断られたらそれ以上お願いしません。……それで私がアリシアさまにお願いしたいことはですね。よろしければ私に魔法を教えていただけませんか?」
「え? ……魔法は学園の方で教えてもらえると思うけど、どうして私に頼むの?」
魔法学園に通わないのならわかるけど、エリィーナさんは私と同じように魔法学園に通おうと思っているのだから、試験に受かって通えるようになったら先生に教えてもらうべきだ。
通えなかった時ようにというのなら縁起が悪くて嫌だ。でも受かるかわからない今、教えてほしいと頼むのはちょっとわからない。通えなかった時ようには考えたくない。
せっかく知り合ったんだしできれば受かってほしい。私は魔力量に自信あるから別に。
あ、でも試験て何をするんだろう? 魔法を見るわけじゃないよね。
それじゃあ初級魔法を知らない平民のほとんどが参加できなくなるから、私は異常だけどさ。
「確かにそうなのですが、私はアリシアさまみたいな、凄い魔法を使えるようになりたいのです」
ごめんなさい。私の想像魔法を教えれる自信はないよ。
いつの間にか使えるようになった想像魔法は、教え方がわからないから。可能性として私の持つアビリティだと思うけどね。熟練度を飛躍的に上げるアビリティがあるから……。
それに、そのアビリティのおかげで使えているかもしれないから、エリィーナさんに教えても使えるかわからない。私としては使えるようになるとは思えない。
とりあえず嘘も含めて、教えることを断ろう。エリィーナさんは知らないだろうし。
「私はまだ未熟で人に教えれるほどじゃないから、教えるのはごめんなさい。でも、こうして出会ったんだし、これから友達としてよろしくお願いします」
「はい! これから友達としてよろしくお願いします、アリシアさま」
「おーい、嬢ちゃんたち。話は終わったか?」
丁度いいタイミングで来たな。もしかして私たちの話を聞いていたのか? 乙女の会話を盗み聞きするなんて男として恥ずかしくないのか。まあ、どうでもいいけど。
秘密にする話を知っている人だし、それより部屋を決めたのなら荷物を置いておきたい。
でもお姉ちゃんの贈り物は持っておくけどね。置いていく方が怖いから……。
「終わったけど部屋の方はどうなってるの?」
「部屋は俺とケイネス、クラリスと嬢ちゃんの二部屋だ。あー、それとエリィーナの嬢ちゃんの方も二部屋で、男女別にしているぞ。いっそのこと嬢ちゃんたちとクラリスで一部屋にした方が良かったと思うんだがな」
「でも、普通に考えて部屋分けはそれでいいと思うよ」
「私は構いませんのに、ちょっとベヌツェと話をしてきます。少し席を外しますけど、待っててくださいね。アリシアさま」
「え? 待ってるから気にしなくてもいいのに」
ふむ、お付きの人と何か話す内容でも思い出したのかね? 気にすることじゃないしいいか。
と思っていたのだが、エリィーナさんが一緒の部屋に泊まることになったのを後から知った。それとクラリスさんは本来エリィーナさんが泊まる部屋に泊まり、私はエリィーナさんと一緒らしい。なんで一緒に泊まりたいのか不思議だ。
まあ、別に私が考えることじゃないし別にいいよね。その間、ガインツさんの相手したし。
「それで本当に弟子はよかったのか? アリシア様」
そんな風にからかわないでほしい。私だってできればさん付けか、呼び捨ての方がいい。
なんかエリィーナさんが聞きそうにないから言うのをやめただけだからね。
私はさま付けで呼ばれることを認めてない。諦めるしかなかっただけなんだから!
★ ☆ ★
試験の登録は思っていた以上に時間がかかってしまった。なんでも今年は王子が入学するということもあって、顔繋ぎをしたい商人が多かったらしい。前までは貴族が多く、平民で入れるのは裕福な商人の子供が少しだったそうだ。その商人が増えた理由は入学料の変更が原因らしい。
入学料が安くなったことでそれなりの商人なら試験を受けれるようになったそうだ。その分、貴族の子たちが私たちを見下したような視線を向けてきたけど仕方ない。
平民の私たちは、貴族の彼らに比べて入学料が安いのだから。貴族は金貨一枚と銀貨五枚、平民は銀貨五枚となっている。金貨が必要だと思ったから、聞いた時は凄い驚いた。
そんなに安くして大丈夫なのか。そんなことを提案したという王子の頭は大丈夫なのか?
ついでにエリィーナさんは王子が入学するのを知らなかったらしい。エリィーナさんが驚いていたけど、別に驚くようなことじゃないと思うけど。
だって王子が同い年だと知ってたし。どうせ皆知ってたんだからゆっくり登録すればいいのに。
ん? 私が王子の歳を知ってるのはクラリスさんが凄いと、国の自慢だと話すからね。
「試験は魔力量の測定があるみたいだけど、エリィーナさんは自信ある? 私は魔法をそれなりに使ってるから、魔力量には自信があるけど……」
「アリシアさまなら大丈夫ですね。私はちょっとわかりません。魔力量って今まで知らなかったですし、魔力量ってどうやって見るのでしょうか? それに魔法の発動速度の試験というのだけでも予想はつくのですけど、魔法の発動速度って違いがあるのでしょうか?」
「わかり難い違いだけど魔法の発動速度にはちゃんと違いがあるよ。本当に微妙で気づかないほどだけど。それと一応だけど、魔法の発動速度は少しでも早くできると思うけど、やる?」
魔法の発動速度を上げる練習方法なんて、私がお姉ちゃんに教えてた魔力操作だろうし。
それならお姉ちゃんに教えてたから、魔力操作については教えることができる。でも、なんで魔法の発動速度なんて試験に入れてるんだろう?
魔力量についてはMPだろうと思うけど、もしかしてMPって生まれた時から決まってるのかな。それだったら試験の内容に入れているのもわかるけど、才能の差って嫌だな……。
まあ、だからこそ努力で補えれる魔法の発動速度があるのかもしれないね。小さな希望かもしれないけど。
「やります。教えてください、アリシアさま」
「……わかった。それじゃあ魔法の発動速度を上げるには――」
……うーん、やっぱり違和感がする。さま付けをなんとかできないかな?