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朱染戦姫の大剣  作者: クロル・N・ロイズ
少女期
13/19

 今、私たちは入場検査の列に並んでいる。なんで並んでいるかというと、乗合馬車に乗って門を通ることはできないらしい。貴族とかの馬車は別らしいけど……。

 まあ、そう決まっている以上は仕方ないし、危ない人が入ったら困るよね。私も困る。だって私はこれから王都(ここ)で生活するんだからね。門番さんにはちゃんと守ってもらわないと。

 お願いね門番さん! とお願いしたい気分だけどなんか門の方が騒がしいな。


「調査隊の準備はまだなのか? 急がないと今度も原因がわからないぞ」

「どうせ四年前のあれと同じで原因はわかりませんよ。あんな火柱を上げる魔物なんて聞いたことないですし、前のだって人為的なものだと言われてますよ。あの辺り凄いことになっているそうですから」

「……バレたらどうしよう」


 聞かなかったことにしよう。私は何も聞いていない。

 私が自分の魔法が起こした影響から目を背けている間、ガインツさんたちは知り合いと話をしていて聞こえてなさそうだ。本当に聞こえていないと助かるな、弄られたくないし。

 それより、いつになったらあの少女は私から視線を外してくれるんだろう? それに少女から視線を向けられている内に思ったんだけど、もしかして魔法を見られたかも。

 見られていたらどうしよう。黙っているよう、お願いをしに行った方がいいのかな……。


「………………」

「アリシアちゃん、なにかあったの? まだ、ちょっと気持ち悪かったりする?」

「っ! 別に気持ち悪くなったりはしてないよ」

「……それならいいんだけど、なにかあったら言ってね」

「ありがとう、クラリスさん」


 ちょっとクラリスさんが不思議そうにしているけど気にしないでほしい。クラリスさんが戻ってきたことに気づかなくて驚いちゃっただけだから。まあ、一番問題なと言えるのは、視線を気にして周囲を気にしなかった私が問題かもしれないけどね。

 それより、クラリスさんはまだ話をしてなくて良かったのかな?

 まだ二人は戻ってきてないし……あっ、二人が戻ってきた。


「どんな話をしていたの。言えないことだったりする?」

「いや、言えないことじゃないんだけどな。嬢ちゃんの魔法はえらく目立ってたらしいな」

「…………」


 なるほど、火柱はよく目立っていたのか。私はそんな話は聞きたくなかったけどね。

 今度から火力狙いじゃなければ、派手な魔法は控えよう。



   ★   ☆   ★



 門番に身分証、冒険者のカードを見せて私たちは門を通った。私の場合は住民票のもあったけど、せっかく冒険者カードがあるなら使いたいじゃん。

 売ることもなかったから冒険者組合じゃカードを作っただけで終わったし。

 さて、これからどうするかと言うと、まずは宿を探さないといけない。今持っている荷物を置いておける場所、それに入学できてもすぐに入寮できると限らないから。

 本当、すぐにでも入寮できたら助かるんだけど。それに試験を逃さないよう早めに来たから、今は試験を受けることはできない。まあ、登録はできるけどね。


「クラリスさん、宿を取ったら試験の登録をして、王都を見て回りたいんですけどいいですか?」

「いいよ。アリシアちゃんはどういう場所が見たい?」

「――そこの魔法使いさま! 私の話を聞いていただけませんか!?」


 いきなり近くでした声に驚いちゃったけど魔法使いか、盗賊落ちの魔法使いと違う本物の魔法使い? いったいどんな魔法使いだろう。

 そう疑問に思ってきょろきょろしてたら、一人の少女が私の前に立ち止まった。

 もしかして魔法使いって私? あ、それにこの子、私をじっと見てた子だ。魔法使いって言ったし、やっぱり私が魔法を使ったのを見てたのか。黙っててもらえないか心配。

 でも門を通るまで話しかけてこなかったし、黙っててもらえるかな? 言われたら困る。

 それに門番さんにご厄介になるのは嫌なんだよ。


「私はエリィーナ・ブラウンといいます。魔法使いさまにお願いしたいことがあるのですが。今、時間は宜しいでしょうか?」

「時間はあるけど、できれば宿と試験の登録が終わってからがいいんだけど。いい?」

「魔法使いさまが試験……もしかして学園の入学試験を受けるのですか?」


 頷くとエリィーナさんが凄い不思議そうな表情を浮かべる。確かに魔法が使えるのに魔法を教える学園に通うのは不思議だよね。私でも思うから納得しちゃうけどさ。

 不思議でも通いたいんだよ。私だって友達がほしいし、異世界の定番を体験したい。

 あと、ちょっと心配なことがあるから、繋がりは作っておかないと……怖い。


「驚きました。もう魔法使いとして活躍しているとばかり思っていました。でも、魔法使いさまは――」

「あの、その魔法使いさまって呼ぶのは止めて。……私の名前はアリシア、アリシア・フェルムル。よければ名前で呼んでほしい」


 魔法使いさまって呼ばれるのはちょっと、今も周囲から視線を集めちゃってるし。

 恥ずかしいのもあるけど、色々問題が起きかねないから止めてもらわないとね。知られていない魔法使いが王都にいて、さらに王都付近で派手な魔法が使われたんだから、私だと気づかれる可能性はできる限り廃除しときたいの。


「すみません、アリシアさま」


 え、普通にさん付けじゃないの?

 身形からして目の前の彼女、エリィーナさんがさま付けならわかるけど、私だと周囲が不思議がるんじゃないのかな。これはこれで困るけど、この話は置いておこう。

 なんとかするのは宿に移動して、他の視線が少ないところでなんとかするべきだ。


「お嬢様、急に走られては困ります。……冒険者の方々、お嬢様が迷惑をかけてすみません」

「あー、俺たちは別に気にしてないからいいぜ。それより嬢ちゃんたちはこれからどうするんだ?」

「まずは宿、そのあとに試験の登録をするよ。今日の内にしておきたい」

「私も同じ宿に泊まってよろしいでしょうか。アリシアさまにお願いしたいことがありますし。それに私も学園の試験を受けるので、よろしければ試験の登録もご一緒させてください」


 エリィーナさんも一緒に学園の試験を受けるのか。これは入学前から友達ができるのかな?

 まあ、今考えるのは一緒に行くかだよね。エリィーナさんのお付きの人がちょっと困った顔してるし。それよりお嬢様ってことはエリィーナさん、やっぱりいい身分の人なのか?


「ベヌツェ、泊まる宿は決まってないでしょう。私、アリシアさまと同じ部屋(宿)に泊まります」


 ん? なんか今、とんでもない違和感がしたような……。

 そう私が疑問に思っていることなど関係なく、エリィーナさんはお付きの人にお願いしていた。

 私は別に同じ宿に泊まるのは問題じゃないしね。拒否する理由がないから。


「アリシアさまと私が試験に受かれば同級生になるのですから、できれば今の内から仲良くしておきたいのです。それをベヌツェは駄目だと言うのですか?」

「……そうですね。仲良くしておくのはお嬢様の学園生活に必要かもしれません。同じ宿に泊まることに関しては私はこれ以上言いません」

「ありがとうございます、ベヌツェ。では同じ部屋(宿)に泊まりますね」



   ☆   ★   ☆



「王子! ペイン王子! 急にどうされたのですか!?」

「王都の近くで火柱が上がったと聞いた。だからすぐに門に行こうと思う」

「なりません。勉強がまだ途中でございますよ」


 マカライン・ヘレブフォード。彼は僕の教育係であると同時に見張りでもある。最初の頃はただの教育係だったのに、四年前の火柱が上がった場所に行きたいと言ってから、マカラインは見張りとしての行動をしてくるようになった。少しぐらい好きにさせてくれてもいいのに。

 前のだって僕が調査に同行してたらわかったかもしれない。止められたせいでわからなかった。

 調査に行った騎士たちでは知らない(・・・・)ことがあるからな。


「……マカライン。僕にとっては重要なことなんだ」

「私には重要な用件には思えません。王子は末の息子で王位継承権が低いといっても王子なのですから、もう少し王子としての自覚を持ってくださらないと困ります」


 マカラインの言うことは理解できるが、僕としては優先させたいことがある。


「せめて急に動くのではなく、前もって言ってくださらないと困ります。明日以降に外出できるよう時間を調節いたしますから、今日一日は勉強に励んでください」

「……わかった。でも、明日以降なら王都を見て回りたい。少し気になることがある」

「その気になることとは、一体なんでしょうか?」

「内緒だ。でも、僕の気になることが確かなら、きっと学園生活は楽しいものになる」

「……はあ、何かはわかりませんが、王子が楽しみにしているのがわかりました。それでは王子、少しでも勉強を頑張ってくださいね」


 まあ、マカラインにはわからないだろう。あれがわかるのは僕たち(・・)だけだろうし。

 楽しみだな、できれば学園に通う前に会いたい。あの人もきっと学園の入学を考えるだろう。何より僕がこの世界に来て初めて会えるだろう知り合いで。

 世界に今、一人しかいない賢者なのだから。

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