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朱染戦姫の大剣  作者: クロル・N・ロイズ
第一章 幼少期
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これが今の……私

 上半身を起こして簡素なベッドの上でぐっと伸びをする。

 すぐ側にある窓の向こうには木々生い茂る立派な森があるが、見ているのは窓の向こうではなく、窓ガラスに反射して映っている室内だ。

 気の強そうな灰色の瞳に、腰に届くほどの赤い髪。顔立ちは良く美少女と言うべき外見。この子は将来凄いモテるだろうなーと他人事のように……考えたかった。

 モテたら困るのだ、色々な意味で。だって他人事じゃないんだからね。

 これが今世の体だから。


「アリシア、起きてるー?」

「お姉ちゃん! 扉をドンドン叩かないで、すっごい驚いた!」


 アリシアというのが今世の私の名前、フルネームでアリシア・フェルムル。生まれた時から前世の記憶があるから、一応は転生者ということになるんだろう。

 何故一応というのかというと、私の記憶には問題があるからだ。

 前世の記憶の中には日常の記憶が一切ないのだ。覚えているのは前世の名前と死因、そして学校で習ってたことぐらい。

 あっ、あと前世は男だったことも覚えているが、日常の記憶がないから自覚が小さい。

 今は変に思われないように自分のことを俺ではなく、私と呼ぶことにしている。それに子供っぽい行動をしていないと色々と心配されかねないしね。


「驚かせてごめんね。それで部屋に入るけどいい?」

「なんで? ここはお姉ちゃんの部屋でもあるんだから入ればいいじゃん」

「……そうだけど、一応言った方がいいと思ってね。じゃあ入るね」

「いいよー」


 許可を出すと入ってきたのは十歳ぐらいの少女。私の二つ年上の姉で名前はリンシア。

 姉妹だけあって姉と私は顔立ちはよく似ているのだが髪と瞳に明確な違いがある。私は母親似で姉は父親似なのだ。それで姉は優しそうな緑色の瞳に、胸元までのウェーブのかかった金髪。私が将来綺麗と言われる容姿なら、姉は可憐と言われるような容姿だろう。

 本当に可愛くて、優しくて、自慢のお姉ちゃんなんだけど……手元の櫛が問題だ。


「お姉ちゃんが髪を直しに来たよ。ベッドの隅に座って直してあげる」

「えー、寝癖とかないから大丈夫だよ。お姉ちゃんは気にし過ぎ」

「これはアリシアが気にし過ぎないだけだからね。早く座って、この後は服もあるんだから」


 服も選ぶ気か、いつものことだけど自分で服を選びたい。姉のセンスに任せると変なものになる、というわけではなく良いセンスをしているが……。

 元男としての自覚があるから、可愛らしい服は困るんだよね。

 それに「アリシアに可愛い服を着せたい」と駄々をこねて、両親を引かせるほどだから姉の本気は凄い。今も昔も妹である私を引かせるほどだから、このシスコンめ。

 普通ならいいお姉ちゃんなのにな。


「髪はいいけど、服は自分で選びたい」

「それを前に許したら男の子みたいな服装で出てきたでしょ。だからだめ」

「お姉ちゃん。その服が見当たらないんだけど、どこ?」

「アリシアが変な格好をしないよう、お姉ちゃんが預かってる」

「場所は?」

「言ったら探して着るでしょ。だからだめ」


 チッ、お姉ちゃんは私に女の子らしい格好を一生させるきだな。

 というか、髪を引っ張られている感じがするし、やっぱり今日も髪を結ぶのか。今日はなんだ! ポニーテールか? ツインテールか?


「よし! 今日は三つ編みにしてみたよ。どうかな?」


 今日は三つ編みか。私としてはストレートの方がいいんだけどね。

 だって何も弄る必要がないんだから、面倒がない。

 でもお姉ちゃん、お姉ちゃんは一つ忘れていることがあるよ。


「お姉ちゃん……。どうかなって言われても、どうなってるか見えないからわからない」

「それもそうだよね。でも、お姉ちゃんが見てぎゅってしたくなるから大丈夫」


 それは何が大丈夫なんだろう。単純に可愛いってことなんだろうけど、お姉ちゃんの妹愛については置いておこう。それにこれ以上聞いても無駄だ。

 姉は一番楽しみにしているだろう服選びにタンスの方に行ったのだから。

 用意されるだろう可愛い服から逃げたいけど、今着ているのは肌着。単純に下着になるんだけど、この世界にはブラはあるのだろうか?

 疑問はこの際置いておいて、下着姿で部屋から逃げ出すわけにはいかない。

 転生した今でも男としての自覚は残っているが少しだけだし。

 でも、女としての自覚も少しだけあるから、半々じゃなかったら私の大部分てなんだ?

 これはきっと根深い問題だ。とりあえず今は男と女の自覚は半分ずつでいいや。


「………………」

「………………」

「…………」

「……お姉ちゃん、長い。凄い暇」


 私はただ外出するだけだから無駄に着飾る必要はないのに……。

 お姉ちゃんが服を選んでいる間は暇だな。下着姿で出るとお母さんに怒られるだろうし、今の状況じゃ暇すぎる。

 どうしようかなとりあえず、一応魔力を循環させるという方法で暇つぶしをしてるけど。

 あまり変わり映えしないから暇で仕方がなくなってきた。

 というか服選びにそこまで時間をかける必要があるの? 長すぎだよ。


「それはごめんね。じゃあ、お姉ちゃんとお話しよっか」

「私は早く服を選んでほしい。とっても動きやすいのがいい」

「それはだめだけど……。お姉ちゃんと話すのっていや?」


 やっぱりズボンは期待できそうにないか。

 考えてくれるのは嬉しいけど、暇つぶしのことだけかー。でも何か話すことってあったっけ? いつも話しているし特にないと思うんだけどな……。

 いつも話していたのはお姉ちゃんだけだったか、私黙って頷くのがほとんどだし。


「別にいやってわけじゃないよ」

「別にっていうのが気になるけど。アリシアに聞きたいことがあるんだけどいい?」

「聞きたいこと? 私のことでお姉ちゃんが聞きたいことってあるの?」

「それは普通にあるよ。だって、アリシアが毎日出かけている理由とか知らないもん」

「……魔法の練習。生活魔法でも火事とかになるから外でしてた」


 外出の理由を言うと予想通りというか姉の動きが止まった。

 大体、どんな理由で動きが止まったのかわかる。多分どう言うか悩んでいるのだろう。


「アリシアは前にお父さんたちに聞いたと思うけど、生活魔法を頑張っても」

「魔法使いって言えないんでしょ。でも練習はむだにならないと思う」


 この世界の住人は誰であれ魔力を持って産まれてくる。生活魔法は魔力が少なくても、誰でも使える魔法であるため、初級魔法以上を使えないと魔法使いとして名乗れない。でも生活魔法でなんとかなりそうな気がするんだけどな。

 まあ、そう言っても無駄だろうと思うけど……。


「そ、そうだよね。むだにならないよね。お姉ちゃんは応援してるよ!」

「あ、ありがとうお姉ちゃん」

「どういたしまして。それでこの服にしよっか」


 辛くならないよう励ましてくれるのはいいんだけど、私は別に辛くないしな。

 話題を変えようと服選びが雑になったから、早く服が決まったのは嬉しいけどワンピースか。結局私はスカートを穿くしかないのか。

 いっそのことあの短い短パンの…………ホットパンツ! あれを提案してみようかな。前世で女性が穿いているのを見たことあるし、一応ズボンを穿けるから。

 でも、今気になるのが見えちゃったんだけど。


「それ何? 今まで入っているの見たことないんだけど」

「これはね。お姉ちゃんが思いつきで弄ったのなんだけど、アリシアに似合うと思うんだ」


 そう言って姉が見せてきたのは短いスカート。なんで思いつきでミニスカートを作っちゃうのかな! この世界にもあると思ってたから、いつか来るんじゃないかと思ってたけど、とっくにタンスの中で待機していたのかっ。

 今まで長いスカートだから我慢できたけど、ミニスカートは嫌だな。

 下着を見られるのって嫌じゃん。家族ならまだしも。それに男だって異性に見られるのは恥ずかしかったりするんだよ。今の私は女だから関係ないけど。

 穿きたくないけど、なんのためにあるんだろ。もしかして――


「これはアリシアの勝負服になるんだよ。これなら男の子はいちころだね」


 やっぱりか、デート用の勝負服だろうと思った。

 私が将来結婚するイメージも起きないけど、とりあえずアレは感謝できん。

 違うことでいつか着せられそうだ。そんなことよりとっとと受け取った服にでも着替えるか。ミニスカートという問題は、いずれ向き合うとして……。


「もしかして、これは不満だった? アリシアに似合うし、可愛いと思うんだけど」

「そんなの穿いたら下着が見えちゃうでしょ!」

「大丈夫だよ。見えないよう調整すれば見えないし安全だよ」


 いっそのこと長いスカートの方が安全だろうに。そう不満を抱いていたらくぅーと、我慢していたお腹の虫が空腹を訴えてきた。

 ……お腹が泣くのは生理現象だとしても、ちょっと恥ずかしい。


「ごめんね、アリシア。下に行ってご飯食べよっか」

「お姉ちゃん。朝食っていつもならもうできてると思うんだけど、どうしたの?」

「えっとね。私たちが来るまで待っててもらってるけど……」

「お姉ちゃん。それってお母さんがすっごい怒ってると思うんだけど」


 お母さんなら怒るだろう。妹好きの姉に対して治らないと諦めているようだけど、というより私としては頑張ってほしい。その先に私の自由があるんだし。

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