5.「じゃ、行ってきます」
雲ひとつない青空の下で、ラミントンは大きく伸びをした。
「快晴だなー! 大会日和だ! やっぱ、青は機体が映えるよね」
羽織っただけでいたジャケットの前を留め、襟を整える。
「さて、準備はいいか?」
機体の胴をぽんと叩くラミントンに、最終チェックを終えたビートゥルートが顔を上げた。
「昨日からばっちりですよ。かつてない会心の出来」
胸を張るビートゥルートの横で、ココがこくこくと頷く。嬉しそうな顔をしたラミントンは軽く屈伸をしたあと、操縦席にのぼった。いつもどおりの手順でレバーを引き、エンジンがうなる。周囲に広がった爆風に、ココの白い髪がぶわりとなびく。
「お」
握り締めたハンドルをまじまじと見るラミントンに、ビートゥルートがニヤリと笑う。
「気づきました?」
「ああ。全然違うな」
「コイツに明るいところで整備させれば、まぁこんなもんですよ」
誇らしげなビートゥルートが、隣に立っていたココの脇に両手をつっこんで持ち上げて、左右に揺らす。ココはされるがまま揺れている。
額にかけていたゴーグルを目のところまで下ろしながら、ラミントンが苦笑した。
「それで、なんでお前が偉そうなんだ、ビー」
「ここの《整備士》としては先輩なんで。後輩の手柄の要因の八割は先輩の指導の手柄ってのが、高度専門技術職である《整備士》の常識です」
「えー? ME8044Aの整備年数としては同じくらいなんじゃないか?」
二人の問いかけの目線を受けて、左右に揺さぶられながら、ココは右手の指をすべて立てた。
肩越しに覗き込んだビートゥルートがげんなりする。
「……俺の倍近いじゃんか」
「お、ココ、後輩ができたな」
ラミントンが声を上げて笑う。なんともいえない顔をしたビートゥルートは、ココをそうっと床に下ろした。
「――ああもう、とにかく! 緊張感ないけど! 大会なんですから」
「いいんだよ、いつもどおりで」
「いいわけないでしょうが。こんだけお膳立てしたんだ、ぶっちぎりの一等じゃなかったらぶっ殺しますからね!」
「うわ怖ぇ」
ラミントンはまた笑った。ココの口元にも笑みが浮かぶ。
ゆっくりとキャノピーが下りる。
「じゃ、行ってきます」
ビートゥルートとココは、会場へと飛び立つ機体を笑顔で見送った。
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