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黄昏の箱庭  作者: 天音凛
第三章・煌~対なる扉、想いの狭間で君を待つ~
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結-1.もう一つの役目

 素早い動きで森を駆け抜ける。

 ヒナタはいまだに続く緊迫感に圧され、話しかけらないままであった。

 槐に抱えられて、しばらく森を進んでいると、空間にぽっかりと空いた穴が現れる。

 そこに彼が迷わず飛び込むと、一瞬にして景色が変わり、その先にあったのは大きな屋敷であった。

 睡蓮の屋敷のような柔らかい雰囲気とは違い、どことなく薄暗く、誰かが居るような気配はまったくない。

 槐がそのまま門に向かって進むと、両脇に立ち並ぶ石灯籠に灯りがともる。


「……人気がなくてひっそりしてるでしょ?」


 足を止める事なく、ポツリと呟く。


「君を此処に連れて来ることを、朧様はずっと悩んでいたんだ。この薄暗い場所は似合わないからってさ」


 門をくぐり抜け、玄関を通らずに裏へと回ると、一面に彼岸花が咲き乱れる庭があった。

 その先の縁側にたどり着くと、槐はようやくヒナタを地面に下ろす。

 もちろん朧の指示に従い、片手は離れる事なく繋いだままだ。


「……何で私を此処に?」

「いざという時にすぐ守れるからだと思うけど――――傍にいて欲しかったってのもあるかもしれないね」

「……」


 どうしてそこまでするのか分からないけど、必ずと言っていいほど、最後には助けてくれた朧さん。

 煌君と槐君の事もあるから、私が偶然ではなく必然的にこの世界に来たことは間違いない。

 たぶん、全員と何かしら関わっているのかも……。

 この先の疑問は直接朧さんに聞いた方が良いかな。


 二人並んで縁側に座っていると、裏口から昴と朔が姿を現した。

 辺りを警戒した様子で、裏口の扉を開けた朔がヒナタを見付けたようで、安堵の表情を浮かべる。


「二人共、無事に着いて良かった……」

「はい、私達は大丈夫ですよ。もうじき煌達も――――」


 朔が言いかけると、その後ろから煌に引っ張られながら歩いて来る蛍の姿が見えた。


「蛍」

「!」


 ヒナタが真っ先に声をかければ、ホッした様子と共に、気まずそうな表情が入り乱れる。

 そのまま縁側に全員が集まると、槐が中へと誘導し、取り敢えず畳張りの床に各々座った。


「煌、腕を出して下さい。今のうちに治しますから」

「あぁ、頼む」


 素直に差し出せば、淡い緑色の光が優しく包み込んだ。

 ものの数秒で治療は完了したようで、すぐに光が消えると、“終わりました”と朔が言う。

 軽く動かしてみても痛くない様子である。


「朔、サンキュ。これで何かあっても、さっきよりは動けるな」

「……ごめん、僕が適性無いせいで……」


 項垂れる槐に、煌はなんて事ない笑顔を見せる。


「気にすんなよ。逆に俺がお前を傷付けなくて良かったと思ってるくらいだからさ。とにかく、朧が何とかするまで、ヒナタの手を離すなよ」

「うん」


 治療が済み、待ちきれなかった様子の昴が、咳払いをして話を促す。

 その様子に煌が苦笑いを浮かべて頷くと、何から話そうかと相談するように槐と目配せをした。


「……何から聞きたいの?」


 困った末に、昴へと問いかける。

 その返事に全員の視線が集まると、慎重に選びながら言葉を紡いだ。


「お前達は何者だ。特に煌……お前は守護者じゃなかったのか?」


 ――――そう、今思えば煌君の力は自然そのものだ。

 昴さんは刀、朔さんはナイフ、蛍は鎌……煌君だけ体術に炎。

 別の所から与えられた力だから、一人だけ違う……?


 昴の問いに頬を軽く掻いていた煌が、観念したようにゆっくり頷く。


「守護者っぽいけど……昴達とは役割が違うから、守護者ではないかな……って言っても、俺だって記憶なかったし、それまでは守護者だって思いながら過ごしてたんだからな?」

「……じゃあ、何なの……」


 部屋の隅に膝を抱えて座り、皆から距離を取っていた蛍がポツリと呟いた。


「俺と槐は……門番だ」

「……門番……この世界を閉じていた扉の、だよね」


 蛍が“それなら僕は知ってる”と頷く。


「破滅の神が他の世界に干渉出来ないように、朧が封印を施した」

「一人じゃ力が足りなかったから、僕と煌の記憶と想いを使って、二人で門番になったんだ」

「――――二人が揃わないと開かない。だから適性のない槐は、仮面の力を使って奈落の民に。力が使えた俺は、昴達の所に監視も兼ねて守護者となった」


 交互に話す二人に昴は表情を崩さず、ただ静かに聞き入っている。

 その様子に煌は何を話すべきか分かっている様子で、一度言葉を切って、全員を見渡した。

 そしてピタリ動きを止め、蛍の顔を見つめる。


「始まりの守護者だった蛍が、俺達が門番だって知ってる事自体、おかしな事だった。俺が守護者として会った時には、既に感情が抜けてたし、記憶が封印されていた玉に、後から来た俺達の記憶がある訳がない。――――全部、作り物だ」

「何、急に……訳が、分からない……僕の記憶は――――」


 混乱して頭を抱える蛍に、朔が寄り添い背中をさする。


「蛍の記憶はかなりいじられてる……もしかしたら、昴と朔も」


 煌の言葉に違和感を覚えた様子の昴が、尽かさず言葉を繋ぐ。


「お前も記憶を失っていたじゃないか」


 “確かに”と皆声には出さないが、表情で同意していた。

 しかし、煌はその問いを待っていたかのように、真剣な瞳で蛍・昴・朔を見つめる。


「封印されたはずの破滅の神が、何故蛍の記憶を書き換えられたか? 何故俺は大丈夫か?」


 封印の影響で感情を無くしていた蛍が、知らないはずの情報を植え付けられて、封印解放に利用された。

 そして、一番最後に守護者になった煌君が記憶をいじられてない…………まさか――――。


「――――――封印は、完全じゃなかった?」

『!』


 ヒナタの呟きに三人が凍り付き、その中で、煌と槐だけがゆっくりと頷くのが見える。


「僕達にはもう一つ役目がある」

「強大な神の力を封印されても、その僅かな力でヒナタに干渉しようとする、破滅の神の精神を封印する事」

『その肉体に自分達の“真名”を使い、新たな人格で押さえ込んだ』



 俺達の真名は、(スイ)(レン)――――――――――。


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