起.護衛
ある日の事、全員が一つの部屋に集まり、真剣な表情で話し合いを行っていた。
「朧の件だが、おそらく槐を送り込んでくるのは時間の問題だ。相手が何のために、ヒナタを傍に置こうとするのか分からない以上、常に誰かヒナタに付き添ってほしい」
昴が皆を見ながら話始めると、朔が頷く。
「館内は誰かしら居ますし、ヒナタさんの部屋は睡蓮が結界を張ってくれます。問題は、外出ですね……」
「ずっと館内に居ればいいじゃん」
「煌君、酷い」
ヒナタを一切見ず、煌は首の後ろで両手を組み、椅子ごとぷらぷらと体を揺らしている。
しかし、その言葉に朔の眼鏡がキラリと光り、真顔で煌を見据えた。
「では、貴方も付き合って差し上げるんですね? 外出禁止令出しますよ?」
「げっ! 冗談だっての……」
煌は気まずげに顔を逸らす。
しかし、昴は意地悪そうに“ニヤリ”と笑うと、立ち上がる。
「決まりだな。ヒナタの護衛はお前だ、煌」
「えっ?」
昴の発言に煌の動きはピタリと止まり、目は点状になったかのように見開いている。
「俺は常に館で待機する。本拠地が占拠されたら話しにならないからな」
「私は、戦闘が出来ません。外はかなり危険が伴いますから、ここは身体能力と戦闘力が高い貴方が良いかと」
昴と朔の説明を聞き終わり、煌は先程から黙っている蛍をチラリと見る。
「蛍……」
「…………」
何も言わず視線をさ迷わせる蛍に、昴はゆっくり口を開いた。
「蛍、お前は朧を知っているな? しかも、ただの知り合いじゃないだろう」
「…………」
「言える所まででいい」
「昴様……」
昴の言葉に朔は微笑むと、感謝をするかのように軽く頭を下げた。
その二人をじっと見ていた蛍は、何かを悟ったような“はっ”とした表情の後、意を決して昴を見る。
「朧は……僕の、幼馴染なんだ」
『!』
蛍の言葉に、朔以外が息をのんだ。
煌にいたっては、口をパクパクして、言葉が出ない程のショックを受けていた。
煌君、金魚みたいになってる。
奈落の民の人達を嫌いな煌君にとって、蛍と朧さんが幼馴染とか理解出来ないんだろうな……私もビックリしたし。
「――――っ! あいつは人間じゃねぇぞ!? 幼馴染ってどういう事だよ!?」
「……人間じゃないとか関係ない。記憶を取り戻してから、昔と今を比べてみても、何も変わってないよ。朧は何か考えがある気がする……無意味にヒナタを連れて行ったりしない」
煌と蛍の視線が交差する中、昴の冷静な声が響く。
「根拠は?」
「……僕が記憶を無くして、自分を忘れられても、朧は何年も僕に接触して来なかった。一人で封印を守ってくれてた……今回も破滅の神から守ろうとしてくれてると、僕は思う」
昴は少し目を閉じ悩んだ末、顔を上げた。
「判断を下すには早い。今回は様子を見る……煌、お前が適任だ。これから外出時、二人は一緒に行動しろ。遭遇した際、槐と朧の動向を探れ」
「はぁ!?」
「それでいいな、蛍。状況を悪くしたくないなら、へたに動くな」
「……うん、分かった。ありがとう、昴」
蛍は微笑んで頷くと、“何で俺が……”と呟く煌を心配そうに見つめる。
それだけではなく、朔までもがじっと視線を注ぎ、ぶつぶつ言っていた煌がそんな二人に気付いた。
「……」
「……」
「蛍も朔も、んな目で俺を見るな! 文句は昴に言え!」
「……」
「……」
「だあ――――――――――――っ!」
“ガターン!”と勢いよく椅子から立ち上がる煌。
「分かったよ! やればいいんだろ!? 上等だよ、しっかり守ってやるさ! おいヒナタ、しっかり付いてこいよ!」
「……え? 私?」
「!?」
あれ、私が煌君に付いて行くんだっけ?
ヒナタは首を傾げながら昴の方を見ると、昴は目を細めて溜め息をついている。
「付いて行くのはお前だ――――バカ」
「……」
「……えーと、お願いします」
ヒナタは煌に向かってペコリと頭を下げた。
しかし、煌からの返答はなく、ただ黙って立っているだけである。
「……」
煌君固まってる……。
「前途多難ですね……大丈夫でしょうか」
朔が心配そうにしていると、昴は固まっている煌をじっと見た後に、ヒナタへと視線を移す。
「相変わらず得意だな。ここに居る全員、こいつの固め技の洗礼を受ければいい」
「!」
あ、すっかり忘れてたけど、“紅葉”の件があった。
昴さん、今度は――――――。
「……す、昴様――――根に持ってらっしゃるんですね」
「あぁ」
否定する事なく言い切った昴に、場の空気は微妙な雰囲気に包まれ、それは“俺を放置すんな!”という煌の叫びが響くまで続いた。




