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第一話 ❷「エイダ~呪われた家からの希求」

       ❷❷❷❷❷❷❷❷❷❷❷❷❷❷❷❷❷❷❷❷❷❷

 ――プップゥゥゥゥゥゥ!

 急き立てるようにクラクションを浴びせられ、地図を凝視していたカリーは頭を上げる。信号は既に青になっていて、それで慌てて地図を畳むと車を発進させた。

 ガタガタと小型の車体を揺らしながら、愛車の黄色いビートルは急な斜面を今にも滑り落ちそうな感じで進んで行く。カリーは少し先にある仮設トイレのような青いボックスの交番の角を右に曲がると、路肩にビートル止めて中から降り、地図を広げながら辺りを見回した。

 狭い道路には5世紀中頃から18世紀始めにかけて建てられた石造りの建物が並び、町並みを素晴らしい雰囲気に仕立てあげている。ここバーフォードは、コッツウォルズにある美しい坂の町と知られていて、先程走っていた急な斜面は町の中心を貫く中央道路であり、今カリーがいる脇道も緩い斜面になっていた。

 昼過ぎにチェルトナムの安宿を出たカリーは、雄大な小麦畑を眺めながら旧高速道路であるA40を一時間足らずで走り抜け、午後四時前にはバーフォードに辿り着いていた。

 しかし、すぐに見つけられると思っていた川までの道のりが意外にも分からず、小さい町に密集した家屋の所為か、入り組んだ道々に困惑していた。

「どうした坊主、……道に迷ったのか?」

 声のする方を振り向くと、交番の窓からぼんやりとした顔の警官が顔を出し、窓の縁に肘をつきながら薄い頭を掻いていた。交番といっても、本来は緊急電話を掛けるための電話ボックスとしての機能しかないはずなので、警官がいるとは思っていなかった。

 それで、カリーは目を丸くしながらも思わずほくそ笑んで、警官に駆け寄りながら声を上げた。

「助かりました! 実はウィンドラッシュ川沿いにあるゴチェンズっていうカフェを探しているんですが――!」

 ――キキィィィィィィィィィ!!!

 急に黒のセダンが道路を横切り、渡っていたカリーに危うくぶつかりそうになった。車は凄いスピードでそのまま走り抜け、その後姿を呆然と見つめるカリーの身体に冷たい汗が流れ落ちた。

 生きているのが不思議というくらいギリギリのとろこを通り過ぎたものだから、本当に運が良かったというか、あの車は何であんなにも急いでいたのかと疑問に思い、その感情はすぐに怒りへと変わった。

 カリーは経った今起きた所業を警官に問いただそうと、悪態を吐きながら振り返った。

「あっぶないなー! ちょっと、見てましたか今のあの車!?」

 警官はその問いには答えず、ぼうっと薄目を開けてカリーを見つめている。

 こういうとき普通の警官なら、あの暴走車を指名手配するとか、僕のことを心配するとか、まあ何かしら警察っぽいことをしそうなものだが、この警官にはそういった気概がないらしい。地方の警察にありがちな、見るからにやる気のない、惰性で働いていますよ、といった態度だった。

「あの、……まあいいや――」

 釈然としないながらも、カリーは警官の元に歩み寄り、地図を広げてよく見えるように近づけた。

「この交番って地図のどの辺にあります? 私はウィンドラッシュ川の方に行きたいんですけど、ちょっと分からなくて」

「地図なんかいらない――」

 警官は気の抜けた声でそう呟くと、先程走り去った車の方向に視線を移す。

「このままこの道を真っ直ぐ行くとピズ・レーンという道に出るから、そこを左に曲がって道なりに進めば大通りに出る。その大通りを右に曲がれば、道路沿いにその店があるからすぐ分かる。因みにゴチェンズじゃなくて、バドジェンスだと思うぞ。それに、カフェじゃなくてあそこはコンビニだ……茶も飲めるがな」

「ありがとうございます、助かりました」

「お前さん……見ない顔だが、ここへは旅行かい?」

 警官の妙な視線に緊張して、カリーはぎこちなく笑う。

「え、ええまあ……。あまり長居をする気はないんですが、ちょっと人と会う約束もありまして」

「誰と会うんだ? 今来たばかりか? 過去にこの町に来たことは?」

 矢継ぎ早に浴びせられる質問に、カリーはたじろぐ。

 誰と会うかという質問が一番困るのだが、……どうしようか。

 依頼主のプライバシーを守れなければこの仕事はやっていけない。悪魔祓いや除霊みたいなオカルトは、(はた)から見れば馬鹿馬鹿しいし、忌み嫌われる物なので、依頼主に対して変な噂が立ってしまうとカリーへの依頼は取り下げられてしまうだろう。

 カリーにとっても、依頼者にとっても、それは良くないことだ。

 そのため、カリーはセールスマンを装うためにいつもスーツ姿でいる。いかにもエクソシストといったような神父の格好など絶対にしてはいけない。――まあ、いろんな意味で。

「仕事で会う人なので、名前はちょっと、……それから、ここへはさっき来たばかりです。町の前は何度も通り過ぎたことはありますが、立ち寄ったのは初めてですね、それが何か?」

「いや、別にいいんだ。あと、一応免許証を見せてくれ」

 ――意外にあっさりとしてるな、でも免許証はまずい……。

「どうしたんですか? 私ってそんなに怪しいですかね、ははは……」

「いいから早く見せてくれ」

「いやですが、免許証は車の中にありまして、取りに行くのが面倒といいますか、私は無免許運転など当然していませんし――」

「妙に肩っ苦しい言葉使いのガキだな、……いいから早く取って来い!」

 警官の態度が豹変し、ドスの利いた声で怒鳴り上げてきた。

 カリーは恐怖で飛び上がり、ビートルに向かって一目散に駆け戻った。

「くっそ、何だってんだよまったく――」

 カリーは開け放たれたビートルの窓から中を覗き込み、小声で呼びかけた。

「ファフニール、緊急事態だ! 出て来てくれ!」

「あ? 何だどうした!?」

 ビートルの中でファフニールの声だけが反響している。

「警官に免許証を見せるように言われてるんだ、前みたいにお前が変身してくれないか」

 カリーは右手を差し出す。

「何だそんなことか、てっきり車にでも引かれたのかと思ったぞ、はっはっはっ」

「さっきの見てたのかよ、……ともかく早く頼むよ」

「たっく、……俺がいなきゃ依頼主の元に辿り着くことすらできないのな」

 カリーの右手に免許証が降ってきて、写真に目が止まる。自慢のブロンドがくちゃくちゃになり、服は小汚いタンクトップを着ていた。

「何で俺の頭こんなにボサボサなんだよ、服だってこんなオヤジ臭いタンクトップ俺は着ないぞ!」

 写真の中のカリーが生きているかのように動きだし、視線をこちらに向けて口を開ける。

「お前と初めて会った時はこんな感じだったぞ。服はいつも堅苦しいスーツを着ているから可愛そうだと思って、写真の中だけでも楽な格好にしてやろうという、俺のやさしい心配りだな」

 その時カリーの肩が掴まれる。

「おい、誰と話してるんだ?」

「あーいや、別に誰とも話してませんよ、ただの独り言です」

 いつの間にか後ろにいた警官が、怪しそうにカリーのことを見つめる。

「免許証は?」

「あ、はいどうぞ」

 カリーが差し出した免許証を受け取ると、警官は一度頷いてからすぐに返してくれた。

「よし、あとは一応車のトランクも開けてくれ」

 この警官に対していちいち反論するのは野暮だと思い、カリーは大人しく従ってトランクを開けて見せた。

 その後も、カリーは様々な質問に応えながら警官の指示に従い、最後には鞄の中まで見せる羽目になった。そんな感じで十分ほど経った頃、カリーの答えに満足したのか、警官はやっとのこと小さな交番へと戻って行った。

 カリーはビートルの運転席に腰を落ち着かせると、溜め息交じりに呟いた。

「――はあ、疲れたは。あれじゃまるで尋問だよ」

「変な警官だったな……まあ、余ほどお前が怪しかったんだろうけどな――」

 くっくっくっ、という笑い声が聞こえてくる。ファフニールは既に免許証の姿をやめて、どこかに消えていた。

「そうなのかな~、やる気なさそうに見えたんだけど、……ホント変なのに捕まっちゃったよ」

「でも道は分かったんだからいいじゃないか。まだ夕暮れ前だし、早いとこ行って解決しちゃおうぜ」

「そうだな、終わったら観光もしたいし、因みにここで売ってるカップケーキすごいうまいらしいぞ」

「お、マジで!? 俺は甘い物好きだぞ!」

「俺もだよ」

 カリーは笑いながら車のキーを回した。狂ったような酷い排気音を呻らせながら、ビートルのエンジンが始動する。

 再び走り始めたカリーは、警官が教えてくれた道筋を思い出しながら、ゆっくりと進んで行った。



 

 


 

 

二部で改稿しているのは❷の付け忘れを修正したためです。

なかなか話が進まずすいません^^;

次からは一気に展開を早めて、この話はあと三、四部くらいで終わらせようと思っています。

第二話と第三話は現在構想中ですが、船の話しと孤島での話にになりそうです。

第三話は少し視点を変えて、ミステリー調に書くつもりなので楽しみにしていて下さい(^ ^)ノ

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