閑話 プレゼント アデル編
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この国を守るために、俺は日夜鍛えている。
今日も今日とて、王宮騎士に交じって特訓を重ねている。
正式に騎士として名乗れる年齢ではないが、小さい頃から参加しているため誰も咎めるものはいない。
俺は黙々と、目を閉じて、敵を想像しながら模造の剣を振る。
そんな俺の耳に、ドスドスという足音が聞こえてきた。
ここ最近、この足音はよく聞く。
王家の姫がデップリした体を左右に揺らしながら歩いているのだ。
本人曰く走っているらしいが。
俺が歩く速度より遅いが仕方ない、あの体格がかなり重いのだろう。
最初はすぐに辞めるかと思われたその運動は、毎日続いている。
最近御付きのメイド、ノアの怒鳴り声がよく聞こえてくる。
ノアというメイドはかなりのやり手と見た。
走りも、身のこなし隙がない。
一度お手合わせ願いたい物だ。
そんなノアに叱咤されながら、姫がこちらに迫ってきた。
俺は、剣を下して、こちらに来る巨体を待つ。
必死の瞳で自分を見てくるのだから、なにか用あるのだろう。
「ぶひ~ぶっ、ぶひ~ひ~ひ~」
自分の目の前まで来た姫は、荒い息を付くだけで言葉が出ないようだ。
俺は、そっとまだ使っていないタオルを差し出した。
「ぶひ、ぶひひ」
「いえ」
何を言っているか分からないけど、軽く頭が下がったのでお礼を言ったのだろう。
滝に流れる汗を拭いた姫は、そのタオルをノアに渡す。
ノアは、まだ使われていない新しタオルを俺に返してくれた。
持ってるなら、最初から姫に渡せばいいのにと思うけど所詮他人事なので何も言わずに黙って受け取った。
大きく深呼吸を繰り返す姫に、ノアは何かを渡した。
掌に乗るくらいの小さな箱。
箱にはブルーのリボンが花の様な形で掛けられていた。
「ぶっひ~、ぶひひひひ」
「は?」
その箱を謎の言葉と共に勢いよく渡されて、反射的に受け取ってしまったはいいが、何かは分からずおれは姫様を見つめる。
その視線に気づいた姫は、にっこりと笑った。
「ぶひぶ、ぶは~、ぶひひひひ、ぶひぶひ」
「えっと」
一生懸命説明しようとしてくれているらしいが、俺には解読不能だ。
チラリとノアをいると心得たとばかりに頷いてくれた。
「デブ姫様は、ハッピーバレンタインとおっしゃいました」
「ハッピーバレンタイン?」
「デブ姫様の故郷では年に一度女性から男性にチョコをあげる習慣があるみたいですね。こちらのチョコレートは姫様の手作りです。あぁ、大丈夫です。私は作る工程から一緒におりましたが、毒など一切含まれておりませんし、お味の方はこの世の物とも思えないほど美味です」
ノアの言葉に姫は何度も頷いている。
「ぶひぶひぶひ」
「こちらは、運動の後に召しあがられるといいみたいですよ。運動直後に糖分を取られると疲労回復にいいらしいです」
「そうですか、有難う御座います。では、訓練後に頂きます」
俺の言葉に何度も頷きながら、姫は再びドスドスと去っていった。
その後ろ姿を見ながら、初日よりも少し幅が小さくなったかなと失礼な感想を持ってしまった。
俺は頂いた箱を、そっと木陰において再び訓練を始める。
訓練は辛く、厳しい物だけど、今日はちょっと楽しみが増えた。
ノアが絶賛する、姫様手作りのチョコレートを食べるのが楽しみだ。




