閑話 甘い物が食べたい 1
ブックマークが200人を突破しました。皆様このような拙い小説をブックマークして下さってありがとうございます。お礼の閑話小説です。2月と言えばバレンタイン!予想以上に話が長くなり、時期もづれてしまいますがそれ関係の小説です。全部で8話あります。
暫く本線から外れますがお付き合いお願いいたします。
今後ともの宜しくお願い致します。
「甘い物が食べたい」
突然私の脳が糖分を欲した。
思わず声に出してしまうとベットメイキングをしていたノアが渋い顔で振り返った。
「ダイエットとやらをしていたのではないのですか?止められたのですか?軟弱ですね」
責めるように言われて私は口をとがらせる。
先程までは食べたいな~程度だったのだが、ノアの言葉に絶対食べる!という気分に変わった。
私の中ではよくあることなのだ、突然しょっぱいものが食べたい、で夜中の2時に買い置きのカップラーメンを食べたり、甘いものが欲しいとコンビニのケーキを買いに走ったりと、今はもの凄くチョコレートが食べたい気分なのだ。
「偶にはいいと思うの!ご褒美があってもいいと思う!私頑張ってるよ!ちょっとくらい甘いのが食べたい!もう、頑張れない!ほんの少しでもいいの!食べたい!チョコがたべた~い!!」
私は座っていた椅子から立ち上がり天に向かって拳を突き上げた。
脳が糖分を欲しているのだ。
この世界に来てから、いや、ダイエットを始めてから甘い物は口に入れていない。
疲れた時には甘いものとか、脳を使ったら甘い物って日本でもよく言ってた。
私の脳みそはフル稼働してるよ?精神的に疲れてるよ。
なのに甘い物を我慢しているのはイライラするのよ。
「分かりました。そこまでおっしゃるなら、料理長にお菓子を用意させましょう」
私の熱弁にノアが呆れたように肩を落とした。
「それは、いいや」
「はい?」
「この世界のお菓子って基本甘いだけなの!砂糖の塊!大味なのよ。繊細さがないの。もっと上品なお菓子が食べたいの!」
私が望むのは現代で食べた味だ。
現代のお菓子は味に深みがあって、甘い中にも旨みが混ざっている。
この世界のお菓子は、美味しくない。
ケイリーン用なのかもしれないが、砂糖を入れれば満足なんだろうとばかりに只々甘いだけなのだ。
クリームなんて砂糖でジャリジャリしてたからね。
バートが持ってきてくれたクッキーを食べた時は美味しかったが、あれは惜しかった。
素朴な味わいで美味しかったが、もっとバリエーションが欲しい。
チョコチップとか、チョコレート味とかチョコレート風味とか。
甘い物が食べたいというか、私は今無性にチョコレートが食べたい!
「では、どうなさるのですか?」
私はノアに向かって胸を張りながらニヤリと笑う。
「私が作ります!」
「えぇ~~~~!デブ姫様が!そのぶっとい指で繊細な動きができるのすか?むしろ今まで何もしたことがないデブ姫様にできるのですか?」
「ノア、あんた何気に失礼だよね。確かに魚肉ソーセージのような太い指だが、私が作ろうと思っているものには繊細さは必要ないのよ。それに、何もしたことがないのは以前のケイリーンで、新生ケイリーンはお菓子作りは得意なのよ!」
そうなのだ、私はお菓子を作るのは好きだったのだ。
買えば高い物でも、自分で作れば材料費だけで安く済む。
そんな理由だったけど、私が作るお菓子は好評だった。
おまけに女子力高いとみられるし。
WINWINの関係だ。
「本当に大丈夫ですか?」
「まぁ、大船に乗ったつもりで、ど~~~~んと私に任せなさい」
胸を叩く私をノアが胡乱げな瞳で眺めているが気にしない。
私は今、甘い物が食べたいだけなのだ。
どんな目で見られようと関係ない。
さぁ、私が腕によりをかけてこの世界にない美味しいチョコレート菓子を作ってみせましょう!
というわけで始めました、
第一回新生ケイリーンお菓子作り!
簡単だけど時間だけはかかる。フランス発祥の、甘いだけではないフルーツの旨みも合わさっている買うと一枚300円くらいするオランジェットを作ります!
さて、と思ってエプロンを巻こうとしたら私サイズはありませんでした。
なので、急遽エプロンの代わりにシーツを体に巻いてます。
着ている服が汚れる心配はないけど、ゼロとは言い切れないから念の為のシーツです。
だって、一番安そうなドレス着ているけれど、それでも元一般市民の私からしたら、目が飛び出そうなほどの値段に違いない。
私は材料を前に、腕まくりをする。
遠くで料理長が顔を青くさせながら両手を組んでブツブツと何かを唱えてます。
ちょっと聞こえた単語では「神様、とか、お導きを」とか呟いていた。
声をかけて私の機嫌を損ねたら、殺されるし、私が怪我をしても処罰されてしまう。
どちらにしても命はないと思っているのだろう。
下手に大丈夫だよ~と私から声を掛けたら、土下座しそうな勢いだし、なのでこのまま無視をすることにしました。
「では、まず、オレンジに竹串・・・はないから先の尖った・・・これでいいや、金串で軽く穴をあけていきます」
私はオレンジを手に取り表面を軽く数か所穴をあけていく。
穴をあけたオレンジは水を張ったお鍋に入れていく。
10個ほどのオレンジに穴をあけて終了。
私は袖を元に戻してシーツを取る。
「姫様?」
私の動向を見守っていた、ノアの頭にはてなマークが浮かんでいる。
甘い物が食べたいと言っていた割に、私がしたのはただのオレンジに穴を開けただけなのだ。
「今日はこれで終わり、まずは一晩オレンジを水にさらしておきます」
「今日はということは」
「これね、作り方は簡単なんだけど、日数がかかるのよ」
「そうなのですか?」
「うん。明日はこれを沸騰させて、水で冷やしての工程を3回繰り返して、一晩置くの」
「はぁ」
「でね、その次は5ミリ程に輪切りにして、重量の70パーセントのグラニュー糖を・・・ってグラニュー糖ってある?」
「グラニュー糖ですか?」
「そう、砂糖のサラサラしてるバージョン」
「砂糖のサラサラバージョン?ですか・・・」
ノアの視線が料理長に向いたが、彼は目を閉じて真剣に神に祈りをしている。
邪魔していいか分からないけど、砂糖は重要なのだ。
「ねぇ、料理長」
「はひ!!」
私の問いかけに彼は崩れ落ちた。
そしてそのまま土下座だ。
久しぶりに見たかも、ザ、土下座。
「申し訳ありません。ケイリーン様のお口に合うものが作れなかったのは不徳の致すところ。ケイリーン様自らお食事を作られるほど私の料理が下手というのなら、もう生きてはいけません。どうかこのまま私を天へと導いてください」
「えぇ~~~~!!」
いやいや、料理長のご飯が不味いからとかではなく、確かに私の口には合わないがそれは以前のケイリーンが所望したもので料理長は以前のケイリーンが満足するものを作っていたよ。
ドレッシングがしょっぱすぎて野菜の味なんて全く感じられない前菜とか、油がギトギトで噛めない呑み込めない中までしっかり火が通りすぎているメインとか、砂糖の塊を食べているとしか感じられないデザートとか、あれは以前のケイリーンが所望したものだよ。
料理長の腕が悪いわけではないよ。
だって、ノアの賄をちょっと分けてもらったら、物凄く美味しかったよ。スープは具材が少なかったけど、その分しっかりと野菜の旨みを引き出していて流石はお城の料理を任されるだけの腕があるって思ったもん。
ただ、王族相手にその腕が生かされていないだけだよ。
だから、神様の元に旅立とうとしないでください。
以上の事を私は、以前のケイリーンの部分は省き、反省したの、私いい子になる、の体で必死に料理長を説得した。
この料理長は他の土下座人とは違う。私はこの人は辞めさせたらダメだ、いずれ私の役に立つと気が付いた。
何故なら彼は、失神してないのだ。
覚悟を決めて土下座している姿に私は、ある種の感動を覚えた。
「砂糖はある?」
「こ、こちらです」
少しは私の言葉を信用したのか、それでも疑わしそうな雰囲気はヒシヒシと感じるんだけどね。
まぁ、素知らぬ振りはしてあげますよ。私寛大ですから。
「う~ん、普通の砂糖か。ないよりマシかな。後チョコレートが欲しいの、できれば苦みが強い方がいいわ」
砂糖は大きな紙袋に入っていて、20キロくらいありそうだ。
これなら十分作れる。後は仕上げのチョコレート。
「チョコレートですか?」
「ないの?」
「私は存じあげません」
ノアの言葉に周囲を見渡せば全員が首を傾げたり、横に振っている。
うそでしょう~!
私はムンクの叫びの状態になった。
早くも挫折しかかっている。
チョコレートがなくっちゃオランジェットじゃない。
っていうか、そもそもチョコレートがないなんてありえない。
チョコレートは万能なのだ。ボケ防止になるって言ってたし、ストレスの解消にもなる、そして、食べていると幸せを味わえるのだ。
そんなチョコレートがないなんて。
私は崩れ落ちた。
ここで挫折してしまうの?
今まで苦しい事も辛い事も乗り越えてきたじゃない。
フランスの王妃だって言ったじゃない、パンがなければお菓子を食べればいいじゃない、と。
そうよ、チョコレートが無ければ、チョコレートを作ればいいのよ。
そして、チョコレート生産者第一号の私は、きっと称賛を浴びるわ。
素晴らしい物を作った、ケイリーン様だと。
くふ
スポットライトを浴びてポーズを決める私。
そして私を称える国民達。
私の妄想が膨らんで笑い声が洩れる。
不気味そうな表情のノアなんて気にしてられない。
チョコレートを作る→あまりの美味しさに市民が虜になる→私は称えられる→処刑回避
なんて素晴らしいアイデアだろう!
そうよ!なければ作ればいいのよ!!
そうと決まれば。
私は立ち上がり、右手を腰に当てて、息を大きく吸う。
ぶぼっ~ほほほほほ!
これからの輝かしい未来に私は高笑いを禁じえなかった。




