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ボテボテと重い足取りで長い廊下を歩きます。
体が重いとかじゃないよ。
気持ち!!
心が重いの!
デブだからとかじゃないんだからね!
極悪非道の家族に会うんだから心も重いわよ!
誰ともなしに言い訳をしながらアンとノアを従えて歩いていると。
「あぁ、我が麗しのケイリーン姫。このような場所でお会いできるとは、これはきっと運命の女神が私たちを祝福してくださっているに違いありません」
突然私の前に巨大な物体が出現した。
驚きに目を見張る。
そんな私を置いておいて物体はしゃべるしゃべる。
物体の口は止まらない。
主に私の賛美だ。
聞いていてチキンスキン(鳥肌)だ。
「いつ見てもつぶらな瞳」埋もれているだけです。
「その赤い唇が私を誘う」先程苺を腹ごなしに食べました。
「光り輝くような滑らかな肌」部屋からここまで歩いてきたので大量の汗をかいてます。
「ケイリーン姫のような方はこの世に二人といません」私が二人いたらこの国滅んでるよ。
「私たちは似ている仲良くできそうな気がする」似ているのは体型だけだね。
突っ込みをするのも疲れてきた。
私を守るかのようにそっと前にでたアンに小声で聞いてみる。
「あれ、誰?」
「トリモール侯爵様のご子息でヨルーンデル様です」
「っまさか!・・・その6とか?」
「違います」
恐る恐る聞いた私にアンが即答してくれた。
良かった。
一瞬以前の私の趣味を疑ってしまったよ。
「侯爵なのに私の婚約者じゃないの?」
「全てが気に入らない!だそうです」
そう言われて、私への愛(笑)を囁く人物を改めて観察してみる。
デブだよね。
私と同じだね。
顔は油でテラテラしてるし(お前が言うな)
ニキビすごいし(お前が言うな)
物凄い汗だし(お前が言うな)
体臭ひどいし(お前・・・)
こんな奴に付きまとわれてたなんて、不憫だったんだ。
以前の私にちょっと同情しちゃうよ。
「良く殺さなかったな」
前の私の性格だと食べ物に毒をいれてサクッと殺してそうだけど。
「トリモール侯爵様は珍しい食べ物などを異国から取り寄せて姫様に献上されておりました」
私の呟きに答えてくれたのは後ろに控えていたノアだった。
食べ物につられたか私よ。
トリモール侯爵に食べ物という弱みを握られたから、うっとおしく付きまとうデブに目をつぶっていたのか。
今の私は食べ物に興味はないからどう対処したものか。
「さぁ、姫様東の国より甘い食べ物を用意しております。まいりましょう」
脂肪に覆われた指が脂肪に覆われた私の腕を掴む。
「こ、困ります」
腕を取り返そうと力を入れるが力負けしてるのか指が離れない。
くっ、デブの癖に力強い。
「離していただけませんか?」
「おぉ~!時の女神は私の願いを聞き入れてくださったに違いない」
「はぁ?」
「私の理想のケイリーン姫だ!女神よ!感謝します。やっとケイリーン姫も私の物に」
どういうこと?
私普通に会話していただけだよね。
むしろ否定していたのにデブの脳内ではどういう変換機能が働いた?
昔の私!
どうやってこいつから逃げたのよ!
今すぐ私に教えて~!
「アン!今までどうやってたのよ!」
「顔を見るなりムチで一発」
調教!!
調教で潜り抜けてたの?
私は閃いた。
もしかしてさっきのムチってヨルーンデル除け?
普通のムチじゃこの脂肪の塊に太刀打ちできない。
この脂肪を崩すには棘だ!
流石前の私用意が良い!
ただの悪役王女じゃなかたんだ。
感心して気が付いた。
って私ムチ持ってないよ!
「さっきのムチは・・・」
「姫様のおっしゃるとおりに隠し部屋の奥底へ」
「だよね~」
「何を話されているのですか?さぁ、我が屋敷に行きましょう」
グイグイと引っ張られそうな体を足を踏ん張って耐える。
「私、これから家族と会食なので、余計な時間はとれません」
だから離せ!
「そうなのですか?ちょうど良かった。私もご一緒しましょう」
うえ!
家族って王とか王妃とか第一王子だよ。
そんなに簡単に同席できるの?
「いや~、この城の調理人はとても美味しい料理を作るので私も楽しみですよ」
同席決定!?
いやいやいや、懸命に踏ん張って耐える。
頑張れ私の足。
ただ太いじゃけないのを証明せよ!
って、無理だった。
ズルズルと引っ張られている。
「二人共見てないで助けて」
「助けたいのは山々ですが・・・以前姫様が誰の手も借りない!と申しましたので」
バカじゃないの!!前の私!
格好つけててるんじゃないわよ!
借りろよ!力。
おかげで今ピンチだよ!
「トリモール侯爵子息。姫様が嫌がっているように見えるのだが?」
前は前、今は助けてと二人に言う前に第三者の声が聞こえた。
天の助けだ!
その声の方向に振り向・・・・・けなかった。
首の分厚い脂肪が邪魔して首が回らなかったのだ。




