日常的な非日常ワンカット
「なぁなぁ菜種ー。お茶取ってくれよー。」
「なんですか、それくらい自分で取ってくださいよ。」
「いいじゃんかー菜種の方が近いんだしさぁ。」
「ったく。」
冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り、声の主、霞美月へと投げる。
「うぉい!投げるなよ危ないだろ!」
「ちゃんとキャッチしてるんだからいいじゃないですか。」
「そういうことじゃないでしょ!?こんなか弱い女の子が怪我でもしたらどうするのさ!」
「大丈夫です、か弱くないんで。」
「な、なんだとこのー!」
美月は手元にあったティッシュの箱やらリモコンやらを投げてくる。
「危ないからやめてください。怪我しますよ?主に僕が。」
「そのために投げとんのじゃ!」
「あ、ほらリモコンとか壊れちゃうからやめてくださいって!」
「うるさいわー!」
この紛争は、美月の体力切れで決着が着いた。その間約3分。
「はぁ・・・はぁ・・・な、なかなかやるじゃないの。」
「何もやってませんけどね。」
「今日のところはこれくらいで勘弁しておいてあげる。」
「それは助かります。」
「それじゃ、私はそろそろ行くわ。」
「はい。僕も学校へ行くので失礼します。」
「終わったらさっさと来なさいよ。」
「わかりました、出来るだけ頑張ってみます。」
「いや、ほんとに来なさいよ?」
「わかってますって。」
霞美月、なんか17歳とかで謎のお店をやっている店主。
高校とかは行ってないらしく、その謎の店の2階に住んでいる。
謎の店というのは、なんというか、本当に謎の店。
物を売っているかと思えば、相談事を持ち込まれたり。
とにかく、何をやっているのかよくわからない店なのだ。
そして、僕のバイト先でもあったりする・・・。
僕の名前は葦風菜種。
平凡な専門学生。
生活も何もかもが平凡。
バイト先以外は・・・。
「おはようございまーす。」
「お!遅かったな菜種!」
「はい、ちょっとレポートの提出に手間取りまして。」
「まぁいい、準備してくれ。」
「了解です。」
この謎のお店「霞屋」。
一見老舗の和菓子屋のような名前の店だが、売っているものはとにかく胡散臭い。
身長が伸びる飴とか、恋愛が成就するブレスレットとか。
関連性は皆無だし、そもそも何を目的として売っているのかも謎。
そして客も来ない。
全体的によくわからないお店なのだ。
一応店員用の制服もあり、男物はちょっとかっこよく、女物はちょっとかわいいのがなんか少し腹が立つ。
「よし、準備オッケーだな!」
「はい。」
「それじゃ、遊ぼう!!」
「えっと、いつも思うんですけど・・・。」
「んあ?なんだ?」
「お店は放っておいていいんですか・・・?」
「え?だってお客さん来ないし、いいんじゃないの?どうなの?」
「いや、どうなの?と言われても・・・。」
「そんなことよりゲームしよう!ゾンビ倒そう!」
「まあ、いいですけど・・・。」
こんな状況なのにちゃんと給料でてるんだよな・・・ここ。
一体そのお金はどこから出てるのか・・・。
謎は深まっていくばかりなのである。
「あ、そこ!危ない!よし!いける!!」
「あ、ちょっと美月さん、体揺らさないでくださいよ。」
「あーごめん、なんか体も一緒に動いちゃって。」
「いや、レースゲームなら気持ちはわかりますけど・・・。」
「そんなことより、はいグレネード!どーん!」
「グレネードは少ないんですからちゃんと考えて使ってくださいよ。」
「えー考えてるよー。」
「全く・・・。」
チリリーン
「あれ、今お店誰か来たんじゃね?」
「みたいですね、ちょっと行ってきます。」
「えーゲームは?」
「もうお終いですよ。」
「そんなー。」
「いらっしゃいませー。」
店に戻ると、20代前半くらいの女性が商品を見ていた。
「あの、これって効果あるんですかね・・・?」
女性は恋愛成就ブレスレットを指差す。
「あー、どうでしょう。願掛け程度、じゃないですかね・・・。」
「ふふふ、ですよね。」
女性は小さく笑った。
片思いの相手でもいるのだろうか。
「もしよろしかったら他の商品もご自由にご覧ください。」
「ありがとう、そうさせてもらいます。よかったら色々教えてくれません?」
「もちろん、いいですよ。」
この店にお客さんが来るなんていつ振りだろう。
ここで働き始めてそろそろ半年だが、一週間に一人来れば多いくらいだからな・・・。
「これってカルシウムとか入ってるんですかね?」
「多分裏に成分とか載ってると思いますけど・・・って、カルシウム入ってないし・・・。」
「あはは!」
「ほんと、いいかげんな商品ですよね・・・。」
「そうですね、でも面白いです!」
「そう言っていただけると助かりますよ・・・。」
穏やかなお客さんでよかった。
下手したらクレーム来るレベルだぞこれ・・・。
「それにしても、色んな物があるんですねぇ・・・。」
「どれも怪しいものですけどね・・・。そんなことより・・・。」
「はい?」
「店員の自分が言うのもあれですけど、このお店ずいぶん怪しいと思うんですけど、どうして入ろうと思ったんです?」
「どうして、ですか。・・・んー。」
女性は少し考える素振りを見せた。
「まぁ、好奇心ですかね。ここには何があるのかなって思って。そしたら、入ってみたくなって。」
「・・・期待通りでしたか?」
「ふふ。期待以上でした!」
「それはよかったです。」
「なぁー菜種ー?まだ戻ってこないのかー?」
「美月さん!お客さんの前ですよ!」
「なんだ、まだいたのかぁー。」
「失礼ですよ!」
「この方は・・・?」
「何といいますか・・・うちの店主です・・・。」
「・・・・・・・・へ?」
「なんだか、馬鹿にされたような気がするんだが。」
「あ、いえそんなことは・・・。」
「美月さん、お客さんにそんな態度取ったらだめですよ!」
「へーい。私は戻ってゲームの続きやるから、早く来いよー?」
「はいはい、わかりましたよ。」
美月はカウンター裏の階段を上っていった。
「すいませんね、あれでも一応店主なんですけど・・・。」
「いえ。それにしても、あの若さでお店を経営してるんですね・・・。」
「まぁ詳しい事情はわからないですけど、結構めちゃくちゃですよ?あの性格ですから・・・。」
「あはは、そうなのかもしれませんね。」
「自分なんかここに来てもすぐゲームの相手ですから。」
「とても仲が良いんですね。」
「そうなんですかね・・・。」
「そういえば、菜種さん、と仰るんですか?」
「え?ああ、葦風菜種って言うんです。女の子みたいな名前ですよね。」
「いえ、素敵な名前だと思いますよ?」
「ありがとうございます。」
「申し遅れました、私は本条辰音と申します。」
「本条さんですか。覚えておきます。」
「ええ、是非。では、私はそろそろ・・・あ、これ一つ頂けます?」
「はい、では380円になります。」
「はい。ではまた。」
「はい、またのお越しをお持ちしてます。」
結局、恋愛成就のブレスレット一つ買っていったな本条さん。
「おー終わったのか。」
「はい、ブレスレット一つ買っていかれましたよ。」
「売れたのか、珍しい。」
「店主の言葉じゃないですよそれ・・・。」
「そんなことより早くお前も準備しろよー。」
「はいはい。ってゲーム変わってるし・・・。」
「やっぱりシューティングはサイコーだぜっ!どーんどーん!」




