第五十七話 巫女の力・極
…年も明けたし、色々と整理がついた…正直、まだしんどいけど、少し書けたし、投稿します。
パリンッ
封印石が割れ、中から溢れ出した水が、懐かしい姿を成していく…
【水難斗】
「あぁ…あぁ、水難子!やっと…やっと!」
【水難子】
「……。」
数百年振りに見る水難子の姿は、記憶の中の彼女と寸分と違わなかった…いや、少し細くなったか?まぁ、無理もない…ずっと狭い封印石の中に閉じ込められていたのだ。
触れれば折れてしまいそうな程か細い水難子の体を、それでも俺は抱きしめずにいられなくて…弱り、俯いたまま立っている彼女の方へ、歩み寄ろうとした。
【水難子】
「……ぁ……」
【水難斗】
「あぁ、水難子…水難k」
グォッ
【水難斗】
「え?なっ!?」
これは!?
俺の体を形成している水分と妖力が…水難子に、吸い取られて…
【水難斗】
「う、うわああああああっ!?」
【水難子】
「…ぁ……ぁぁ……」
そうか…
【水難斗】
「そうだな…数百年間ずっと、石の中だったのだ…渇いて仕方ないだろうな…」
あぁ、分かった…お前に会えただけで、お前を救えただけで、俺はもう満足だ。水難子、気が済むまで、俺を喰らえ!そうすれば…
【水難斗】
「もう、永遠に別たれる事もあるまい…」
これからは…ずっと、共に……
霊夢side
祠の埋まる穴の中に降りて行った水難斗…それを私は、黙って見送った。紫にバレたら、また説教を喰らいそうだけど、久方ぶりの夫婦の再会、それに立ち会うほど無粋じゃない。
ひとまず、これで…水難斗との戦闘は片が付いたわね。
魔理沙の方も、勝負がついたみたいだし…ミネルバの加勢にでも…
【ミネルバ】
『…死ぬなよ、霊夢。』
ボシュッ
はぅぅぅぅ~~~っ!
ムリ、ムリムリムリ!今ミネルバと顔合わせたら、絶対に巫女の直感なんて維持出来ないわよぅ~っ!
落ち着いて、霊夢…冷静になるのよ…貴方ももう十八なのよ…き、キスの一つや、二つくらいで…そうよ、本来なら結婚して、一児の母になってて…然るべき……
【霊夢】
「って、バカバカバカバカ!!何を考えてるいるのよ、私っ!!」
っ!?
悪寒…背筋に走ったその寒気に、一瞬で私の頭は冷めた…同時に、巫女の直感に従い飛び出していた。祠に向かって。
そこには、既に封印を解かれたのであろう水難斗の半身、水難子の姿が…そして、再会を喜ぶ水難斗…が、次の瞬間、水難斗の存在が、水難子に吸収され始めた。
【水難斗】
「う、うわああああああっ!?」
その異様な光景に一瞬足が竦んだけど、構わず二人の間に割り入るように、御幣で吸収される妖力の流れを切り裂いた。
そしてすぐ様、水難斗の体を担ぎ上げて踵を返し、祠を隠していた穴から抜け出す…
【水難斗】
「博麗 霊夢…」
【霊夢】
「どうなってるの!?」
【水難斗】
「下ろしてくれ…永い封印で、水難子は渇いている…」
【霊夢】
「渇く?」
【水難斗】
「このままでは、水難子は周囲のあらゆるものから、水分を奪おうとする…」
【霊夢】
「水分…」
バガンッ
水難子が、穴から出て来た…というか、辺りの岩を吹き飛ばした、という方が正しいかしら?
何にせよ、かなりヤバい状況なのは間違いない…紫にバレたら折檻レベルだ。
【霊夢】
「でも、要は水があればいいのよね?」
だったら、何とかなるかも!
私は全速力で飛んだ…とはいえ、水難斗を抱えながらじゃ、そこまでスピードは出ないけど…
【水難子】
「がぁ……ガァァァァっ!」
案の定、水難斗を狙って追いかけてくる水難子…スピードは完全に不利で、ぐんぐん距離が縮まる…
【水難子】
「ガァァァァァァァッ!!」
と、水難子が無数の妖力弾を放ち攻撃してきた。力ずくで、水難斗を…水分を得ようというわけね。
【霊夢】
「仕方ないわね…とっておきを見せてあげる。」
【水難斗】
「何をする気だ?」
【霊夢】
「安心して、傷つけないから…勿論、アンタも死なせない。それが…私のやり方よ!」
私が戦う意味…私の戦う理由…それは……
【ミネルバ】
『…敵も死なせたくない、だから闘わないじゃねぇ!』
【霊夢】
「誰も死なせない為!博麗最新奥義・夢想転生陣!」
【ルーミア】
『はぁぁぁぁっ!』
【霊夢】
『くっ!』
迫り来る無数の黒い触腕、闇色の弾幕、その間を直感のみを頼りに抜け、ルーミアに詰め寄る…
【ルーミア】
『…甘い!』
【霊夢】
『なっ!?』
弾幕を抜け切った先で、ルーミアの手刀が叩き込まれ…私は落下した。
【霊夢】
『ぐっ…』
集中力切れ…巫女の直感を維持できる限界時間だった…。
【ルーミア】
『私相手に、だいぶ持続出来るようになってきたね。』
降りて来たルーミアにそう言われた。が、ルーミアの表情は厳しい…
【ルーミア】
『けど、巫女の直感による回避行動に頼り過ぎてる。直感を持続させるには、集中力がいる…どれだけ持続時間を伸ばそうとも、いずれは疲労で集中力は切れる。つまり、そればっかりじゃ結局はジリ貧なんだよ。』
【霊夢】
『分かってる…』
ただ、決め手となる技のイメージが掴めない…というより、心が拒絶している…攻撃の為の技、力を生み出す事を。
【ルーミア】
『なら、アンタはどんな技が欲しいんだい?何の為の力が欲しい?』
どんな技?何の為の?
【霊夢】
『…守る為の…誰も、死なせない技…』
例えば、そう…私の夢想転生の効果、相手の攻撃を一切受け付けなくなるあの状態を、ミネルバや、私の守りたいものにも与えられるような…それが難しいなら、せめて私の周囲にだけでも効果を…そして、敵を傷つけるでもなく、確実に力を削ぐ事の出来る…そんな、技が欲しい…。
【霊夢】
『あ…』
【ルーミア】
『少しは掴めたかい?イメージ…』
【霊夢】
『何となく…でも……』
まだ、足りない…そうだ!受け付けないだけじゃ、周りへの被害を抑えられない…なら!
【霊夢】
『っ!はぁぁぁぁぁぁっ!!』
見えた!イメージが!今なら編み出せる気がする!いや、むしろ…今、この瞬間を逃したら、一生編み出せない!
かつてない程、私の中で霊力が高まっていくのを感じる…これは?
【ルーミア】
『…殻を破ったね、霊夢。』
【霊夢】
『ルーミア?』
【ルーミア】
『博麗の巫女が扱う博麗奥義は、歴代の巫女が一つずつ編み出してきたものなのさ。その先代までの全博麗奥義の習得が、一人前の巫女となる事なら…その先、巫女の力を極め、さらなる高みへ至る方法、それが…』
【霊夢】
『…新たな奥義を、編み出す事…』
【ルーミア】
『それだけの霊力があれば、水難斗と戦っても負けやしないだろう。後は、その力のコントロールを覚えないとね。来な、霊夢!』
ルーミアが構える。
【ルーミア】
『手ぇ抜くんじゃないよ、霊夢!こっからは、本気で殺しに行くよ!はぁぁぁぁぁっ!』
水難斗side
あぁ…なるほど…
【水難斗】
「俺が…手も足も出ないわけだ…」
博麗 霊夢…よもや、これほどの力に目覚めていたとは。
凄まじい霊力だ…本来、妖怪にとって当てられたくない力、それが霊力…だが、この娘の霊力は何だ?これほど強大な霊力に、この至近距離で当てられて、何故息苦しくならない?むしろ、まるで…清流のような…澄んだ泉のような…こんな力を持つ人間が、巫女が、この世にいるのか?
【霊夢】
「夢想転生陣…本当は、アンタとの戦いの為に編み出したんだけど、皮肉と言えば皮肉ね。」
【水難子】
「がぁぁぁぁっ!」
水難子の攻撃が迫る…が、突進してきた水難子の姿は俺たちの前から突然消え…
【水難子】
「がぁっ!?」
何故か、俺たちの後方へと飛ばされた。否、俺たちのいる空間を、すり抜けた?
【水難子】
「がぁぁぁぁぁっ!」
今度は妖力弾…だが、これも俺たちの目前から忽然と消える…しかし、今度は後方へすり抜けるでもなく、本当に消滅してしまったようだ。
【霊夢】
「無駄よ…物理攻撃はすり抜け、弾幕系の攻撃は触れた瞬間に無力化し、消滅させる結界…それが、夢想転生陣。この結界の中には、如何なる攻撃も届かない。」
そう言うと、再び移動を開始する…
【水難斗】
「待て!何処へ行く?」
【霊夢】
「アンタも奥さんも、両方を救う為には…ここでは戦えない。」
【水難斗】
「しかし、何処へ…」
【霊夢】
「見えたわ。」
【水難斗】
「あれは…」
妖怪の山の中腹に位置する、大蝦蟇の池…しかし、あんな小さな池では、水難子の渇きは…
【霊夢】
「完全には癒えない…でも、最も近場で、多くの水分を得られる場所はここしかない。だから!」
【水難子】
「がっ!?」
いきなりその場で反転し、追ってきた水難子と向かい合うやいなや、俺を抱えたまま宙回りして水難子を蹴り落とした。大蝦蟇の池めがけて…
【霊夢】
「足止めになる…近場に水場があれば…」
【水難子】
「がぁぁぁっ!」
【霊夢】
「彼女はそこで水分を吸収しようとする…そして、その瞬間…」
池の水が徐々に、水難子に吸収されていく…その間、水難子はその場から動こうとしない。
【霊夢】
「彼女は完全に無防備になる。幻想空想穴。」
何が起きたのかと思うほど一瞬で、博麗 霊夢は水難子の懐へと入っていた…俺はと言えば、突然宙に置き去りにされ、自由落下を始めたところだった。
博麗 霊夢が、御幣を構える…が、水難子は動こうとしない。むしろ、気づいてすらいない?水分を補給する事に、完全に意識を奪われている。
【霊夢】
「博麗奥義…禊・巫女ノ祓へ~国つ罪。」
御幣が横薙ぎに、水難子の体を捉えた…
【水難子】
「ぐげっ!」
【水難斗】
「み、水難子っ!」
【水難子】
「ぎ…ぁ…」
【霊夢】
「…さすがに、これだけじゃムリか。あんまり得意じゃないけど、仕方ないわね。」
何だ?今度は何を…何か、小さく唱えている…
【霊夢】
「…尊み敬いて……御仕え申すことの由を……」
あれは…祝詞?しかも、これは…龍神祝詞?
【霊夢】
「愚かなる心の数々を戒め給いて……」
【水難子】
「…が……ぁ、ぁ……」
水難子の荒ぶっていた妖気が、鎮まっていく…これが、当代博麗の巫女・博麗 霊夢の力か!敵を屠るでもなく、傷つけるでもなく…敵の戦意を、荒ぶる御霊を、その全て鎮め、清める…。
【霊夢】
「立所に祓い清め給い……大願を成就なさしめ給へと恐み恐み白す。」
【水難子】
「……」
バシャーン…
祝詞が終わると、水難子は気を失ったようにその場に倒れた…と、同時に、俺も地上へと辿り着いた。俺の自由落下が終わるまでの、僅か数秒の間に…全てが終わっていた。
【水難斗】
「水難子っ!」
俺は即座に水難子に駆け寄り、その体を抱き起した…水難子の体に、外傷は全く無い…あれほどの霊力を込めた一撃が、確かに入ったはずなのに…。
【霊夢】
「はぁ~…疲れた…祝詞って堅苦しくて苦手なのよね。」
【水難斗】
「一体、何がどうなって…」
【霊夢】
「…夢想転生陣発動中の効果、相手への攻撃は、ダメージを無効化となる代わりに、相手の力を消耗させる。要は肉体が負うべきダメージを、強制的にスタミナで肩代わりさせるって事。そして巫女ノ祓ヘ~国つ罪は、荒ぶる魂を鎮める為の技…本来は天つ罪とセットで使う、お母さんが編み出した博麗奥義よ。ま、今の私には、夢想転生陣を発動したまま、その二つをセットで使う事は出来ないけどね。」
そう言うと、博麗 霊夢は池から上がり俺たちを置いて帰ろうとする…
【水難斗】
「ま、待て!何故、ここまでする?俺たちは、お前たちの敵だろ?」
【霊夢】
「…んー…何となく。直感というか勘というか…まぁ強いて言えば、さっきも言ったけど、アンタ、会った頃のミネルバみたいだったから。」
【水難斗】
「…そうか…」
殺意や闘志はおろか、他意さえないからこそ…あれほど澄んだ霊力を放てるのだろう…少し納得した。
【霊夢】
「あ、もう一つあった!」
【水難斗】
「もう一つ?」
【霊夢】
「奥さん起きたら、是非に聞きたいのよ!」
【水難斗】
「何をだ?」
【霊夢】
「夫婦円満のコツよ!」
【水難斗】
「……」
真顔で何を…今目の前にいる娘は、どう見ても、さっきまで俺たちを圧倒していた巫女とは同一人物に見えなかった…。
妖夢side
【ガシャドクロ】
「ガァァァァ…」
迫り来るガシャドクロ…誰もが、絶望を覚えていた…修行を積んできた私たちの攻撃が、まるで届かないなんて…。
それほどまでに、奴の中に渦巻く怨念は強大なのだ…百や二百では足りない、無数の怨霊の集合体…一体、どうすれば?
【??】
「魂鋼結界。」
ガァァァァァンッ
【妖夢】
「なっ!?これは!?」
この結界は…
【藤堂】
「やれやれ…間に合ったかね?」
【妖夢】
「藤堂さん!」
振り向くと、そこには慧音に肩を借りて歩く藤堂さんの姿が…
【慧音】
「藤堂先生、あまり無理をしては…」
【藤堂】
「大丈夫です…むしろ、アレは…私がどうにかしないと…力で真っ向からでは、それこそ無理というもの…」
【ガシャドクロ】
「ガァァァァァァッ!」
ズガンッ ズガンッ ズガァァンッ
藤堂さんの結界に阻まれたガシャドクロは、怒り狂ったように何度も拳を振り下ろしていた。
【藤堂】
「やれやれ騒々しいな…」
【ガシャドクロ】
「ガァァァ…」
ガシャドクロの瞳が、藤堂さんを捉えた…
【藤堂】
「君に恨みは無いが…私の行き場のないこの憤りの全て、君に被ってもらう…悪く、思うな…」
あの日、色々と失ったモノがある…この作品を書く環境もその一つ…幾分か心が塞ぎがちになってたけど…今は命があったことに感謝してます。
投稿頻度は落ちますが、少しずつでも書き続けていこうと思います。今後ともよろしくお願いします。




