第五十五話 覚醒
にとりside
【にとり】
「はぁ、はぁ、はぁ…」
や、ヤバいヤバいヤバい!に、逃げなきゃ…
【水難斗】
「逃げられると思うか?」
【にとり】
「ひゅいっ!?」
全力で逃げていた私の目の前に、突如として現れた水難斗…
【にとり】
「あ、あわわ…」
【水難斗】
「はぁ…はぁ…手間をかけさせるなよ、河童?何の為に…」
【にとり】
「チッ!」
カッ
【水難斗】
「くっ!?」
閃光弾を足元で破裂させ、水難斗の視界を奪う!この隙に、今度こそ、出来るだけ遠くへ…
【水難斗】
「無駄だと、言っているだろ…」
【にとり】
「っ!?」
ドガッ
【にとり】
「きゃうっ!」
後ろから頭を掴まれ、そのまま地面に叩き伏せられた…捕まった…もうダメだ…殺される!
【水難斗】
「何の為に、貴様だけ無傷でおいたと思う?よもや、こんな児戯の真似事の為だとでも思ったか?」
【にとり】
「ぐ、くっ…」
【水難斗】
「貴様の事は知っている…河城 にとりだろう?河童たちの中でも、かなりの腕利き…」
【にとり】
「め、滅相もない…」
【水難斗】
「貴様なら知っているだろう?水難子の封印されている場所を…」
【にとり】
「水難子?」
【水難斗】
「この山の何処かにあるはずだ…案内しろ。」
【にとり】
「そ、そう言われても…そんな場所、知らないんで…」
…メリメリメリっ
【にとり】
「あだだだだ!」
潰れる!頭が潰れちゃう!
【水難斗】
「知らぬ、か…ならば用は無いな。」
【にとり】
「ひゅいっ!ま、待って!思い、思い出せそうです!」
【水難斗】
「不要だ。貴様のアテにならん記憶力に頼るより、自分でこの山を潰した方が早そうだ。」
いやいや、理不尽な!
【水難斗】
「さらばだ…ん?」
?
不意に、水難斗の力が弱まった…何が起きたんだ?
いや、そんな事より…
【にとり】
「逃げるが勝ちってね!」
水難斗の拘束を解いて、私は一目散にその場から離れた。
少し撒いてから、椛たちの治療に行かないと…特に、椛が一番重傷のハズだ…手持ちの道具と機械で治せるといいけど…。
水難斗side
【水難斗】
「ようやっと、お出ましか?」
【霊夢】
「……」
【水難斗】
「博麗の巫女…博麗 霊夢。」
背後に降り立った巫女…しかし、俺の体はそちらに向き直る事も出来ず、辛うじて動く首を巡らせるしかなかった。
【水難斗】
「何をした?」
【霊夢】
「妖怪封じの護符を貼っただけよ…」
なるほど…さっき背中に感じた違和感のことか…首から下が完全に動かない…。
【霊夢】
「ま、アンタ程の妖怪を、永久に封印できる代物じゃないけどね。」
【水難斗】
「確かに…全快の状態なら、容易く跳ね除けられるだろうが…今の俺にはそれも厳しいな。」
【霊夢】
「本来なら、動けない今のアンタにトドメを刺すべきなんでしょうね…」
【水難斗】
「分かっているなら、何故そうしない?」
【霊夢】
「…何となく、そんな気になれないのよね…」
【水難斗】
「?」
【霊夢】
「アンタ個人からは、ザルバたちみたいな悪意を感じない…それよりむしろ、出会った時のミネルバみたい…」
【水難斗】
「……」
【霊夢】
「アンタの目的は何?にとりたちを殺さなきゃ、叶えられないような事なの?」
【水難斗】
「…聞いて、どうする?」
【霊夢】
「殺さなきゃ叶わない事を、殺してでも叶えようとしてるなら…博麗の巫女として容赦はしないわ。」
……。
【水難斗】
「当代の巫女は、随分と優しいのだな…」
俺が他者を傷つけてでも、目的を果たそうとするなら容赦はしない…だが、それは裏を返せば、俺が誰も傷つけず、目的を達する方法をとるなら手出しはしないと、そういう意味だろう…。
【水難斗】
「…フッ…それが出来たら、誰も苦労はしない!」
【霊夢】
「っ!?」
俺は妖力を爆発させ、背中に貼られた護符を吹き飛ばした!そして、変化する…
【水難斗】
「教えてやろう…俺の目的は、我が半身である妻・水難子の封印を解くことだ!」
【霊夢】
「妻?半身?」
【水難斗】
「俺たち水虎は、雌雄一対で生まれ、生涯を共にするのだ。しかし、俺たちの力は強大すぎた…他の妖怪たちでさえ恐れるほどにな。それ故に、俺たちは引き裂かれ、俺は地底に、水難子はこの山の何処かに封印された!分かるか?俺の目的を果たすには、俺たちを恐れ、貶めた他の妖怪どもが邪魔なのだ!貴様が望むような、甘ったれた平和的解決など、望むべくも無いのだ!」
【霊夢】
「くっ!」
【水難斗】
「分かったら、そこを退け!この山をひっくり返してでも、俺は水難子の封印を見つけ出す!」
【霊夢】
「そう…なら、容赦はしないわよ?」
…腰を落とし、一足で一気に間合いを詰めた。
【霊夢】
「っ!」
博麗の巫女と言えども、俺の速度については来れまい!
ズドッ
右手で、博麗の巫女の体を容赦なく貫いた。
【水難斗】
「この俺に悪意が無いだと?笑わせる…貴様ら博麗の巫女の一族への憎しみなら、他のどの妖怪よりも強いぞ?何しろ、俺たちを引き離し、封印したのは…貴様の先祖なのだからな。」
【霊夢】
「……」
まぁ、もう聞こえてはいないか…所詮は人間、即死だろう。
バッ
【水難斗】
「っ!?」
突然、目の前の巫女の体が無数の護符となり散った…これは、護符を集めて作った、人形〈ヒトガタ〉か!?
【霊夢】
「博麗奥義…退魔符乱舞!」
しかも、その護符は今度は俺を取り囲み、攻撃へと転じてきた…
【水難斗】
「ぐっ!くぅっ…バカな!何故…」
本来、護符が果たす役割は一枚につき一つ…自身の身代わりを形成させていた護符が、今度は攻撃に転じるなんて…そんな、事が…
【霊夢】
「言ったでしょ…容赦しないって。」
バキャッ
【水難斗】
「ぐっ!?」
上から叩きつけられた御幣…打撃を喰らうなんて、いつ以来だ?
攻撃を受けていたとはいえ、俺のスピードで躱せないなんて…液体化さえ間に合わないなんて…そんな事が、今まで一度でもあったか?
…いや、あったか…俺を封印した、当時の博麗の巫女…何代前か知らないが、あの時の巫女もこのぐらい速かった…いや、それ以上か?
【水難斗】
「クソ!人間風情が、調子に乗るな!」
今度こそ、その心臓突き破ってくれる!
頭上から落下してくる巫女の体めがけ、右手の爪を突き上げる…この距離なら、確実に…
【霊夢】
「……」
なっ!?
空中で巫女は体を捻り、俺の爪を紙一重で躱した…この距離で?あり得ない!
【霊夢】
「はっ!」
ズガンッ
【水難斗】
「がはっ!?」
再び叩きつけられる御幣…いや、もはや、驚くまい……
【水難斗】
「はぁ…はぁ……貴様の強さは分かった…だが、俺は退かぬぞ!」
水難子…俺はもう、生きてお前に逢えぬやも知れん…それでも!
【水難斗】
「この命に代えても、貴様を倒し、水難子の封印を解く!がああああああっ!」
【霊夢】
「……」
霊夢side
【水難斗】
「があああああああっ!」
この期に及んで、まだ妖力が上がるのね…既に体はボロボロなのに、なんて執念…ほんと、出会った時のミネルバを見てるようだわ。
妹の魅尾さんに会いたい…その思いだけで生き、戦い、進もうとしていた、あの時の……
【霊夢】
「…胸が痛むわ…」
【水難斗】
「ならばすぐに、終わらせてやる!」
突っ込んでくる水難斗…その攻撃は速すぎて、目では到底追いきれない…巫女の直感を頼りに、最小限の動きだけで、紙一重で躱していく…一つ動きを間違えれば、即死は免れない。
修行前の私なら、もう集中力切れで終わっていたわね…だけど、
【霊夢】
「はっ!」
バキッ
【水難斗】
「ぐっ!」
ここしかないというタイミングで、水難斗の顎をお祓い棒で叩く…
【霊夢】
「悪いけど、今の私はことさらに無敵よ?愛の為に戦ってるのが、自分だけだと思わないことね。」
【水難斗】
「チッ!小娘が、偉そうに…」
…水、下から来る!
私はその場から飛び退いた…次の瞬間、足元から上がる水柱…飲み込まれていたら、地底でミネルバが喰らったという攻撃を浴びていただろう…。
【霊夢】
「!?」
何?何かが纏わりついて、動きが取りにくい?
【水難斗】
「捕えたぞ、博麗の巫女よ…水とは何も、流れて目に見える液体だけではないぞ?目に見えないほど小さな粒子となって、大気の中に溶け込んでいる…」
【霊夢】
「しまった!」
空気中の水分を操って、私の動きを…
【水難斗】
「これで避けられまい!死ねぇっ!」
【霊夢】
「っ!」
妖夢side
【妖夢】
「はぁぁぁっ!」
ズバッ
囚われたチルノを救出するため、地底へと来た我々でしたが…
【妖夢】
「…全員で来ることは無かったですか?」
出迎えて来たザルバ派の妖怪たちの数と質は、決して多くも高くもない…通って来た背後の道には、疎らに倒れ伏した下級妖怪の姿が散らばるのみ…。
死屍累々の地獄絵図と化すかとも思っていたのですが…それほどザルバに協力する一派は多くなかったという事でしょうか?
【文】
「それにしても、チルノさんは何処に囚われているのでしょうね?」
【アリス】
「恐らく地霊殿の地下ね…チルノの力を奪っておくにも、最適な監禁場所でしょう。」
地霊殿の地下には焦熱地獄跡があり、今でもその炎熱は凄まじい…氷精であるチルノにとって、これほど惨い監禁もないだろう…。
【妖夢】
「急ぎましょう。」
【??】
「おぉっと、その必要はないぜ!」
ん?誰だ?
額から伸びた角…鬼か?
【鬼A】
「コイツを連れ出しに来たんだろ?」
【アリス】
「チルノ!」
鬼が手にした鎖の先には、囚われ弱り果てているチルノの姿が…
【鬼A】
「ザルバさんの言った通りだ。自分たちからヤラれにノコノコと、バカなヤツらだ!俺は、禅蔵様の一の子分、あk…」
ザンッ
【鬼A】
「ぎゃーーーっ!」
【妖夢】
「失礼、隙だらけだったもので。」
【鬼A】
「てめぇ鬼か!人が名乗ろうとしてるところ斬りかかってくるとか!どんな育て方されたんだ!」
鬼は貴方でしょう…というか、鬼に育ち方批難される覚えは無いんですが?
【早苗】
「何にせよ、これでチルノさんも助けられましたし…」
怖いくらい笑顔の早苗が、鬼のそばへ歩み寄ってきた…
【早苗】
「悪~い妖怪さんを、念入りに退治しちゃいますよ♪」
【鬼A】
「ちょ、待てよ…俺、もう斬られて、戦えないんだけど…」
【早苗】
「…(ニコッ)…」
【鬼A】
「ひっ…ぎゃあああああっ!」
五分後…
【鬼A】
「ぐ…ぁ……たす、け…」
【早苗】
「ふぅー♪」
いや、やり切った感出してますが、明らかにやり過ぎでしょう…。
【チルノ】
「う、ぅ…」
【妖夢】
「チルノ!」
やはり、かなり弱ってる…
【鈴仙】
「妖夢、診せて。」
鈴仙が聴診器を取り出し、診察にかかった。皆、一様にその様子を見守る…
【鈴仙】
「…外傷はないけど、かなり衰弱してる…出来る限り冷やした方がいいけど、ここじゃムリね。急いで地上へ戻りましょう。」
【妖夢】
「そうですね。この事を、早く三人にも伝え…」
【咲夜】
「ん?ねぇ、さっきのヤツは?」
【妖夢】
「え?」
気づくと、さっきの鬼が姿を消していた…一体、何処に?
【アリス】
「まぁ気にしなくも、あんなボロボロの状態じゃ何も出来やしないわよ。」
鬼Aside
はぁ…はぁ…チクショウ!ナメやがって!
見てろクソアマども!
こうなったら、コイツを起こしてやる!
地底から逃がしゃしねぇ!
地上も終わりだ!
【鬼A】
「はぁ…はぁ…さぁ、起きろ!地底最強の怨念…ガシャドクロ!」
俺は封印の鎖を引き千切った!
コイツはガシャドクロ…数多の怨霊が集まり生まれた妖怪で、その怨念の強さ故に、この地底に封印されたという…
【ガシャドクロ】
「…ガ…アアアアァァァァッ!」
【鬼A】
「さぁ、行け!ガシャドクロ!今こそ、地上の連中への恨みを晴らs…」
zunっ プチッ
妖夢side
【妖夢】
「なっ!」
何ですか、この妖気は!?
【??】
「ガアアアアアアアッ!」
何ですか?あの巨大な骸骨は?地上へ向かおうとしていた我々の方へ、真っ直ぐ突っ込んで来ますよ!
【文】
「あやややや!?あれは、確かガシャドクロ…マズいですよ!あんなのが地上に出たら…」
【鈴仙】
「なら、止めるしかないわね!」
そう言うと、鈴仙は目から赤い光線を放った。さらに、
【上海】
「上海スパーク!」
上海も魔砲を放ち、ガシャドクロを攻撃。その進行を止めようとした…が、
【ガシャドクロ】
「ガアアアアアッ!」
【鈴仙】
「嘘!?効いてない!?」
確かに直撃した一瞬、ガシャドクロの進行を止められたが、雄叫び一つで二人の攻撃は掻き消されてしまった。
【上海】
「というか、届かなかった?あのガイコツの周り、もの凄い怨念とオーラで覆われてる…」
【アリス】
「あんなの、どうしろって言うのよ?」
アリスの言う通り、あんな巨大な怨念の塊…どう止めろと言うんですか?




