第五十二話 裏切り
霊夢side
ドォンッ
【一同】
「「「「「っ!!」」」」」
【ミネルバ】
「…がっ!?」
…突然、ミネルバが何かに撃墜された…それを、頭が理解した時には…全員が周囲に臨戦態勢を取っていた。
【妖夢】
「くっ!一体、何処から!?」
【鈴仙】
「あのミネルバさんが、こうも容易く…」
この場にいる全員が、周囲に警戒を向ける中…私は、巫女の直感で事態を把握した。
いや、冷静になれば、巫女の直感に頼らずとも分かる事よね…
【霊夢】
「…どういうつもり、藤堂さん?」
【藤堂】
「……」
【アリス】
「なっ!?まさか、今の…」
【魔理沙】
「チッ!何のマネだぜ!」
【藤堂】
「…さすがに、巫女の直感は誤魔化せないか。」
この人…こんな顔も出来るのね…なんて冷たい、残忍な目…。
【霊夢】
「冷静になって考えれば分かる事よ。貴方の結界で、私たちの動きは敵に見えないし気取られない。なら、外から攻撃されるハズがないもの。そもそも、私たちの誰一人として目視できない攻撃…そんな事が出来るのは、幻想郷広しといえど…貴方しかいないんじゃない?」
【藤堂】
「……くくく、私とした事が、つまらない嘘を描いてしまったな…。」
【魔理沙】
「この野郎っ!!マスタースp…」
【霊夢】
「待って、魔理沙!」
【魔理沙】
「霊夢?」
頭に血の上った魔理沙が放とうとしたマスタースパークをギリギリ止めた。正直、ここで魔理沙に無駄な魔力を消費してもらっては困る…幻術師である藤堂さんの本体に、マスタースパークを当てられるハズもない。
【霊夢】
「…理由ぐらい、聞いてもいいわよね?知らぬ仲でもあるまいし。」
【藤堂】
「つまらない事を聞くね?まぁいい…簡単な事だ。私は、忌み嫌われし幻術師…人間の悪意と残酷さを、この身をもって味わってきた…そんな私が、幻想郷に受け入れられず、地下深くに不当に封印されてきた彼らに同情し、加担したとして…何がおかしい?」
【霊夢】
「同情、ね…」
【鈴仙】
「…話はそのくらいでいいですか?」
ビィィィィッ
話を遮るようにして、鈴仙が両目から怪光線を放った。
【藤堂】
「……」
ドォォンッ
それを、藤堂さんは避けもせずに正面から受けた…爆発で辺りに煙が立ち込める…普段の彼からすれば、今の一撃で決まったでしょうけど…
【霊夢】
「そんなわけ…ないわよね…」
煙の中からは、無傷の藤堂さんが現れた。
【藤堂】
「やれやれ…こちらとしては、無駄話でも何でも、君たちを足止めしてられればそれで良かったんだが…」
【鈴仙】
「生憎と、私には貴方と話す事なんてありませんから…」
うわー、この子キレてるわー、どうしよう?
他も完全にやる気な面々が多いんだけど…突破口、全然見当たらないのよね…。
【妖夢】
「鈴仙!落ち着いて!皆さんも!」
【文】
「ナメてかからない方がいいですよ!」
妖夢と文が前に出た…この二人は、どうやらちゃんと分かっているみたいね。
【妖夢】
「…霊夢、魔理沙!先に行って!貴方たちは、ここで消耗してる場合じゃないでしょ!」
【藤堂】
「おやおや?勝手に話を進めているようだが、ここから逃げられるとでも?」
【上海】
「上海パーンチ!」
バキャッ
【藤堂】
「なっ!?」
【アリス】
「行って!!」
【霊夢】
「ありがと、アリス!皆、気をつけて!」
上海の不意打ちで生まれた隙をついて、私と魔理沙は一気に藤堂さんを追い越して先へ向かった。
妖夢side
【藤堂】
「ぐっ、誰が…逃がすと…」
ズバッ
【藤堂】
「…っ…!」
【咲夜】
「よそ見は禁物ですよ。」
霊夢たちを追撃しようとする藤堂さんを、咲夜がシルバーブレードで止めた…あれで斬られると、動きが遅くなるのよね。
【藤堂】
「…お…ぉ…の…ぉ…れ…」
【早苗】
「八坂の神風!」
【文】
「天孫降臨!」
【藤堂】
「っ!!」
早苗と文…二人の攻撃をまともに喰らった藤堂さん…さすがの彼も、これなら…
【藤堂】
「ぐ…ぐ……解、除…」
【妖夢】
「っ!!」
バァンッ
【早苗】
「きゃあああっ!」
【文】
「あやややっ!」
突然の爆発で、早苗と文の攻撃が掻き消され、反動で二人が弾き飛ばされた…。
いや、というか…これは……鳥肌?
【藤堂】
「…君たち、何か考え違いをしていないか?」
【妖夢】
「っ!?」
【藤堂】
「6人もいれば…」
【上海】
「シャンハーイ!!」
【藤堂】
「……私を倒して、すぐに先に進めると…彼女たちと合流できるなどと…思ってやしないか?」
…思ってしまった…勝てるかもしれないと…このまま押し切れれば、何とかなるかもしれないと…甘かったっ!
この人は…あの紫様でさえ仕留めきれなかった…いや、むしろ、三度に渡る戦闘のいずれも、紫様を退ける事に成功した人だ…。そんな彼が…
【藤堂】
「笑止!数の優位?そんなもの、数を支配する者には、何の意味も無いのだよ?」
私たちより、格下なワケが無いでしょう…。
ザルバside
【ザルバ】
「始まったね。」
地獄は本当に便利なとこだ…地上の情報に事欠かない。ミネルバ君たちが動き出した事も、バッチリ分かっていた。
【禅蔵】
「いよいよか…待ちくたびれたわ。」
【水難斗】
「…まったくだ…」
二人とも、やる気満々だね。僕としては、まだ寒いからもうちょっと待ちたかったよ…。
でも、水難斗が痺れを切らさなくてホッとしてるよ。
【ザルバ】
「さて、藤堂も上手くやってくれてるし…僕らも準備しようか?」
【禅蔵】
「準備なら…」
【水難斗】
「とっくに出来てる。」
【ザルバ】
「あぁ…そう?うん、分かった……誰かコート持ってない?」
【禅蔵】
「我慢しろ。」
【水難斗】
「早くしろ。」
【ザルバ】
「…はい…」
水難斗、目が怖い…。
霊夢side
【霊夢】
「しっかりついて来てよ、魔理沙!」
【魔理沙】
「分かってるぜ!」
もうすぐ、藤堂さんの結界の端だ…藤堂さん自身を撒いても、この結界から出れないとどうしようもない…ミネルバは意図的に結界から出されて、そのまま落下したけど…出れば合流出来るハズ!
【霊夢】
「そこ!」
結界の薄くなった瞬間、一点を狙って結界を破り表へ出た。
【霊夢】
「何とか出られたわね。」
【魔理沙】
「…アリスたち、大丈夫だろうな?」
信じるしかないわね…。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
【霊夢&魔理沙】
「「っ!!」」
何、この感覚?
突然、幻想郷の地上に…強大な力が三つ現れた。これって…ザルバたち?でも、何で…?
【霊夢】
「何で、バラバラに現れたの?」
一つは、無縁塚の方…もう一つは無名の丘…そして、もう一つが妖怪の山?
【魔理沙】
「この感覚…間違いなく、ヤツらだぜ!」
そう言いながら、魔理沙は無縁塚の方を睨みつけていた。
【魔理沙】
「私を吹き飛ばした、あの禅蔵とかいうヤツは…あっちみたいだ。」
強く拳を握りしめ、腕を震わせる魔理沙…
【魔理沙】
「借りは倍にして返すぜ!」
【ミネルバ】
「行先は決まったな。」
【霊夢】
「ミネルバ!無事だったのね。」
【ミネルバ】
「あぁ…俺は向こうに行くぜ。霊夢、お前は水難斗を頼むぞ。」
ミネルバが指したのは無名の丘の方だ…おそらく、そっちに…
【霊夢】
「気を付けてよね。」
【ミネルバ】
「そっちこそな。」
……。
【魔理沙】
「あぁ、お邪魔にならないうちに私は行くのぜ?」
【霊夢】
「なっ!別にそんなんじゃ…」
【ミネルバ】
「霊夢。」
【霊夢】
「何y…っ!」
【魔理沙】
「っ!?」
…目の前にあるミネルバの顔と、唇に触れる感触の意味を理解したのは……ミネルバが離れてから数秒後だった。
【ミネルバ】
「死ぬなよ、霊夢。」
【霊夢】
「…え?あ、え?あ、はい…」
【魔理沙】
「……ミネルバ、お前…大胆だな…」
【ミネルバ】
「帰ってからの約束じゃ死亡フラグだろ?」
【魔理沙】
「そうだけど、霊夢のヤツ…」
……。…………。
【魔理沙】
「思考停止してるぞ?」
【ミネルバ】
「……。」
妖夢side
【妖夢】
「くっ…皆さん、気をつけて下さい!」
この人の言う通り…数の優位が通じる相手じゃない!
【鈴仙】
「だったら、今度は最大出力でお見舞いしてあげる!」
ビィィイィィィッ
【藤堂】
「……」
ドガァァンッ
凄まじい爆発で、辺り一帯に煙が蔓延した…藤堂さんは?
バッ
【鈴仙】
「え!?」
急に、煙の中から現れた手が…鈴仙のネクタイを掴み、引き寄せた!
【藤堂】
「それで、本気かね?」
【鈴仙】
「ぐっ!」
ネクタイで首を引っ張られ、締め上げられる鈴仙…マズい!
私は咄嗟に、藤堂さんに飛びかかっていた…何の考えもなしに…
【藤堂】
「……」
ガシッ
当然、楼観剣で斬りかかろうとしていた右手は掴まれてしまった!白楼剣がギリギリ届いたが、藤堂さんにはかすり傷しかつけられなかった。
【藤堂】
「若いな。ランス。」
ザクザクザクッ
【妖夢】
「いっづ!」
掴まれた手に突き刺さる感触…見ると、藤堂さんの爪の先から、目に見えない何かが伸びて、私の手にめり込んでいた…。
【鈴仙】
「妖夢!」
【藤堂】
「人の心配してる場合じゃないだろ?」
見ると、鈴仙のネクタイを掴んでいる藤堂さんの右手が…
【藤堂】
「幻拳・餓狼。」
餓えた、狼に…
【鈴仙】
「っ!!」
バリィッ
【鈴仙】
「ぐっ!!」
振り下ろされたその拳を、ギリギリ量腕でガードした鈴仙だけど…その腕は…
【鈴仙】
「あああああっ!!」
狼に食い千切られたようにボロボロだった…。
【上海】
「上海パンチ!」
【藤堂】
「……」
ガシッ
【上海】
「むぐっ!?」
【藤堂】
「二度も、同じ手を食うとでも?」
【咲夜】
「っ!?」
そんな!?時間停止からのシルバーブレードの奇襲さえ、止められた!?
【藤堂】
「時を操れるのが、自分だけだと?思い上がるな。」
【咲夜】
「なっ!」
ズバッ
【咲夜】
「ガハッ!」
【文】
「幻想風靡!」
【藤堂】
「やれやれ…」
【文】
「はぁっ!」
ドォーンッ
【文】
「がっ…ぁ…」
今度は何?見えない壁で、文の突進を…
【藤堂】
「五月蠅い羽虫は、蚊帳の外に締め出さねばな…」
【早苗】
「グレイソーマタージ!」
【藤堂】
「……」
ダメだ!早苗の攻撃も完全に読まれている!届かないっ!
【藤堂】
「まったく、忙しいな…」
【アリス】
「なら、少し休みなさいよ。」
【藤堂】
「!?」
【アリス】
「人形だけが能じゃないのよ、私?知らなかった?」
【藤堂】
「これは、拘束魔法…」
藤堂さんの体を、黄緑色の魔法陣が拘束している…
【藤堂】
「なるほど、私の意表を突いた、絶妙なコンビネーションだ。」
ドォンッ
【妖夢】
「やった!」
早苗のグレイソーマタージが直撃した!
と、同時に…私の手の痛みが…いや、傷が消えた?
【鈴仙】
「あ、あれ…私…」
私だけじゃない、鈴仙や咲夜たちのケガも無くなってる…もしかして、さっきまでの全部…幻?
【藤堂】
「くっ…あと一歩、だったんだがね。」
幻で助かったと思うべきか…幻だけで、あのリアルな痛みとダメージを与えるこの人に驚くべきか…もし、早苗もアリスもやられれば、私たちは事実上全滅していたことになる…あと一歩、寸前のところで止められて、本当に良かった。
【藤堂】
「しかし、一人一人相手にしていては…やはり疲れるな。仕方ない…ここは、君たち流に合わせてあげようかね。」
【妖夢】
「私たち流?」
【藤堂】
「…弾幕ごっこ、だったかね?」
え?
藤堂さんは、懐からカードを取り出した…あれは、スペルカード!?
【藤堂】
「さて、君たちにこの問題が解けるかね?難解・天空大円算。」
【妖夢】
「これは!?」
私たちを囲むように現れた一つの円…それが、傾きながらどんどん数を増やしていく…縦横無尽に張り巡らされた無数の円に、私たちは完全に取り囲まれた。
【早苗】
「これって…まるで地球儀?いや…」
その円の上に、無数の白い弾幕が並ぶ…まさか、これを一斉に?
【早苗】
「天球儀…」
【藤堂】
「そろばんにも、色々あってね。円形をした八卦そろばん(※)なんて物もあるんだ。それを少し模したものだ。ただ、計算の中身は占いなどではない…天文学的な数字、数の理とその神髄だ。」※占いそろばんともいう
【咲夜】
「大層な話だけど…弾幕ごっこで私たちに勝てるとでも?」
【藤堂】
「そこまで言うなら、解いてみなさい。私のとっておきの難問を。」
【妖夢】
「来ますよ!」
藤堂さんが手を振ると同時に、無数の弾幕が上下左右…四方八方から飛んできた!




