第四話 久遠の真実
朝日が差し込む室内…ミネルバは、静かに目蓋を開けた。
【ミネルバ】
「…何処だ、ここは…?」
辺りを見回すミネルバ…と言っても、体が異様にダルくて、起き上がる事も出来ない。辛うじて動く首を左右に振り、後は視線を巡らせるしかなかった。
【ミネルバ】
「…俺は、確か森にいたはず…何で、こんなとこに……っ!」
朦朧としていた意識は、冷水を浴びたかのように一気に覚めた。というか、無意識の内に飛び起きていた。
【霊夢】
「きゃっ!」
【ミネルバ】
「ぐっ!いづ…」
もの凄い勢いで起き上がってきたミネルバだったが、上体を起こしただけで、右脇腹を押さえて再び寝転んでしまった。
その表情は苦悶に満ち、汗も浮いている…無理もない、昨日はあんな立派な風穴が開いていたのだ。如何に強靭な回復力と高度な医療技術をもって傷口が塞がろうと、完治というには程遠い。
というか、その前に…さっきの「きゃっ!」という発言を気にした方がいいだろうか?いや、別に何て事はない。
【霊夢】
「もう、急に何なのよ?」
夜通し、看病の為に付き添っていた霊夢…だが、さすがに途中で疲れて、そのままミネルバの横で眠ってしまっていただけなのだ。それが、急にミネルバが飛び起きたものだから、掛け布団が捲り上げられるのと一緒に、はね飛ばされたわけである。
【ミネルバ】
「…て、てめぇは…っ!何のつもりだ?ここは何処だ?何で俺は生きてる?納得いくように説明しろ!がぁっ!」
大声を上げるだけで脇腹に激痛が走るというのに、よくこれだけ一気に捲し立てられたまのだ。
【霊夢】
「まだ、安静にしてなさいよ。ここは永遠亭…幻想郷一の診療所よ。」
【ミネルバ】
「…ほう…診療所、か…つまり、気を失った俺をここに運び、治療したってわけか?」
【霊夢】
「そうよ。アンタ、あのままだったら確実に死んでたわよ?」
霊夢の口調は、感謝しなさいとでも言いたげだった。実際、それが当然だし、常識的に考えても霊夢のそれは正しい。異論など有り得ないだろう…だが、
【ミネルバ】
「…ふざけんなよ!余計な事してんじゃねぇよっ!」
ミネルバは、激しく憤慨した。
【霊夢】
「な、何よ?」
【ミネルバ】
「俺はな…今まで、大勢の人間を殺してきた。命乞いするヤツも容赦なく…する暇すら与えず殺したヤツだっている!そんな俺を治療しただと?バカじゃねぇのか!?」
【霊夢】
「そんなの知ったこっちゃないわよ!何なのよ、アンタは?助かりたくなかったわけ?」
【ミネルバ】
「んなわけねぇだろっ!あぐっ…確かに、俺はこんなとこで死ぬわけにはいかねぇ…何が何でも生き延びて、絶対に帰ると誓った…ただし、誰の力も、助けも借りずに、俺だけの力で、だ。」
そう、彼には…プライドがあった。他人に頼るなんて選択肢のなかった彼は、自分一人の力だけで生きてきた。その邪悪な力の為に、悪役としてしか生きて来れなかった彼には、それだけが正義であり、譲れないポリシーだったわけだ。
人は誰しも、一人では生きていけない…そんな言葉を鼻で笑わなければ、生き残れない環境で育った…それがミネルバという男なのである。
【ミネルバ】
「…殺せよ。ほっといたら、俺はまたあの結界をぶっ壊しにいくぜ?外に出してくれなんて頼まねぇ…する必要もねぇ。俺は俺の力とやり方で外に出る…それが気に入らねぇなら、今すぐ俺を殺せ。幸いな事に、今の俺には変身する余力も、抵抗する術もねぇんだからよ。」
【霊夢】
「……」
霊夢はミネルバを睨むと、右手を振り上げた。そして…
パァンッ
力一杯、ミネルバの頬を張った。
【霊夢】
「バッカじゃないの!生きたいなら、素直に喜べばいいじゃない!助かりたいなら、そう言えばいいじゃない!本当に…本当に、今までアンタの周りには、助けてくれる人はいなかったの?アンタがどんなに叫んでも、誰の耳にも届かなかったの?アンタが、勝手に決め付けてただけじゃないの?」
霊夢はミネルバを掴み起こして、これ以上ないくらい顔を近づけて彼の目を覗き込みながら怒鳴った。博麗の巫女である彼女が、ここまで感情を顕わにするのは、とても珍しい事だった。
【ミネルバ】
「…お前に何が分かんだよ?」
【霊夢】
「分かんないわよ!分かんないけど…私には、聞こえたのよ…」
【ミネルバ】
「何がだ?」
【霊夢】
「アンタが、心の中で『助けて』って叫んでるのがよ。よく分からないけど…そんな気がしたの。だから助けた。それだけよ…」
霊夢はミネルバを放すと、ぺたんと座り込んで俯いてしまった。
しばらく、そのまま気まずい沈黙が辺りを漂う。
【ミネルバ】
「…助けて、か…そうかもな。」
沈黙を破ったのはミネルバだった。まぁ、別にこの沈黙に耐え兼ねてというわけではないが。
【ミネルバ】
「自分でも分かってんだよ…意地張ってるだけだって。でもな、もう遅いんだよ。今さら、どの面下げて助けてくれなんて言えるんだ?そう泣き叫んでた連中を、大勢殺してきたこの俺が…そんなの、ムシが良すぎるだろ。」
【霊夢】
「…そんな事…」
【紫】
「その通りね。」
突然、霊夢の背後に開いたスキマ…そこから姿を現したのは、すっかり元気そうな紫だった。彼女がこんな朝早くに、こんなに爽やかそうな表情をしているのは、かなり違和感があるのだが…霊夢にとってはそれどころではなかった。
【霊夢】
「ゆ、紫…。」
霊夢は、紫の性格をよく理解している。
紫は、この幻想郷を脅かす存在を決して許さない…博麗大結界を破ろうとしているミネルバを、絶対に生かしておくはずがない。
【紫】
「じゃあ、早速…死んでもらうわね?」
やっぱりか!そんな五文字だけのツッコミより早く、紫はミネルバに詰め寄り、その首を掴んで締め上げてきた。
【ミネルバ】
「がっ…あぁ、ぐっ……」
自身が言っていた通り、ミネルバは昨日とは打って変わり、ろくに抵抗する様子も見せない…本当に、そんな力は残っていないようだ。
【霊夢】
「ちょ、ちょっと待って!紫!」
霊夢は慌てて、紫の腕を掴み、ミネルバから彼女を引き離そうとした。
【紫】
「何のつもり、霊夢?」
そんな霊夢の行動を咎めるように、紫は厳しい目つきで彼女を睨みつける。
【紫】
「こいつは、幻想郷を脅かす存在なのよ?排除すべき存在なの、分かる?」
【霊夢】
「それは…でも…」
【紫】
「…貴方は、本当は優しい子…人にも、妖怪にも、敵に対してさえも…貴方は優しすぎるわ。だから、こんな汚れ仕事はしなくていい。こういう役は、私の受け持ちよ。」
紫は、一層腕に力を込め、ミネルバの首を容赦なく握りしめる…。
【ミネルバ】
「かっ……」
もう声も漏らせないほど喉を握り潰され、ミネルバの顔が死体のように青白くなる。
【霊夢】
「ダメっ!止めて、お願い!」
【紫】
「……」
紫としては、藍や橙の事もあり、ミネルバを殺したいのは山々だ。しかし、あまりに霊夢が必死に止めるので、仕方なく彼を解放してやった。それに、霊夢の前でというのも、気が退けた要因の一つだろう。
【ミネルバ】
「がっ、はぁ…はぁ…はぁ……」
【紫】
「…仕方ないわね。じゃあ、少し趣向を変えましょうか?」
【霊夢】
「紫?」
当然だが、紫はまだ許したわけではない。ただ、趣向を変えると言って、ミネルバの前にスキマを開いて見せた。その先にあるのは…何処かの部屋、仏壇があるので仏間か。
ミネルバは朦朧とする意識を覚醒させ、その光景に目を凝らす…
【ミネルバ】
「…ここは…まさか…?」
【紫】
「色々と覗かせてもらったわ。どう?久し振りに見た、自宅の様子は?」
そこは、ミネルバの住んでいた家らしい…。
ミネルバは声も出せずに、スキマの向こうを凝視している…そして、その先にある仏壇に飾られた写真を見て、彼は愕然とする。
【ミネルバ】
「…あの写真は…俺?…それに……」
…あまり面影が残っているとは言えないが、当人が言うには写真の中で無邪気に笑っている少年こそ、幼き日の自分だという。そして、その横には、かわいい女の子も写っていた。ミネルバの服の端を掴んで、恥ずかしげにカメラに視線を向けている。
そんな、仲睦まじいツーショット写真が、写真立てに入れられ飾られていた。
【紫】
「貴方は、もう死んだ事になっているのよ…久遠 嶺矢。」
ミネルバは、これが嘘だと思ったのか、スキマの中に顔を突っ込むくらいに近づいて、もう一度その写真に目を凝らした。しかし、間違いなくそれは、彼の幼少の頃の写真だった。…ちなみに、スキマの向こうの光景は、一切加工されていない、テレビでいう生放送と同じものだ。
と、スキマの向こう、仏壇の前に一人の高校生くらいの女の子が座り込んだ。その少女は、ミネルバの仏壇にごはんと水を供え、線香を上げた。今時の若い娘にしては中々の心がけである。お線香はやはり毎○香であろうか?
音声は聞こえないが、何やら仏壇に向かって話しかけている様子だ。生憎と唇の動きを見ても分からないが…。
【紫】
「この通り、貴方には帰るべき場所なんて無いわ。だって、もう死んでいるんだもの、ねぇ?」
どうやら、紫はミネルバの生きる気力とも言える、帰ろうとする意志を粉々に砕いてやろうと考えたらしい。これで、仮に彼が力を回復させても、楽に始末が出来ると考えたのだろう。
だが、次のミネルバの反応は、紫の予想の境界を遥かに越えていた。
【ミネルバ】
「……った…」
【紫】
「……え?」
思わず紫が戸惑ってしまったほどだ…何故なら、彼女の聞き間違いでなければ、彼女の目がおかしくなったのでなければ、ミネルバは…「良かった」と言いながら、喜びの涙を溢れさせていたからである。
賢者と呼ばれる紫だが、ミネルバの心理が全く理解できないようだった。
【ミネルバ】
「…魅尾…無事だったんだな……良かったぁ……」
…ミネルバが、あれほどまでに外に出ようと、帰ろうとしていた理由は、帰りたいという願望では無かったのかもしれない。何があったのかは、彼自身しか知らない事だが、恐らくスキマの向こうにいた彼女の事が、心配だったのだろう。
【ミネルバ】
「あぁ…あぁっ!あああぁぁぁ……」
血に塗れながれ、冷酷にして残忍な生き方をしてきた彼が、プライドもかなぐり捨て泣き崩れるほどに…。
紫はスキマを閉じ、今度こそと手に持った扇子に妖力を込めてミネルバに止めを刺そうとした。が…何故かそれをせずに、扇子を持った手を下ろしてしまった。視線の先は、霊夢…彼女も、いつの間にか静かに涙していた。それを見て、紫はある確信をする…そして、
【紫】
「霊夢!」
【霊夢】
「ぅえっ!あ、紫…な、何?」
昨日の体たらくといい、先の行動といい…お仕置き確定だと思っていた霊夢は、ビクつきながら紫に向き直る。
【紫】
「そいつの事は、貴方に任せるわ。貴方が責任をもって監視しなさい。いいわね?」
【霊夢】
「え?あ、うん…分かった。」
拍子抜けというか、きょとんとした顔で答える霊夢…だが、次の瞬間、
【紫】
「じゃ、今日から神社に一緒に住みなさい。」
【霊夢】
「うn……ん?」
さて、紫のせいでミネルバと奇妙な同居生活を始める事になってしまった霊夢…まぁ、言っても二、三日の間はミネルバも安静にしてなければいけないハズなので、今日明日くらいはまだ永遠亭に入院だろうと考えていた霊夢…だが、昼過ぎにはミネルバは無事に退院した。
【霊夢】
「ちょっ!アンタ、傷は?具合は?」
【ミネルバ】
「ん?あぁ…もう平気だ。あの永琳って女医すげぇな…体力こそまだ回復してねぇが、脇腹や全身の痛みは完全に無くなったぜ。」
実は紫が、今日中にミネルバを退院させてくれと永琳に頼んだのだ。少し渋っていた永琳だったが、ちょうど出来上がったばかりの新薬を試してみようという事になり…その後、まぁミネルバは何も知らないまま新薬を飲まされ、十分ほど苦痛に呻きながらも、気づけば現在の状況に至るわけである。
【ミネルバ】
「飲まされた時は、死んだと思ったがな。」
【霊夢】
「はは…はぁ~。」
だいたいの事情を察する事が出来たので、霊夢は苦笑いで応えるしかない。
まぁ、そんな事より、霊夢はこれからミネルバを
神社に連れ帰らねばならないわけだが、その辺の事情をまだミネルバに話していなかった。話せていない、という方が正しい。
彼女だって一端の乙女なのだ。一人暮らしの自分の家に男の子を招き入れるなど…おいそれと出来る事ではない。しかし、そうも言ってられない…幻想郷の平和の為、巫女である彼女にはミネルバを監視する義務があるのだ…たぶん…。
【霊夢】
「あ、あのさ…アンタ、退院したはいいけど、行く当てないのよね?」
【ミネルバ】
「まぁな。けど、別に問題ねぇよ。屋根が無きゃ寝れませんなんて繊細な神経してねぇからよ。」
事実、柔らかい布団、温かい毛布に包まって寝ていたのは、彼にとって子供の頃の話。彼の半生の大半は、氷雨降り、寒風吹き荒ぼうと、ボロボロの服で堪えるしかなかったのだ。そんな細い神経してたら、三日ともたず死んでいただろう…。
【霊夢】
「そう…よ、良かったら、家に来なさいよ。部屋も余ってるしさ。」
【ミネルバ】
「申し出はありがたいが、遠慮しておく。これ以上、借りを作りたくないしな。」
霊夢は我が目を疑った…あれほど殺意と悪意に満ちていたミネルバが、笑みを浮かべていた。嘲るような邪悪な笑みではない…くすぐったそうな、人間味のある笑顔だ。
【霊夢】
『コイツ…こんな顔して笑う事もあるんだ……』
【ミネルバ】
「色々と悪かったな。じゃ、俺はもう行くぜ…」
霊夢が見惚れている間に、ミネルバはさっさと竹林の中へ分け入ろうとしていた。
【霊夢】
「はっ!ちょ、ちょっと待ちなさいよ!この竹林は迷いの竹林って言って、初めて来たアンタじゃ間違いなく道に迷うわよ!」
【ミネルバ】
「そうなのか?」
その通りである。一見さんは、間違いなく道に迷うと断言しておく。まぁ、慣れれば問題なく往来できるのだが…慣れるより前に、遭難して行き倒れになる確率の方が高い。
【霊夢】
「…アンタ、やっぱり家に来なさい。ここの常識とかルールとか教えてあげるから。マズイ事しないか、監視もしなきゃいけないしね。」
ミネルバの今までの生き方は、十中八九非道徳的かつ非人道的なものだったはずだ。そんな人間をそのままほっぽり出すわけにはいかない。しかも、そこらの妖怪たちより遥かに強い力を持っているこの男を…
【ミネルバ】
「…なるほど…そういう事なら、しゃーないな。なら、よろしく頼む。」
【霊夢】
「え、えぇ。」
差し出された手を握る霊夢…ぐっと力強く、ミネルバの手が握り返してくるのと同時に、霊夢は自分の頬がやけに熱くなるのを自覚した…。
道を憶えている…というより、ほぼカンで突き進んだだけだが…霊夢のおかげで、ミネルバは迷うことなく林を抜け、博麗神社への道を歩いている。
道中、遠くに見える人里は、周囲をぐるっと木の塀で囲まれているのが見て取れ、ミネルバにはそれが、いつか戦地で見た拠点か本陣に見えた。
【ミネルバ】
「…平和そうに見えるが…備えはしてあるんだな。」
【霊夢】
「あぁ、アレね。妖怪相手に意味ないんだけど、気休めみたいなものよ。幻想郷の中にも、危険な妖怪はいるし…アンタも、昨夜会ったでしょ?」
【ミネルバ】
「…あぁ…ヤツは、何なんだ?」
正直、ミネルバでさえ、ルーミアほどの相手となると、片手で数えられる程度しか会った事がない。
【霊夢】
「死んだ母の、古い友人…同時に、両親の仇でもあるわ。この幻想郷において、新月の夜のルーミアは…紛れもなく最強よ。」
【ミネルバ】
「そんなヤツが仇とはな…どうすんだよ?今のお前じゃ、それこそ逆立ちしても勝てねぇじゃねぇか。」
事実、ミネルバと霊夢の力はほぼ互角…しかしルーミアは、明らかにケタが違っていた。
【霊夢】
「別に、仇を討つつもりはないわ。そういう最期ではなかったし…少なくとも、母は満足そうだった。だから、ルーミアを恨んでるってわけじゃないの。ただ、新月の夜はほっとくと危ないから、弾幕ごっこで勝負してるだけ。ま、それが精一杯なんだけどね…」
とはいえ、毎月毎月、あのルーミアの発散相手をしている彼女の苦労を知る者は少ない。実際、里の人間たちは、ほとんど霊夢の活躍を目の当たりにした事はないのだ。
彼らがそれを知るのは、内容の信憑性が疑わしい文々。新聞の記事を見てである。故に、彼女は里の人たちから尊敬と畏怖の念は向けられても、感謝や労いといった感情はあまり向けられていない。彼女の活躍を、人々は何処か遠くの世界の出来事のように感じてしまっているのだ。神社の賽銭箱の状況を見ても分かるだろう?
【霊夢】
「今、誰か私の大事なお賽銭箱にケチつけなかった?」
【ミネルバ】
「は?」
巫女のカン、恐るべし…。しかし、ミネルバにしてみれば、それはただの電波な妄言に過ぎなかった。
さて、飛ばずに来たのでだいぶ時間がかかったが、二人は無事に神社へと帰ってきた。
境内は…相変わらず閑散としている。落ち葉以外に何も落ちていない…紙くずの一つでも落ちていれば、霊夢のテンションは面白いほどに上がるのだが…そして、賽銭箱を覗いて、次の瞬間には大抵しょんぼりするのが常だ…。
【霊夢】
「ふぅ~。久しぶりにこんだけ歩くと疲れるわ~。」
【ミネルバ】
「歳幾つだよ、お前…」
【霊夢】
「悪かったわね。普段は飛んで移動するから、あんまり歩かないのよ。」
彼女の能力は、主に空を飛ぶ程度の能力…歩行より飛行の方が、彼女にとってはエコロジーらしい。それで何故太らないのか不思議でならないが…。
【霊夢】
「縁側で少し待ってて。今、客間に布団しいてくるから。」
ミネルバにそう言って、霊夢は先に母屋の方へ駆けて行った。
そんな彼女を無言で見送って、ミネルバは一人ふぅーと溜め息を吐いた。
【ミネルバ】
「…ついて来たはいいが、俺はここで何をすればいいんだ?」
人道に外れた生き方をしてきた彼だが、働かざる者食うべからずという考えだけは持っていた。他人から無償の施しを受ける事を快しとはせず、奪うか報奨を得るかの二択で生きてきたのだ。
妹の元気な姿を確認する事が出来たミネルバは、もう殺戮や略奪を行ってまで日々の糧を得たいという、何としても生き延びたいという気は無くなっていた。張り詰めていた糸が、プツンと切れてしまったような感じだ。よく言えば肩の荷が下りたとか、言いようは幾らでもあるのだろうが、何だか生きる気力すら何処かにいってしまった気分である。
つまり、今のミネルバは…良くも悪くも、すっかり空っぽになっていた。
【霊夢】
「はぁ~…どうしよう。紫のせいで、とんだ事になっちゃったわ。」
ただでさえ、あまり男性に免疫のない霊夢…それが、昨日知り合ったばかりの男といきなり同居だなんて…言い出した紫を恨みつつ、霊夢は客間へと向かった。
普段は、主に魔理沙とか魔理沙とか魔理沙とかをたまに泊めているだけの部屋だ。無論、小まめに掃除もしてあるので、慌てる必要はない。
【霊夢】
「監視、か…今のアイツには、そんな必要性ほとんど感じないんだけど…っていうか、監視なら自分がすればいいじゃない、紫ったら!スキマで24時間覗き放題のくせに…」
今さらその事実に気づいた霊夢だが、かと言って今さら彼を放り出すわけにもいかない。というか、そんな気になれない…。
【霊夢】
「はぁ~…何なのよ、もう……」
客間の障子を開けて、中に入った霊夢…は、目の前の光景に言葉を失い硬直してしまった。
【紫】
「あら?」
そこには、スキマから上半身だけ出した紫が浮いていた。いや、それは彼女にとって見慣れた光景である。それ自体は問題ではない…問題は、その下に敷かれた大きな布団一式に、彼女が今まさに配置しようとしている二つ目の枕だ。
【紫】
「おかえりなさい。早かったわね。」
【霊夢】
「…な、な、何してんのよーっ!」
霊夢の怒声が境内に響き渡った。そのあまりの大音量に、木に止まっていた鳥たちが、驚いて一斉に逃げ出してしまったほどだ…。
その頃、ミネルバは…
【ミネルバ】
「…何を一人で騒いでんだ?」
境内の、掃除をしていた。
【霊夢】
「何のつもりよ、紫っ!」
【紫】
「いや、だってほら…霊夢も、そろそろ…ねぇ?」
【霊夢】
「っ!ほ、ほっといて!つーか、何を考えてんのよ!アイツは監視するのが目的でしょう?」
もの凄い剣幕の霊夢に霊夢に詰め寄られながらも、紫は口元を扇子で隠しながらニヤついている。
【紫】
「それもそうだけど…ねぇ?」
【霊夢】
「ねぇ?じゃないわよ!誰に何の同意を求めてるのよ!」
何のって、そりゃあ…ねぇ?
【紫】
「だって霊夢に、あの男に…」
ニヤつきながら、紫は宙にある平仮名を一文字書いた。霊夢からは鏡文字で分からなかったが、ヒントを出すならハ行の一文字だ。
霊夢も遅ればせながら紫の書いている文字が分かったようで、顔を真っ赤にして怒鳴った。
【霊夢】
「べ、別に!そんなんじゃないわよ!」
【紫】
「あら、別に何も言ってないけど?」
完全にハメられ、墓穴を掘らされてしまった霊夢…本当に、このスキマ妖怪はイイ性格をしていると、改めて思い知らされる霊夢。
たまに本気で夢想封印ブチかましてやりたいと思うのだが、まだ幾分か力不足を否めないのが現状だった。
【霊夢】
「~~っ!」
ポカッ ポカッ
【紫】
「あいた。」
せめてもの腹いせに、御幣で紫の頭をポカポカ叩く霊夢…。
【紫】
「んもぅ、怒りん坊さんね。誰に似たのかしら?」
【霊夢】
「アンタのせいなのは確かよ。とにかく、さっさとこの布団片付けてくれない?」
霊夢に言われ、紫は渋々ながら布団をスキマの中に引っ張り込んだ。その作業の側ら、紫はふと霊夢に訊ねた。
【紫】
「あの男、どうして無縁塚じゃなくて、ここに落ちてきたのかしらね?」
【霊夢】
「さぁ?アンタに分からない事、私に分かる訳ないでしょ?」
【紫】
「そうね。でも、紅魔館の吸血鬼のお嬢さんじゃないけど…そういう運命だったんだとしたら…」
【霊夢】
「何が言いたいのよ?」
【紫】
「…さぁ?」
霊夢の問いには答えず、紫は布団をしまい終わるとそそくさと帰ってしまった。
【紫】
「…ただ少し、ロマンチックだなって、乙女としては思っただけよ。」
そんな言葉を残して…。
【霊夢】
「ば、バカじゃないの!まったく…何だって言うのよ…」
胸の奥が落ち着きなくざわついているのを自覚しながらも、霊夢はその正体から目を逸らし続けるのだった。
霊夢side
まったくもう…昨日から調子狂いっぱなしよ!それもこれも全部、アイツのせいだわ!本当に、何で私がこんな気持ちにならなきゃいけないのよ…。
口を開けばぽんぽん出てきそうな愚痴を思いながらも、私はミネルバの布団を敷いた。
【霊夢】
「これで、よし。」
気づけば、無意味にシーツのシワを伸ばしていた…本当に、何をしてるんだろう、私は…。
布団を敷き終え、ミネルバを呼びに縁側へ向かった私だったけど…ミネルバはそこにいなかった。
【霊夢】
「ミネルバ?」
ミネルバがいない…そう思った瞬間、胸の奥から込み上げてきた不安。
紫から、監視するように言われていたのに、あろう事かもう逃げられた?そんな事になったら、後で紫からどんなお仕置きをされるか…という不安であって、別に深い意味はない。
【霊夢】
「いや、そんな事より本当にミネルバのヤツ何処に行ったわけ?」
私は慌てて玄関から表に出た。
【霊夢】
「ミネルバ!」
【ミネルバ】
「んぁ?」
【霊夢】
「え?あ、あれ?」
出てすぐにミネルバは見つかった…というか、
【霊夢】
「な、何してんの?」
ミネルバの手には、しまっておいたはずの竹ぼうき、それに傍らには集められた落ち葉の山があった。そこから導き出される答えは、一つ…
【ミネルバ】
「見りゃ分かるだろ?掃除だ。」
【霊夢】
「あぁ、うん。ありがと…」
我ながら、アホな質問をしてしまった。
ただ、おかげで分かった事が一つある…コイツは、もう…
【ミネルバ】
「他に、何かあるか?タダで置いとかれる気はねぇぞ、こっちは。」
たぶん、害は無い。
殺気立った昨日の様子とは打って変わり、さも当然のように雑用を買って出てくれるミネルバを見て、認識を改めると同時に…
【霊夢】
「ぷっ、あははは…」
【ミネルバ】
「あぁ?何だよ?」
笑いが込み上げてきた。
【霊夢】
「だって、ふふ…アンタ、昨日とまるで別人なんだもん…あはは!」
人間、こんなに変わるもんかしら?第一印象とのギャップがあまりに滑稽で、私はしばらく笑いを堪える事が出来なかった。
~おまけ1・キャラ設定~
アリス・マーガトロイド~七色の人形遣い~
年齢:??
身長:163㎝
能力:人形を操る程度の能力
幻想郷の魔法使いと言えば、人々の半分が彼女の名をあげるだろう。(残り半分は魔理沙)
ドールマスターで、人形を自在に操る魔法を得意とする。長年の研究を経て、ついに自我を持ち、人語を解する独立機動型人形・上海を完成させた。
凄腕の魔法使いだが、魔理沙にご執心で、頭の中は魔理沙に対するエロ妄想が迸っている。どスケベマスターと揶揄・罵倒される事も…。
十六夜 咲夜~吸血鬼の瀟洒なメイド~
年齢:20歳
身長:167㎝
能力:時間を操る程度の能力
紅魔館のメイド長をしている、館で唯一の生粋の人間。
仕事は早く、しかも丁寧、立ち居振る舞いから言動に至るまで全てが完璧。
だが、噂ではその抜群のスタイルに重大な偽装があるとか…かなり危険なレベルのロリコンだとか…里の男性たちの間で、まことしやかに囁かれている。
~おまけ2・東方異聞録小劇場~
【ミネルバ】
「あぁ…あぁっ!あああぁぁぁ……」
妹の無事を知り、泣き崩れるほど喜ぶミネルバ…そんな彼の姿を、襖の隙間から覗いている者がいた。
【藍】
「くっ!分かる!分かるぞ!その気持ち…私とて、橙の為とあらば修羅にも、羅刹にもなろう。」
何か、猛烈に感動しているようだ…。
【藍】
「スッパテンコーっ!」
【紫】
「え、ちょっと、藍!」
【ミネルバ】
「…な、何だ?…っ!?へ、変態がマッパで飛び出してきた!?」
【藍】
「話は聞かせてもらったぞ、同志よ!」
【ミネルバ】
「お前とだけは同志になりたくない!」
【藍】
「昨日の事は水に流し、妹の愛らしさについて、共に熱く語らおうではないか!」
【ミネルバ】
「その前に服着ろや、この変態女狐がぁっ!」
藍のスッパテンコーは、最初に誰が考えたんでしょう?
個人的にこのネタは、技名(?)の響きが気に入ってます。
(勝手に)使用する上で気をつけた点は、如何にエロくなく、飽くまでギャグとして使えるか…ですかね。
次回からは日常話をだらだら数話やって、それから新章に入ります。お楽しみに♪




