第二十一話 宵闇の宴、再び
霊夢side
異変を無事に解決し、回復したミネルバと共に神社へと向かっていた。いや、共にというと語弊がある。私は、なるたけ早足で、彼からかなり距離をとって先を歩いているからだ。
それについて、彼は何も文句を言わなかった。言うだけの体力はまだ回復していないという事だろうか。それとも…彼も少なからず意識しているからなのか…とにかく、今の私にはこの距離感がベストだ。
終始無言で歩き続け、小一時間で神社へと帰ってきた。
自室に戻り、予備のサラシを巻き直して、アリスの応急処置で縫い合わされた巫女服も着替え、ふぅーと深呼吸……
【霊夢】
「平常心…平常心……」
嫌な記憶にはフタをする。人間の脳はその辺が都合よく出来ている…と、前に紫が言っていた。
【霊夢】
「よし!」
言ってから、何が?と思わず自分でツッコミそうになった…でも、いつまでもウダウダしていられない。私は台所に向かった。晩御飯の支度をしなきゃ…本来なら、もう白米を炊き出さないといけない時刻だ。まして、今日はお昼も食べていない。
私でさえ空腹が耐え難いくらいなんだから、ミネルバなどめまいを起こしているかもしれない。ひょっとしたら、彼の場合それで口数が少なかったのかもしれない。
急ぎ、お米を研ごうと米びつを開けて、私は頭を抱えた。
【霊夢】
「あちゃー…どうしよう…」
今日はそもそも買出しに行こうとしていたんだ…少なくなったお米を見て、その事実を思い出した。辛うじてお米はあるが、他の食材は壊滅的だ。
先日少なからず入ったミネルバのお給金で、当面の食材を買い込めるはずだったのに、異変のせいで買い損ねてしまった。
【霊夢】
「やばい、どうしよう…」
ごはんに味噌や醤油をかけて食べる?戸棚の煎餅、それくらいしかここには食材がない。私一人ならそれでもいい。ミネルバも、それを許容してくれるだろうか?好き嫌いを含め、食事に関して文句など口にしたことがない彼の事だ…何も言わず食べてくれる気はする。
しかし、いくらなんでもそれはダメな気がする…主に私の女としてプライドというか、面子というか、そんなモノが修復しようもない状態になる気がする。
【霊夢】
「かくなる上は…誰かに泣きつくか?」
食材を分けてくれそうな面々を考える。まず真っ先に思いつくのが、紫だ。小言は言われるだろうが、それでも外から仕入れた食材を分けてくれるはずだ。しかし、既に紫には幻想郷の中で手に入りづらいものを定期的に分けてもらっている。海がない幻想郷で、味噌汁の出汁に使う昆布やかつおぶしは希少だ。それらを分けてもらっている手前、これ以上の借りを作るのは気がひける…まして、いくら母の親友だったとはいえ相手は妖怪だ。それに、お小言を聞き流すのも億劫である。
守矢神社は?妖怪の山は、今まさに秋の実り全盛期…守矢神社にも、多くの食材が奉納されているに違いない。早苗なら、頼めば分けてくれなくもないはずだ。しかし、仮にも相手は商売敵…しかも、神奈子などウチを守矢神社の分社にしようとしているし、紫以上に借りを作りたくない相手である。
でも、背に腹は代えられない…本来なら関わらなくてもいい異変解決の為に、あれだけ大ケガをしてまで戦ってくれた彼に、何の労いもしないわけにいかない。義理人情に厚い彼に対してなら尚更だ。
私は、意を決して紫を呼ぼうとした…が、その前に…日が沈み、神社の中にまでただならぬ妖気が迸ってきた。
【ミネルバ】
「霊夢っ!」
慌てた様子で、ミネルバが廊下を駆けてきた。
【ミネルバ】
「やべぇぞ!」
そうだった…完全に忘れていた…今日は、ミネルバと会ってからちょうど一ヵ月…彼が来たのは、ちょうど新月の日だった…それはつまり、今夜も……
ルーミアside
日が沈み、力が漲ってきた。いつもは、力が倍になる程度だけど…新月の夜はそれのさらに十倍だ。昂揚感を抑えるのも難しい…。
【ルーミア】
「…さぁ、霊夢。今夜も、始めましょうか?」
かつての姿で、かつての力を解放する…幻想郷を覆う夜の闇が、光より速く私の妖気を広めていくのが分かる。里も山も彼岸も冥界も問わず、幻想郷の全てに轟く闇の恐怖…私の存在…霊夢、早く私を超えなさい。越えて見せなさい…それが、博麗の巫女としての、貴方の役目なのだから。
霊夢side
【霊夢】
「ルーミア…」
忘れてた…というより、浮かれていた…そんな場合じゃなかったのに…
【ミネルバ】
「何ボーッとしてんだ、霊夢!」
【霊夢】
「だって…」
ダメージは無いにしても、巫女の直感を酷使したせいで、頭の奥に疲労感が溜まっている。霊力を引き出すには、相応の集中力がないとダメなのに…たぶん今の私には、夢想封印一発分の霊力も引き出せない。
当然、ルーミアの弾幕を避けきるのも困難だ…先月は見逃してくれたみたいだけど、今回も穏便に済ませてもらえるとは思えない。
【ミネルバ】
「弱気になってんじゃねぇ!お前は博麗の巫女だろう!幻想郷守るのが、お前の使命なんだろうが!」
【霊夢】
「っ……」
【ミネルバ】
「それに、一人で戦えってんじゃねぇんだ。お前がヤバくなったら、俺が守ってやる。
【霊夢】
「え?」
それって…どういう…
【ミネルバ】
「行くぞ!」
【霊夢】
「え?あ、ちょ、待って!ミネルバ!」
真意を問う前に、彼は先に行ってしまった。
私は、心の中がスッキリしないまま、その後を追うしかなかった。
神社の敷地から出ると、ルーミアの妖気と殺気が肌を刺してくるような感じがした。やっぱり、先月あんな戦いしか出来なかったから、不満が溜まっているんだ。いわゆる、不完全燃焼ってやつね。
【ミネルバ】
「チッ!ここまで妖気が広がってると、ヤツが何処にいるのか逆に分かりづらいな。」
先を行くミネルバの言うとおり、ルーミアの気配は幻想郷中に広まっていて、まるですぐ真後ろに居るような、もっと言えば…彼女の体内にいるような…そんな気さえしてくる。
【霊夢】
「人里は大丈夫かしら?一応、慧音が結界を張ってくれているだろうけど…」
正確には、慧音の能力で人里を消しているだけで、ルーミアに何処まで通用するかは疑問だ。
【ミネルバ】
「そっちは塾長に任せとけ。人里の守備に回すだけの余力が無いのは、向こうも分かってくれてるはずだ。」
ルーミアとの戦いに専念しろという事ね…少ない戦力は分散しない、戦い慣れしている彼らしい判断だ。
【ミネルバ】
「…見えたぞ!人里から北東の方角だ。」
ミネルバの言葉に、背筋に緊張が走る…確かに、ミネルバの指す方角に、ルーミアが佇んでいる。消えている人里の方角を、じっと見つめている。
【ミネルバ】
「こっちに気づいてないはずが無いんだがな…霊夢!ヤツの後ろから回り込め!俺はこのまま正面から行く!」
そう言うと、ミネルバはスピードを上げてルーミアの方へ飛んで行った。私は、無駄だとは思いつつも、ミネルバの指示どおり大きく迂回してルーミアの背後へ回り込んだ。
ミネルバside
作戦と呼ぶには、あまりにお粗末だな。背後からの不意打ち?戦略としてはあまりに稚拙だ。だが、ここまで力の差がある相手には、どれほど策を弄しても意味が無い事は、俺自身よく分かっていた。
だったらいっそ、バレバレな小細工を弄してやる。
【ミネルバ】
「よう、ルーミア…」
正面に回り、俺は軽い口調で声をかけた…正直、足が震えてる。目の前にいる、本来の力と姿を取り戻しているルーミア…一月前の戦闘、いやありゃ一方的な蹂躙だな…その記憶が脳裏にまざまざと蘇り、全身が拒絶反応を起こしているようだ。
【ルーミア】
「また、貴方なの?先月より体の方はマシみたいだけど、体力の消耗具合は同じ程度じゃない。」
落ち着け…霊夢が回り込んでる事には気づいているはずだ。気づいているからこそ、こいつも下手に動かないだろう。
【ミネルバ】
「そうでもねぇさ。永琳の薬で、すっかり回復してるぜ。」
嘘だ。傷が癒えても、消耗した力は戻っちゃいない。第二段階で飛んでいるのもやっとって感じだ。霊夢も、おそらく一発が限界だ。
僅かな、たった一度の攻撃のチャンス…挟み込んで膠着状態に持ち込み、相手が痺れを切らした瞬間…そこしかない。
【ルーミア】
「そう。なら、そういう事にしておいてあげる。まぁ、何となく考えてる事は分かるしね。」
この作戦がバレてるのも分かっている…それも作戦の内だ。気付いちまってるからこそ、こいつは意識を前後に向け続けざるを得ない。
霊夢が後方に回り込んだ…後は、じわじわと距離を詰めながら、こいつが痺れを切らすのを…
【ルーミア】
「…フッ。」
なっ!?
突然、ルーミアが俺に背を向けた…この距離で?あり得ないだろ?
【霊夢】
「っ!」
【ルーミア】
「まさか、気付かれてないだなんて、思ってなかっただろうね?」
想定外だ!こっちは一足で踏み込める距離だっていうのに、まだ距離のある霊夢の方に向き直るなんて…こんなフザけたマネするヤツ、見たことがねぇぞ!
【ミネルバ】
「クソがっ!」
睨みを利かされてちゃ、もう霊夢は動きを取れない…俺がやるしかねぇ!
【ルーミア】
「戦い慣れしてても、やっぱ若いねぇ?」
【ミネルバ】
「っ!?」
しまっ…
ドゴッ
【ミネルバ】
「がはっ!」
背中から伸びてきた闇色の腕が、俺の腹に拳を叩き込んでいた。衝撃が全身に伝わり、頭が事態を認識して数瞬の後…痛みとダメージが俺を襲った。
喉の奥から、鉄の味が迫ってきた…。
【ミネルバ】
「ぐっ…」
…不覚…まさか、こんな誘いに掛かるなんてな……笑えねぇぞ、クソが!
【霊夢】
「ミネルバぁっ!」
【ミネルバ】
「バカ!俺に構うn…」
【ルーミア】
「隙だらけね。」
ルーミアが高度を上げ、俺たちの真上から弾幕を放つ。
【ルーミア】
「ナイトバード。」
くっ!迫りくる弾幕は圧倒的な密度と速度で、ダメージを負った俺にも、俺を抱えたままの霊夢にも、避けきれるものじゃなかった。無論、俺に構わなければ霊夢は逃げ切れるんだろうが…このバカ……
【ミネルバ】
「ギス・ウォール!」
俺は、霊夢の手を掴んで引き寄せてから、左手だけでウォールを発動した。今の俺に、こいつの弾幕を防ぎきる自信はねぇが…頼む、持ってくれ!
弾幕が被弾し始めると、予想を裏切らない衝撃が壁越しに伝わってきた。まして、今は左腕だけで張ったウォールだ…衝撃は容赦なく一本の腕に叩き込まれてくる…腕の骨が軋む音がした。
【ミネルバ】
「ぐっ、くっ!が、ぁ…」
奥歯を噛みしめて堪えるが、口の端から漏れる呻きはどうしようもなかった。情けない話だが、それほどに力の差があるという事だ…悔しいが……。
そのまま、俺たちは地面まで叩き落とされた。二人分の体重で地面に叩き付けられた俺の背中は、肺の中の空気を根こそぎ吐き出させて衝撃を緩和しようとした。無論、緩和し切れはしないが…。
【霊夢】
「ミネルバ!ミネルバ!」
霊夢の呼びかけに、返事をする事も出来ない…その為の空気を、上手く取り込めてねぇみたいだ……落ち着け…………。
………しばらく待つと、呼吸の感覚が戻った…。ダメージで一時的に息が出来なくなった時、一番マズイのは痛みと苦しみでのたうち回る事と、パニックを起こすことだ。動いたり、脳を働かせるには酸素が要るからな。気絶したように、動かず何も考えないようにする…大概はこの方法で、どうにかなってきた。
【ミネルバ】
「…ふぅー……とはいえ、さすがに酸欠だ…」
【霊夢】
「ミネルバ!良かった…息してないから、どうしようって…」
何を半ベソかいてんだ…ったく。
くそ、まだ頭がふら付く…ルーミアは、今ので仕留めたと思ってくれてるのか?
上を見上げると、ルーミアのヤツは余裕の表情で佇んでいた。どうやら、こっちの動きを待ってるらしい。
【ミネルバ】
「霊夢…さっきのギス・ウォールで俺はほぼ限界だ…お前は、夢想封印あと何発いける?」
【霊夢】
「えっと…たぶん、一発…ギリギリ二発…」
【ミネルバ】
「そうか…なら、耳貸せ。」
俺は、今の状況で実行可能な唯一の作戦を霊夢に耳打ちした。
ルーミアside
昼間の異変で、二人とも消耗しきっているのはバレバレだった。それでも臆さず来たのは、霊夢の責任感が強かったからか、それともミネルバの鼓舞があってのものなのか。
どちらにせよ、二人まとめてかかってくるなら都合がいい。霊夢の成長を見るのが本来の私の目的だ。しかし今は、ミネルバの力も測るという新たな目的も追加された。というか、私が勝手に決めた。何せ、この男は将来、霊夢の夫になるかもしれない人物なんだから。まぁ、当人は否定しているが、今のところその最有力候補なんだからね。
ミネルバと霊夢は、地面に落ちてからじっとしているようだ。何か作戦を立てているのかもしれない。だとしたら、少し楽しみだ。次はどんな手を使ってくるのか…。
【霊夢】
「夢想封印!」
と思っていたら、霊夢は突然この距離で夢想封印を放ってきた。
もう打つ手がないから自棄を起こしたのかしら?だとしたら、非常に残念だわ。
私は、ギリギリまで引き付けてから、赤、青、緑に光る無数の霊力の塊をやり過ごした。今夜は、これで終わりか…そう思っていたら、突然目の前に氷の槍が迫ってきた!
【ルーミア】
「危なっ!」
夢想封印に気を取られて気付かなかったわ。というか彼、まだこんな余力があったのね。
【ルーミア】
「え?」
槍の出元を見下ろした私は、その横にいたはずの霊夢の姿がない事に気づいた。さっきの夢想封印は、間違いなくあそこから放っていたのに…この一瞬でどこへ?
【霊夢】
「もう一発!夢想封印!」
後ろ!?
背後からの声に振り向くと、氷の槍の先端の方が砕かれて、霊夢が反対側から姿を現したところだった。そして、恐らくこれが本当に最後の攻撃であろう夢想封印を放ってきた。
…そうか…一発目の夢想封印は目くらましで、氷の槍は霊夢を私の背後に送り込む為の移動手段…突き伸ばされる氷の槍に御幣を突き刺して、それに掴まってここまで上って来たのだ。ミネルバの氷は黒く、反対側にいる霊夢の姿はこっちからは見えないしね。
【ルーミア】
「中々やるじゃない、貴方たち。」
霊夢side
背後からの急襲は成功し、私の渾身の夢想封印がルーミアを捕らえた。
【霊夢】
「や、やった!」
夢想封印の全弾ヒットは、彼女との過去の戦いの中でも初めての事だ。今まで、二、三発ヒットする事はあっても、ほとんど片手であしらわれていたものが、初めて完璧にキマった。こんなに嬉しいのは、博麗の巫女になって初めてだ。
【ミネルバ】
「よくやった、霊夢。」
それもこれも、全部彼のおかげだ。彼が協力してくれなかったら、彼の作戦がなかったら…彼が、居てくれなかったら……。
あぁ、私は…こんなにも、彼を必要としているんだ…改めて、そう自覚した。
だけど、彼は…彼はどうなんだろう?私を、必要としてくれてるのかな?足手まといに、なってないかな?なってないと、いいな…。
【ルーミア】
「…ふぅー……なかなかの作戦と、コンビネーションだったよ。二人とも。」
【霊夢】
「なっ!?」
嘘…何で?
夢想封印は、確かに命中したはずなのに…どうして?ルーミア、まるでダメージを負ってないじゃない…。
【ルーミア】
「効いてないわけじゃないけど…私を倒すにはまだまだ火力不足だね、霊夢。」
【霊夢】
「くっ!」
どうしよう?どうしよう?
もう、霊力はほとんど残ってない…ミネルバも、もう動けない…ルーミアの反撃を、防ぐ手立てすらない…。
【ルーミア】
「その様子だと、今夜も私の勝ちでいいみたいね?それじゃあ、戦利品として…彼の左腕、いただいていくわね?」
【霊夢】
「や、やめて!」
ルーミアの体から飛び出した闇色の腕が、ミネルバに迫る…結界を…ダメ、間に合わない!
【ミネルバ】
「ぐっ!」
【霊夢】
「ミネルバぁっ!」
いやっ!お願い…誰か……助けてっ!
ガキィィン
【ルーミア】
「っ!?」
【霊夢】
「え?」
ルーミアの闇の触腕が、ミネルバの体に掴みかかろうとしていたところに、突如として立ちはだかった氷の壁…一瞬、ミネルバのギス・ウォールかと思ったけど、澄んだ水色の氷は、彼が使う黒い氷とは明らかに違った。
【ルーミア】
「…誰よ、あんた?」
ルーミアの視線の先に、見慣れない女性がいた。
青のワンピースに、水色の長い髪、青いリボン、背中には氷で出来た六枚の羽…その特徴は、私も、ルーミアもよく知る彼女に似ている。でも、そこにいるのは彼女とはまるで別人だ。幼い彼女とは似ても似つかない、私も思わず見とれてしまうほど綺麗な女性だ。彼女であるはずが…
【??】
「誰って…随分と冷たいわね?昼間はよく一緒に遊ぶ仲なのにさ。」
【ルーミア】
「……質問を変えるわ。どうしたの、チルノ?」
【チルノ】
「私にも分からないのよね。昼間の異変の時、ずっと家にいたんだけど…何だか急に意識が無くなって、気付いたらこの姿だったのよ。」
本当に、チルノなの?外見年齢だけじゃなくて、何だか口調まで変わってるし…そうだ!
【霊夢】
「藤堂さん!藤堂さん、いるんでしょう?」
彼に聞くのが早いと思い、近くに藤堂さんがいないか声をかけてみた。しかし…
【チルノ】
「パパならここにはいないよ。もうしばらくは、動けないと思う…帰って来た時、部屋に充満してた私の冷気を浴びて凍っちゃったから。
【ルーミア】
「何よ、反抗期?」
【チルノ】
「そんなんじゃないよ。パパの事は大好きだよ…だけど、力が溢れて止まらないの。家に一緒にいたら、パパずっと凍ったままになっちゃうから、置いてきたの。」
っ!
背筋がゾッとした…パパ大好きといういつもの彼女の言葉に、感情の響きが感じられないからか…冷たい物言いのせいなのか…とにかく、彼女はいつものチルノじゃない。チルノとは別の、全く知らない氷の精だった。
【チルノ】
「悪いんだけど…ちょっと付き合ってくれる?」
【ルーミア】
「いいわよ。こっちの用事は済んだし…ただし、簡単に殺されたりしないでよね?」
ルーミアが、凶暴な笑みを浮かべてチルノに突っ込んでいく。マズい!
【霊夢】
「チルノ!危なっ…」
【チルノ】
「近づいたらダメだよ、ルーミア?」
カキィンッ
【ルーミア】
「なっ!?」
ルーミアの突き出した腕が、チルノの数センチ手前で凍結した。一瞬の出来事だった。
【チルノ】
「…だから、パパ置いてきたって言ったじゃない?今の私、液体窒素レベルの冷気を放ってるみたいだから…近づいたら凍るよ?」
…な、何が原因か分からないけど…これは……暴走だ。チルノは、普段とは比べ物にならない力を持て余しているんだ。だから、言葉の端々に冷たい印象があるんだ。彼女は氷精だから。
【ルーミア】
「だったら、近づかなきゃいいんでしょ?」
腕が凍ったままのルーミアは、チルノから離れて弾幕を放った。無数の弾幕が逃げ場も間断もなくチルノに迫る…今度こそ危ないっ!
【チルノ】
「パーフェクトフリーズ。」
【ルーミア】
「っ!?」
かと思ったら、今度はルーミアの弾幕が一瞬で凍結した。パーフェクトフリーズは、元々はチルノ自身の弾幕をチルノ自身が凍らせて動きに緩急をつけるスペルカードだ。今まで、それを防御策に使ったところを、私は見たことがない。
やっぱり、このチルノいつもと違う…
【チルノ】
「アイシクルマシンガン。」
【ルーミア】
「フン。周囲の冷気はいつもより強力みたいだけど、攻撃技は相変わらずね。でっかい氷柱飛ばしてきたくらいで…」
しかし、チルノの手元に現れたのは氷柱じゃなくて……氷で出来た、二挺のサブマシンガンだった。
【ルーミア】
「全然違うっ!?」
引き金を引くと、本当にマシンガンみたいな連射速度で、氷の弾丸が撃ち出された。ルーミアは慌てて射程範囲内から逃げ出す。
【ルーミア】
「ちょっ!チルノ!マジで、シャレにならないから、それっ!何なの!?何があったらそんなデタラメなパワーアップするのよ!」
普段とあまりに違い過ぎるチルノの様子に、調子を狂わされているとはいえ…あのルーミアが押されてる?暴走してるだけなんだろうけど、このチルノ…強い!
【チルノ】
「はぁ…はぁ……力が、溢れるっ!」
【霊夢】
「なっ!」
【ルーミア】
「っ!」
チルノの体から、冷気が爆発したかのように放出された。冷気は一瞬で私の元に届き、私の体は凍りついたかと思った。
【ルーミア】
「くっ!大丈夫、霊夢?」
寸前のところで、ルーミアが庇ってくれてなかったら…本当に凍っていただろう。
【霊夢】
「ルーミア?どうして…」
【ルーミア】
「話は後よ…下がってなさい。力使い切ってて、結界もまともに張れないでしょ?」
【霊夢】
「どうする気?」
ルーミアは私に背を向け、暴走しているチルノと正面から向き合っている。彼女がどんな表情で、昼間の友人と対峙しているのか、私からは見えなかった。でも…
【ルーミア】
「止めてあげるわよ。暴走して、大切な人を傷つけ、誰かの大切なものを奪ってしまう…その辛さは、よく分かってるもの。」
決意だけは、背中からでも感じられた。
【ルーミア】
「来なさい、チルノ。お望みどおり、本気で相手してあげる。」
【チルノ】
「はあああああっ!」
~おまけ1・キャラ設定~
【藤堂】
「今回は新登場のキャラもいないし、お休みさせていただきます。え?チルノの紹介がまだ?ウチの娘を紹介しろとか、何処のイカレポンチ野郎だ!許さんz」
【チルノ】
「パーフェクトフリーズ。」
カキィィンッ
【チルノ】
「というわけで、今回は満を持して私の回よ。」
チルノ・Ⅰ・トウドウ~湖上の氷精~
身長:166㎝
能力:全てを凍らせる程度の能力
私はチルノ。チルノ、アイスバーグ、トウドウ。(アタイ手記の手元のメモにはアイスハンバーグと書かれている…)
ひょんな事からおっきくなっちゃった、湖上の氷精。別に反抗期じゃない。パパの事は今も大好きだ。でも、さっきみたいな時はたまにウザいと思う。…もちろん内緒だ。
~おまけ2・忙しい人の為の氷華録~
【ナレーション】
「上白沢塾の二枚看板!外来人にして、寺子屋で教鞭をとる二人の男がタッグを組んだ。幻想郷の子供たちの基礎教養を担う彼らは、どんな笑いを生み出すのか?エントリーナンバー1385番、寺子屋ティーチャーズ!」
~~♪
【藤堂】
「はい、どうも~。寺子屋ティーチャーズです。」
【ミネルバ】
「おおきに、よろしゅう頼んます。」
【藤堂】
「ね~、何か可笑しい人がいるでしょう?」
【ミネルバ】
「え?何がどす?」
【藤堂】
「口調!貴方、そんなキャラじゃないですよね!?」
【ミネルバ】
「授業中は、いつもこんな感じです。」
【藤堂】
「すぐバレる嘘をつくな!見てみなさい、生徒たちも首振ってるじゃないですか…縦に!?」
【ミネルバ】
「そこ驚く?」
【藤堂】
「驚くわっ!」
【ミネルバ】
「故郷の訛りなんで。」
【藤堂】
「標準語喋れるでしょう。ちゃんとやって下さい。」
【ミネルバ】
「分ぁったよ。」
【藤堂】
「言葉遣い!生徒も親御さんも見に来てらっしゃるんですからね!せめて丁寧語で話して下さい。」
【ミネルバ】
「はい、すいません。」
【藤堂】
「まぁ、我々普段は、寺子屋でそろばんと、読み書きをね、教えているわけなんですが…やっぱり基礎教養っていうのは大事でですね、普段の生活にも直結するものですから。やっぱり内容が実用的な分、子供たちも真剣に学んでくれて助かります。」
【ミネルバ】
「確かに、外の世界の教育っていうのは、実用性のさらに先…豊かさ言うんですか。知ってた方がお得、程度の実用性薄い教育がほぼですから。掛け算とか。」
【藤堂】
「それは使います!めちゃくちゃ大事ですよ。でもまぁ、私が教えているそろばんもですね、当然ながら足し算、引き算、掛け算、割り算は実生活の中でよく使う、実用的な計算なんですが…外の世界ではルートの問題っていうのもね、教えてるんですよ。」
【ミネルバ】
「出た。ありますね~。」
【藤堂】
「ほぉ、ご存知でしたか。」
【ミネルバ】
「あれでしょ?あらかじめフラグ取っておかないといけない…」
【藤堂】
「うん、それじゃない。」
【ミネルバ】
「最新のは、それ音声で案内してくれる…」
【藤堂】
「それでもない。別にそれ最新でもないし。」
【ミネルバ】
「1900年に、ゴットリープが特許を取得したエンジン過給機の方式を使うんですよね。」
【藤堂】
「使わない。そろばんにルーツブロアは使わない。」
【ミネルバ】
「じゃあ、ひとよに?」
【藤堂】
「知ってるんじゃないですか!そう、平方根ですよ。掛け算とか割り算と違って、実生活で使う事ほとんどないですからね、寺子屋で教えるべきかどうか迷ってるんです。
【ミネルバ】
「ひとなみに。」
【藤堂】
「外の世界の学校ではね、それで覚えさせるんですよ。」
【ミネルバ】
「ホワイトデー。」
【藤堂】
「それは円周率!ってか、円周率をホワイトデーで覚えてる人見たことないわ!」
【ミネルバ】
「鳴くよ鶯。」
【藤堂】
「それは平安京!上白沢先生の分野ですよ!」
【ミネルバ】
「鳴かぬなら?」
【藤堂】
「だからそれは上白沢先生に聞いて下さい!さっきから暴走してませんか、ミネルバ先生!?」
【ミネルバ】
「ところでホトトギスって、漢字で書くと八種類くらい書き方あんだけど…生徒たちにはどれから教えたらいい?」
【藤堂】
「それも実用性薄いですよ!いいかげんしろ!」
【ミネルバ&藤堂】
「どうも、ありがとうございました。」




