第十六話 紅い霧
長らくお待たせ致しました。
え?誰も待ってない?ですよね~。
ミネルバside
【ミネルバ】
「ふぅーっ…終わった、終わった…」
今日もとりあえず滞りなく授業を終えた俺は、職員室の椅子にドカッと腰を下ろして溜め息を吐いた。
この仕事を始めて、そろそろ一月になる…が、思いのほかガキどもの相手というのは疲れる。というか慣れない…。力仕事なら何時間でも平気だが、この仕事はほんの一時間ちょいの授業で、どっと疲労感が押し寄せてくる。
【藤堂】
「お疲れ様です。」
【ミネルバ】
「あぁ、藤堂センセー…お疲れ様っす。つーか、藤堂センセーも塾長も、よく涼しい顔で授業出来てんな…体力なら常人の比じゃねぇはずなのに、この疲れ様だぜ、こっちは。」
デスクでプリントの数を確認していた藤堂センセーは、疲労困憊な俺の様子を一瞥し、また作業に戻った。
【藤堂】
「それは、ミネルバ先生が、真剣に子供たちに向き合っているからですよ。体力の有無は関係ありません。我々は、子供たちの未来を、可能性を抱えて教壇に立っているんです。
【ミネルバ】
「可能性、か…そりゃ、重てぇわな。」
俺が間違った事を教えれば、ガキどもも間違った事を覚える…俺の教えた事が、後にガキどもの未来を変えるかもしれない…意識していたわけじゃねぇが、この疲れの原因がやっと分かった。
にしても、こんな情けねぇ姿…霊夢には見せられねぇな。何て言ってバカにされる事やら…。
【ミネルバ】
「と、そうだ。俺はもう上がらせてもらうぜ。」
【藤堂】
「えぇ、お疲れ様でした。」
寺子屋を後にした俺は、噂になっているあんみつ屋を目指した。何でも、霊夢が食ってみたいらしい。買い出し前の腹ごしらえと言ったところか?噂の甘味処に行ってみたくなるあたり、霊夢も女子らしいな。
【鈴仙】
「あれ?貴方は確か…」
里の道を歩いていると、見覚えのあるウサ耳の女と出くわした…確か、
【ミネルバ】
「永遠亭の、優曇華…だったか?」
【鈴仙】
「鈴仙・優曇華院・イナバです…」
【ミネルバ】
「芭蕉の花の異称か?」
俺の質問に、優曇華は何故かきょとん顔だ…俺の記憶違いだったか?
【ミネルバ】
「それとも、アイラトビカズラの方か?」
…優曇華の頭の上に、さらにクエスチョンマークが浮かんだ…ような気がする。
【ミネルバ】
「優曇華ってのは、花の名前だったと記憶してるんだが…由来はそれじゃないのか?」
【鈴仙】
「え?あ、そうだったんですか?この優曇華院って名前、師匠がつけてくれたんですけど、いっつもウドンゲって呼ぶし、酷い場合はうどんって言われるし……」
ひでぇ…だが、あの女医がつけたって事は、由来はきっと…
【ミネルバ】
「悪い、たぶんどっちでもねぇわ。」
【鈴仙】
「えぇっ!?酷いじゃないですか!せっかく、私ちょっと嬉しかったのに…」
【ミネルバ】
「あの永琳って女医がつけたんなら、由来にしたのは…三千年に一度だけ、花を咲かせるってやつだと思うぜ。」
実在の花じゃねぇ、飽くまで伝承上の花としての優曇華…そこから取ったんだろう。
【鈴仙】
「ふぇ?し、師匠~っ!」
泣くほど嬉しいか…。
名前、か…俺は、どうなんだろうな?今の、久遠のミネルバっていうのは、俺が自分でつけたコードネームみたいなもんだが…親にもらった、嶺矢って名前には、両親のどんな思いが込められていたんだろうな。
【鈴仙】
「…ところで、ミネルバさんはどうしたんですか?何か、機嫌良さそうでしたけど?」
…今度は、俺がきょとんとした。
俺、機嫌良さそうにしてたか?そんな瞬間、今の会話の中にあったか?
【鈴仙】
「あんまり機嫌が良さそうだったので、もしかして別人かなと思っちゃいました。」
【ミネルバ】
「そんなにか!?ん、待て?」
別人かと思った、って事は…話しかけられる前って事だよな?
優曇華と会う前、その直前まで何があった?何を考えてた?
【ミネルバ】
「って、んな事はどうでもいい。待ち合わせしてんだった!じゃあな、優曇華。」
【鈴仙】
「え?あ、はい…」
マズいな…霊夢のヤツ、また機嫌を損ねてなきゃいいが…。
優曇華と別れてから、俺は小走りであんみつ屋に向かった。確か、生徒たちの話では、そこの一つ目の角を曲がって…あれ?
【ミネルバ】
「二つ目だったか?」
…まぁ、何だ。ちょっと話に聞いていただけだったから、正確に覚えていなかったし、少し手間取ったが…無事に目的のあんみつ屋を見つける事が出来た。…十分近く、里を彷徨いはしたが…だ、断じて、俺が方向音痴なわけじゃねぇぞ!
【ミネルバ】
「霊夢!」
まぁ、当然ながら霊夢は先に来ていた…。問題は、何分待って、現在の機嫌がどうなっているのかだ。
【ミネルバ】
「悪い、待ったか?」
とりあえず、先手必勝で謝りつつ、状況の探りを入r…
【霊夢】
「気にしないで。今さっき来たところだから。お疲れ様、ミネルバ。」
……?
【霊夢】
「どうしたの?」
【ミネルバ】
「…え?いや、別に…」
何だ?この違和感は!?
俺の中の何かが、警鐘のようなものを鳴らしている…気がする!この霊夢は危険だ、退避しろと!しかし、何故だ?
【霊夢】
「ほら、何してるの?早く入りましょう。」
【ミネルバ】
「お、おぅ…。」
霊夢に続いて、俺も店内に入った。正直、こいつと一緒じゃなきゃ、俺一人だったら一生入る事は無かっただろう店内は、表から見るより広く感じられた。そして、かなりの盛況ぶりだった。
【霊夢】
「へぇ、凄い…」
【店員】
「いらっしゃいませ。まぁ、巫女様!」
店員の一人が、俺たちの下に駆け寄ってくる。二十代後半の女だ。その店員の女は、霊夢の姿を確認して、嬉しそうな…少し恐縮した感じにもとれるが…調子で声をかけた。
【霊夢】
「あら、貴方は…久し振りね。旦那さんも息子さんもお元気?」
【店員】
「はい、おかげ様で。」
知り合いのようだ。まぁ、霊夢は博麗の巫女だし、顔が知られてるのは当然だが…こいつが、他人の家族の事まで気にかけるなんて珍しい。どういう知り合いなんだ?
【店員】
「二名様でよろしかったですか?」
【霊夢】
「えぇ。」
席に案内される最中、前を歩く霊夢の頭を見ていた俺は、霊夢が簪を挿している事に気づいた。こいつ、簪なんか持ってたのか?そんなもんを買う金ありそうにないが…ひょっとして、誰かからの貰い物?一体誰から?
【霊夢】
「どうしたの、ミネルバ?さっきからブツブツ…」
【ミネルバ】
「え?俺、口に出してたか?」
【霊夢】
「よく聞き取れなかったけどね。それで、どうしたのよ?」
【ミネルバ】
「いや…その簪、どうしたのかと思っただけだ。」
【霊夢】
「あ、あぁ、これ?母の形見よ。よく気づいたわね?」
なんだ、そういう事か。
【霊夢】
「似合う?」
【ミネルバ】
「あぁ。」
俺の返事に、霊夢は急に顔を赤くして俯いた。
【霊夢】
「あ、ありがと…」
その反応に、俺は自分が柄にもない事を言っちまった事を自覚した。
というか、俺はさっきからどうかし過ぎている。やたらと霊夢の機嫌を気にしたり…見慣れない霊夢の簪が気になったり…どうでもいい事じゃねぇか。バカバカしい…。
【ミネルバ】
「そういや、さっきの店員、知り合いか?」
【霊夢】
「え?あ、うん。ウチで祝言を挙げたの。息子さんが生まれた時も、百日目のお宮参りとか、七五三とかもウチでやったから。」
【ミネルバ】
「なるほど。」
お宮参りとか七五三とか、ちゃんと神社の仕事もしてんだな、コイツ。普段は境内の掃除しかする事無さそうなのに。
【霊夢】
「ところで、ミネルバ…今日って何の日かs…っ!?」
不意に、霊夢が表情を引き締めて外に視線を向けた。
【ミネルバ】
「どうした?何か…っ!?」
俺も外を見たが、別段その光景に変化はない。ただ…何か来る、その気配だけは分かった。
すると、外を歩いていた通行人たちが、西側の方を指差して騒ぎ出し始めた。
【通行人A】
「あ、赤い霧だ!」
赤い霧…そう聞こえた。一瞬、メディスンの放つ毒霧が脳裏を過ったが、アイツの毒霧は色が違ったし、迫る気配に毒々しさを感じない。何より、アイツとは敵意のケタが違う!
【霊夢】
「レミリアのヤツ!また何をする気よ!」
【ミネルバ】
「レミリア?あの吸血鬼の嬢ちゃんか?」
確かに、里に立ち込め始めた赤い霧は、血のような色をしているが…しかし、それでも違和感がある。確かに、魔力の波動というか波長というか、よく似てはいるんだが…あの嬢ちゃんとは何処か違う。
【ミネルバ】
「何にせよ…買い出しは、後回しだな。」
【霊夢】
「…レミリア…タダじゃおかないから…
おぉ…い、いつになく霊夢がヤる気満々だ……
【ミネルバ】
「仕方ない。とりあえず、あの譲ちゃんの館に向かうか。」
俺は霊夢と共に、赤い霧に覆われた幻想郷の空へ飛び立った。
normal side
異変は、授業中に突然起きた。血のように真っ赤な霧が立ち込めてきて、外は見る間に赤一色の風景になってしまったのだ。
当然、生徒たちが騒ぎだす…。
【藤堂】
「みんな、静かに。」
私はとりあえず、魂鋼結界を寺子屋の敷地に張り巡らせ、人里一帯にも同じく結界を張った。
【藤堂】
「…里の中に居れば安全だ。念のため、皆はしばらくここで待機していなさい。」
ひとまず、慧音先生にも相談した方が良さそうだ。それと…チルノの様子も気掛かりだ。
ダミー1カメ君を自宅に送り、様子を見る事にしよう。チルノは…良かった、家に居たようだ。
【チルノ】
「うおおおおっ!弾幕ごっこがしたいーっ!」
…どうやら、霧に含まれている妖気に当てられているらしい…。
チルノには悪いが、外に出られないように自宅の周りにも結界を張っておこう。万が一の事も考えて、1カメ君は家の外に待機だ。
【チルノ】
「ぬおおおおっ!出られないぞぉっ!」
…帰ったら、部屋を片付けないと…家の中で暴れているチルノの様子に、私は頭を抱えた。
【慧音】
「藤堂先生!」
意識をこちらに戻すと、慧音先生が向こうから駆けてくるところだった。
【藤堂】
「あぁ、上白沢先生。この状況は一体?」
【慧音】
「恐らく、紅魔館の吸血鬼の仕業かと…過去にも、似たような異変を起こしていますから。」
【藤堂】
「なるほど…ちょっとした、余興…のつもりですかね。」
お向いさんは、そんなに酷い悪意の持ち主ではない。幻想郷を恐怖で支配しようなんて、そんな考えは持っていないだろう。
【慧音】
「そうだといいんですが…私は里に結界を張って来ますから、藤堂先生は子供たちを…」
【藤堂】
「結界なら、すでに私が張りました。この建物にも張ったので、特に生徒たちは安全です。
【慧音】
「本当ですか?ありがとうございます、藤堂先生!」
【藤堂】
「巫女様たちの様子も、私のダミーで確認しましょう。」
この騒ぎなら、博麗の巫女を始めとする面々がすでに動き出しているはずだ。
私は幻術で作ったダミー数体を放った。
霊夢とミネルバは、すでに紅魔館に向かって飛んでいた。
【霊夢】
「……」
…何だか、霊夢は相当にご機嫌斜めの様子だ。
【ミネルバ】
「おい、霊夢。やっぱ、この霧から感じる魔力、あの嬢ちゃんとは何処か違うぞ?」
【霊夢】
「そう?まぁ、別に犯人が誰だろうと関係ないわ…叩き潰す。」
…ボソッと呟いた最後の一言には、怖いくらい凄みと殺気が感じられた。何があったのだろうか?
【ミネルバ】
「ったく、少し冷静になれよ。想定外の敵ってのは、この上なく厄介だからな。」
殺すか殺されるかの実戦経験が豊富なミネルバは、こんな状況でも冷静だった。さすがと言うべきか、的確なアドバイスである。
【霊夢】
「分かってるわ…はぁー……」
ミネルバの言葉に、少しは冷静さを取り戻したのだろうか、今度は何やら残念そうな様子で溜息を吐く霊夢…ひょっとすると、何かよほど楽しみにしていた予定があったのかもしれない。
【魔理沙】
「おーい!霊夢ーっ!」
霧の向こうから、魔理沙が飛び出してきた。異変となれば、彼女も黙ってはいないだろうから、来る事は二人とも分かっていたようだ。特に驚いた様子はない。
【魔理沙】
「これって、アレだよな?前にもあった…」
【霊夢】
「紅霧異変…でも、ミネルバ曰く、犯人はレミリアとは限らないみたいよ。」
【アリス】
「確かに、魔力の質っていうのかしら?似てるようでちょっと違うわね。」
【魔理沙】
「うわっ!?アリス!いつの間に!」
今度はアリスが、霧の中から姿を見せた。彼女の出現は想定外だったのか、三人…特に魔理沙は箒から跳び上がるほど驚いた。
【アリス】
「魔理沙の行くところに、常に私の影あり!」
【上海】
「…それはただのストーカーだよ…
主の横で溜息を吐く、人形の上海…主人の変態的発言を聞かされ辟易する様子を見る度、自我を持ち自律機動化した事がむしろ不憫に思える。
【ミネルバ】
「ほぅ…ただの変態ってワケじゃねぇんだな。」
【アリス】
「当然よ。火力じゃ魔理沙に劣るけど、魔法使いとしてのキャリアが違うわ。」
【上海】
「年喰ってるだけとも言う。」
【アリス】
「上海?今度、バニーちゃんかボンテージ着せましょうか?」
【上海】
「ごめんなさい!」
…不憫だ。
【ミネルバ】
「にしても…この赤い霧は何なんだ?微かに魔力を感じるが、別に人体に影響を及ぼすものじゃない。何の為にこんな霧を…」
【霊夢】
「前の時は、レミリアが日光を遮る為に発生させてたんだけど…犯人がレミリアじゃないなら、目的は違うのかしら?」
【ミネルバ】
「日光…そうか、あの嬢ちゃん吸血鬼だったな。なら、今回の敵も…」
【魔理沙】
「レミリアの同族、吸血鬼って事か。」
【アリス】
「だとしたら、夜になる前に倒したいわね。」
吸血鬼は夜の王とも言われる、魔族の中でもかなり上位に入る種族だ。その真価は、やはり夜にこそ発揮される。日光差す昼間とは比べものにならないだろう。
【ミネルバ】
「敵の正体が分かったところで、本拠地へと向かうか…気ぃ引き締めろよ?この霧から感じる敵意、この間のヤツ以上だ。甘い考えが通用する相手じゃねぇぞ。それに、今度はピンチになっても、想定外の助っ人が来る事もない。」
ミネルバが言う助っ人というのは、拓磨たちの事だろう。ミネルバの無事を知って帰った今、彼らがここに来る理由はない。まぁ、ミネルバの危機を知れば、駆けつけようとしてくれるだろうが…そもそも、それを知らせる術が無い。
【魔理沙】
「心配すんなだぜ!私だって、あれから新魔法の研究を続けてたんだ。相手が誰だろうと、もう遅れは取らないんだぜ☆」
【アリス】
「魔理沙さえ傍に居てくれれば、この迸る愛のパワーでどんな敵も木端微塵よ❤」
【上海】
『…微塵になるのは人形だけどね…』
【霊夢】
「……行きましょう。」
決意と覚悟の籠った霊夢の一声に一同は頷きを返し、再び紅魔館へ向けて飛び始めた。
本来なら、そろそろ館と湖が見えてくる辺りに差し掛かった時、前方から近づいてくる何者かの気配を感知した。
【霊夢】
「何か来る…」
全員が身構える…しかし、霧の中から現れたのは、意外な人物だった。
【霊夢】
「え?」
【レミリア】
「…れ、霊夢……」
【フラン】
「るー……」
現れたのは、負傷し血塗れになったレミリアと、そんな姉を心配し涙ぐんでいるフランだった。
【魔理沙】
「お、お前ら、どうしたんだぜ?」
【霊夢】
「この異変、あんた達の仕業じゃないの?この霧は、アンタが発生させたんじゃないって話はしてたけど…」
【レミリア】
「…そうね…無関係、ではないわ……お家騒動、とでも言うのかしら?色々あってね……霊夢…」
レミリアは、霊夢たちに向かって深々と頭を下げた…カリスマとプライドの塊と言っていい、彼女がだ。
【レミリア】
「私たちを、助けて……」
【霊夢】
「レミリア…」
【アリス】
「…プライドの高いあなたが、私たちに頭を下げるなんて…一体、何があったの?」
【レミリア】
「私たち姉妹には、従姉がいてね…私たちの父の弟の娘で、名をクリム……赤より紅い悪魔、クリムゾン・スカーレット。ずっと音信不通だったのだけど…いきなり現れて、当主の座をよこせだなんて…抵抗も虚しく、あっという間に紅魔館はクリム姉様の手に落ちたわ。」
【魔理沙】
「お、おい!それじゃあ…咲夜や、パチュリーは?」
魔理沙は最悪の想像に顔を青くする。
【レミリア】
「もし咲夜たちが殺されていたら、私はここにいないわ。怒り狂って、クリム姉様に挑み、返り討にあっていたでしょうね。」
【魔理沙】
「じゃあ…」
【レミリア】
「姉様の能力は、魂を操る程度の能力…咲夜たちは、今や姉様の忠実な下僕になっているわ。」
【ミネルバ】
「なるほど…従者たちと戦うわけにもいかず、妹とここまで逃げて来たってわけか。」
【レミリア】
「えぇ…館を追われ、敵に背を向け逃げるなんて…こんな屈辱は初めてだわ。」
【ミネルバ】
「だが、おかげで俺たちはかなりの情報が得られた。この間の異変の時より遥かにな。」
闇の軍勢とはいえ、部隊を率いていた将であるミネルバにとって、敵の情報は何より重要なものなのである。
【レミリア】
「姉様の力を侮らない方がいいわよ。能力があってもなくても、姉様は強いわ。」
【ミネルバ】
「なら…楽しみだ。」
レミリアの忠告に、ミネルバは悪意に満ちた笑みを見せた。かつての、闇の五大将軍の頃の彼を彷彿とさせる、血と殺戮に飢えたケダモノのような笑みである。
未だ残る彼のそんな一面に、霊夢の表情が不安に曇った。いつか、彼がまた、その悪意と敵意の牙を、自分たちに向けるのではないか、と…そんな事はないと信じてはいるのだが、彼が時折見せる凶暴性と好戦的な言動に、霊夢は不安を拭い切れずにいた。
【レミリア】
「…心配ないわよ、霊夢…」
【霊夢】
「え?」
そんな霊夢の内心を見透かしたように、レミリアは小声で呟いた。他の三人には聞こえないほどの声量で…。
【魔理沙】
「よっしゃーっ!そうと分かれば、私はパチュリーのヤツをピチュるぜ☆」
【アリス】
「あ、待ってよ魔理沙ー!」
魔理沙とアリスが、勢い勇んで先に行ってしまった。
【ミネルバ】
「やれやれ…霊夢、ボケっとしてると置いてくぞ。」
【霊夢】
「あ、ちょっと…」
続いてミネルバも、魔理沙たちの後を追って行ってしまった。取り残された、霊夢とレミリア…あとフラン…。
【霊夢】
「レミリア、さっきの…」
【レミリア】
「…さぁ、何の事かしら?」
期待の籠った目でレミリアを見る霊夢だが、レミリアは悪戯っぽく笑って話をはぐらかした。彼女には、どんな運命が見えているのだろうか?
【レミリア】
「どんな未来も、生きていればこそでしょう?彼のことが大事なら、死なせない事ね。ほっとくと危ないわよ?」
【霊夢】
「っ!」
レミリアの言葉に、霊夢も慌ててミネルバの後を追うのだった。
そんな霊夢の様子に、ふぅーっと溜め息を一つ吐いて、レミリアはフランと共に元来た道を進んだ。
【レミリア】
「…生きていれば、貴方の未来は明るいわよ、霊夢……これからこの幻想郷に起こる異変を、生き残れれば、ね…」
【フラン】
「るー?」
【レミリア】
「私が見る未来の運命は、一つじゃないって事よ。」
紅魔館の門前から、魔理沙とアリスの姿がやっと見えた頃…門の前に立って太極拳の動きをしていた彼女が、ピタリとその動きを止めた。
【美鈴】
「…来ましたか。久々に、本気を出せる…と、いいんですが…」
全身に気を漲らせて、迫り来る魔理沙とアリスを迎え撃とう構える美鈴…その姿は、魔理沙たちからも確認できた。
【アリス】
「魔理沙!」
【魔理沙】
「へへっ!悪いな、門番!いつも通り、通してもらうぜ!」
そう言って、八卦炉を取り出す魔理沙…いきなりブッ放す気らしい。
【魔理沙】
「マスターs…」
【ミネルバ】
「邪魔だ、お前ら!ギス・カノン!」
構えていた魔理沙の後ろから、ミネルバがギス・カノンを発射した。冷気を帯びた黒いエネルギー弾が三発、美鈴めがけ飛んで行く。
【魔理沙】
「あぶねっ!お前なぁっ!もうちょっと撃ち方考えろよ!」
【ミネルバ】
「こんぐらいしねぇと、意表突けねぇだろ…あ、いや、無駄だったか。」
【魔理沙】
「は?」
美鈴の方を見ていたミネルバは、苦い顔をしていた…魔理沙も美鈴の様子を確認すると、そこにはまるで何事もなかったかのように立っている、美鈴の姿があった。
【魔理沙】
「あれ?お前、今…あれ?」
確かに、ミネルバのギス・カノンは美鈴めがけ一直線に飛んでいた。あのままのコースなら彼女に直撃し、辺りは氷に覆われていたはずである。だが、どんなに目を凝らしても、辺りには霜一つ降りていない。
【魔理沙】
「な、何がどうなってんだ?アリス?」
【アリス】
「……」
隣にいるアリスは、驚いた様子で美鈴の方をじっと見ていた。
【ミネルバ】
「お前ら、霊夢と一緒に先に行け。ヤツの相手は、俺がする。」
~おまけ1・キャラ設定~
魂魄 妖夢~半人半霊の庭師~
身長:164㎝
能力:剣術を扱う程度の能力
冥界の白玉楼なる屋敷にて、庭師として働く幻想郷きっての剣客。日々、剣の道に精進し、主である幽々子に仕えている。最近では、ジークという新たな剣術の師と出会い、目覚ましい成長を遂げているとの事。
西行寺 幽々子~亡霊の姫~
身長:169㎝
能力:死を操る程度の能力
白玉楼に住まう亡霊で、冥界の管理を閻魔様から任されている。生前から名家のお譲様だったらしく、まさに姫と呼ぶに相応しい。人に害を為す気はないが、やや餓鬼道に堕ち気味なのが心配だ。
~おまけ2・忙しい人の為の氷華録~
【輝夜】
「今日使える簡単レシピをご紹介、妹紅ズ・キッチン!」
【妹紅】
「おい、やめろ。それはやめろ、色んなとこから苦情が来る。」
【輝夜】
「もちろん、それが狙いよ。アンタのブログもこれで炎上間違いなしだわ。」
【妹紅】
「とりあえず灰になれ。」
【輝夜】
「やめて。暴力は何も生み出さないわ。」
【妹紅】
「……」
【輝夜】
「何よ?」
【妹紅】
「輝夜がまともな事を言った…」
【輝夜】
「驚くほどの事?」
【妹紅】
「で、そろそろ台本に入っていいか?」
【輝夜】
「あ、これアドリブだったの?というか、私は最初の一言しか台本貰ってないけどね。」
【妹紅】
「本編はこっちだから。ドッキリ、かぐや姫にインタビューコーナー。」
【輝夜】
「ドッキリ言っちゃってるじゃない…」
【妹紅】
「まず映画化された件について…」
【輝夜】
「今さらその話題?」
【妹紅】
「ぶっちゃっけ、どんくらい入ったの?」
【輝夜】
「いきなり下衆い話題ね…」
【妹紅】
「ここでは言えない額だそうです。」
【輝夜】
「いや、貰ってないわよ。」
【妹紅】
「あと、桃太郎さんとの交際について…」
【輝夜】
「私竹から、彼桃から…」
【妹紅】
「ぶっちゃけ、もう寝たの?」
【輝夜】
「だから質問一発目から下衆いのよ、アンタは!」
完:社会的に抹殺されるのはどっちだ?




