第4章 真の覚醒者
第4章 真の覚醒者
第1話 追跡者
鎮也達の目の前に現れたのは、あの司令官達だった。
鎮也達には、初めてみる者達だった。
彼らに敵意が、感じられる。
司令官は言った。
「あいつらの仲間か?
あの精神エネルギーを放ったのは、お前達か?」
半分は当たっていたが、半分は違っていた。
鎮也達には「あいつら」の予測がついた。
「あいつらとは、神官達の事か?
あの精神エネルギーとは、どの精神エネルギーの事だ?」
「神官?」
会話が噛み合わない。
『ケント』が間に入った。
「私達は、あいつらの仲間ではありません。
その反対の側です。
あの精神エネルギーは、私のものです」
司令官は、驚いた。
「電脳が喋っている!」
だが、『ケント』のおかげで、話が前に進んだ。
鎮也達は、司令官に協力する事にした。
司令官をまた驚かせた。
「この14人が全て、覚醒者だと。
こんなに大勢の者が一度に。
我らの世界では、多い時で4人だった」
そして、
「願いは何だ?」
「あいつらを倒す事だ」
「違う。お前達の願いだ」
「願いは『命の真実』を得る事だ」
「あいつらと同じか?」
司令官は、また敵意を持つかに見えた。
だが、
「何かが違うようだ。
この続きは、あいつらを倒した後にしよう」
第2話 作戦
司令官は、「あいつら」の異能力の分析情報を持っていた。
司令官は、追跡と共に情報も集めていた。
リンダーナの「対消滅」能力は、ヤッターラの「思考停止」能力で倍増されている。
「対消滅」能力は、アインの予測通り対象者の情報を得る事から、始まる。
強力なブロックを持っていれば、少しは耐える事ができる。
そして、「思考」をブロックしていない相手から、情報を得る事は容易い。
鎮也達は一様に、
「ブロック?
容易いとは、何が容易いのだ?」
司令官達の世界では、物質は脆い。
必然と、精神の研究が進んでいた。
「お前達は、精神を剥き出しにしているのか?
よく、今まで生きてきたな」
どうやら、次元の違う話らしい。
具体的な作戦に焦点が絞られた。
最初は、ヤッターラの「思考停止」能力を封じる事からだ。
そのため、危険だがリンダーナを引きつけておく、役回りが必要だ。
その間に、ヤッターラを捕縛する。
作戦は、単純だったが、危険でもあった。
第3話 作戦決行
リーの精神が対消滅させられた。
次いでロバートの精神が対消滅させられた。
次には、アリスが攻撃された。
アリスは無事だった。
何が原因なのだろうか?
リンダーナは、アリスの情報取得ができなかった。
複雑過ぎるのだ。
ヤッターラは、意識のほとんどをリンダーナのために使っていた。
「いつものように、直ぐ済むだろう」
アリスを攻撃できないでいるリンダーナの事は、気付けなかった。
ヤッターラは、突然捕縛された。
リンダーナの能力が格段と落ちた。
攻撃速度が落ちたのだ。
そして、リンダーナは、ヤッターラの居ない事に気付いた。
鎮也は、ヤッターラを問い詰めた。
「未だ、続けるのか?
自分達が、破滅するまで続けるのか?
他者だけでなく、自分までも破滅させるのか?
お前達の願いは、何なのだ?
破滅か?」
鎮也は、怒りと悲しみに包まれていた。
精神が消滅すれば、肉体も直に滅びる。
リーとロバートは、この地に葬られた。
誰かが言った。
「命の泉に行けば、会えるかも?」
第4話 真の覚醒者
降伏したリンダーナとヤッターラは、刑罰を受ける事になった。
厳重に「精神捕縛錠」がかけられ、連行された。
鎮也と司令官は、談話していた。
「覚醒者とは、何なのだろう?」
「目覚めた者を広い意味で覚醒者といっている」
「そうだ。その中で特別な存在も覚醒者といっている」
「皆、覚醒者だ」
「真の覚醒者とは、何なのだろう?」
「解らない」
「『命の真実』を願うものと真の覚醒者は同じだろうか?」
「解らない」
「確実なのは、あいつらが犯罪者だという事だ」
界王は、喜んだ。
自分達の世界が元に戻った事を喜んだ。
そして、「サンタ」を皇太子にした。
他の皇子達が推す「サンタ」を皇太子にした。
第1皇子が犠牲になったのは、哀しい。
だが、界王はそれを「1つの犠牲」だと思う事にした。
第1皇子が持っていた鍵は、取り戻した。
9本の鍵が哀しそうに共鳴している。
司令官は、鎮也に言った。
「実は、その事で私達の世界に赴いて欲しいのだが」
第5話 アインの欲求
司令官達の世界に来た鎮也達は、この世界の界王と謁見した。
司令官は、謁見の資格を持っている。
彼は、界王直属の特別警察の司令官なのだ。
界王は喜んでいた。
謁見は和やかに行われていた。
その頃、アインの欲求が膨らんでいた。
彼は、この世界の事がもっと知りたかった。
自分の知らない事を彼らは、知っている。
まして、『ケント』が言うには、
「この世界は、3次元座標軸まで負です」
解らない事だらけ。
知りたい事だらけだった。
アインは、この世界の科学者達に質問責めをした。
この世界は、物質より精神の研究が進んでいる。
この世界では、肉体は仮のもので、精神が本体だと思われている。
そのため、精神をブロックしない者は、裸で歩いているようなものだ。
ブロックの説明を受けたアインは、納得した。
ブロックは、恥ずかしいだけではない。
防御の役割もするのだ。
アインは、「自分達の能力が攻撃のため」にだけ使われていた事を知った。
この世界では、ブロックは、3歳になるまでに自然と形成されるという。
アインは悩んだ。
「自分達はどうすればいいのだろう?」
第6話 精神エネルギー
精神は、「心」「意識」「感覚」「エネルギー」に分割されるそうだ。
ここまでは、予測している。
この世界でも、予測までだ。
しかし、「エネルギー」「感覚」については、かなり研究が進んでいるようだ。
アインは、アリスの事を思い出した。
「何故、あの時アリスの精神は対消滅しなかったのだろうか?」
「エネルギー」については、アインの仮説とよく似ていた。
ほとんど同じだった。
決定的に違うのは、彼らはエネルギーの検出装置を開発済みらしい。
詳しく分析できるらしい。
だが、関数の部分だけは近似解になるらしい。
アインはこの近似解が嫌いだった。
「どうすれば、厳密解と近似解が近い事を証明できるのだろうか?」
彼の偉大な祖先が言っていた。
「神様は、サイコロを振らない」
近似解が確率を元にしたものならば、信じる事は出来ない。
ついでだが、大昔の回帰分析とやらも嫌いだった。
アリスは、この近似解に当て嵌まらなかったのだ。
突然変異を起こしたアリスの精神エネルギーの関数は複雑過ぎたのだ。
リーとロバートは、突然変異を起こしていなかった。
それが、リーとロバートの悲劇に繋がったのだ。
アインは、そう推測した。
第7話 感覚
「感覚」も「エネルギー」と同じ波だそうだ。
アイン達の世界で「虚数」と呼ばれるものを含んだ波だそうだ。
この波は、触手を伸ばす。
波が、知りたい情報を求めて、「分割波」を出す。
この「分割波」の跳ね返りが「感覚」だという。
この「分割波」の種別、波数は個体差によって違う。
詳しく分析すると、指紋と同じ性格を持つようだ。
「指紋が何故、生体認識に用いられるのか?
原理は解っていない」
アインは、不思議に思っていた。
「心」は、全く未解明だという。
「意識」は、様々な仮説を持つようだ。
だが、決め手に欠ける。
決定的なものが足りないそうだ。
この世界は、「虚数」に満ちている。
アインにとって、最高の実験場だ。
アインは、科学者達に提案した。
「この世界と我々の世界を繋ぐ通路と作ろうではないか」
現在、知られているのは、この世界と「倒立の世界」を結ぶ通路だけだ。
「倒立の世界」とアインの世界を結ぶ通路は、サムだけが知っている。
サムがアインに呼び掛けられた。
第8話 通路
サムは渋った。
アインには、いつも「してやられる」
今回も面倒だ。
「何故俺が、アインの欲求を満たさなければならないのだ」
「サム。これは皆の為、なのだ」
懇々と諭すアインだった。
サムは騙されたような気分だったが、付き合う事にした。
あちこちの科学者達のクスクスとした笑いが、聞こえるようだった。
実際、科学者達は笑いを堪えていた。
知らないのは、サムだけだった。
裸同然のサムを走査するのは、容易だった。
サムから記録を得た科学者達は、通路の作成にかかった。
「倒立の世界」と「アイン達の世界」が結ばれた。
アインは面白がって、この世界と自分達の世界を行き来した。
第9話 時間
アインは、何度も往復した。
「サンタ」にも会いに行った。
ムーの科学者達と話し込みもした。
アインは、気付いた。
「おかしい」
「この世界の今」と「アインの世界」の今が同じなのだ。
アインは、錯覚だと思った。
アインは、計測を始めた。
「計測できない」
アインは、また偉大なる祖先の事を思い出した。
「そうなのだ」
この世界も、自分達の世界も絶対時間を持っていない。
全てが、相対時間なのだ。
全てが、錯覚なのだ。
そこには、答えの出ないアインがいた。
第10話 謁見
その場では、異変が起こっていた。
界王が鎮也に頭を下げている。
頼み事をしているのだ。
「私には、確信がある。
私は、伝承が真実を語っている事を、信じている」
この世界の歴史は3万年ある。
これは、覚醒者が現れた年を元年にしている。
そして、その前の歴史もある。
しかし、それは伝承として、扱われている。
そこに、
「新しき13の者達が、この世界を導く」
とあった。
それは、不自然に、そして、突然に、いつか、誰か、が書き加えたような一文だった。
鎮也達の話を聞くと、彼らの歴史は100年余りだという。
鎮也達が目覚めたのは、100年に満たないという。
彼らの仲間は、12名だ。
よく聞くとサーランは、後から加わった者らしい。
「正統の新しき13の者達」がいた。
界王は、言った。
「お前達が抱いてる者達を加えて13ではないか」
界王は、3つの『精』を委ねる事を約束した。
そして、この世界を元の世界に戻して欲しいと頼んでいた。
鎮也は言った。
「今の我々では、力不足です。
元に戻す、手掛かりすら得ていません。
ですが、いつか、必ず」
「負の世界の者」は「正の世界の者」に憧れを持つ。