第3章 中級神官
第3章 中級神官
第1話 トットリア
トットリアは、「先読み」ができた。
おそらく、数秒先の事だけと推測された。
彼の異能力と未久の持つ能力とは、関係があるのだろうか?
アインの予測している式が、覚醒者の持つ精神エネルギーと完全に一致しない。
アインは、足りないものを探していた。
トットリアは、下級神官の不甲斐なさに怒っていた。
同時に嘲ってもいた。
「自分に限って」
彼はそう思っていた。
それは、案外的外れでもなかった。
鎮也達は、『ケント』の推測を聞いていた。
「後6人の神官が残っています。
私は4人まで彼らの異能力を推測しました。
それは、下級神官から得た4つの機器の分析の結果からです。
1人目は、「先読み」です。
おそらく、数秒先の未来を予測する事ができます。
2人目は、「閉じ込め」です。
精神エネルギーを閉じ込める事ができます。
3人目は、「分離能力」です。
精神エネルギーを分離崩壊させる事ができます。
4人目は、「過分能力」です。
対象者の精神エネルギーを過分させ、自己崩壊を起こさせます。
今は、この程度しか推測できません」
鎮也達は、対策に悩んだ。
現有の能力では、敵わない。
必然と、アインと『ケント』に期待が集まった。
この時、ポセイの突然変異が始まっていた。
彼は、裁定者だった。
鎮也らの決定、決断をチェックする役割だった。
そして、イズミの操縦者でもあった。
実際には、『ケント』が自分一人で操縦していたのだが。
その彼が、ナノ・オーダーの反射神経を持った。
脳から指先までの指令が、ナノ・オーダーの速度で到達するのだ。
『ケント』の能力を、今まで存分に発揮させる事ができなかった。
これで、『ケント』を自在に操縦する事ができる。
そして、彼の速度は未だ発展途上だ。
第2話 先読みと速度
トットリアへの精神攻撃は、通用しなかった。
新和の結界で封じようとしても、寸前で逃げられた。
何かが足りない。
先を読まれては、打つ手がない。
レオは、作戦を考えた。
「あのバズーカ砲と新PQD精神増幅器を連動させてみては、どうだろうか?」
だが、トットリアには通用しなかった。
この時、目覚めたポセイが『ケント』を操作し始めた。
『ケント』は、自分でも信じられない速度で動き始めた。
『ケント』は、未だ自分の能力の限界を知らなかったのだ。
ただ巨大な精神エネルギーを持つだけだったのだ。
新和と同期している『ケント』は、自分の周期を変えた。
ポセイの操作が、周期を変えたのだ。
だが、新和に負荷がかかる。
新和は堪えた。
トットリアへの攻撃の速度が、瞬発的に上がった。
一瞬で充分だ。
トットリアは、新和の結界に捕まった。
もはや、トットリアには為す術もない。
機器をまた1つ発見した。
その機器がアインを悩ませる。
第3話 式の修正
アインは悩んだ。
『y=A(i+c)cos(2π×f)+B』
「+c」だけでは、説明できない。
「先読み」の精神特性の説明がつかないのだ。
アインは、式を修正した。
『y=A(Qi+c)cos(2π×f)+B』
そして、Qは、非線形の姿をとる事を予測した。
覚醒者達の突然変異もこれで、説明がつくかもしれない。
そして、アインは自分の大失態に気付いた。
「波は速度も持つのだ」
物質と波の速度は、与えられるエネルギーによって決まっていた。
つまり、『ケント』が素早く動いたのは、周期の変化だけではない。
彼の精神エネルギー波の速度も上がったのだ。
だが、どれも現在の技術では、測定できない。
検証する事はできない。
この頃、この世界とは違う異世界で、検知した者達がいた。
『ケント』が、瞬発的に放った巨大で速い精神エネルギー波を微かに検知した。
その者達は、この世界の神官達を追っていた。
彼らは、検知したエネルギーと神官達との関係を考察した。
「行ってみるしかないか?」
1人が言った。
だが、逆探知に手間取りそうだ。
検知したのは、ほんの微かなものだ。
後に、この者達が強力な味方となり、そして、精神の解明に一役買う事になる。
第4話 ヌーケット
ヌーケットは、「閉じ込め」の能力を持っていた。
対象者の精神を閉じ込める事ができた。
身体を束縛するように、精神を束縛した。
アインは、考察していた。
精神が束縛されるのは、何の影響だろうか?
本当に精神は束縛されるのだろうか?
そのように見えるか、感じるだけなのではないだろうか?
アインの推測は、少しだけ当たっていた。
ヌーケットは、「壁」を放っているだけだった。
3次元座標軸から垂直に、対象者の精神エネルギーの波に瞬間的に「壁」を干渉させる。
この操作を何万回とやられると、対象者は堪らない。
対象者の精神エネルギーの波は、断続的になる。
感覚として、精神エネルギーが停められたように感じる。
新和が、完全に目覚めた。
『ケント』による半強制的な同期要求で目覚めた。
周期も、波の速度も完全に上がった。
新和と『ケント』の張る結界は、速かった。
ヌーケットは、この速さについて行けなかった。
垂直方向を探す間に、結界が動いてしまうのだ。
ヌーケットは、結界に捕えられた。
アインは、ヌーケットの持つ機器から発見をした。
『ケント』は、「垂直検知器」を製作した。
第5話 追跡者
こことは違う異世界の者達がいた。
彼らは、神官達を追っていた。
彼らにとって、神官達は犯罪者なのだ。
彼らの世界は、3万年の自分達の歴史を持っていた。
旧き文明世界だった。
彼らも、姿形は人類と似ていた。
細胞リサイクル遺伝子を発現させたものも多数いた。
細胞リサイクル遺伝子を発現させると、不老不死になる。
爆発や悪意を持った攻撃に合わない限り、怪我は直ぐ治る。
怪我の程度で、細胞リサイクルが間に合わないと、死に至る。
そして、細胞リサイクル遺伝子の発現は、全体の遺伝子の発現率を上げる。
細胞リサイクル遺伝子の発現は、突然変異も起こす。
この世界でも、突然変異を起こし、覚醒者となった者もいた。
遺伝子の発現率を90%以上にした者もいた。
彼らは、皆、旅立った。
『命の真実』を求めて旅立った。
だが、帰って来た者はいない。
この世界に現在突然変異を起こしているものが、二人いた。
彼らは、突然この世界の禁忌を犯し始めた。
「旅立つ準備」だと、彼らは言う。
何人もの人達に機器を植え付け始めたのだ。
この世界の界王は、その者達を捕えるように命じた。
命じられたのは、界王直属の特別警察だ。
特別警察の司令官は、直接界王と面談する特権を持っていた。
今、この世界で突然変異を起こしている者は、彼らだけだ。
司令官は、彼らを捕える自信を持っていなかった。
だが、追うしかない。
最新の設備を導入して、部隊を結成した。
司令官が直接、指揮を執る事になった。
追跡者は、その司令官だった。
第6話 マウインタ
新和が、マウインタに結界を張ろうとする。
しかし、結界が纏まらない。
結界が分離されてしまうのだ。
結界は、少しの綻びでも結ぶ事ができない。
マウインタの分離能力は、新和に集中されていた。
だが、新和に完全に機能しているのでは無かった。
部分的に結界を分離させているだけだ。
マウインタにとって、完全に目覚めた新和は驚異だった。
自分の分離能力で崩壊されるはずの新和が、軽い傷を負うだけだ。
イワンが「垂直検知器」を使ってPK攻撃をかけた。
新和に集中しているマウインタにとっては、堪らなかった。
マウインタは気絶した。
アインは、この世界に来てから立てていた仮説に、自信を持った。
「精神エネルギーには、系統があるのだ。
その系統は、おそらく波形だ。
cos()ではないのだ」
式が修正された。
『y=A(Pi+c)Q(2π×f)+B』
「P」と「Q」が、未だ解らない。
「P」は、複数の変数の集合体で非線形の形をとる事が予測される。
「A(Pi+c)」は、その者が持つ精神エネルギーの極大値だ。
「Q」は、能力によって変わる関数が予測される。
「y」は、精神波の瞬間のエネルギー値だ。
「f」は、周波数だ。周期の逆数だ。この値が大きいほど素早くなる。
「A」と「B」は、物質の持つ宇宙定数だ。
そして、「y」は、速度を持っていた。
第7話 逆探知
司令官は、いらついていた。
逆探知がうまく行かない。
しかし、司令官は確信を持っていた。
「あの精神エネルギーは、生命体のものではない。
あいつらは、何か発見したのだろうか?
あいつらに関係しているはずだ」
逆探知が成功した。
その場所は、「倒立の世界」だった。
その場所には、「清廉の雪」があるはずだった。
司令官は考えた。
「その事をあいつらが知っているはずはない。
その事を知っているのは、この世界で10人に満たない。
その誰かを操ったのか?
あの精神エネルギーは、その結果だというのか?
しかし、鍵の3本は我らが持っている」
この世界には、3つの『精』があった。
「覗闇の社」
「夢想の房」
そして、
「清廉の雪」だった。
これらの『精』は、隠されていた。
それぞれが、12本の鍵で封印されていた。
司令官は2万2千歳だ。
彼の誕生する2年前に、それは起こったらしい。
「この世界を覆う様な暗闇が。
この世界を覆う様な光が。
そして、逆転が」
この世界の歴史には、そう記されている。
今、この世界は3次元座標軸の全てが負だ。
かつては、全てが正だった。
3つの『精』が揃った時、全てが逆転した。
そして、破片が小さな異世界を造った。
その後、3つの『精』は飛び散った。
司令官も、覚えている。
3つの『精』を探し出すのに2千年必要だった。
そして、探し出した『精』をそれぞれ12の鍵で封印した。
第8話 ガゼルーナ
精神エネルギーもエネルギーの一種だ。
エネルギーを発する源は、『命』だと予測される。
そして、エネルギーは波の姿で現出される。
『ケント』の精神エネルギーの源は解らない。
ただ、そこに巨大な姿で横たわっているだけだ。
源を持つ限り、その源には許容量がある。
一定の許容量を超えれば、精神は自己崩壊を起こす。
それを超えないように、リミッターが存在すると予測される。
が、リミッターを外されて、許容量を超えれば同じだ。
ガゼルーナは、過分能力者だ。
リミッターを外す事が出来た。
強制的に、許容量を超える精神エネルギーを送り込む事ができた。
アリスが、この攻撃を不意に、喰らった。
この国に入った直後の事だった。
ガゼルーナは、待ち受けていたのだ。
アリスのリミッターが外された。
危険だ。
『ケント』が、間に割り込んだ。
アリスは、寸前で助け出された。
不意撃ちを受けなければ、ガゼルーナはもはや敵ではない。
対処方法はいくらでもある。
やがて、ガゼルーナは捕えられた。
リミッターを外されたアリスは、突然変異を起こした。
アリスは、感覚能力者だ。
全ての感知能力が上がった。
異能力として、「弱点検知」が加わった。
対象者の弱点が解るようになった。
第9話 異世界の覚醒者
計画の失敗が、何者かによって、引き起こされている事を知った。
リンダーナは、「反精神エネルギーによって、精神の対消滅を起こす事」ができた。
ヤッターラは、「対象者に思考停止を求める事」ができた。
この2人は、本物の覚醒者だった。
この2人は、旅立とうと考えていた。
だが、過去の覚醒者達のようには、なりたくなかった。
「必ず『命の真実』を掴んで戻って来たい」と、願っていた。
そのためには、有能な仲間が必要だ。
彼らは、以前暮らしていた場所で実験を行った。
彼らが開発した機器を多くの人々へと、植え付けた。
しかし、適性が必要なのだろうか?
多くの人々は、発狂したり、崩壊したりした。
残ったのが、ここの神官8人だけだった。
そして、彼らは犯罪者として追われる事になった。
「ただ、願っただけなのに」
彼らは、方向を間違ったのだ。
歩く道を間違ったのだ。
「自分の願い」に他者を巻き込み、破滅させてはいけなかったのだ。
この世界に来たのは、ただの偶然だった。
追跡者に追いつかれる寸前に隠れたのが、ここだっただけだ。
彼らは、自分達の世界でした事を、ここでもした。
だが、全て失敗した。
彼らは、次の方法を模索していたところだった。
そこへ、突然、何者かが現れたのだ。
第10話 8本の鍵
鎮也は第2皇子~第9皇子に会っていた。
彼らの情報によれば、第1皇子は実験台にされたようだ。
それは、失敗したらしい。
鍵の行方も解らない。
7人の皇子は、皇太子として「サンタ」を推した。
この世界を治めるためには「サンタ」が適任だという。
鎮也は、8本の鍵を手に入れた。
その鍵達の共鳴は、大きくなっていた。
アインは、本物の覚醒者への対抗手段を考えていた。
「反精神エネルギーを造り出すには、対象者の関数を知る事が必要なはずだ。
あの者は、どうやって知る事ができるのだろうか?
極大値も知る必要がある。
解らない。
対抗不可能だ。
思考停止は予測できる。
原理は、閉じ込めと同じだろう。
威力が違うのだろう。
未知数だが、これは何とかなりそうだ」
この時、何者かが目の前に現れた。