第2章 下級神官
第2章 下級神官
第1話 噂
新和の張る結界は、ここを治める神官の領土の1/4を占めた。
この噂は、ここ「サタルナ」国で広まった。
この世界の国の境界は、特別なフィールドで仕切られているという。
これも「カガク」の力なのだろうか?
新和の張る結界内にいた地方官は、結界から追放した。
この世界の地方官は、特別な存在だ。
例え最下級の地方官でも「銃」は、神官から直接手渡される。
官達が何処に行ったのか?
誰も知らない。
知っているのは、神官だけだ。
神官の耳にもこの噂が届いていた。
神官には、直属の部隊が3隊あった。
その中の1つの隊が、調査に向かった。
隊員は、威力の強い銃を持っていた。
それは、アインの手元にある銃の数百倍の威力を持っていた。
アインは、銃の構造を調べていた。
これは、精神銃だった。
出力の調整で、精神への衝撃、麻痺、破壊まで起こす事ができる。
アインの手元にある銃では、破壊まで起こす事は…
その相手次第だった。
この世界では精神が崩れると、それと繋がっている物質は容易く崩壊する。
そして、精神銃は容易く物質を貫通する。
「PQD2・3改」の強化が必要だ。
イズミの介入も必要になる事が予測される。
今は、覚醒者達の精神エネルギーだけに頼るしかない。
第2話 直属部隊
派遣された隊の隊長の持つのは「銃」ではなかった。
かつての鎮也達の世界のバズーカ砲によく似ている。
しかし、この隊に新和の結界を探知する事はできなかった。
隊長の命令は、
「辺りかまわず撃て」
だった。
見えないものは、この世界の者達にも恐怖だったのだ。
隊長の放った砲弾が、偶然新和の結界に当たった。
結界が揺らいだ。
結界の一部が見えるようになった。
結界を構成しているのは、新和の精神エネルギーと亜空間だ。
新和の精神エネルギーが、砲弾の影響を受けた。
見えた箇所に集中攻撃が始まった。
覚醒者達は、新和を援護するために結界の外に出た。
イワンは、PKで隊員を遠くに弾き飛ばした。
サムは、相手構わず隊員達を同行してテレポートした。
リーも、相手構わず隊員達を何処かに転送した。
そして、この辺に残るのは、隊長だけになった。
リーは、バズーカ砲を隊長の手元から新和の結界内へと転送した。
隊長は、丸裸同然となった。
サムは、隊長を同行して、結界内に戻った。
この時、新和は違和感を覚えていた。
自分の力が飛躍的に上がっているように感じた。
新和の遺伝子が目覚め始めていた。
突然変異が起こっているのだ。
完全に目覚めるためには、時間が必要だろう。
突然変異は、危機感と関係あるのだろうか?
第3話 鍵
捕えた隊長には、もはや敵意はなかった。
隊長は、語り始めた。
「我らも、元はこの世界の住人なのだ。
神官が適性のあるものを選び、服従させ、そして武器を渡すのだ。
神官に敵意を持つのは、危険だ。
神官は、容易く精神を崩壊させる。
武器は「カガク」で作られているという。
我らに「カガク」に抗する力はない」
隊長も神官の事を詳しくは、知らなかった。
武器を手渡す時、神官は真っ黒なベールを被っているという。
誰も神官の本当の姿を見た者は、いなかった。
見たものがいたとしても、神官に処分されているだろう。
ここ「サタルナ」には、この世界の現界王の第9皇子「サンタ」がいるという。
界王は、象徴的な存在だ。
実権は、神官が握っている。
そして、神官に媚を売る貴族が、その実権の執行者だ。
「サンタ」は、鍵を1本持っているという。
伝承によれば、この世界には「清廉の雪」と呼ばれるものが存在するらしい。
実物を見たものは、誰もいない。
在り処も分からない。
どんなものなのかも知らない。
ただ、12本の鍵が揃った時に、「それは目覚める」と言われている。
かつて界王は、この世界全てを統べる存在だった。
神官が現れるまでは、そうだった。
そして、代々9本の鍵を受け継いで来た。
残りの3本が何処にあるのか?
誰も知らない。
今、9人の皇子達が1本ずつ持っている。
鍵が揃えば、この世界を取り戻す事ができるのだろうか?
第4話 神官
この領域を預かる神官は「ヌニエット」といった。
ヌニエットは、直属の部隊が壊滅させられたと聞いて、驚いた。
この世界にヌニエットらを凌駕するものが、いるはずはない。
ヌニエットは、思った。
「まさか。
しかし、もしそうなら直接、我々のところに来るはずだ」
ヌニエットの不安は拡がった。
「直に出向かねばならぬか」
ヌニエットは、残った2隊を率いて、そこへ出向いた。
ヌニエットは「精神を視る」能力を持っていた。
後に分かるが、これはヌニエット自身の能力ではない。
「カガク」が産み出した装置の働きだった。
ヌニエットには視えた。
巨大な結界が視えた。
亜空間のせいだろうか?
それは揺らいで視えた。
ヌニエットは確信した。
「あいつらじゃない」
自信と確信に満ちたヌニエットは攻撃を命じた。
だが、覚醒し始めた新和の結界に、攻撃は通用しなかった。
覚醒者達は、ヌニエットを捕縛するために結界の外にでた。
イワンのPKは、通用しなかった。
PKが視えるヌニエットは、それを逃れた。
リーの転送も、サムの同行テレポートも通用しなかった。
ヌニエットは思っていた。
「もっとそれが大きかったり、速かったりすれば、我も逃れられないのに」
双方、膠着状態に入ってしまった。
第5話 イズミの介入
新和に精神の同期が求められる。
巨大な精神エネルギーだ。
イズミが、上空500mくらいのところにいた。
『ケント』は、今の状況を打破するために、「自分が必要だ」と言った。
アインに告げたのだ。
アインは、短距離の空間転移をした。
実際は『ケント』が、一人でやったのだが。
『ケント』の精神エネルギーは巨大だ。
覚醒者達の全てのものを加算しても、あり余るほどの精神エネルギーを持っている。
新和の結界が、解かれ『ケント』と同期した。
新和の結界がヌニエットを包囲した。
じょじょに空間を縮ませる。
ヌニエットは、混乱した。
ヌニエットには、精神エネルギーが視える。
その巨大で逃れようのない精神エネルギーが、自分を捕縛しようとしている。
ヌニエットは、抵抗を諦めた。
この視えた精神エネルギーに抗する手段はない。
捕縛されたヌニエットは、身体を走査された。
アリスによって隅々まで走査された。
アリスは、感知能力者だ。
アリスは1つの機器を発見した。
リーは、その機器をヌニエットの内部から机の上に転送した。
ヌニエットは、その瞬間、普通の人に戻った。
ムーの基準で言うと、レベル4くらいの覚醒者だった。
彼の記憶も曖昧だった。
焦点は、その機器に絞られた。
第6話 「カガク」の機器
アインは、神官の内部から転送して得た機器を調べた。
それは、アインを悩ませた。
アインを酷く悩ませた。
アインの頭の中を「式」が駆け巡った。
『y=Aicos(2π×f)+B』
iは、純虚数
精神エネルギーの正体は、これだった。
「心」「意識」「感覚」は、未だ解らない。
しかし、遠からず分かる日は来るだろう。
この機器の全容は、解らない。
しかし、精神エネルギーの検出技術は得る事ができた。
『ケント』は、早速、検出器の製造にかかった。
この世界で、精神エネルギーが威力を発揮するのは、
平面上だけだ。
3次元目の座標軸からの干渉に弱い。
しかし、どのように干渉させるか?
アインは、また悩んだ。
鎮也は、第9皇子「サンタ」と会った。
彼は、懇願した。
皇子でありながら、鎮也に懇願した。
「この世界に平穏を取り戻してください。
伝承にあるような世界に戻してください。
私にできる事なら何でもします」
鎮也は、訊ねた。
「皇子が持つ鍵の事を何か聞いていませんか?」
皇子は、界王の話を伝えた。
「1つところに集めておくと、不思議な現象が起こる。
故に皇子に分散させて、持たすのだ。
12の鍵が揃った時、「清廉の雪」と呼ばれるものが現れるらしい。
それは、『精』の結晶だという」
それ以上の事は、皇子にも分からなかった。
第7話 強制暗示
隣国の神官が「サタルナ」の異変に気付いた。
直属の3隊を視察に向かわせたが、戻って来ない。
神官「ボーレット」は、直接出向いた。
彼の異能力は、強制暗示だ。
彼には、「視る力」はない。
出向いたものの、何も見つからない。
というよりも、「サタルナ」国にいるのかさえ、分からない。
途方に暮れていた。
鎮也は、積極的に行動しようと思っていた。
もはや、待っていても何も得られない。
危険だが、敵と対峙する事が、最大の情報源になる。
鎮也は、「ボーレット」の接近に感謝した。
「ボーレット」が気付かない様に、結界内に彼を呼び込んだ。
「ボーレット」と対峙した。
驚いたのは、「ボーレット」だった。
そして、喜んだ。
途方に暮れていた状況が、一変したのだ。
「ボーレット」と対峙したのは、鎮也だけだった。
他の者は、側面から援護する。
「ボーレット」のかける強制暗示は、強力だった。
鎮也は、暗示にかかり始めた。
危険を察した覚醒者達は、「ボーレット」を結界の外に放り出した。
「ボーレット」は、また途方に暮れた。
鎮也は、マリヤの治癒能力で回復に向かって行った。
それは、時間が必要かもしれない。
そして、「ボーレット」の強制暗示への対策が必要だ。
第8話 逸感器
『ケント』は、2種類の機器を製造した。
1種類は、ミラーサングラスに似ていた。
これを、眼にかけると、精神エネルギーが視えた。
2種類目は、「逸感器」だった。
これは、精神エネルギーを30度の角度で、狙いから逸らす事が出来た。
問題があった。
巨大な精神エネルギーの時、「逸感器」そのものが破壊される可能性がある。
鎮也は、未だ完全に回復していなかった
彼は、『ケント』とアインを信頼する事にした。
「ボーレット」の強制暗示は放射状に発せられている事が予測される。
視えただけでは、手の打ちようがない。
「PQD2・3改」の強化も行われた。
原理が分かれば、改良は容易い。
「PQD2・3改」は、「新PQD精神同期増幅器」として、生まれ変わった。
作戦が決まった。
サーランが主役だ。
サーランの逆暗示が決め手となる。
これが失敗すれば、やり直しだ。
他の覚醒者達は、陽動して「ボーレット」の気を逸らす事が任務だ。
『ケント』は、「ボーレット」に精神エネルギーで圧力をかける。
サーランが『ケント』と同期できれば、話は簡単だ。
しかし、サーランは『ケント』と同期できるほど、未だ覚醒していない。
作戦は決行された。
第9話 作戦決行
「ボーレット」は、途方に暮れていた。
だが、彼に幸運が巡って来た。
また「ボーレット」は、彼の者達と対峙した。
「ボーレット」は、強制暗示をかけた。
彼の持つ最高の出力でかけた。
しかし、効果があるように視えない。
「気のせいだ」
覚醒者達の持つ「逸感器」が機能した。
更に、「ボーレット」に精神エネルギーの圧力がかかる。
『ケント』には、異能力はない。
だが、精神エネルギーは巨大だ。
覚醒者達と『ケント』によって、「ボーレット」は追い込まれて行った。
サーランは、機会を狙って逆暗示をかけた。
「ボーレット」は、簡単に逆暗示にかかった。
「ボーレット」は、攻撃しているつもりだった。
しかし、追い詰められていたのは、彼の方だった。
アリスは、また1つの機器を発見した。
アインはこの機器を調べた。
前のものとの違いを比べた。
アインの頭脳をまた式が駆け巡った。
『y=A(i+c)cos(2π×f)+B』
この+cが、精神エネルギーの種別を決定するようだ。
「逸感器」は、完全に機能していたのではない。
精神エネルギーを弱めていただけだったのだ。
アインは、冷や汗を掻いた。
アインは、精神エネルギーを打ち消す反精神エネルギーを考察していた。
式は簡単だ。
「2π×f」をπ」だけ位相させれば、式の完成だ。
しかし、現在の技術では、「振幅=A(i+c)」が検出できない。
当面、対抗策は、別の手段をとるしかない。
第10話 皇子
鎮也は、「ボーレット」が支配していた国に行った。
そこで、第8皇子と会った。
第8皇子は、「サンタ」の兄だ。
鎮也は「サンタ」から鍵を預かっている。
第8皇子も鍵を鎮也に預けた。
すると、2本の鍵が微かに共鳴している。
互いが互いを呼び合っているようだ。
第8皇子は、「サンタ」より少しだけ多くの情報を持っていた。
だが、それは「鍵について」ではなかった。
「この国とサタルナに隣接している国が2国あります。
そこには、第6皇子と第7皇子がいます。
そして、そこにはそれぞれ神官が1人ずついます。
名をガーガリー、ムーガリーといいます。
双子だという噂があります」
という事は、「2つの国を同時に攻める必要がある」と考えられた。
鎮也は、2国を同時に攻めた。
彼らの異能力は、「テレポート」と「転送」だった。
『ケント』と同期した新和の結界で捕えた。
彼らは、捕まる寸前に言った。
「我らは下級神官だ。
この先には、我らとは次元の違う神官が待ち構えている」
最後の脅し文句だったのだろうか?
それとも本当に強大な敵が待っているのだろうか?
アリスによって2つの機器を発見した。
アインによって推察された式は、正しいように見えた。
しかしこの先、アインはまた式の修正を余儀なくさせられる。