ぱすと。1
傾向/長瀬過去/ひたすら暗い。
「長瀬ってキモイよな。」
「女みてぇな顔だし、ちっせーし」
理不尽ないじめには慣れていた。
小学校の高学年の頃からずっと。
靴が隠されたり、机がなかったり、
無視されたり、色んな事を俺のせいにされたり。
クラス全員が、俺を嫌っていた。
いや、一人だけ、違った。
「大丈夫。全然、気持ち悪くないよ。」
谷川 葵。
こいつだけは、俺に構い、優しく接してくれた。
「…ありがと」
でも、人間不信気味の俺は、
谷川 葵に、心を開くことができなかった。
開くべき、とは、思っていたが…
「谷川さぁ、そんなんに構って何があんだよ。」
「ゲイなんじゃねぇの!?」
「マジで!?超ウケる。キッメェ!!」
怖かった。
葵が巻き込まれるのが、
「違うって、そんなんじゃないよ。」
裏切られるのが。
ーーある日、俺は一番思ってはいけない事を思ってしまった。
葵は、学級委員で、クラスの中心で
いつも居て、男子にも女子にも慕われていて、俺とは正反対の人だ。
「一緒に帰ろうよ。」
「どっか、痛い?」
「一緒に探そ?」
優しい言葉、親切な行為が、
見下している様に思えてしまった。
「ーーーっ!!」
悔しい、どんな嫌がらせよりも、悔しい。
ニコニコして、俺をいじめてる。
俺を使って、みんなに好かれて、
俺を陥れてる。
一度、そう考えるとその考えをねじ曲げることが出来なくて。
もう、誰も信用できなくなって、もう、どうでもよくなって。
両親も、友達もいない。
俺は、一人ぼっちで、いらない人間。
だから、自殺をしよう。と、考えた。
帰り道、交差点。
赤信号を、渡った。
「おしまい…」
「長瀬っ!!!」
ドンッ、と鈍い音と急ブレーキのつんざく様な高い音が響いた。
そして、俺は、
「子供がひかれたぞ!!」
「救急車、救急車を呼べっ!!」
死んでいなかった。
道路のコンクリートで、すり傷だらけの体を起こして、後ろを見る、
トラックが反対車線に突っ込み、
近くに、誰かが倒れていた。
俺と同じ中学の制服、指定の白カバン。
制服はボロボロになっていて、赤黒い肌が見えていた。
フラフラと立ち上がって近づくと、
「あ、ぁぁああああ!!」
顔は、酷く傷んでいたが、間違いない
谷川 葵だった。
その後、俺は救急車で病院に運ばれ、
傷の手当てが済むと、警察の人に事情を聞かれた。
珍しく、両親二人共揃っていた。
「どうして、赤信号を渡ったのかな?」
優しい口調、葵の、様だ。
「死にたかった、から。でも、
死んだのは、あお、い。葵がっ…」
俺が、葵を、殺した。
一生、俺を縛る罪が、生まれた時だった。