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エルフが築く世界帝国 〜滅びの運命から始める反逆記〜  作者: 神田川 秋人
第4章 世界樹奪還作戦

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第69話 エルフの将軍




領都レスターを占拠しているエルフたちの目に、人族の兵士たちが掲げる白旗が目に入った。


人族に対して圧倒的に人口で劣るエルフが無用な争いで戦力を消耗しないよう、人族側が用いる降伏の意思表示については全軍に周知徹底されている。


そして、実際に人族側の抵抗が止んだことからも、降伏の意思に間違いはないと判断され、現場指揮官により戦闘中止が言い渡された。


その旨は速やかに空将であるジンと、陸将であるクオンの元にも伝達され、速やかに降伏交渉の場が設けられることになった。


そして、その情報は当然、オルデイン飛行場にいる総司令官である、リヒトの元にも届けられた。






降伏交渉は、陸軍の占領下にある領都レスター内の商工会議所で行われることになった。

行政施設や軍事施設は空軍の焼夷弾しょういだんによって軒並み焼け落ちており、民間の施設しか残されていなかったためである。


そして、降伏交渉に出席する()()()()()()()()が到着するまでの間、領都レスターにおける武装解除に関する交渉が、エルフ側の将軍と人族側の指揮官の間で行われることになった。




既に日は落ちており、蝋燭ろうそくの明かりが商工会議所の室内を照らしている。

今は、人族側の代表者がエルフ側の将軍の入室を待っている状況である。




「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


人族側の代表者は、武装解除に関する交渉と、その後に控える降伏交渉の両方において、引き続き第2騎士隊長がつとめることになった。


領都レスターを有するマーシャル辺境伯はローレシア王国に所属しているため、本来であれば王国側の使節団が降伏交渉を行う。

しかし、わずか2日間での陥落という異例の事態に、まだ王都まで開戦の報告すら届いておらず、これ以上の被害を防ぐには現場での独断専行を図るしかなかった。


その独断専行も、マーシャル辺境伯本人と、その後継者である嫡男ちゃくなんの双方の死亡が正式に確認されたため、もはや何もかもが慣例と異なる方法で進めるしかなかった。


「最悪だ⋯⋯。本当に、私はなんで生き残ってしまったのだろうか……。」


騎士隊長は、弱気を口にせずにはいられなかった。


戦闘を継続しても死が待っており、独断で降伏しても王国側から責任を問われ、重い処罰を受ける可能性が高い。

まさに、進むも地獄、引くも地獄の状況だった。


しかし、騎士隊長は本人の自覚はともかくとして、責任感が強い性格であり、部下や兵士たちがこれ以上、無駄死にするのを看過かんかすることはできなかった。




「なあ、おい……信じられるか?今回の襲撃、エルフの仕業しわざだってよ……」

「にわかには信じられん。信じられんが……あの耳は間違いなくエルフだった。なぜ、いきなり風魔法を使えるようになったんだ……?」

「それより、あの“空飛ぶトカゲ”と“角の生えた馬”はなんだよ……?エルフもそうだが、そっちの方が気になるぞ。」


この場の重要性を鑑みると、本来であれば部下たちの私語を叱り付けるべきではあるが、騎士隊長自身も彼らと全く同じ意見だったので、軽くにらみつけるに留めた。


そう、昨日からずっと天地がひっくり返るような経験をしてきた彼らだが、その中でも一番の驚きは、今回の襲撃が同じ人族ではなく、エルフによるものだったということだ。


彼らにとってエルフとは、ろくな抵抗手段を持たない脆弱ぜいじゃくな種族であり、その反面、種族特有の美貌と長寿により、人族側に利益をもたらす都合の良い存在という認識であった。


特に、エリクサーが発明されてからはその価値も高まり、まるで黄金を発掘するかのように、150年以上に渡ってエルフたちを狩り続けてきたのだ。


それが突然、人族側に牙をき、あまつさえローレシア王国内でも主要都市である領都レスターを陥落させるに至るとは、まさに驚天動地きょうてんどうちであった。


騎士隊長も、その目で直接、街中を占領するエルフの兵士を見るまでは到底信じられなかった。




「しかも、あの服装と動きは異常だ。」


騎士隊長は小さく独り言をつぶやく。


驚くべきことに、エルフたちは全員が同じ軍服を着用しており、その動きはまるで1つの生物であるかのように統率が取れていた。

通常、この規模の軍隊となると複数の領主や貴族が率いるため、服装や指揮系統はどうしても乱れがちになる。

それが、都市を占領しているエルフたちには全く見られなかった。


そして、最大の懸念だった民間人への略奪や暴力も無く、人族側がエルフたちにしてきた仕打ちを考えると、逆に不気味ですらあった。






「騎士隊長殿……騎士隊長殿っ!!」

「―――っ!すまん、なんだ?」


思考の渦に囚われていると、部屋のドアを開けた騎士が話しかけてきた。


「エルフ側の将軍と、その護衛が入室されます。よろしいですね?」

「あ、ああ……。ご案内してくれ。」


ついに、自分たちを追い詰めたエルフたちの将軍と面会することになる。


いったい、どんな悪魔――いや、屈強な男が登場するのか……。


騎士隊長は、マーシャル辺境伯から叙任じょにんを受けた時より遥かに上回る緊張にさらされ、全身から汗が噴き出した。


「エルフ側の将軍閣下、入室されます!!」


ドアの前に立つ騎士の声を受けて、騎士隊長は覚悟を決めた。






まず、護衛であるエルフの兵士が数人入室し、ドアの両側に整列した。


そして、そのエルフたちの間を、ゆっくりとした足取りで近づいてくる人物がいた。




――その人物を目にした瞬間、室内にいる人族たちは、全員が驚きに息を飲んだ。


そして、思わずつぶやく。




「なっ!?嘘だろ……女だと……?」

「う、美しい……」

「まるで、女神のようだ……」

「信じられない……」


室内にざわめきが広がるが、それをたしなめるべき騎士隊長も、入室してきたエルフのあまりの美しさに目を奪われていた。


エルフは全員が美男美女揃いだが、その中でも目の前の女性エルフは、エルフを見慣れている領都レスターの人間であっても驚嘆に値する美しさだった。


そんな彼らの動揺を知ってか知らずか、入室してきた女性は余裕のある表情で微笑ほほえんだ。

そして、流暢な大陸共通語で、自らの名前を名乗った。




「はじめまして、人族の皆さま。私は、クオン=セネカ・アルリオンと申します。我らが敬愛なる総裁閣下より、陸軍の指揮官である“陸将りくしょう”の任を拝命しております。」


そして、唖然とする人族たちを見回した後、言葉を続けた。


「私はこのたび、我らがエルフの代表者――総裁が到着するまで、領都レスターにおける貴方あなたがたの武装解除の交渉を担当させていただきます。どうぞ、よろしくお願いいたします。」




人族たちは数秒間、誰ひとり反応を返さずに固まっていたが、かろうじて騎士隊長が我に返り、クオンに挨拶を返した。


「し、失礼した……いや、失礼いたしました、クオン閣下。私は、マーシャル辺境伯不在につき、この都市の指揮官代理を務めている第2騎士隊長のコーディ・オルコットと申します。」

「ご丁寧にありがとうございます。コーディさま。」


クオンは微笑みを絶やさずに、コーディを見つめた。

そんなクオンの瞳に目が合い、コーディは思わず見惚みとれそうになったが、鋼の精神力を駆使して何とか踏み止まった。


「ど、どうぞ、椅子にお掛けください。」

「ありがとうございます。それでは、失礼します。」


クオンはそう言って、コーディが椅子に腰かけた後、ゆっくりと着席した。


その様子を見届けて、ドアの横に待機していたエルフの兵士たちは一斉にクオンの後ろに移動し、直立不動で整列する。

そのあまりのキビキビとした動きに、人族側の騎士たちも思い出したように、着席したコーディの後ろに移動した。




「――それにしても、なんと流暢りゅうちょうな大陸共通語でしょうか。貴人語きじんごについても、王侯貴族が用いるそれと遜色そんしょくありません。」


こういった場には不慣れなコーディであっても、流石にいきなり本題から入るべきでは無いことは知っていた。

そのため、何とか当たり障りの無い――それでいて、本音でもかなり気になっていた事を口にする。


「お褒め頂きありがとうございます、コーディさま。事前交渉役を名乗っておきながら、言葉が通じなかったらどうしようかと、実は不安でした。」


そうは言うものの、全く不安そうには見えない堂々とした言葉だった。


「とんでもない!正直なところ、人族である私の方が不安になるくらいの水準ですよ。クオン閣下は、武勇だけではなく、教養も素晴らしいのですね。」

「まあ、コーディさまったら。お上手ですね。」


クオンはそう言って、より一層の笑顔を見せる。


兵士たちの何割かは、そのクオンの笑顔を見て、早くも緊張が緩み始めていた。


こうして、クオンが意図したものかは不明だが、領都レスターの降伏に伴う武装解除の交渉は、終始エルフ側の優位に進むのであった。




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