第67話 占領と捜索
北門と南門から大勢のエルフが領都レスターへと流れ込み、事前の役割分担に沿って、領都の重要施設を占拠するべく動き出す。
辺境伯の家臣たちが住む東街区にも、区画の占拠と囚われた同胞を捜索するための部隊が向かっていた。
「葉7号街区、問題なし!」
「葉8号街区、問題なし!」
隊長を務めるエルフの元に、部下から次々と報告が届いた。
陸軍の占領部隊は、事前に領都レスターの街を大きい順に幹、枝、葉という3つの区画に分けており、絵を塗り潰すかのように1つ1つ占領している。
『ひっ!!な、何だお前たちは……!』
『エ、エルフ……!?』
当然、街区には住人である人族がいるが、エルフたちの目的は虐殺ではなく、都市の制圧と同胞の救出である。
非武装や無抵抗の人族に割いているリソースはないため、無視して占領活動を続ける。
『お、おいっ!見てみろよ!エルフだぞ!!』
『まさかこんな所に、大量のエルフが……!』
しかし、領都内でまだ活動を続けている兵士や、エルフという一攫千金の存在に目が眩み、立ち向かってくる人族もいる。
今も、欲に溺れた兵士5人が剣を構え、建物の捜索と占拠を続けるエルフに近づいていった。
『バカ野郎!!ただのエルフな訳があるか!あの動き、完全に軍隊のそれだ!しかも練度が尋常ではない!』
『不用意に近づくなっ!!』
冷静な同僚が止めるが、耳には入らない。
「おい!そこの人族!止まれ!」
「抵抗する者は容赦しない!」
近づいてくる兵士に気が付き、陸軍のエルフたちが忠告するが、言語の違いもあり意味を成さなかった。
『エルフ……!!聖王国金貨……!』
『どけっ!!右のエルフは俺の獲物だ!』
目を血走らせながら近づいてくる兵士を見て、エルフたちはすぐに決断を下した。
『ラー・エリス・ル・スティングレー (世界樹の風よ、目の前の敵を貫き給え)』
エルフたちが一斉に風魔法を詠唱し、高速の風の刃が接近する兵士たちを引き裂いた。
兵士たちはあっという間にバラバラとなり、地面に赤い花を咲かせた。
『ひ、ひ、ひっ―――!!』
『一体何が起こっているんだ……!?』
『に、逃げ――いや、退避だ!退避しろっ!!』
その様子を目にした兵士の残党たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
昨日から続く火災と風爆により、領都レスター内にいる兵士たちの士気は底を打っており、とても未知の脅威に対して立ち向かえる状態ではなかった。
それを見届けたエルフたちは、引き続き東街区の占拠と捜索を再開した。
「よし、葉21号街区。ここは事前の偵察飛行と諜報活動により、最低でも3名の女性エルフが確認されている!」
隊長が部下と情報を確認する。
この街区にある建物は、領都レスターでも有力な家臣が住む家であり、女性のエルフが当主の愛娼として囲われていることが判明している。
「狭い屋内で、風の刃を使用するのは危険だ!風の槍で武装しろ!」
「―――はっ!!」
隊長の指示により、部下のエルフたちは再び風魔法を詠唱した。
『ラー・エリス・ラグナ・イル・スティーレ (世界樹の風よ、我が手中に風の刃を握らせ続け給え)』
エルフたちの祈りに世界樹が応え、風の力がそれぞれの右手に集まる。
すぐに、それは不可視の風の槍となり、エルフたちの意思によって、屋内用に短く形を変えた。
「よしっ!突入する!!」
隊長の合図により、風の槍が建物の門扉を切り裂き、エルフたちが敷地内になだれ込む。
そして、建物の玄関扉を低威力に調整した風爆で吹き飛ばし、建物内に突入した。
部屋を1つ1つ確認すると、1階奥の食堂にて、この建物の当主とその家族がひと塊になって震えているのを発見する。
扉の前にいた護衛の人族は、すでに風の槍で排除している。
当主とその家族が非武装であることを確認すると、見張りのエルフを配置して建物内の捜索を続けた。
「残るは2階の北側だ!」
捜索を続けるエルフが確認し、とある部屋の扉を開けたその時――
「―――ひっ!!」
「あ、貴方たちは、誰ですか……!?」
「―――こ、こないで……!」
部屋の中には、薄衣を纏った女性がいた。
目の前に3人――そして奥にも2人が震えている。
部屋に入ったエルフは、すぐに彼女たちの耳を確認した。
横に長く尖った、人族とは明らかに異なる耳――間違いなくエルフである。
「安心してください!私たちはエルフです!!」
「あなた達を助けに来ました!」
目の前の女性たちが同胞であることを確認した突入部隊は、すぐに安心するよう声をかけた。
「その言葉……!?エルフ語……!」
「ま、まさか本当に助けが!?でも、こんな人族の街の奥に……!」
女性たちは突然の出来事に混乱していたが、エルフ社会に起きた変化を、いまここで長々と説明する訳にはいかない。
「とにかく、もう安心です!私たちが責任をもって、貴方がたを故郷に――エルフの森にお連れします!」
「もう、貴方たちが意に沿わない行為を強制されることはありません!貴方たちは、自由です!」
その言葉に、囚われていた女性エルフたちはお互いの顔を見合わせ、ゆっくりと涙を流すのであった。




