第66話 破城の風
「総員―――突撃!!」
クオンの号令を合図に、騎兵の突撃部隊が北門に向けて走り出した。
騎乗するエルフの意を受けた一角獣が力強く大地を蹴り、ぐんぐんと加速する。
当然、敵としては接近を許す訳にはいかないため、領都レスターの城壁上で待ち構えている敵兵は、突撃してくるクオンたち目がけて弓を絞り、矢の雨を降らせた。
それを見たクオンたちは、一斉に風魔法を発動させる。
『ラー・エリス・ル・ラヴァーニア (世界樹の風よ、目の前を覆い給え)』
瞬く間に、クオンたちの前に圧縮された空気の壁が形成される。
すると、空から降り注ぐ矢は、空気の壁に当たった瞬間に軌道を反らし、あるいは勢いを失って地面に転がった。
大量の矢を射掛けられたにも関わらず、全員が無傷で走り続ける。
その様子を確認した敵兵は激しく動揺し、慌てて第二の矢を浴びせるべく動き出すが――
「さすが、ジンさまが鍛え上げた空軍。対応が早いですね。」
一角獣で駆けながら、クオンは感心したように呟く。
城壁の上に目をやると、上空を大勢の飛竜が飛び回り、片っ端から敵兵たちに風爆を浴びせかけていた。
城壁のあちこちで爆発が発生し、まるで風に吹かれる落ち葉のように、敵兵が次々と宙に舞い、そのまま城壁の外や内側に落下していた。
敵兵には気の毒だが、あの高さから落下すれば無事では済まないだろう。
まだ城壁の上には敵兵が残っていたが、味方の惨状を見て恐慌状態となったのか、あるいは指揮官が倒れたのか、蜘蛛の子を散らすように姿を消した。
いつまで経っても、弓矢による第二射はやって来ない。
クオンたち突撃部隊は、そのまま北門に接近を続け、城門に狙いを絞れる距離にまで到達すると、先頭集団のエルフが一斉に風爆を発動させた。
『ラー・エリス・ル・ボルト・ゲンティア (世界樹の風よ、目の前の空気を収縮し、膨張させ給え)』
大勢のエルフによる詠唱が、まるでコーラスのように戦場へと響き渡り、北門の周囲の空気が揺らぎ始める。
そして次の瞬間、北門のあらゆる箇所で空気の収縮と膨張が連鎖し、耐え切れなくなった木材が弾け飛び、銅板が剥がれ落ち、石材が砕け散る音が何重にもなって鳴り響いた。
土煙が晴れた後に残されていたのは、かつて堅牢を誇った北門の成れの果て――見るも無惨な瓦礫の山だった。
そして、その瓦礫の山さえも突入の邪魔と言わんばかりに風爆で吹き飛ばし、北門の通行を妨げる存在はいなくなった。
クオンたちはそのまま門の中に入り、北門を完全に占拠することに成功する。
そして、それと全く同じ光景が、レオナ率いる南門でも繰り広げられていた。
クオンとレオナが南北の門を占拠する様子を見ていた残りの騎兵たちも、領都レスターへの突破口が開いたことを確認し、総勢3,000騎に及ぶ騎兵たちが、北門と南門に向かって駆け出した。
そして、城門近くで下馬すると、弓矢の届かない距離に離れて待機するよう、一角獣に指示を出す。
普通の馬だと、従者などが待機場所まで連れて行く必要があるが、知能の高い一角獣はその必要もない。
一角獣だけで安全な場所まで避難させ、必要になったら再度呼び寄せるなど朝飯前だった。
下馬した大勢のエルフたちが、北門と南門を通って領都レスターに流れ込む。
「よしっ!!優先順位を確認するぞ!最優先は敵兵力の無力化、次に囚われている同胞の救出だ!領都レスターの市街地図は頭に叩き込んでいるな?」
とある部隊の隊長を務めるエルフが、部隊員たちに確認すると、全員が首肯する。
「よしっ!我々は辺境伯の家臣たちが住む東街区を占領する!接敵した場合は迷わず攻撃しろ!」
隊長が指示を出し、領都レスターの占領と捜索活動が開始された。




