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エルフが築く世界帝国 〜滅びの運命から始める反逆記〜  作者: 神田川 秋人
第4章 世界樹奪還作戦

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第54話 その時




ハイマール連邦とグラン・シエル帝国の戦争は、事前の情報分析の予想通り、開戦後3か月が経過しても収束の気配を見せず、むしろ戦線は拡大の一途をたどっていた。


連日行っている空軍の偵察飛行によると、ハイマール連邦軍はグラン・シエル帝国領内を破竹の勢いで侵攻していたが、途中で行われた大規模な会戦に敗北し、現在は帝国領内を流れる大河の1つ、『ブロン川』の両岸にて睨み合っている状況とのことだ。


北大陸に残るもう1つの大国であるローレシア王国については、国境を接するハイマール連邦と相互不可侵条約を締結したことで、本戦争には静観の構えを見せている。

グラン・シエル帝国については、そもそもローレシア王国と国境を接していないため、言うまでもない。




「まさに、我々が待ち望んでいた状況という訳だ。」


私は、反攻都市ウルスタインの郊外にある中央飛行場において、前進基地オルデインへの物資空輸のため、絶え間なく離発着を繰り返す飛竜たちを眺めながらつぶやいた。


ハイマール連邦とグラン・シエル帝国の開戦から3か月間、全軍の総力を挙げて、戦争準備が進められていた。


「そうですね、リヒトさま。これ以上ないほどの理想の展開です。現状、北大陸の情勢は、全力で殴り合う連邦と帝国を、柱の影からそっと覗き見るローレシア王国という構図になっています。そして私たちが、そのローレシア王国を、後ろから思い切り殴りつける訳です。」


空軍との作戦調整のため、中央飛行場を訪れていたクオンが、私の横で口を開いた。


「まさか、クオンから“殴る”なんて単語を聞くことになるとはな。」

「あら?私だって軍人ですよ。守るべきエルフたちのために、拳を振り上げることだってあります。」


クオンは心外そうに返す。


「分かっている、冗談だ。私とて、いまさら我が種族たちの覚悟を疑うような真似はしない。私たちは、自らの生存を勝ち取るために、ただすべきことをすだけだ。」

「そのお言葉が聞けて、とても嬉しいです。」


クオンは、至っていつも通りだ。

いつもの、余裕を感じられる笑顔である。


「空軍の準備状況は見ての通りだ。陸軍の方はどうだ?」


もちろん、適宜報告は受けているが、陸軍を率いるクオンの口から直接聞いてみたかった。


「全て順調です。元々、“その時”が近いことは分かっていましたから。兵たちの士気も旺盛おうせいで、むしろ旺盛過ぎて、押さえつけておくのが大変なくらいです。」


何とも頼もしいことだ。


「先陣は空軍が切るが、最終的な決着は陸軍の働きにかかっている。頼んだぞ、クオン。」

「もちろんです、リヒトさま。貴方あなたさまのご期待に、必ずや答えて見せます。」


そう言って、クオンは私に敬礼した。






統合司令部にて、空軍と陸軍の関係者を集めて何度も会議を行い、“その時”――すなわち、世界樹奪還作戦の決行日は1か月後とし、当日が雨天等で視界不良の場合は、翌日を予備日とすることが決まった。


世界樹奪還作戦が始まれば、私は戦争指導に専念する必要があるため、内政がおろそかにならざるを得ない。


私は、内政全般を引き継ぐため、総裁府そうさいふ長官であり、実質的な副総裁の地位にいるゼラムを呼び出した。




「いよいよ、この時が来たな。」


全ての引き継ぎが終わり、ゼラムが話しかけてきた。

今は、総裁執務室において、私とゼラムの2人だけしかいない。

ゼラムは当然のように、軽い口調で話しかけてきた。


「ああ。お前には苦労をかけるな。胃薬でもいるか?」

「いらん、私はお前のことを認めているが、こと内政分野において、お前にできて私にできないことはないだろう。」


これは、ゼラムの自信過剰ではなく、おそらく事実だ。

それくらい、彼の内政能力は優秀である。


「頼もしい部下がいて何よりだ。これで軍事的な才能もあれば、総裁をお前に任せて引退できるんだがな。」


無論、これは冗談だ。

私は、途中で投げ出すような軽い気持ちで、総裁という役職に就いた訳ではない。

最低でも、この目で私の目指す未来――エルフによる理想郷が生まれるのを見届けるまでは、決して誰にも譲るつもりはない。


そして、ゼラムも私の発言が冗談だと、よく分かっている。


つつしんで、お断りするよ。私には、お前のようにエルフ社会全体を鼓舞こぶし、皆を導く才能はない。総裁に相応しいのはリヒト、お前だけだ。」


ゼラムに褒められると、素直に嬉しい。

全く、政敵だらけだった前世に比べて、周囲に恵まれているな。


私は、総裁不在時における、ゼラムへの一部権限の移譲を記した書類を作成し、その手に握らせた。


「私が不在の間、エルフ社会を頼む。お前にしか任せられない。」

「ああ、分かっている。心配するな。お前こそ―――死ぬなよ。」


言われずとも、私の悲願――エルフによる理想郷を建設するまでは、この命は誰にもくれてやるつもりはない。


そのまま、ゼラムは執務室から去って行く。

私は、ドアを開けて出ていくゼラムを、最後まで見送った。


ドアが閉まる、その瞬間まで。




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