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エルフが築く世界帝国 〜滅びの運命から始める反逆記〜  作者: 神田川 秋人
第3章 岩窟で笑う王

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第51話 総裁の休日




「リヒトさまっ!いい加減に休暇を取ってください!と言うか、私が勝手にスケジュールを空けます。2日間は絶対ですからね!」


ある日、いつも通り総裁公邸の執務室で仕事をしていると、筆頭秘書官のセリカが珍しく怒ったような顔で入って来て、冒頭の言葉を発した。


「――いや、しかし仕事が……」

「そんなこと言って、この前の兵棋ひょうぎ演習の後に作った休暇も、結局働いていたじゃないですかっ!いいですか、手帳に“休暇”と書いておけば、それで休んだことにはならないんです!実際に休まなくては!」


こ、こんなに怒っているセリカは初めて見た……。

セリカは、私の筆頭秘書官であるが、その前に私の従姉妹いとこでもある。

ちなみに、私より年齢は上だ。

普段はとても礼儀正しく有能な秘書官である彼女が、ここに来て突然、従姉妹――いや、姉としての姿を見せた。


「だ、だが、我が種族の未来が……。理想郷の建設が……」

「私は、誰かが休みなく働き続けないといけない国を、理想郷なんて呼びたくありませんっ!それにいいですか、リヒトさま。もしリヒトさまが倒れれば、それこそエルフの未来はお先真っ暗なんですよ!!私たちが滅んでも良いんですか!?」


――ぐうの音も出ないな……。


確かに、最近は疲労が溜まっていて、ジンにもリヴィアにもルノアにも、休め休めと言われている。

クオンに至っては、仮面のような完璧な笑顔で「休んでくださいね。それ以上、申し上げることはありません。」と告げられてしまった。

この辺りが、年貢の納め時か……。


「わ、分かった、分かった。セリカ、今度は本当に休むから、2日間のスケジュールを調整して空けてくれ。」

「本当ですよ?私、きちんと確認しますからね!」


流石に、ここまで言われて働くほど愚かではない。

私はまだ60代と、1,000年の寿命を持つエルフの中では極めて若いため、無理しても身体は付いてくるが、精神的な負荷についてはその限りではない。

言われてみると、段々と怖くなってきた。


そう言う訳で、急遽2日間の休日が湧いて出ることになった。






休暇の1日目は、総裁私邸にて読書をしながら過ごすことにした。


アドランシェ氏族は、エルフ社会における歴史や知識を本にまとめ、次代に継承する役割を担う一族である。

そのため、私の私邸にはエルフ社会にしては膨大な数の本がある。

もちろん、私の前世における国立図書館のような規模には遠く及ばないが……。


また、人族の街に潜入した諜報員たちが買い上げて送ってくる本もあり、人族の文化や歴史について学ぶには良い教材にもなる。


私が読書をするために私邸を歩いていると――




「あ!お兄さま!おうちにいるなんて珍しい!」


振り返ると、私と同じ灰色の髪に赤い瞳が特徴の女性――妹のユウナが立っていた。


「ユウナ、久しぶりだな。学校の方はどうだ?」

「順調だよー!ねえ、聞いてお兄さま!この前、うちの生徒からプレゼントをもらったの。押し花で作った絵画だよ!私の部屋に飾ってあるから見て欲しいなー!」


ユウナも今となってはすっかり大人になった。

そして、40年前には想像もできなかったが、なんと学校の教師として働いている。

教えている教科は、確か大陸共通語と歴史だったはずだ。


あれだけ勉強嫌いだったユウナが教える側に回るなど、40年前の私に話したら「寝言ねごとは寝て言え」と一笑に付すだろう。


それが今では、生徒からプレゼントを貰えるくらい、愛される教師になった訳だ。


「それは良かった。私はこの後、読書を―――」


そこまで言いかけて気付いた。


読書は、仕事の延長線上ではないか……?


今日は、人族の歴史――特にグラン・シエル帝国の中央集権体制がどのように崩壊したのか、自分なりに調べてみようと思っていたのだが、よくよく考えると、これではいつもと変わらない。

これは、セリカに怒られるやつだ。


それに、せっかくユウナと会えたのだ。

久々に、兄妹で会話を楽しみたい。




「―――と思ったが、久々にユウナと話したくなったな。その押し花の絵画、今から見せてもらえないか?」

「え!!お兄さま、今日はお休みなの!?やったー!じゃあ私の部屋でお話しよう!私、お茶を入れてくるね!」


ユウナはそう言って、お茶を持ってくるべく、廊下を走り出した。


うーん、やっぱりこの辺り、ユウナはユウナだ……。


私は、妹とは言え女性の部屋に勝手に入る訳にはいかないので、ユウナの部屋の前に立って待つことにした。

妹の部屋の前で所在なさげに突っ立っている最高指導者――公には、絶対に見せられない姿である。






「それでね!この前の郊外学習の時に、ブルアくんという生徒がね、金色の蝶を見つけたんだよ!綺麗だったなぁ。なんて名前の蝶なんだろ?」

「金色の蝶か……。月光蝶げっこうちょうか、その亜種かもしれない。珍しいな。それで、捕まえたのか?」


月光蝶とは、エルフの森に生息する希少な蝶だ。


「ううん、捕まえようとしたら、逃げられちゃった。ブルアくんも残念がってたなぁ。」

「それは惜しいことをした。だが、それも経験だろう。そう言えば、ユウナも昔、庭先にいた珍しい小鳥を捕まえようとして失敗し、落ち込んで泣いたことがあったな。」


あれは確か、私が13歳、ユウナが8歳の時だった。


「そ、そんなこともあったような……?でもでも、今なら泣かないよ!落ち込みはするかもだけど……」


小鳥を取り逃がして泣く大人がいたら困るぞ……。


「あ、お兄さま!ごめんなさい!実はあと少しで出かけないといけなくて。今日はありがとう!久々にお兄さまとゆっくりお話できて楽しかった!」

「気が付けばもうこんな時間か。こちらこそ、今日はありがとうな、ユウナ。良い気分転換にもなった。我が妹が学校で頑張っていることも分かったしな。何か困ったことがあったら遠慮なく言うんだぞ。」


「はーい!」と言うユウナに別れを告げて、私は妹の部屋から帰ることにした。


せっかくだし、今日はこのまま母上にも会って、家族団欒かぞくだんらんの日にしよう。


そう心に決めて、母上の私室がある1階へと向かうべく、階段に向かって歩き出すのであった。




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