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エルフが築く世界帝国 〜滅びの運命から始める反逆記〜  作者: 神田川 秋人
第3章 岩窟で笑う王

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第48話 中央飛行場




陸軍の閲兵式えっぺいしきを終えた2か月後、今度の私は、ウルスタインから飛竜で西へ1時間ほど飛行した場所にある、総合演習場へと向かう準備をしていた。


総合演習場は、エルフの森の中でも最深部に位置しており、人族の侵入はまず考えられない立地にある。

そのため、陸軍と空軍の統合演習の場所として用いたり、ウルスタイン近郊にある陸軍演習場や中央飛行場では実施できない、比較的危険度の高い訓練や秘匿性の高い訓練を行うために利用している。


今回の視察も、そうした訓練を見学するためのものだ。




総裁公邸の執務室を出ると、リヴィアと廊下で鉢合わせした。

ちょうど良いタイミングである。


今日は、身辺警護隊長である彼女が、直々に私を護衛――というのは半分建前で、一緒に訓練を見学するべく、総合演習場へと向かうことになっていた。


「リヴィア、ちょうど良い。探そうとしていた所だ。」

「こっちもよ!久々に飛竜に乗れるし、楽しみで仕方なかったわ。」


リヴィアは、ジンの妹というだけあって、やはり飛竜が大好きである。

ここ数年は私の身辺警護の仕事が忙しく、以前に比べて飛竜に乗る時間が少なくなっただろうから、私も気に病んでいたところだ。

無論、私も飛竜に騎乗するのは楽しいので、実は今日という日を楽しみにしていた。


「よし、ではまずは中央飛行場へと向かおう。」

「りょーかい!すぐに風力自動車を手配するね!」


リヴィアはそう言って、近くにいる部下に声をかけて指示を伝えた。


そのままリヴィアと共に、総裁公邸の玄関を出ると、ちょうど風力自動車がやって来た。

後部座席のドアを開けて、2人で乗り込む。


「空軍の中央飛行場まで頼む。」


私が運転手に声をかけると、すぐに車は走り出した。






30分ほど走ると、ウルスタインの近郊にある中央飛行場へと到着した。


すると、秘書官経由で予め訪問を伝えておいたため、すぐに基地司令とその随行員たちが出迎えてくれた。


「総裁閣下!お待ちしておりました。」

「基地司令自らとは申し訳ないな。本日の総合演習場の視察は、ここにいるリヴィアと2人で飛竜に騎乗して向かうことにする。サリアとカーチスのいる竜舎りゅうしゃへ案内してくれ。」


基地司令はダートネス氏族の出身なので、もちろん私とリヴィアが一線級いっせんきゅうの飛竜騎乗技術を有していることは知っている。


「了解しました。竜舎まで少し遠いので、風力自動車をお使いください。」

「いや、自分の足で歩くことにする。中央飛行場の様子も確認したいしな。」


基地司令の申し出を断り、リヴィアと一緒に歩くことにした。


竜舎へと向かいながら、中央飛行場の離発着場の方に目をやると、飛竜たちが絶え間なく離陸と着陸を繰り返している。

訓練飛行と哨戒飛行、その両方だろう。




さらに歩くと、今度は明らかに飛竜に不慣れそうな集団に出くわした。


「彼ら、彼女らは――ああ、そうか。空軍飛竜学校の訓練生か。」


空軍飛竜学校とは、文字通り、飛竜の騎乗技術を学ぶ学校である。


私が総裁に就任して真っ先に着手した改革の1つに、飛竜学校の設立がある。

これまでは、ダートネス氏族の中だけで、師弟してい制度を基本とした騎乗技術の継承が行われていた。

しかし、そのやり方では効率も悪く、何よりダートネス氏族だけでは数を揃えることができない。


そこで、ジンにも協力してもらい、ダートネス氏族以外でも飛竜の騎乗技術を学ぶことのできる学校を設立した。

目の前の訓練生は、おそらく今年の新入生だろう。


「おっしゃる通りです。総裁閣下。今年の新入生は、約半分がダートネス氏族以外の出身になったとか。これは、同じダートネス氏族として、負けていられませんな。」

「―――わ、私も負けないからっ!」


基地司令が快活に笑った。

あと、相変わらずリヴィアは、飛竜になると負けず嫌いだな……。


もしこれが人族であれば、主流派であるダートネス氏族と、反主流派であるダートネス氏族以外で分かれ、熾烈しれつな派閥闘争が繰り広げられている所だが、エルフ社会においてはあまりそう言うものがない。


私は、同じ民の中で、不必要な対立や格差が生まれるのが大嫌いなので、エルフたちが持っているこの気質については心の底から愛している。




そうこうしているうちに、竜舎へと到着した。

かつては粗末な小屋だった竜舎も、今では煉瓦れんが造りの大型竜舎が何棟も建ち並ぶまでになっている。


その中の1棟に入り、お目当ての竜房りゅうぼうへとたどり着く。

そこには、私の専属飛竜であるサリアと、リヴィアの専属飛竜であるカーチスがいた。


2匹とも私たちに気付くと、嬉しそうに首を伸ばしてきた。

私は、サリアの白い綺麗な鱗を丁寧に撫でた。

隣では、リヴィアもカーチスの赤い鱗に手を当てている。


さすがに総裁就任前よりは大分減ったが、私は今でも暇を見つけたり、あるいは半ば建前を用意しては、こうしてサリアに会って一緒に空を飛ぶようにしている。

気がつけば、私もリヴィアに負けず劣らないくらい、飛竜大好きエルフとなっていた。




基地司令も忙しいだろうから、恐縮する彼を半ば無理やり帰らせ、リヴィアと2人で飛行準備を行うことにした。


お互いに慣れた手つきでくらあぶみ手綱たづなを装着し、竜笛りゅうぶえを首から下げる。

そして、そのままサリアとカーチスを連れて、中央飛行場の離発着場へと歩いた。


「こうしていると、昔を思い出すわね。あの頃はよく、リヒトと一緒に飛行訓練にはげんだっけ。」


隣を歩くリヴィアが声をかけてくる。


「そうだな。あの頃からリヴィアは負けず嫌いだった。竜追りゅうおいで負けた時、手旗信号てばたしんごうで無念、無念、無念と伝えて来たのは、今でも覚えているぞ。」

「そ、それは忘れてよ、もう!!私だって成長するのよ!?今はそんなことやらないわ。」


本当かな?

まあ、確かに、私もリヴィアもすっかり大人になった。

リヴィアはもともと美しかったが、今では見慣れた私でも時折ハッとするほどの美人になった。

その快活な性格もあって、実は総裁公邸の事務官にもファンが多い。


「はは、分かっているさ。もちろん冗談だ。私なりの照れ隠しだと思って欲しい。」

「…………私とリヒトの仲で、何を言っているんだか。」


そんなことを言いつつも、顔が赤いぞ、リヴィア。


総裁という肩書きを下ろすことのできない私にとって、リヴィアは数少ない、心から本音で話せるエルフだ。


とても大切な女性ひとだ。


私はそのことを、片時たりとも忘れたことはない。


「君が側にいてくれるから、私は前を向いて戦うことができるのだ。これからもよろしくな、リヴィア。」

「当たり前じゃない。例え、クビだって言われても、リヒトが心配だから付いていくわ。」


リヴィアを遠ざけるなど、自分の腹を割いて内臓を取り出すくらいの覚悟が必要だろうな。




離発着場に付いた私とリヴィアは、それぞれサリアとカーチスにまたがり、竜笛で離陸を指示した。 


あっという間に飛行場が小さくなり、ウルスタインの街並みを眼下に収めることができた。


煉瓦造りの公共建築と木造の家屋が建ち並び、建物の間を風力自動車が走っている。

そして、広場には市場が開かれており、たくさんのテントが密集していた。


街の中心には、河岸段丘の高低差を効率よく移動するための、風力を用いたケーブルカーも走っている。


河沿いに目をやると、風車が連なって設置され、勢いよく回転している。

その脇には、見渡す限りの田畑が広がっていた。


「やはり、良い街だな。」


この光景を見るのも、飛竜に乗った時における、私のひそかな楽しみである。


私とリヴィアは、少しだけウルスタイン上空の空中散歩を楽しんだあと、総合演習場へと向かうべく、サリアとカーチスに西へと飛ぶよう指示を出した。




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