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エルフが築く世界帝国 〜滅びの運命から始める反逆記〜  作者: 神田川 秋人
第2章 16氏族の決断

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第42話 16氏族の決断




「氏族長の皆さん、よろしいでしょうか。」


私は、氏族長たちに声をかける。


「状況は聞いての通りです。敵は既に野営の準備を始めており、湖畔で一夜を明かすつもりです。しかし、湖畔からこの集落までは徒歩で1日しか離れておらず、目と鼻の先と言えるでしょう。今からエルフ全員を避難させるのは、到底不可能です。」


私は、事実をそのまま指摘した。

そして、いま一度提案を行う。


「彼らを今すぐ叩かなくては、我が同胞たちに大量の死傷者が出ます。捕獲され、奴隷として売られる者も大勢出るでしょう。」


一拍おいて




「そこで、私は再度提案します。この緊急事態に対処するため、殺傷目的による風魔法の行使を禁止する戒律の廃止について、賛成の方は挙手をお願いします。」

「なっ―――!!」


テネス殿が、驚きの声を上げて立ち上がった。


「リヒト殿っ!!このどさくさに紛れて、何を言い出すか!それより、祭祀さいし目的以外で飛竜を飛ばしたことについて、納得のできる説明をせよ!」


私は、テネス殿の抗議の声を無視して、氏族長全員に意思表示を促した。


すると――






テネス殿を除く1()6()()()()()が、賛成の挙手をした。


その中には、テネス殿と並ぶ守旧しゅきゅう派――ガスト殿の姿もあった。


「なに!?ガ、ガスト……?お前まで、一体どうしたのだ!?」


まさかの裏切りに、テネス殿が大きく動揺した。

ガスト殿は口を開く。


「すまない、テネス……。私は、リヒト殿の提案に賛成することにした。」


テネス殿は、まるで信じられない光景を目の当たりにしたように、目を見開いていた。


ガスト殿は、ゆっくりと口を開く。




「なあ、テネス……。先月、私の孫に、初めての赤ん坊が生まれたんだ。金色の髪が綺麗な、かわいい女の子だ……」


ガスト殿のその言葉を聞いて、テネス殿は押し黙った。


「私にとって、初めての曾孫ひまごだ。私が会いに行くと、その小さな手の平で、必死に私の指を握ってくれた……。その小さな口で、必死に乳を飲み、その小さな目で、私をじっと見つめてくれた。」


私は、ガスト殿に初の曾孫が生まれたという情報を聞き、最後の説得に向かった。


すると、ガスト殿は、まるで私が訪ねて来ることが分かっていたかのように、黙って曾孫の元へと案内してくれた。




そこには、自分が地獄に生まれたことなど、まだ知らない、穏やかで無垢むくな寝顔があった。




「本当は、分かっていたんだ……。リヒト殿の言うことが正しいと。時代は、我々に変化を求めていると。しかし、私は自分のこれまでの考えを否定するのが怖かった……。エルフ社会の変化を受け入れるのが、恐ろしかった……。」


いつの間にか、ガスト殿は滂沱ぼうだの涙を流していた。


「私は、曾孫の未来を守りたい……。なあ……テネス……我が友よ。どうか、リヒト殿の提案に賛成してくれ……。私と一緒に、これからもエルフ社会を支えよう……。お願いだ……。頼む……。」


気がつけば、ガスト殿はまるで神にゆるしをうかのように、頭を地面に着けて崩折くずおれていた。

その顔は、涙でぐしゃぐしゃになっている




「ガスト……お前……。」


テネス殿は、そんなガスト殿の様子を初めて目にしたのか、固まったまま動かない。


私は、テネス殿に、最後の翻意ほんいを促した。




「テネス殿。最後にもう一度だけお願いします。私の提案に、賛成していただけないでしょうか?」


私の呼びかけを受けて、テネス殿は苦しそうにうつむいたあと――






「―――断る。」






そう、返事をよこした。

私は、問い返す。


「その決断により、多くの同胞の命が奪われるとしてもですか?」


しかし、テネス殿は譲らない。


「それでもだ。殺傷目的による風魔法の行使を禁止する戒律は、我々エルフにおける、平和の根幹だ。その根幹を崩し、平和を捨て、暴力と共に生きるくらいなら、平和を愛したまま滅んだ方が幸せだ。」


ある意味で、テネス殿は真っ直ぐだな。

純粋で、怖いくらいに。






「わかりました。」


私は、もはやテネス殿の説得は不可能だと判断した。


静かに、手元にある呼び鈴を持ち上げて、振り鳴らす。


すると――






「な、なんだお前たちはっ……!?」


テントの入口を突き破るような勢いで、若いエルフが8人駆け込んできた。

私が議長として、氏族長会議の警護のために連れて来たアドランシェ氏族のエルフたちだ。

後ろには、先ほどテントを出ていったセリカの姿もある。


そして、8人のエルフたちは、そのままテネス殿と、その次期氏族長として控えていたテネス殿の息子を椅子から引きずり降ろし、床に組み伏せて拘束する。

テネス殿は――テネスは、ろくな抵抗もできずに、両手を後ろ手に縛られた。




「テネス」


私は、床に転がるテネスに呼びかける。


「貴様には、同胞のエルフを人族に引き渡した容疑がかけられている。従って、貴様を拘束させてもらう。最終的な審判は追って氏族長会議の場で行うが、それまでは懲罰房に入っておけ。」

「なっ―――!?」


テネスは、抵抗の言葉を発するが、私が片手を挙げると、テネスを拘束していた1人が布で口を塞いだ。


「連れて行け。」


私の言葉を合図に、テネスを含む2人はそのまま、両脇と前後をエルフ4人ずつに挟まれて、氏族長会議用のテントから引きずり出されていった。


私は、ジン殿に目配せする。

すると、ジン殿は頷いて指示を出した。


「リヴィア。お前はヴェスタと手分けをして、直ちに人を連れてハイライン氏族の集落に急行し、残りのドーヴァ・ハイライン家の人間を全て拘束しろ。」

「あ、兄貴……!」


リヴィアは動揺し、私の方を向くが、私は心を鬼にして頷いた。

真剣な目で、リヴィアを見つめる。


「―――わかった。」


すると、リヴィアは苦しそうにしつつも、了承の返事を残し、テントから出ていった。


テネスの件は、ガスト殿の説得が完了してからすぐに、テネス殿を除く氏族長全員で会議を開催した。

そして、領都レスターでの証言と、持ち帰ったミレイ殿の奴隷鑑定書と髪の毛を証拠として提出し、全会一致で拘束決議を行ったのだ。

もし、テネスが私の改革案に賛成するようであれば、温情を与えることも検討したが、それも潰えた。


刑罰は追って審議するが、結果として195人ものエルフを死地に追いやったのだ。

間違いなく、死罪となるだろう。

ドーヴァ・ハイライン家も取り潰しになる。






これで、私に立ち塞がる者はいなくなった。


「では、皆さん。氏族長会議をどうするか話し合いましょう。」


私は、私を含む()()()1()6()()()の氏族長に呼びかける。


「テネスが拘束されたことで、ハイライン氏族の氏族長が不在となりました。この場合、どうなりますか?」


すかさず、アンフェム殿が答える。


「氏族長は、もともと氏族と同じ数――つまり68人いました。それが氏族の滅亡と共に数を減らしてきた訳ですが、それでも氏族長会議は残った氏族長たちだけで進められてきた経緯があります。それを踏まえると、ハイライン氏族長が不在であっても、残った氏族長が全員揃っていれば、氏族長会議の機能は十分に認められるかと思います。」

「―――とのことです。アンフェム殿の見解に、異論のある方は?」


ここにいるのは、全員が私の派閥の者だ。

当然、誰からも異論は出ない。




「それでは、氏族長会議を続けます。まず、殺傷目的による風魔法の行使を禁止する戒律の廃止について、賛成の方は挙手をお願いします。」


すぐに全員が挙手をした。

あれだけ私を悩ませていた問題は、あっさりと片付いた。


その後、私の掲げる改革案――氏族長会議における決議要件を全会一致から過半数に改める案、不要な戒律の廃止、飛竜と一角獣ユニコーンの無制限運用などを次々と可決させていった。


そして、最後に――






「現在直面している、我々エルフの滅亡を避けるため、意思決定の迅速化を図ることを目的として、エルフ全体を統括する“()()”という役職を設けます。賛成の方は挙手をお願いします。」


これも、全員が挙手をする。

私の密かな悲願であった、総裁職の設立が可決された。


総裁の主な権限は2つ。


1つは、氏族長会議の決定に相当する総裁令の発令権。そして、もう1つは、氏族長会議の決定に対する拒否権である。


前者の総裁令を無効化するには、氏族長会議の過半数、後者の拒否権をくつがえして再決議するには、氏族長会議における3分の2以上の賛成が必要になる。




「ありがとうございます。それでは、初代総裁として、私、リヒト=ローネル・アドランシェが立候補します。賛成の方は挙手をお願いします。」


これも、全員が挙手をした。


この瞬間、エルフ社会は事実上、総裁――私による独裁という政治体制に変貌した。






「ご指名、ありがとうございます。初代総裁に就任した、リヒト=ローネル・アドランシェです。私は、我が種族に迫る危難きなんを払い除け、エルフを滅亡から救うため、私の持つ全ての知識と能力を捧げることを、ここに誓います。」


私は、居並ぶ氏族長たちに挨拶した。

そして、けじめを付けるため、()()()()調()()()()()




「それでは、早速だが、総裁令第1号を発令する。ジン、クオン!!」

「―――おう!!」

「―――拝聴します。」


私に呼ばれ、ジンとクオンが返事をして立ち上がる。


「夜明けと共に、騎士団の野営地を奇襲する。直ちに自らの集落に戻り、動員できる全ての飛竜と一角獣ユニコーンを準備せよ。ジンは、日の出と共に進発し、飛竜を率いて森側から襲撃しろ。」

「わかった。任せておけ!」


ジンが頷き、テントから出ていった。

そして、クオンに対しても命令を出す。


「クオンは、準備が整い次第、一角獣ユニコーンを率いて集落を出発し、夜間行軍で河川を遡上して湖に到達せよ。その後は部隊を半分に分け、半分は湖上こじょうで待機。もう半分は下馬げばして森に潜ませろ。」

「はい、承知しました。」


私は続ける。


「その後、飛竜による攻撃開始を合図に、湖上から野営地を包囲するように襲撃する。その際、必ず森の中に逃げ延びる者が現れるので、森に潜ませた部隊で追撃し、1人残らず殲滅しろ。」

「拝命しました。リヒトさまの、ご命令通りに。」


クオンも深々と頭を下げ、テントから出ていった。


この5年間の努力により、飛竜と一角獣ユニコーンに騎乗できるエルフは大幅に増え、それに伴って、飛竜と一角獣ユニコーン自体の生育も順調に進んでいる。


現在、飛竜、一角獣ユニコーンともに150騎ずつ動員が可能だ。


「それと、セリカ。アドランシェ氏族の()()()()に動員通達を行え。夜間のうちにできるだけ接近し、討ち漏らした残党を狩り尽くす。情報を持ち帰らせないためにも、1人も生きて帰すな。」

「―――はっ!!」


例の部隊とは、将来的な戒律廃止を見込んで、我が氏族内で秘密裏に風魔法による戦闘訓練を行ったエルフたちのことを指す。

訓練はルノアの家――風魔法の大家たいかであるエルミス・アドランシェ家の協力を仰ぎ、現在200人程度が動員可能だ。


夜間の森林行軍など、人族であれば狂気の沙汰さただが、そこは森の民であるエルフ。

エルフが住む森は、昼間でも樹に陽光が遮られて暗いので、エルフは人族に比べて夜目が利く。

しかも、ここは我々の庭――エルフの森だ。

夜間の森林行軍も十分に可能だろう。






先ほど、100人規模の騎士団が集結しているという報告を受けた時、多くの氏族長が慌てふためいていたが、全く動揺していない氏族長が少なくとも3人いた。


私と、ジンと、クオンだ。


はっきり言って、全てのかせを外された今の私たちにとって、()()()100人程度の騎士など相手にもならない。

幼児と喧嘩をするようなものだ。




想像してみて欲しい。


野営用の天幕で寝ていると、外にいる見張りから「敵襲だ!!」という声がする。


こんな森の中に敵なんている訳ないだろ……。


そう思いながら、眠気まなこをさすりつつ、天幕から顔を出す。


すると、誰もいないはずの()()()()、視界を覆い尽くすかのような数の飛竜が羽ばたいており、そこに跨ったエルフが雨のように風魔法を降らせてくる。


同時に、誰もいないはずの()()()から、津波のように一角獣ユニコーンとエルフが迫ってくる。


こちらには、逃走に用いる馬も無ければ、僅かでも身を守ってくれるよろいもない。


しかも、明け方の奇襲により、見張り以外の仲間は夢の中だ。




――自信を持って断言しよう。


30分と保たずに、ジンとクオン、そしてセリカが率いる奇襲部隊が、人族の騎士団を殲滅すると。


ゆえに、この問題はほぼ片付いたも同然だ。




氏族長会議用のテントを出ていったジンとクオン、セリカを見送り、残った氏族長たちに向き合う。


「そう言えば、総裁としての当面の目標を、まだ全員の前では伝えていなかったな。」


私の言葉に、その場にいる全ての氏族長が息を飲んだ。

私は、そんな彼らに宣言する。






「私は、必ずや()()()()()()し、祖国を再興する。そして、築き上げてみせる。もう誰にもおびやかされることのない、エルフによる、エルフのための理想郷を。」




【第2章 16氏族の決断 完】



■あとがき

当作品をお読みいただきありがとうございます!

いつも応援してくださる読者の皆さまのおかげで、ここまで来ることができました。


もし「続きが気になる!」「本作を誰かにおすすめしたい!」という方がいましたら、今後の連載の励みとさせていただきますので、ページ下の『ポイントを入れて作者を応援しよう!』から星(☆)で評価やフィードバックをいただけると嬉しいです!




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ほんとこっからって感じだね!楽しみ
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