第4話 冒険者
ルノアと妹の声がした方に向かうと、3人の男の姿が見えた。
剣で武装した男が2人、クロスボウで武装した男が1人だ。
3人に見つからないよう、木陰に隠れて様子を探る。
『いやー!まさかこんな所にエルフの女が2匹もいるとはな!俺たち、本当についているぜ!』
『まったくだ。しかも見てみろ!2匹とも美人だ。美形揃いのエルフの中でも、飛び切りだぞ!』
『これで一攫千金だ!!』
――大陸共通語だ。
大陸共通語とは、人族の言語である。
まだエルフと人族の間に交流があった際、氏族長はエルフを代表して、人族の使節団を歓待する必要があった。
そのため、氏族長とその一族は、大陸共通語の習得が必須とされている。
今はもう、人族との交流は絶えて久しいが、当時の習わしは今でも残っていて、次期氏族長である私も大陸共通語を習得している。
「ゔー!ゔゔゔー!ゔーん!」
「――ユウナちゃん!!このっ!さ、触るな!」
妹は既に両腕を縛られた上に、口に布を巻かれており、ルノアの方も男2人に捕まって、今まさに両腕を縛られようとしている。
2人とも服を着ている所を見ると、着替え終わって心の隙ができた所を冒険者に狙われたのだろう。
『いやー、それにしてもエルフは本当に都合の良い種族だよ。働かせて良し、抱いて良し、殺してエリクサーにしても良し。まさに、光の女神さまが俺ら人族に与えてくださった恵みだな。』
『ま、死ぬまで扱き使って、死んだらエリクサーにするのが一番効率的だけどな!』
『しかも、戒律だか何だか知らないが、お得意の風魔法も殺傷目的では使えないと言う。野生の猪の方がまだ抵抗するぜ。』
何とも好き勝手言ってくれるが、最後の言葉には同意するな。
まったく、この場にルノアと妹しかいないのは幸いだった。
私は2人を助けるべく、隠れていた木陰から離れ、男たち――冒険者たちの元へとゆっくり歩き出した。
『2人を離してくれませんか。』
大陸共通語で呼びかける。
目的は、冒険者たちをルノアと妹から引き離すためだ。
特に、2人の前にいる、剣で武装した冒険者は、そこに立たれていると《《邪魔だ》》。
『ああ?』
冒険者たちが振り向く。
そして、目を丸くして驚いた。
『まじか!!まさかの3匹目だぜ!今度は男のエルフだ!』
『おいおい!まさか自分から出てくるとはな!さっきエルフを野生の猪と比べたが、あれは猪に失礼だったな!エルフは家畜、まさに家畜だぜ!』
『ぶっ……!お前それ、例えが秀逸過ぎるだろ。』
その場で笑い出す3人の横で、ルノアと妹が信じられない物を見る顔で私を凝視していた。
おおかた、「何で出てきたの!?」と思っているのだろう。
冒険者たちはひとしきり笑ったあと――
『おい、お前。さっさとやれ。』
『分かってますよーっと。』
そんな会話を交わし、ルノアと妹の前にいた、剣で武装した1人が近づいて来る。
当たり前だが、2人を解放する気はないようだ。
男の方が女より力が強いのは、エルフも人族も共通である。
おそらく、男の私については、念のためにある程度痛めつけて、抵抗力を削いでから捕縛しようと考えているのだろう。
下卑た笑いを浮かべながら近づいてくる。
『いやー、でも少しだけ同情するよ。エルフは戒律により、殺傷目的で風魔法が使えないんだろ?自ら殺してくれ、捕まえてくれと言っているみたいだぜ。』
『ええ、そのご意見には同意します。』
大陸共通語で返事をする。
目の前の男がピクッと反応した。
まさか返事が返ってくるとは思わなかったのだろう。
私に対する警戒心が高まったのを感じる。
『――お前、なぜ大陸共通語を……!?しかも、その話し方は貴人語……?やはり、さっきのは聞き間違いでは無かったのか……!』
貴人語……?
少し気になるが、今はそれどころではないため、無視して続ける。
『同意することは他にもあります。“野生の猪の方がまだ抵抗する”というフレーズです。』
『……………………』
男は無言で腰の剣に手をやり、ジリジリと距離を詰めて来た。
『そっくりそのままお返しします。私にとっても、貴方たちと猪に大差はありません。共に狩りの対象です。』
『―――こいつっ!!』
俺のことが不気味になったのだろう。さっさと終わらせようと、鞘の付いたままの剣を振りかぶり、突撃してきた。
エルフの風魔法は、世界樹の力によってもたらされる。
今は、世界樹の麓にあった祖国を失って久しいが、例え距離が離れていても、エルフと世界樹は根源でつながっている。
エルフが呼びかければ、世界樹は必ず応えてくれる。
使用する言語は古代エルフ語だ。
『骨の1本や2本はいただくぜー!!』
私は、目の前の冒険者に向けて手を伸ばし、口を開いた。
『ラー・エリス・ル・スティングレー (世界樹の風よ、目の前の敵を貫き給え)』
圧縮された風の刃が、超高速で駆け抜ける。
それはもはや、衝撃波と言っても良かった。
『―――ふへ?』
風の刃は、目の前の男を肩口から腰にかけて、斜めに両断した。
男の上半身は、空気の漏れたような声を発したままその場に落ち、下半身だけが数歩進んだ後、同じく倒れる。
地面に血だまりが広がった。
私の呼びかけに世界樹が応え、風魔法が発動したのだ。
「―――少しだけ、返り血がついたな。」
私は、服の袖を見ながら静かに呟き、唖然として固まっている、残りの冒険者2人の方を向いた。




