第3話 幼馴染
妹の遊んで攻撃を何とかやり過ごした私は、日課の鍛錬をするため、我が氏族における風魔法の大家、エルミス・アドランシェ家を訪れていた。
まあ、家といっても、私たちは流浪の民なので、簡素なテントではあるが。
そのテントの横にある呼び鈴を引こうとすると――
「あー!!リヒトだー!」
横から声をかけられる。
そちらを振り向くと、銀色の髪と青い目が特徴の少女――ルノアがぶんぶんと手を振っていた。
「今日も僕の家で鍛錬かー!相変わらず真面目だね〜。」
そう言いながら近づいて来て、私の肩をバシバシと叩く。
このルノアという少女は、私と同い年のエルフで、いわゆる幼馴染というやつだ。
彼女は、今まさに呼び鈴を引こうとした風魔法の大家、エルミス・アドランシェ家の一人娘である。
ちなみに、エルフ社会における名前は“個人名=家名・氏族名”という順番で名乗られる。
私やルノアの所属する氏族名はアドランシェなので、私の場合は次のようになる。
リヒト=ローネル・アドランシェ
これが、私の正式な名前である。
同じく、ルノアの場合は、ルノア=エルミス・アドランシェが正式な名前となる。
妹の場合は、ユウナ=ローネル・アドランシェだ。
「ルノア、私はアドランシェ氏族の後継者なのだ。風魔法において、より高みを目指すのも、次期氏族長たる私の役目だ。」
やけに距離感の近い幼馴染をあしらいつつ、そう答える。
「やっぱり真面目なんだから〜。ねえ、ユウナちゃんと一緒に遊ぼうよ!」
そう言って、私の妹を巻き込んで遊びに誘って来る。
――私がいまだに理解に苦しむのがこれだ。
我らエルフが滅びの淵に立っているのは間違いないはずなのに、大人も子供も妙に危機感が薄いのだ。
平和を愛する種族と言えば聞こえは良いが、もう少し危機感や反骨心を持っても良いだろうに。
「鍛錬が終わってからな。お父上を呼んでくれ。」
「えー。しょうがないなぁ……」
不満そうなルノアを促し、師匠――ルノアの父親を呼んでもらう。
その後、いつも通り風魔法の鍛錬を行い、自宅でこれまた妹をあしらいながら、勉強をして就寝した。
翌日、私は幼馴染のルノア、妹のユウナと一緒にピクニックに出かけていた。
この日はエルフの戒律により休息日と決められており、家事以外の労働や狩猟、勉強までもが禁止されている。
森と大地の恵みに感謝し、1日を穏やかに過ごすのだという。
私からすれば呑気の極みであり、本当であれば無視して勉強や風魔法の鍛錬をやりたいのだが、戒律を破ると懲罰を受ける可能性がある。
私は紛れもなく、アドランシェ氏族の次期氏族長ではあるが、現時点ではあくまで後継者の立場でしかなく、政治的権力はない。
しばらくは、このくだらない戒律に従うしかないのだ。
「まったく、我が種族は戒律が多すぎる。」
「え?リヒトー!何か言った?」
隣を歩くルノアが聞き返してくる。
「……何でもない。それよりほら、籠を持ってやろう。」
「ほんと!?ありがとう、リヒトー!」
「ありがとう!お兄さまー!」
いや妹よ、お前には何もしてやっていないぞ。
私はルノアから食べ物が入った籠を受け取り、妹の手を握りながら、ピクニックの目的地である集落外れの湖へと歩いた。
湖畔に到着したので、景色の良い高台にある岩に腰かけ、昼食をとる。
ルノアから受け取った籠を開けると、野鳥の肉を焼いたものを、木の実を砕いて作ったクッキー生地で挟んだ料理が入っていた。
エルフ社会におけるサンドイッチみたいな料理で、外出時の携行食としてよく作られている。
「わー!!美味しそー!」
「お兄さま!早く食べよー!」
ルノアと妹がはしゃいでいる。
まあ、確かに美味しそうだ。
「世界樹の恵みに感謝を。」
3人で祈りの言葉を呟き、食べ始める。
……ユウナよ、さっそく口の周りに食べ物が付きまくっているぞ。
私は妹の口元を拭いながら、ルノアと話をしたり、ユウナに初歩的な風魔法を披露したりしながら過ごした。
とても穏やかで、温かい時間だった。
昼食後、湖で水浴びするという2人を置いて、私は森に入っていた。
2人はあまり気にして無いようだが、妹はともかく、ルノアと一緒に水浴びする訳にもいかない。
どうせ体を拭く物も持って来ていないだろうから、柔らかくて丈夫な葉っぱでも探しておいてやろう。
エルフは森に特化した種族なので、葉の数枚程度、余裕で見つけることができる。
早速、お目当ての葉を見つけたので、採取しようと手を伸ばしたその時――
「きゃゃゃあぁぁぁー!!」
「――!?この!ユウナちゃんを離せっ!」
森の外、湖の方から、妹の叫び声とルノアの怒声が聞こえてきた。




