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エルフが築く世界帝国 〜滅びの運命から始める反逆記〜  作者: 神田川 秋人
第2章 16氏族の決断

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第29話 平和と共存




「―――リヒト殿、安心されよ。貴殿の心配は杞憂きゆうに終わる。本当は、()()()()()()()黙っているつもりだったが、これだけ多くの氏族長が胸を悩ませているのだ。この場で共有するとしよう。」


突然、テネス殿が重い口を開いた。




いったい、何の話だろうか?


「テネス殿、成果とは……?いったい、何の話をされているのですか?」


私は疑問をぶつける。

すると、テネス殿は驚くべきことを口にした。


「無論、我々エルフが、人族と争わずに滅びの運命を回避する方法だ。」

「―――!?」


私は、思わず立ち上がってしまった。

そして、ゆっくりと座り直す。


「――失礼ながら、テネス殿。そのような夢物語が可能な訳がない。いったい、何を根拠にそのような発言をされているのか?」


我慢できず、先の言葉を促す。


「落ち着きたまえ。心配せずとも、順を追って説明する。我がハイライン氏族は、今からちょうど1年前、森の中である手紙を拾ったのだ。」

「―――手紙……?」


エルフ社会にも手紙は存在する。

誰かが、配達の途中に落としたのだろうか……?






「その手紙には、大陸共通語でこう書かれていた。『人族とエルフの共存を図るため、ある取り組みに協力して欲しい』とな。人族の国家であるローレシア王国に所属する、ロイド・マーシャルという辺境伯へんきょうはくの名義でだ。」

「―――な、なに!?」


私は叫んだ。

人族からの接触があっただと!?

同席している他の氏族長たちも、驚きの声を上げた。


「な、なぜ、そのような重大なことを黙っておられた!?」


私は、他の氏族長を代表して、テネス殿を詰問きつもんした。


「私とて、悪いと思っている。だが、このことを氏族長会議で報告すれば、まず間違いなく、全会一致では可決されない。そのため、私の独断と責任において、水面下で接触を図ることにしたのだ。」


隣に座るもう1人の守旧派しゅきゅうはであるガスト殿は、このことを知っていたのか、テネス殿の話を黙って聞いている。


「ま、まさか、人族をハイライン氏族の集落に呼び寄せたのですか……?」


私は、最悪のケースが頭に浮かび、まずはそれを確かめることにした。


「安心せよ。接触は、エルフの集落から徒歩で3日間歩いた所にある湖畔で行った。当然、尾行には最大限の注意を払った。このことが原因で、我らエルフの集落の位置が漏洩することはない。」


さすがに、それくらいの警戒心はあったらしい。


「それで、人族――そのマーシャル辺境伯とは、どのようなやり取りを……?」


話の核心に迫るべく、ストレートに尋ねた。


「マーシャル辺境伯の使者とは、私自らが3回面談を行った。その結果、マーシャル辺境伯は、人族によるエルフへの迫害に心を痛めており、何とか現状を改善したいと考えていることが分かった。」

「―――信じられるものか。」


私は、その言葉をすぐに切り捨てた。

どうせ、人族の甘言かんげんに決まっている。

だが、テネス殿は、そうは思わなかったらしい。


「私も最初は疑った。だが、面談を重ねるうちに、マーシャル辺境伯の本気度が伝わってきた。だから、私はマーシャル辺境伯を信じてみることにしたのだ。」

「バカなことを……」


もはや、礼節など忘れ、私は思ったことを口にする。

テネス殿は、そんな私を一瞥いちべつし、話を続けた。


「マーシャル辺境伯は、ある提案をされた。エルフと人族の共存を目指す取り組みだ。」

「―――その、取り組みの内容とは?」


正直、もう聞きたくもないが、聞かない訳にもいかない。


そして、テネス殿は口を開く。




「マーシャル辺境伯はこう考えた。人族がエルフを迫害するのは、エルフに対する理解が足りないからだと。人は、知らないものに恐怖を抱き、排除しようとする生き物だと。――そして、それを解決するため、エルフと人族の相互理解を促すべく、マーシャル辺境伯領の領都レスターに()()()()()()()()を設け、そこに我らエルフを招きたいと。」






「―――は?」






無意識に、間抜けな声が、口から漏れ出た。


人族の街に、我らの同胞を――エルフを住まわす……?


この男は、いったい、何を言っているのだ。






「私も悩んだ。しかし、まずは相手を信じなくては、事態を打開することはできない。平和とは、相手を信頼する所から始まるのだからな。」




―――待て




―――待ってくれ




―――頼む




「そこで、まずは試験的に、我がハイライン氏族からエルフの代表者を領都レスターに移住させることにした。今から、ちょうど1か月前のことだ。」




テネス殿――いや、テネスは、まるで偉大な決断をしたかのような態度で宣言した。

私は、頭が真っ白になりつつも、反射的に尋ねる。


「いったい……何人のエルフを……送ったのだ……?」


すると、テネスは即答した。






「30世帯、合計195人のエルフだ。大陸共通語が通訳できるよう、団長として私の孫も同行させた。」






―――195人。


195人もの、同胞が……。


きっと、手ぐすねを引いて待っているであろう、人族の街に……。


私は、前世の経験から、人間は必要に迫られれば、どこまでも狡猾こうかつになることを知っている。

おそらく、ここ数年の哨戒しょうかい活動により、通常のやり方ではエルフを捕獲することが難しくなったので、奸計かんけいを用いることにしたのだろう。


私は、あまりの衝撃に言葉も発せず、椅子に深く腰かけたまま、ゆっくりと頭を抱えた。


すると、黙り込んだ私を見て、テネスは自らの取り組みが不十分だと感じたのか、さらなる言葉を発した。






「言いたいことは分かる。30世帯では不足だということは。私としては、将来的に3()0()0()()()まで移住を拡大するつもりだ。」






その言葉を聞いた瞬間、私の中で、何かが弾けた。






「―――ふざけるなっ!!!」


私は、叫ぶと同時に立ち上がり、目の前の机を乗り越えて、テネスに飛びかかった。


そのまま、椅子に座っているテネスを押し倒し、馬乗りになる。


「貴様……貴様は……何ということをっ……!!」


そのままテネスの胸ぐらを掴み、目の前に引き寄せる。


「な、なんだ突然!!乱心したか!?」


テネスも叫び、胸ぐらを掴む私の手を握った。


すると、それを見ていた他の氏族長たちが慌てて駆け付け、私をテネスから引き剥がそうとする。


「やめろっ!リヒトっ!!」


後ろからジン殿に羽交はがいい締めにされる。


「離してくれ、ジン殿っ!!この男は……この男は……!!」

「気持ちは分かるが、落ち着け!こいつを殴った所で、人族の街に行ったエルフは返ってこない!」


しばらくして、騒ぎを聞きつけた他のエルフたちもテント内に入って来て、私はその場に取り押さえられることになった。




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そんな勝手して大丈夫なん?人族の街に移住させるとか。
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