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エルフが築く世界帝国 〜滅びの運命から始める反逆記〜  作者: 神田川 秋人
第2章 16氏族の決断

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第26話 修了試験




クオン殿と言葉を交わした後、私は先ほどまでクオン殿が騎乗していた一角獣ユニコーンに近づく。


私の専属飛竜であるサリアと異なり、私は自分専用の一角獣ユニコーンを与えられてはいない。


だが、目の前の一角獣ユニコーンは、クオン殿の愛馬なだけあって、とても賢く、勇敢な性格だ。

この一角獣ユニコーンに乗れないようでは、絶対にクオン殿から認められることはない。




「今日もよろしく頼む。クライス。」


目の前の一角獣ユニコーンに呼びかけた。

クライスとは、古代エルフ語で“輝く水”を意味する。

その白銀の体毛は、湖から飛び跳ねた水滴を浴びて輝いており、まさに名はていを表すという言葉通りだった。


クライスは無言で、私に体の側面を向けてきた。


そのまま、手綱たずなたてがみを掴み、あぶみに足をかけて、クライスの背中にあるくらに跨る。


そして、修了試験の開始を待った。






一角獣ユニコーンの修了試験は、常歩なみあし速歩はやあし駆歩かけあし襲歩しゅうほ、停止などの基本動作と、旋回や蛇行などの応用動作、人馬一体となって障害物を越える飛越ひえつ動作などから構成される。


私は、一角獣ユニコーンを最高速で走らせる襲歩しゅうほが苦手で、どうしても馬体の動きと自分の体の動きを同期させることができない。


私もクオン殿も、そのことがよく分かっているので、実質的な修了試験となる基本動作から始めることになった。




「………………」


私は、これまで落第し続けてきた原因に思いをせる。


これまで、なぜ私は一向に合格できないのか分からなかったが、今日の試験では、私なりに答えを用意してきた。




私の落第の原因――それは、私の心の内に常に貼り付いている、焦りが原因だと。




私は、このまま人族によるエルフへの迫害が続くことで、もはや何をしようが滅びの運命をつくがすことが不可能なほど、エルフの勢力が衰えてしまうことを一番に危惧きぐしている。

私の予想では、このまま何も動かなかった場合、“その日”は遅くとも50年以内に必ずやって来る。


そのため、一日でも早く一角獣ユニコーンの騎乗試験に合格し、クオン殿を味方に付けることばかり考えていた。


しかし、よくよく考えてみると、そこにあるのはクオン殿に対する想いだけで、肝心の()()()()()()()()()というものが、含まれていなかったのではないだろうか。


飛竜と同じく、一角獣ユニコーンはとても賢く、誇り高い生き物である。

自らの背中に乗せたエルフが、心ここにあらずで、別のことばかり考えていたら、誇りが大いに傷付くだろう。


私は、少し視野が狭くなっていたようだ。




「これまで、すまなかったな。クライス。」


私は、クライスに話しかける。


「私は、お前のあるじであるクオン殿を含めた、エルフの未来をどうしても守りたくてな。少し、空回りをしていたかもしれない。」


そのまま続ける。


「今日は、お前と試験を乗り越えることだけを考える。だから、どうか力を貸して欲しい。」


一角獣ユニコーンは、当然だが言葉を発することはできない。

だが、クライスは私の言葉を受けて、まるでため息を付くかのように、鼻から息を吐いた。


それはまるで、『ようやく分かったか、小僧こぞうめ。』と言われているかのようだった。




私は3回深呼吸をした後、クオン殿に目を向けた。

クオン殿は頷いて、声を発する。


「――それではこれより、リヒト=ローネル・アドランシェの修了試験を始めます。」


いよいよ、私の10回目の修了試験が始まった。






私は、手綱たずなでクライスに指示を出し、まずは常歩なみあしで歩き始める。

そして、次に速歩はやあしへ切り替え、続けて駆歩かけあしで湖を駆け抜ける。


跳ね上げられた水滴が空中に舞い、キラキラと輝いた。


ここまでは、いつも通りだ。


次の襲歩しゅうほへの移行、ここでいつも私はバランスを崩し、それを察知したクライスが強制的に停止して、落第となっている。


私は、心から焦りを完全に取り払うため、もう一度、ゆっくりと深呼吸をした。

これまで意識したことのなかったクライスの体温を、鞍を通して太ももに感じる。


一角獣ユニコーンも飛竜と――サリアと同じく、感情があり、誇りがある。


私は、クライスの首筋にそっと手を当ててから、手綱を振るって、駆歩かけあしから襲歩しゅうほへの移行を指示した。




「―――っ!!」


一気に速度が上がり、頬を切る風の音が大きくなる。

前世で乗ったことのあるモーターボートを遥かに上回る速度だ。


だが、いつもに比べて、体幹は安定している。

事実、こんな考えごとをしているくらいの余裕があるのだ。


飛竜に初めて騎乗した時にも思ったが、一角獣ユニコーンもすごい生き物だ。

我々エルフを守ってくれる、良き隣人なのだ。


「―――ありがとうな。クライス。」


私の言葉が聞こえているか分からないが、クライスは少しだけ速度を緩め、そのまま規定の時間に達するまで襲歩しゅうほを続けた。






「人馬一体の、素晴らしい騎乗でした。」


私がクライスと共に湖畔へと戻ると、クオン殿が声をかけてきた。

その顔は笑顔で、声にも嬉しさが表れている。


「―――っ!では!?」


私は思わず、結果を尋ねた。


すると――




「もちろん、合格です。この3年間、とてもよく頑張りましたね。」

「ありがとうございます。クオン殿のご指導のおかげです。」


私はクオン殿に深々と頭を下げた。


「――これで、私も安心してリヒトさまを信じることができます。」

「―――では……?」


顔を上げると、そこにはクオン殿の優しい笑顔があった。


「私は、リヒトさまの提案を受け入れ、殺傷目的による風魔法の行使を禁止する戒律について、氏族長会議で廃止に賛成します。そして、祭祀さいし目的でしか利用が認められていない一角獣ユニコーンについて、無制限での運用を認める方針にかじを切ることを約束します。その他にも、リヒトさまの改革案には、ほぼ全面的に賛成しましょう。」


そう、はっきりと宣言してくれた。


「―――っ!あ、ありがとう、ございます……!」


私はこの3年間の努力が報われ、顔が熱くなるのを感じた。


これで、17氏族のうち、クオン殿を含めて10氏族を味方にすることができた。

守旧しゅきゅう派の2氏族を除いた5氏族も、味方につける算段は立っている。




もう少し、あともう少しだ。


あと少しで、私は我が種族の――エルフの未来を指導するだけの立場を得ることができる。


私は決して諦めない。


必ず築き上げるのだ。もう誰にもおびやかされることのない、エルフによる、エルフのための理想郷を。


私の――この手で。




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