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エルフが築く世界帝国 〜滅びの運命から始める反逆記〜  作者: 神田川 秋人
第2章 16氏族の決断

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第25話 アルリオン氏族の氏族長




どれくらい時間がっただろうか。


私は、黙って湖の上を――クオン殿を見つめていたが、クオン殿がそっと目を開け、湖畔で立ち尽くす私に、その神秘的な水色の瞳を向けてきた。




「―――すみません、リヒトさま。どうやら、お待たせしてしまったようですね。」


一角獣ユニコーンに跨ったクオン殿が、湖畔へと近づいてきて、私に声をかけてくる。


「いえ、こちらこそ、いつもお時間をいただきありがとうございます。」


私は我に返って、クオン殿に返事をする。


「ふふっ。リヒトさまは努力家ですね。普通の人であれば、とっくの昔に諦めています。」


クオン殿が微笑ほほえみながら、一角獣ユニコーンから降りて、私の前に立った。


「―――私は、諦める訳にはいかないのです。私は、我が種族を滅びの運命から救ってみせます。そのためには、例えどのような壁が立ちはだかろうと、ただ歯を食いしばり、その壁を乗り越えるまでです。」

「…………ご立派ですね。何だか、もう約束なんてどうでも良くなってしまいそうです。」


クオン殿は、困ったような顔をしながらつぶやいた。




約束とは、当然、風魔法に関する戒律の話である。


私はクオン殿に、ジン殿にしたのと同じく、2つのお願いをした。


1つは、殺傷目的による風魔法の行使を禁止する戒律について、氏族長会議で廃止に賛成して欲しいという内容。


そしてもう1つは、飛竜と同じく、祭祀さいし目的でしか利用が認められていない一角獣ユニコーンについて、無制限での運用を認める方針にかじを切ること。


この2つである。


そして、クオン殿から返ってきた条件が――




「あの日交わした約束。リヒトさまが一角獣ユニコーンに騎乗し、私が一人前と認める腕前にまで達した時、私はリヒトさまに協力する。」

「ええ、片時も忘れたことはありません。」


アルリオン氏族にとって――そして氏族長であるクオン殿にとって、一角獣ユニコーンとは特別で、神聖な存在である。


クオン殿は、我々エルフが置かれている状況を大変に憂慮ゆうりょしており、私の進めようとしている改革にも好意的だ。


しかし、アルリオン氏族長として、いくら私が同格の氏族長だとしても、一角獣ユニコーンにすら騎乗できない若造に、アルリオン氏族と一角獣ユニコーンの未来を委ねることはできないという考えを持っている。


私は、一角獣ユニコーンが秘める陸上戦力や移動・運搬手段としての可能性は認めているが、航空機などの航空戦力が存在しないこの世界にとって、飛竜の存在の方が優先度が高いと判断した。

そのため、ダートネス氏族との接近を優先し、アルリオン氏族との接近は後回しにしてきた。


しかし、ダートネス氏族との秘密同盟が成立したことを受けて、次なる課題として、アルリオン氏族との接近を図ったのだ。


だが――




「まさか、飛竜を完璧に乗りこなすと噂されるリヒトさまが、一角獣ユニコーンの騎乗に苦労されると思いませんでした。」

「―――面目次第めんもくしだいもございません。」


つまり、そう言うことである。


私は、飛竜の騎乗センスがあったのか、はたまた専属飛竜であるサリアとの相性が良かったのか、飛竜については初日から騎乗に成功することができた。

ここまでセンスが良いやつは、リヴィアと私くらいだと、ジン殿から直々にお墨付きをもらったくらいだ。


そのため、正直に告白すると、一角獣ユニコーンの騎乗についても余裕でこなせると楽観視していた。


その考えは、一角獣ユニコーンに近づこうとしたところ、後ろ足で思いっ切り水をかけられ、そのまま逃げられるという形で、初日の段階から崩れ去った。


それからというもの、この3年間、少しでもまとまった時間ができればクオン殿の元に通い、一角獣ユニコーンの騎乗練習に励んできた。


その甲斐あってか、ようやく騎乗自体はできるようになったものの、クオン殿の求める水準には達することができていない。

これまで9回の修了試験に挑戦し、その全てで落第してきた。


情けないことに、今日が記念すべき10回目の修了試験という訳だ。




「クオン殿。今日こそは、必ず合格して見せます。どうかお時間をください。」

「もちろん、そのつもりです。リヒトさまの努力は、私が一番よく知っています。だから今日こそ、リヒトさまが合格することを祈っています。あなたの進む道に、世界樹の追い風があらんことを。」


クオン殿は、優しく微笑みながら、エルフ社会でよく使われる慣用句を用いて、私を励ましてくれた。




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