第23話 頼りになる幼馴染
ヴェスタと一緒に冒険者を討伐した翌日、私は事件の情報共有と“風の槍”の使用報告のため、同じアドランシェ氏族のエルミス家――幼馴染であるルノアの家を尋ねていた。
ルノアの自宅のテント横にある呼び鈴を引く。
すると、すぐにルノアが出てきた。
「おー!リヒト!来てくれたんだ!嬉しいよー!」
そう言って、私の手を握ってぶんぶんと上下に振り回してくる。
相変わらず、ルノアは距離感が近いな……。
それはもちろん、私が幼馴染だからだと思うが。
「ルノア。例の件で話がしたい。いま、私の家に来られるか?」
例の件――“風の槍”の件だと暗に伝える。
「―――!!もちろんだよ。すぐに支度するから、少し待っていて!」
ルノアは顔を真剣なものに変えて、自宅であるテントの中に戻っていった。
おそらく、古代の風魔法に関する書物と、研究に使用しているノート等を用意しているのだろう。
5分後、テントから出てきたルノアを連れて、私は自分の家に向かった。
ルノアを氏族長用の応接テントへと案内する。
私がアドランシェ氏族長に就任したことで、色々な事務仕事に追われることになったが、その一方で様々な特権や力を得ることができた。
この、氏族長用の応接テントを自由に使えることも、その特権の1つである。
ここであれば、誰かに話を聞かれることもない。
「ルノア、単刀直入に言おう。先日、哨戒飛行中に冒険者を発見し、戦闘になった。その際、やむを得ず“風の槍”を使用したが、武器として十分な攻撃力を確認できた。」
「―――っ!本当に!?…………って、リヒトは大丈夫だったの!?」
ルノアは驚くと同時に、私の無事を心配してくれた。
「ああ。かすり傷ひとつないから、安心して欲しい。」
「よ、良かった〜。いくらリヒトでも、無敵じゃないんだから気を付けてよね。」
それはその通りだ。
事実、ヴェスタが危機に瀕しなければ、“風の槍”を使用するつもりはなかった。
風の槍―――
それは、3年前からルノアが始めた、古代の風魔法を解析、復元、応用するプロジェクトにおける、第一号の成果だ。
現存する風魔法の中で、一番攻撃に適しているのは風の刃を飛ばす魔法であり、人族相手には非常に強力な武器となる。
しかし、これには2つの欠点があった。
1つ目は、連発ができないことだ。
風の刃は単発でしか発動できないため、攻撃のたびに、世界樹に対して祈りを捧げる必要がある。
そのため、姿を隠した上での奇襲や1対1の戦闘では滅法強いが、複数の敵を相手にする場合、発動の隙を突かれるリスクが大きい。
2つ目は、風の刃は直進しかせず、一度発動すると取り消すこともできないため、味方を交えた混戦状態で発動させると、同士討ちのリスクがあることだ。
まさに、昨日の冒険者との戦闘において、射線上にヴェスタがいたため、風の刃が使用できなかったケースが該当する。
そこで、ルノアはこれらの欠点を解消するため、近距離かつ継続的に発動できる風の刃の魔法を研究し続け、つい2週間前に完成したのだ。
この“継続的に”という部分が、現代の風魔法における非常に革新的な技術となる。
「それで?使ってみた結果はどう?」
ルノアは開発者本人なので、やはり結果が気になって仕方ないのだろう。
「結果は良好だ。攻撃力については、先ほど報告した通り十分なものがある。敵は鉄製の胸当てをしていたが、抵抗なく貫通することができた。」
現在は性能試験の途中であり、おそらく十分な貫通力があると踏んでいたが、正直冷や汗ものだった。
もし貫通力が足りなかった場合、今ごろ私とヴェスタは殺されて、エリクサーの材料として、市場で仲良く並べられている可能性さえあった。
「また、冒険者の反応を見る限り、やはり不可視の効果は期待できそうだ。それから、実戦で使用してみて分かったのだが、武器に実体がないため、通常の槍や剣に比べて重さを感じず、体力面でもメリットが大きい。」
これは非常に大きな点だ。
通常の槍や剣は重量があるため、成人男性でないと取り扱いが難しい。
しかも、例え成人男性であっても、長時間使用していると筋力が消耗し、攻撃速度や攻撃力の低下につながる。
最悪の場合、武器を保持する腕力さえ消耗し、武器を取り落とす可能性さえある。
重量のない“風の槍”は、これらの欠点を克服し、女性や子供であっても、事実上無制限の取り扱いが可能になる。
「なるほど……。それは確かにね。それに、実体が無いということは、大きさも変化できるはずだよ。例えば、森の中や屋内での戦闘では、長槍はリーチの長さがかえって不利になるけど、“風の槍”であれば、戦闘場所に合わせてリーチを変更できる。」
それは確かに大きいな。
この“風の槍”は、我々エルフがこれから先、数で圧倒的に勝る人族を相手に生存闘争を行う上で、強力な武器になるだろう。
「さすがルノアだ。本当に頼りになる。」
「そうでしょー!なんと言っても、僕はリヒトの幼馴染だからね!リヒトが毎日頑張っているのに、僕が頑張らない訳にはいかないよ!」
ルノアが胸を張りながら答える。
「よし、では残りの時間でデメリットについても洗い出そう。まず思い付くのは、実体が無いゆえに、物体を受け止める力がないことだろうが―――」
私とルノアは顔を突き合わせながら、“風の槍”の活用について、議論を深めるのであった。




