第22話 風の槍
なんと、ヴェスタの後方10mくらいの位置に冒険者が立っている。
その手は、片手剣を握り締めており、その目は、ヴェスタの背中に注がれていた。
―――まさか、もう1人いたとは!?
サリアに乗って上空から確認した際は4人だけだったので、おそらく偵察なり飲料水の確保なり、何かしらの目的でグループを離れていたのだろう。
ヴェスタは、まだ状況に気がついていない。
「―――っ!ヴェスタ!後ろだっ!!」
私は、慌ててヴェスタの名を叫んだ。
私の声を受けて、ヴェスタは驚いて後ろを振り向くが、そこには既に、剣を構えながらヴェスタ目がけて走り出す冒険者がいた。
ヴェスタは驚きに目を丸くしており、即座に対応できる様子ではない。
この位置から風魔法を発動させると、冒険者と一緒にヴェスタを巻き込んでしまう。
風の刃は使用できない。
私は一瞬だけ悩んだあと、例のあれを実戦で用いることを決断する。
―――信じているぞ、ルノア。
『ラー・エリス・ラグナ・イル・スティーレ (世界樹の風よ、我が手中に風の刃を握らせ続け給え)』
私の祈りに応え、世界樹からもたらされた風の力が右手に集まるのを知覚する。
力は不可視の風の槍となり、私の右手に宿った。
私は、目の前のヴェスタを押しのけるようにして、せまり来る冒険者と対峙する。
『はっ!バカが!徒手空拳で何ができる!?』
手に宿る風の槍は、目に見えず、重さもなく、一度形成すれば、解除するまで消えることもない。
よく集中して凝視すれば、わずかに埃やチリが風で舞うのが見えるかもしれないが、それくらいだ。
目の前に冒険者が迫り、その血走った目と視線が合う。
その目は、エルフを2人も捕獲できる喜びに支配されているようにさえ感じられた。
私は、そんな冒険者と目を合わせたまま、風の槍を前方に突き出し、その胸を貫いた。
冒険者は胸に鉄製と思われる胸当てを装備していたが、そこに大きな穴が空いて、少し遅れて血が噴き出す。
『―――あん?な、何か胸に衝撃が……なん……で……これ……穴……?』
風の槍に胸を貫かれた冒険者は、不思議そうな声を発した後、全身が脱力し、手から剣がこぼれ落ちた。
私は、冒険者が確かに息絶えたのを見届けた後、風の槍を解除する。
冒険者はそのまま地面にうつ伏せに倒れ、二度と起き上がることはなかった。
「リ、リヒト殿……!危ないところを助けていただき、本当に感謝申し上げます!!」
我に返ったヴェスタが礼を述べてくる。
「いや、別行動中の冒険者がいることに気が付かなかった私のミスだ。ヴェスタが謝ることではない。」
「し、しかし…………」
ヴェスタは納得いかなさそうな様子だったが、今はやることがある。
「さあ。早くこの男の荷物も確認し、遺体を地面に埋葬するぞ。」
「―――はっ!ただちに取り掛かります!」
やたらとキビキビした返事を返すヴェスタと一緒に、風魔法を応用して地面に穴を掘り、追加となる1人分の遺体を埋めた。
冒険者の討伐が完了したため、私とヴェスタはそれぞれ飛竜の待機場所へと戻り、騎乗して離陸する。
本日の午後の哨戒コースは全て巡回したため、後はダートネス氏族の集落に戻り、ジン殿に事実を報告するのみである。
私は、飛行中のサリアの鱗を撫でながら、先ほど発生した出来事を振り返り、思わず呟いてしまった。
「―――やはり、風魔法は未知の可能性に溢れている。改めて、ルノアに礼を言わなくてはな。」




