第21話 冒険者討伐
冒険者たちがいる場所から少し離れた湖畔に、ヴェスタと共に着陸する。
私はサリアに待機するよう竜笛で指示を出し、ヴェスタと共に森に身を隠しながら冒険者たちのいる方向へと近づいた。
冒険者たちは焚き火の処理を終え、ちょうど装備と荷物を整えている所だった。
おそらく休憩中だったのだろう。奇襲のチャンスだ。
「全く、武装した見張りも立てないとは、舐められたものだな。」
「同感です。おかげで、こちらとしては簡単に奇襲が可能ですが。」
私とヴェスタは小声で話し合ったあと、作戦について話し合い、それぞれ北側と南側から風魔法で冒険者たちを奇襲することにする。
私はヴェスタと別れ、北側の森に潜む。
冒険者たちの会話が少しだけ聞こえてきた。
もちろん、大陸共通語である。
『なかなかエルフが見つからないな。』
『最近、市場に流通する量も減っているみたいだしな。知り合いの奴隷商に聞いたんだが、卸売価格が3年前の2倍近くになっているらしい。』
『かーっ!もともと俺たち庶民には縁のない話だったが、いよいよ一部の貴族や豪商どもしか手が届かなくなってきたな。』
『その分だけ俺たち冒険者の報酬も右肩上がりなんだからラッキーだろ。まあ、最近になって、原因不明の行方不明者が増えているのは少し気になるが……』
3年前というと、ちょうどジン殿と秘密同盟を成立させ、不完全ではあるが哨戒飛行を始めた時期と重なる。
やはり、人族側も異変には気づいていたか。
とは言え、先ほどもヴェスタと会話した通り、武装した見張りも立てない様子からすると、一部のエルフが風魔法で襲撃してくるという情報は広まっていないようだ。
まあ、冒険者を襲撃した場合、生存者は1人も残さないようにしているため、当然と言えば当然だが。
先ほど冒険者の1人が言っていたように、人族側も冒険者の行方不明が増加していることは察しているだろうが、その原因がエルフにあるとは考えていないはずだ。
皮肉なことに、1,000年以上に渡って染み付いたエルフの因習は、人族側に“エルフ=脅威ではない”という常識を植え付けるのに十分だったのだろう。
そんな分析を交えつつ、私は1人の冒険者に狙いを定める。
そして、気持ちを落ち着かせるために、一度だけ深呼吸をしてから、古代エルフ語で世界樹へと呼びかけた。
『ラー・エリス・ル・スティングレー (世界樹の風よ、目の前の敵を貫き給え)』
圧縮された風の刃が、超高速で発出される。
その刃は狙いを過たず、冒険者の首筋を通り抜けた。
そして、まるで熟した果実が自然落下するように、冒険者の頭部が地面に落下した。
残りの3人は、いきなり頭部を失い、首から下だけになった仲間を呆然とした顔で見つめている。
そして、私の放った風魔法を合図として、南側からもヴェスタが発動した風の刃が冒険者に迫った。
そのまま、2人目の冒険者も胴体から上下に分断され、錐揉みしながら、地面にできた血溜まりの中に沈んだ。
『―――っ!!お、おい!?敵襲だぞ!』
『見れば分かるっ!!だが、どこから、何の武器で攻撃されているんだ!?』
ここに来て、ようやく残りの冒険者2人が我に返った。
2人とも慌ててクロスボウを地面から拾い上げ、手に構えてから叫ぶ。
だが、油断していた彼らは、初撃でこちらの位置を把握することに失敗した。
残念ながら、チェックメイトである。
周囲を警戒する冒険者たちの努力も虚しく、南北から再び不可視の風の刃が飛来し、残りの冒険者たちも物言わぬ骸へと姿を変えた。
「無事に片づきましたね!」
そう言いながら、ヴェスタが森から出て、近づいてきた。
私も森から身を出し、横たわる冒険者たちの方へと近づく。
「ああ、作戦通りに進んで良かった。では、人族に関する情報を持っていないか確認した後、遺体は地面に埋葬するとしよう。」
冒険者は、基本的にならず者の集まりなので、貴重な情報を持っている可能性は低いのだが、たまに彼らの元締めである冒険者ギルドの情報や人族の社会情勢に関する書物を持っているケースもある。
また、将来的に諜報活動に役立つ可能性もあるため、人族の国や街に入るための通行証や金銭についても回収している。
「あっ!リヒト殿!見てください!これ、本じゃないですか?」
ヴェスタが羊皮紙の束のようなものを見せてくる。
ヴェスタは氏族長の家系ではないため、人族の言語である大陸共通語は読めない。
私が代わりに受け取って、軽く目を通すと、どうやらそれは日記のようだった。
「冒険者が律儀に日記をつけるとは珍しいが、これは人族の情勢に関する貴重な情報源になるかもしれないな……。でかしたぞ、ヴェスタ。」
発見したヴェスタを褒める。
ヴェスタは、尊敬する私に褒められたのが嬉しいのか、満面の笑顔となった。
私は日記の内容が気になったので、4人の冒険者の遺体を埋葬した後、その場で日記を読み始めた。
――だからだろう。それに気がつくのが致命的に遅れた。
私が日記から顔を上げると、あり得ない光景が目に飛び込んできた。
――なんと、ヴェスタの後方10mくらいの位置に、いるはずのない冒険者が一人立っていたのだ。




