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エルフが築く世界帝国 〜滅びの運命から始める反逆記〜  作者: 神田川 秋人
第1章 滅びゆくエルフたち

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第2話 エルフ氏族の後継者




「もー!リヒトお兄さま!なんで遊んでくれないの!」


目の前で、私と同じ灰色の髪に赤い目の少女――妹のユウナが頬を膨らませながら、不満そうに騒いでいる。


リヒトとは、私の名前だ。


「見ての通り勉強中だ。あと1時間ほど待つといい。」


それを聞いて、妹はますます頬を膨らませているが、いくら妹の頼みとはいえ、勉強をおろそかにすることはできない。


この世界に転生して15年間、気が付くとあっという間だった。

もちろん、今の私は寿命が1,000年あると言われる()()()なので、人間だった前世と時間感覚が異なるのも当然だ。




15年前、この世界――皆が“テリオス”と呼ぶ世界に転生した時は、自分の正気を疑った。


私は、死後に訪れる場所として、天国の存在こそ信じていたが、異世界の存在など考えたことすらも無かった。

だから、私が物心ついた5歳の時点では、自分が再び生まれた場所が異世界だとは、到底信じられなかったのも仕方のない話である。


だが、すぐにその考えもつくがえされた。


この世界は、元いた世界と異なる点が多すぎる。


例えば、自分の耳だ。

触ってみると、横に長く突き出ていて、明らかに人間のものではない。

そしてそれは私だけではなく、私の周りにいる大人や子供たち全員に共通する特徴だった。

そんな特徴を持つ自分たちのことを、皆は“エルフ”と呼んでいる。


また、皆が魔法と呼ぶ力もそうだ。

私たちエルフは、“風魔法”と呼ばれる異能の力を行使することができる。

この風魔法は、エルフの戒律かいりつにより殺傷目的で使用することを禁じられているが、それでも火を起こしたり、果物や木の実を採取したり、木材の伐採といった日常生活に利用されている。


他には――




「リヒトお兄さま?勉強しないのー?」


妹の声で意識を引き戻される。


いかん。今は目の前の勉強に集中しないと。


私は、エルフにいくつか存在している氏族のうち、“アドランシェ”という氏族、そして、その首領である“ローネル”家の嫡男ちゃくなん――すなわち後継者として生まれた。

将来、氏族を率いるために勉強する必要がある。


最も、勉強する理由はそれだけではない。






我々エルフは、端的に言って滅亡のふちにある。






原因は、人族ひとぞくによるエルフの捕獲と虐殺だ。

人族とは比較にならないほど長寿であり、かつ不老のエルフは、人族にとって喉から手が出るほど欲しい存在らしい。


男性のエルフは、いつまでも働けるため、奴隷的な労働力として需要がある。


女性のエルフは、いつまでも美しさが損なわれないため、性的な奴隷や娼婦として需要がある。


そして極めつけは、人族が言うところの()()()()()()()である“エリクサー”と呼ばれる万能薬だ。

このエリクサーはエルフの心臓から精製され、病や傷をたちまち治すのだと聞く。

噂では、最上級のエリクサーは擬似的な不老まで実現するのだとか。


特に最後のエリクサーの発明が致命的だった。


エルフは人族の捕獲と虐殺により数を減らし続け、ついには世界樹のふもとにあった祖国すらも捨て、流浪るろうの民として森の奥深くで逃げるように暮らしている。




だが、そうまでしても人族たちの魔の手は迫り来る。


エルフの国が滅亡したことで数を調達できなくなった結果、皮肉なことにエルフの取引価格は高騰し、個人単位を目的とした捕獲や殺害でも利益が出るようになったのだ。


そうした個人単位を目的とした捕獲者を、人族は“冒険者”と呼称しており、“冒険者ギルド”なる斡旋組織の指示により、徒党ととうを組んで森の奥深くまで侵入してくる有り様だ。


我が氏族からも、昨年に家族7人が冒険者に捕まっている。

その中には5歳に満たない幼子おさなごもいた。

その家族が今ごろどんな目に遭っているのか、考えたくもない。


エルフは戒律により、殺傷目的で風魔法を使うことができない。

だから剣や弓で武装した冒険者に集団で取り囲まれると、まず勝つことはできない。

風魔法を応用して、逃げ足を早くするぐらいだ。




私は、我が種族が座して死を待つのを看過かんかすることはできない。


私は1日でも早く、エルフ氏族の()()掌握しょうあくし、我が種族を滅亡の運命から救わなければならないのだ。


そのためには知識が、力が、権力がいる。

だから今は勉強にはげむのだ。


「リヒトお兄さまー!もう勉強終わったー?遊んでよー!」

「妹よ。まだ15分しか経っていないぞ。」




私は、どんな手段を用いてでも、我が種族を守り抜いてみせる。


そして築き上げるのだ。もう誰にもおびやかされることのない、エルフによる、エルフのための理想郷を。


今度こそ。






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