第19話 秘密同盟の成果
アンフェム殿の仲介で演説を行った翌日、私はダートネス氏族の集落を訪れていた。
目的はもちろん、ダートネス氏族長であるジン殿に会うためである。
いつも通り、アルビオ・ダートネス家のテント横にある呼び鈴を鳴らす。
「はいはーい!この呼び鈴の鳴らし方は、きっとリヒトでしょ?―――ほら、やっぱり!」
そう言いながら、ジン殿の妹――リヴィアが笑顔でテントから出てきた。
呼び鈴の鳴らし方で分かるものなのか……?
自分の呼び鈴の鳴らし方は、そんなに特徴的なのかと不思議に思ったが、すぐにリヴィアが口を開く。
「兄貴から聞いたわよー!また味方を増やしたんだって?流石だね、リヒト!頼りになる!」
そう言って褒めてくれる。
昨日の演説会場にはジン殿は立ち会っていないが、きっとアンフェム殿が気を利かせて情報共有してくれたのだろう。
この辺り、アンフェム殿は全く隙がない。
実に、頼りになる男である。
「君の方こそ、また飛竜騎乗の腕を上げたみたいじゃないか。ジン殿が自慢していたぞ。私も飛竜には自信のある方だが、もう君には敵わないだろな。」
「そうそう!竜追いでも、もうリヒトになんて絶対負けないんだから!」
私がそう言うと、リヴィアはとても嬉しそうに胸を張った。
3年前の冒険者の襲撃で不覚を取ったのがよほど悔しかったのか、リヴィアはこの3年間で飛竜の騎乗技術と風魔法の腕をめきめきと上達させた。
風魔法は、まだ私の方が上だろうが、飛竜の騎乗技術ではリヴィアに軍配が上がる。
私自身も腕は上がっているはずだが、さすがに氏族長としての仕事と味方作りに忙殺されており、飛竜に乗れる時間は限られる。
それに、もう一つの方にも力を割かなくてはならない。
――私の専属飛竜であるサリアには、寂しい思いをさせてしまっているかもな。
今日は時間もあるので、ジン殿と会話した後、サリアに騎乗することを心に決めた。
そのままリヴィアの案内でテントの中に入り、ジン殿と面会する。
「ジン殿!ご健勝そうで何より!」
私が先に声をかけると、ジン殿は豪快に笑いながら返事をした。
「よせよせ!俺とお前の間柄で、何を堅い挨拶してやがる!もっと楽にしろ、楽に!」
そう言って、私の肩をバンバンと叩いた。
ジン殿は相変わらず、竹を割ったかのようにさっぱりとした男だ。
「ありがとうございます。努力します。」
「そうしろ、そうしろ。それで、今日来たのは、新しい哨戒網の確認だろう?」
ジン殿が私の来訪目的を尋ねてくる。
「おっしゃる通りです。先月発生した冒険者の襲撃により、久しぶりに集落を移転しましたからね。新しい哨戒網が機能しているか確認できればと思いまして。」
先月、またしても冒険者の襲撃があり、エルフの姉妹2人が拉致された。
その様子を見ていた姉妹の友人はなんとか逃げ切り、冒険者の襲撃を報告したという訳だ。
それを受けて氏族長会議で集落の移転について決議し、つい先々週に集落を移転したばかりだった。
私とジン殿は、秘密同盟に基づき、3年前から可能な限り飛竜による上空からの哨戒活動を行っている。
しかし、これは当然、氏族長会議で決議された正式な対応ではないため、堂々と哨戒飛行を行うことはできない。
加えて、現在大急ぎで飛竜に騎乗できる人材を養成しているが、まだ実戦投入できる人員は限られる。
他の氏族に情報を漏らさないための、口の固さも重要だ。
そんな事情があって、現在の哨戒網は正直に言って穴だらけだが、それでも何もしていなかった時代に比べれば大きな成果を上げている。
事実、全く事情を知らないエルフたちは、先月の冒険者襲撃に対して、「久々に冒険者の襲撃があった。最近はずっと平和だったのに……。」という認識を持っている。
皮肉なことに現実はその真逆で、冒険者がエルフの森に侵入してくる頻度は増えているが、冒険者が飛竜の哨戒網に引っかかり次第、私やジン殿、リヴィア、アドランシェ氏族とダートネス氏族の有志たちが飛竜で現場に急行し、風魔法で討ち取っているというのが実態である。
「新しい哨戒網は順調―――と言いたい所だが、やはり人手不足が深刻だな。今回はエルフの森につながる街道まで飛行するのに、他の氏族の集落を避けるため大きく迂回する必要がある。その分、哨戒時間も長くなるし、人手も必要になる。」
ジン殿は、先ほどまでの明るい顔から、一気に真剣な顔に切り替えて、正直に打ち明けてくれた。
「現在養成中の訓練生が独り立ちするまで、あと1年はかかるでしょうからね……」
私も真剣な顔で答える。
「その通りだ。未熟な状態で騎乗させても、転落事故が増えるだけだ。飛竜もかわいそうだしな。―――そうだ。転落事故と言えば、今日の午後に哨戒飛行を担当する予定だったやつの1人が、昨日の訓練で足を挫いたんだった。また、人をやり繰りしなければならん。」
ジン殿が顔をしかめる。
そうか、今日の午後の哨戒担当に穴が空いたのか。
今日はサリアに騎乗しようと考えていたし、ちょうど良い。
「ジン殿。もしよろしければその穴埋め、私がやりましょう。」
「―――リヒトが?」
ジン殿は驚いたような顔で聞いてくる。
「ええ。どのみち、今日は久々にサリアに騎乗しようと考えていたのです。せっかくなので、お力になりたいと思いまして。」
「そりゃ、リヒトが出てくれるなら、安心だが……」
ジン殿は、さすがに氏族長かつ同盟相手である私を、補欠要員のように扱うのは抵抗があるようだ。
ここは、後押しをして差し上げよう。
「先ほどもおっしゃっていたではないですか。私とジン殿の間に遠慮は不要と。私は、我が種族の安寧を守るために尽くしたいのです。ぜひお任せいただきたい。」
「リヒト……ありがとうな。それじゃ、ありがたくお願いするとしよう。」
そう言う訳で、急遽サリアと哨戒飛行を行なうことになった。
私はその後、ジン殿と残りの情報交換を行い、サリアに騎乗するため、ダートネス氏族の集落外れにある竜舎へと向かった。




