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エルフが築く世界帝国 〜滅びの運命から始める反逆記〜  作者: 神田川 秋人
第2章 16氏族の決断

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第18話 演説




演説は、私の得意分野だ。




「―――100年だ。」




演説は、まず静かに始めるのが良い。




「我らエルフが、世界樹のふもとにあった祖国を失って、100年の月日が経った。」




聴衆とは、生き物だ。波のように、“動”と“静”がある。

その、“静”のタイミングを見計らって、語りかけるように口を開くのだ。




「諸君の中にも、覚えている者は多いだろう。母なる世界樹に抱かれ、森の恵みに感謝し、優しく、そして穏やかな時を過ごしていた時代の記憶を。」




聴衆に、古き良き記憶を呼び起こさせる。




「私は、若輩じゃくはいゆえに、その頃のエルフたちを――祖国を知らない。母なる世界樹も、この目で仰いだことはない。私と同じようなエルフが、もう何千人、何万人といる。母なる世界樹に抱かれたことのない、哀れな彷徨さまよえる子供たちだ。」




そして、悲しみに訴えるのだ。

何かを変えたいと願う強い感情は、いつだって、悲しみや嘆きから生まれる。


私自身が、そうだった。




「当時68もあった氏族は、60になり、50になり、40になり、30になり……いまは20を切って、たったの17氏族だけだ。」


「四分の一だ。信じられるだろうか。たった100年で、四分の一になってしまったのだ。」


「その残された氏族さえも、3年前のダートネス氏族の集落襲撃のように、常に、死と隣り合わせにある。」


「あの襲撃では、61人の尊いエルフの命が失われた。その中には、幼い2人のエルフを守り、最後まで戦って散った者もいた――私の、愛する父上だ。」


「そして、たまたま()()()()冒険者を襲わなければ、もっと多くの同胞の命が失われていたであろう。」


「私は考えずにはいられない。あの襲撃で、本当に61人ものエルフが命を落とす必要があったのかと。我々に、抗う手段は無かったのかと。」


会場が、完全に静まり返る。

聴衆の心臓の音まで聞こえそうな、完全な無音だった。






「抗う手段は無かった―――いな、断じていなだっ!!」




私は叫ぶ。


もう一度言おう。

聴衆とは、生き物だ。


波のように、“動”と“静”がある。

だから、“静”から“動”へといざなうのだ。悲しみと嘆きから、怒りと憤りへと繋げるのだ。




「我々には抗う手段があった!!風魔法という、世界樹よりたまわりし、奇跡の御業みわざが!」




聴衆たちは、先ほどまで氷のように冷たく、静かだった私の演説が、突然、炎のように熱く、激しくなったことで動揺する。




「風魔法とは、世界樹より賜りし恩寵おんちょう。それを自ら投げ捨てて、我ら自身を滅亡の危機へとさらすのは、世界樹に対する裏切りに他ならない!」


「平和とは、武力によってのみ守られるのだ!その武力を放棄し、自らを守ろうとしない種族は、自分たちの未来を放棄していることに等しい!!」


「平和とは、森に生えるキノコのように、ある日突然、地面から現れたりはしない。我々自身の手で、種を撒き、苗を作り、虫から守り、育てあげる努力をしなければならない!!」




私の主張に、何割かのエルフたちが、隣に目を配りながらも、頷き合うのが見えた。




「私は忘れない!!我が民族を迫害する冒険者たちが、我らエルフのことを何と呼んだのかを―――家畜だ。抗う手段を持たない、ただ屠殺とさつされるだけの家畜だと。」


「果たして許されるのか?許してよいのか?――私は許せない。なぜなら、私は信じているからだ。我々エルフは平和を愛し、そしていざというときには、武器を持って立ち上がることのできる、勇気と誇りをもった種族だと!」


「我々は家畜ではない!ただ消費される物ではない!誇り高き、エルフだ!!家族がいて、恋人がいて、友がいる。そして、喜び、笑い、時には泣き、悲しみ、日々を懸命に生きている!」


「そんな我々を一方的に殺害する権利は、この世のどこにも存在しない!!」




私の言葉を受けて、聴衆がざわめき、会場が熱気に包まれつつある。




「私は、今こそ諸君に呼びかける!勇気と誇りを持って、立ち上がるべきだと!そのための武器は、太古の昔から、ずっと我らのそばにある。世界樹が、与えてくれた。」


「諸君の氏族長は、私の言葉に真摯に耳を傾けてくれている!そして、氏族を構成する諸君の賛成が得られるのであれば、殺傷目的による風魔法の行使を禁ずる戒律について、廃止に賛成すると約束された!」


「私は諸君に問う!我々には2つの道がある。戒律を守り続け、滅びる道。そして、戒律を変えて、武器を持って立ち上がる道だ!」




いまや、聴衆の目に、消せない怒りと覚悟の炎が宿っているのを、確かに確認した。




「私は後者の道を選ぶ!そして、例えその道を選ぶのが私1人だけだったとしても、諸君を守るために、風魔法を駆使して戦うと誓おう!!」


「だが忘れないで欲しい!我々エルフの未来とは、我々エルフ全員が背負うべき未来なのだ!だから、勇気と誇りあるエルフたちは、私と共に戦って欲しい!!」




私は、そこで敢えて言葉を切り、会場全体を見渡した。

集まった聴衆たち1人1人と、目を合わせるように。

そして、握り拳を振り上げ、最後の言葉を発する。




「私は最後に問う―――私と共に、風魔法という武器を掲げ、滅びの運命にあらがう意志のある者は、世界樹へと祈り、そして共に声をあげよ!!」






『ラー・エルフ・ゲイン!! (エルフに栄光あれ!!)』






私は、熱気と歓声がようやく収まった会場を後にしていた。


「いやー!リヒト殿!いつ聞いてもれする演説ですな!」


今回の演説にあたり、橋渡し役を担ってくれたアンフェム殿が笑顔で話しかけてくる。


「恐縮です、アンフェム殿。これで風魔法に関する戒律の廃止について、氏族長も賛成してくれることでしょう。」


私も笑顔で返した。


彼のフルネームは、アンフェム=ロン・グラノスという。

エルフに現存する17氏族のうち、グラノス氏族の氏族長を務める男性だ。


グラノス氏族は、エルフ集落における物資の流通や取引を担う一族で、人族で言うところの商人の概念に近い。


そういった背景もあって、アンフェム殿はエルフの中では比較的、実利を重視する考え方の持ち主である。

加えて、エルフの数が減るということは、市場が縮小するということでもあるので、流通や取引によって生計を立てているグラノス氏族にとっては都合が悪い。


要するに、エルフの種族復興を目指す私とは、利害が一致しているという訳だ。


そのため、3年前にジン殿と秘密同盟を結んだあと、真っ先にアンフェム殿を抱き込むことを提案し、ジン殿と2人で説得にあたった。

結果は見ての通りであり、3人目の理解者として、私の活動に協力してくれることになったのだ。

やはり、氏族長の息子が1人で騒いでいるのと、現役の氏族長が2人がかりで説得するのとでは、相手の態度が大きく異なることを実感した瞬間だった。




アンフェム殿はその立場上、全ての氏族長と交流がある。

そのため、各氏族長たちとの橋渡し役をお願いしているという訳だ。


私はアンフェム殿と一緒に各氏族長を説得して周り、必要であれば、先ほどのように演説によって自らの考えを訴えている。


「リヒト殿。これで17氏族のうち、私とリヒト殿、ジン殿も含めて9氏族の賛同を取り付けることに成功しました。残るはあと8氏族。半分を切りましたな!」

「ええ、そうですね。」


この3年間、命を削るような努力を行い、何とかここまで来ることができた。


残りの8氏族のうち、2氏族については筋金すじがね入りの守旧派しゅきゅうはなので頭が痛いが、それ以外の6氏族については、賛同に持っていける自信がある。




――もう少しだ。


もう少しで、エルフを取り巻く環境を大きく好転させることができる。


そして、その先に築き上げるのだ。もう誰にもおびやかされることのない、エルフによる、エルフのための理想郷を。


私の――この手で。




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