#1 剣の男
とある昔、幾人かの偉大なる人がいたそうだ。
一人は大剣を持ち、それを振り下ろせば大地が揺れたという。
一人は非常に賢く、弁術だけで世界の人々を正しい道へと導いたという。
一人は魔法を使い、ありとあらゆる不可能を可能にしていったという。
一人は、何も持たなかった。声も、知恵も、力も、自らの肉体や精神すら持たなかったという。
いつかの神話の時代、彼らは神と共に存在していたとされている。
───
「おいガキ!てめえ逃げてんじゃねえ!」
そう怒鳴る声に背をむけ必死に逃げる。盗んだ金を決して落とさないように心臓の前に抱き抱えながら逃げる。
息に血の味が混ざる。痛い。冷たい風が喉を切り裂いていくかのようだ。そしていつものようにフっと道を逸れて隠れ、ことが過ぎるのを待つ。怒号が響いている。必死に走ったせいか、それとも見つかるかもしれないという恐怖か、心臓が胸に当てた金の入った袋ごしでも手に伝わるほど高鳴る。
それが過ぎるのを待てば、そのあとはいつも通り裏に戻り、ボスに金を渡す。そうすれば飯がもらえる。盗んだ金は自分では使わない。正確には使えないから、ボスに渡して飯を貰っている。子供の時はそうして暮らしていた。
少し成長したら顔を隠してボスの護衛になった。剣の扱いには優れていたようで、一番若いものの一員として入れてもらえた。ただ、周りの顔も知らないどころか会話すらない。しかし、自分からしてみれば来やしない敵のために護衛をして飯を食えるようになって、だいぶ楽になった。
ある日、襲撃があった。襲撃、と言うようりも国による掃除の一環によりウチが狙われることになった。来る敵を倒して行ってはいたものの、俺より後ろのやつがヘマしたようで、ボスはザクっと一発殺されちまった。昔はボスという名に恥じない、豪傑が似合うような肉体をしていたボスもすっかり恰幅が良くなっていたから反撃もできなかったんだろう。
俺は飯を食わしてくれる人が死んだことで、この場に留まる必要がなくなったので、戦っている最中にお国の兵隊さんの格好を奪って国側で参加した。
すっかり片付いて、お国の兵隊さんに紛れてそのまま俺自身も兵隊になった。
言っても裏路地でブイブイ言わせるぐらいには剣が強かった俺は軍の中でも割と上の役職にグングン進んで行った。しかし、実力で進んでいったために下っ端兵から上に行くにつれて「コイツ誰?」というような疑問が周りに出てきて、おれはまた逃げるように兵営から逃げ出して別の国に移った。
難民受け入れに寛容な国に行き、そこで俺は剣闘士として活躍するようになった。一位になるくらいには強かった。
大金もに入れた。食うのに困らなくなった。そこで俺はハッとした。困りごとがなくなった今、俺は何をしたらいい?




