異世界転生したら女になってて、しかも俺の前世を知ってる幼馴染(男)に溺愛されてる
目が覚めたら、俺は死んでいた。
いや、正確には「死んでいた」は過去形だ。
俺は高橋ケンタ、二十五歳。平凡なサラリーマンとして生き、過労で倒れて、そのまま病院のベッドで息を引き取った。
死ぬ瞬間、暗闇に落ちていく感覚をまだ確かに覚えている。
なのに、今、俺は生きている。
「リリア様、お目覚めですか?」
優しい声が聞こえた。目を開けると、見知らぬ天井が視界に飛び込んでくる。
豪華な天蓋付きのベッド。レースのカーテン。中世ヨーロッパ風の調度品。
……は?
「体調はいかがですか? 三日も眠り続けていらっしゃったので、皆心配しておりました」
心配そうに覗き込んでくるのは、メイド服を着た若い女性だった。
俺は慌てて体を起こそうとして——違和感に気づいた。
体が、軽い。
そして…胸に慣れない重さがある。
「え、ちょっと待って」
自分の声に驚愕した。高い。
明らかに女性の声だ。
恐る恐る自分の体を見下ろすと、そこには華奢な体と、確かに膨らんだ胸があった。
「鏡! 鏡を持ってきて!」
「は、はい!」
差し出された手鏡に映ったのは、見たこともない美少女だった。
大きな青い瞳、絹のような金髪、透き通るような白い肌。
どこからどう見ても、十代半ばの少女。
「嘘だろ……」
これが俺?
混乱する俺の脳裏に、断片的に記憶が流れ込んでくる。
これは——この世界の、この体の記憶だ。
俺は、いや、私はリリア・アルテミス。この国の辺境伯令嬢で、十六歳。
幼い頃から聖女の素質があると言われ、王都の神殿で修行していた。
そして三日前、突然倒れて——
「前世の記憶が、覚醒した……?」
「リリア様?」
「あ、いえ、なんでもないです」
どうやら、この世界では転生者の存在が知られているらしい。
いや、待てよ。俺が転生したのか?
それとも元々このリリアという少女に、俺の記憶が混ざったのか?
頭を抱えていると、扉がノックされた。
「リリア様、アルフレッド様がお見えです」
「アル、フレッド……?」
その名前に、何故か胸が騒いだ。
「どうぞ」と答える前に、扉が開いた。
現れたのは、息を呑むような美青年だった。
銀色の髪、切れ長の碧眼、騎士の制服に身を包んだ長身。二十歳前後だろうか。
彼は部屋に入るなり、一直線に俺の——リリアのベッドに近づいてきた。
「リリア!」
次の瞬間、俺は強く抱きしめられていた。
「ちょ、ちょっと!?」
「無事でよかった……本当に、よかった……」
震える声。本気で心配していたのが伝わってくる。
だが、男だった俺としては、男に抱きしめられるというシチュエーションに全身が硬直する。
「あ、あの、アルフレッド、様?」
「様はいらない。いつも通り、アルって呼んでくれ」
彼は俺の——リリアの肩を掴み、じっと見つめてきた。
その瞳には、深い安堵と、そして何か別の感情が渦巻いている。
「目が覚めてくれて、本当によかった。もう二度と、お前を失いたくない」
「失う、って……」
「お前、思い出したんだろう? 前世のことを」
全身に電流が走った。
「え……?」
なんでこいつは俺が前世の記憶を取り戻したことを知ってるんだ?
「俺だよ、ケンタ。アキラだ」
——アキラ!?
その名前を聞いた途端、記憶の奔流が押し寄せた。
山田アキラ。親友。大学時代からの付き合いで、同じ会社に就職した。
俺が病気になったとき、毎日のように見舞いに来てくれた。
最期の日、俺は彼に何か言った。何を言ったんだっけ——
「『次はお前を守る』って、お前は言ったんだ」
アルフレッドが、悲しそうに微笑む。
「でも守られたのは、俺の方だった。
お前が死んで、俺は生きる意味を見失って、そして——気づいたら、この世界に転生していた」
「アキラ……お前も、転生者なのか」
「ああ。もう四年前だ。最初は混乱したが、やがて気づいたんだ。
この世界には転生者を呼び寄せる『システム』がある。そして俺は、お前を待っていた」
「俺を?」
「前世でお前を守れなかった。だから今度こそ、お前を守ると誓ったんだ。
そして三年前、お前が生まれた——いや、転生してきたことが分かった」
「どうして分かったんだ?」
「聖女の候補が生まれたって聞いてな。見に行ったら、お前だった。
魂の波長で分かるんだ。あの時、十三歳だった俺は決めた。お前を守り抜くって」
幼馴染、という設定はそういうことか。
アルフレッドは、最初からリリアが俺の転生だと知っていて、ずっと見守っていたのか。
「待てよ、でも俺、女になってるんだぞ? お前、気にならないのか?」
「性別なんて、どうでもいい」
即答だった。
「お前は、お前だ。男だろうが女だろうが、俺はお前を守る。それに——」
アルフレッドは、俺の頬に手を添えた。
「女性になったお前も、とても愛おしい」
「あ、愛おしいって……!」
顔が熱くなる。これは、この体のせいか? それとも——
「これから、ゆっくり前世のことも思い出していけばいい。今は休んでくれ。俺がずっと傍にいるから」
「あの、仕事とかは……?」
「全部断った。お前が目覚めるまでは、一歩も離れないつもりだった」
なんというか、重い。重すぎる。
だが、その献身的な態度に、前世の記憶がさらに蘇ってくる。
そうだ、アキラはいつもこうだった。不器用だけど、一途で、大切な人のためなら何でもする奴だった。
「ありがとう、アキラ——いや、アル」
その呼び方に、彼は嬉しそうに微笑んだ。
それから一週間、俺は——リリアは、この世界に適応するために必死だった。
まず、女の体に慣れるのが大変だ。歩き方、座り方、服の着方、全てが違う。
特にドレスとコルセットは拷問器具かと思った。そして何より、着替えとトイレだ。
自分と分かっていてもなかなか慣れない。
「前世の記憶があると、本当に混乱するな……」
鏡を見ると、そこには美少女がいる。
これが自分だと受け入れるのに時間がかかった。
だが、不思議なことに、徐々に違和感が薄れていく。
この体で生まれてから十六年。
体が覚えている動作は自然だし、女性としての感覚も少しずつ理解できてくる。
もしかしたら、俺は完全に高橋ケンタではなく、リリア・アルテミスとケンタの記憶が融合した、新しい存在なのかもしれない。
「リリア、散歩に行かないか?」
アルの声に顔を上げる。
彼は毎日のように訪ねてきて、俺の世話を焼いてくれる。というか、過保護すぎる。
「うん、行く」
庭園を歩きながら、俺は彼に尋ねた。
「なあ、アル。お前、この世界でどんな生活してたんだ?」
「最初は貴族の三男坊として生まれてな。剣の才能があったから、騎士になった。
それで、聖騎士の適性があると言われて、今に至る」
「聖騎士?」
「ああ。この世界には、聖女と聖騎士っていう特別な存在がいるんだ。そして——」
彼は立ち止まり、真剣な顔で俺を見た。
「リリア、お前は聖女だ」
「……は?」
「三日前、お前が倒れたのは、聖女の力が覚醒したからだ。そして前世の記憶が蘇ったのも、恐らくそのせい」
「待って待って、聖女って何? RPGの回復役みたいな?」
「まあ、近い。強力な回復魔法と力を持つ。そして——魔王を封印できる唯一の存在だ」
「魔王!?」
急にファンタジー要素が加速してきた。
「三百年前、この世界は魔王に支配されかけた。その時、聖女と聖騎士が力を合わせて、魔王を封印した。
でも最近、その封印が弱まっているらしい」
「それで、俺が聖女として呼ばれたってこと?」
「恐らく。そして俺が聖騎士だ。なかなか運命的だろう?」
アルは俺の手を取った。
「前世で果たせなかった約束を、今世で果たせる。お前を守り、共に戦う。これは——奇跡だ」
その真っ直ぐな瞳に、俺は言葉を失った。
彼は本気だ。前世の約束を、今も大切にしている。
性別が変わっても、世界が変わっても、変わらない想い。
「アル……」
「リリア、怖いか?」
「正直、怖い。魔王とか、聖女とか、急すぎて」
「大丈夫だ。俺が必ずお前を守る」
そう言って、彼は俺を抱き寄せた。
前世なら、男同士のハグなんて気恥ずかしくて避けていた。
でも今は、この温もりが心地よい。守られているという安心感。
——これが、女性の感覚なのだろうか?
いや、違う。性別に関係なく、大切な人に守られる安心感は、誰にとっても特別なものだ。
「ありがとう、アル」
俺は、素直にそう言えた。
その夜、王宮から使者が来た。
「聖女リリア様、賢者ガルドス様がお呼びです」
「賢者?」
アルが険しい顔をする。
「ガルドスは、この国最高の魔導師だ。聖女と聖騎士のことも詳しい。恐らく——」
「使命の話か」
覚悟を決めて、俺たちは王宮に向かった。
謁見の間で待っていたのは、長い白髭を蓄えた老人だった。
「よくぞ来られた、聖女リリアと聖騎士アルフレッド。いや—前世では、ケンタとアキラと呼ぶべきか」
「!? あなたも転生者なのか!?」
「いや、違う。だが、転生者を召喚したのは、私だ」
衝撃の告白だった。
「この世界の危機を救うため、異世界から二つの魂を呼び寄せた。強い絆で結ばれた、二つの魂を」
「俺たちを、意図的に?」
「そうだ。聖女と聖騎士の力は、互いの絆の強さに比例する。ゆえに、前世で深い絆を持つ者たちを選んだ」
アルが一歩前に出た。
「それで、リリアを女性に転生させたのか?」
「聖女は、女性でなければならない。これは世界の法則だ。もし男性のまま転生させていたら、聖女の力は発現しなかった」
「……なんて勝手な」
アルの声が震えている。怒りを必死に抑えているのが分かる。
「ケンタは、自分の意思で女性になったわけじゃない。お前たちが勝手に決めたんだ」
「その通りだ。だが、これは世界を救うために必要なことだった」
「世界のために、個人の選択を奪っていいのか!?」
「アル、そこまでにして」
俺は彼の腕を掴んだ。
「怒っても、もう変えられない。俺は今、リリアとして生きてる。それは事実だ」
「リリア……」
「それより、教えてくれ。魔王を倒すには、俺たちは何をすればいい?」
ガルドスは深く頷いた。
「魔王の封印は、三ヶ月後に完全に解ける。
それまでに、聖女と聖騎士の力を最大まで高めなければならない」
「どうやって?」
「二人の絆を深めることだ。互いを信頼し、理解し、そして——心から愛し合うこと」
愛し、合う?
「過去の聖女と聖騎士は、全て恋人か夫婦だった。その愛の力が、魔王を封じる鍵となる」
「待ってくれ」俺は頭を抱えた。
「俺、前世は男だったんだぞ? アルとは親友で——」
「性別など関係ない。大切なのは、魂の繋がりだ」
ガルドスは厳かに言った。
「三ヶ月後、魔王の配下が現れる。その時、二人の絆が試される。もし失敗すれば、この世界は滅ぶ」
「それは脅しか?」
「現実だ」
重苦しい沈黙が降りた。
帰り道、アルがぽつりと言った。
「リリア、無理はしなくていい」
「え?」
「愛し合え、なんて言われても、お前は困るだろう。
前世の感覚が残ってるんだ。男を愛せって言われても——」
「アル」
俺は立ち止まり、彼を見上げた。
「確かに、戸惑ってる。自分が何者なのか、まだよく分からない。でも——」
前世の記憶、今世の記憶、全てが混ざり合っていく。
「お前のことは、大切だと思ってる。それだけは、確かだ」
アルの目が、大きく見開かれた。
「リリア……」
「それが友情なのか、それとも別の感情なのか、今は分からない。
でも、三ヶ月あるんだろ? その間に、俺たちなりの答えを見つけよう」
アルは、ゆっくりと微笑んだ。
「ああ、そうだな」
そして、俺の頭を優しく撫でた。
「焦らなくていい。俺は、お前がどんな答えを出しても、受け入れるから」
その温かさに、胸が熱くなった。
それから二ヶ月半、俺とアルは共に訓練を重ねた。
聖女の力を引き出すため、回復魔法と浄化の術を学ぶ。
最初は戸惑ったが、不思議と体が覚えていて、すぐに使いこなせるようになった。
アルとの共同訓練も増えた。彼の剣技は見事で、聖騎士としての力も強大だ。だが——
「やはり、まだ足りない」
ガルドスが首を振る。
「二人の連携は完璧だ。だが、絆の深さが足りない。このままでは、魔王の配下には勝てない」
「どうすればいいんだ?」
「心を開くことだ。互いに、全てを曝け出すこと」
全てを、曝け出す——
その夜、俺はアルを自室に呼んだ。
「アル、話がある」
「どうした?」
「前世のこと、もっと教えてくれないか。俺、まだ全部思い出せてないんだ」
アルは少し驚いた顔をしたが、やがて椅子に座り、静かに語り始めた。
「お前と俺は、大学で出会った。最初は、何てことない友達だった。でも——お前が病気になってから、全てが変わった」
「病気……」
「癌だった。突然の告知で、お前は絶望してた。俺も、何て声をかけていいか分からなかった」
だんだんと記憶が蘇る。病室の白い天井。絶望。そして——
「でもお前は、最後まで笑ってた。『アキラ、お前は元気で生きろよ』って」
「俺、そんなこと言ったのか」
「ああ。そして最期の日、お前は言ったんだ。『次に生まれ変わったら、今度は俺がお前を守る』って」
「……思い出した」
涙が溢れた。女性の体は、感情が溢れやすい。いや、違う。
これは、リリアの涙じゃない。ケンタの、俺の積み残した感情だ。
「俺、アキラに守られてばかりだった。だから、次は守る側になりたかった」
「でも結局、また俺が守る側になった」
アルは苦笑する。
「お前が女性に転生したから。でも、いいんだ。俺は、お前を守りたい。それが俺の望みだから」
「アル……」
「リリア、いや、ケンタ。お前は、俺の——」
彼は言葉を詰まらせた。そして、深く息を吸って。
「お前は、俺の全てだ。友人として、仲間として、そして——愛する人として」
心臓が、激しく跳ねた。
「前世から、ずっとお前を愛していた。でも言えなかった。お前は男で、俺も男で…そんな感情は許されないと思っていた」
「アキラ……」
「でも今は違う。お前は女性で、俺は堂々とお前を愛せる。だから——」
彼は俺の手を取った。
「リリア、俺と結婚してくれ」
「!?」
「世界を救った後で構わない。いや、救えなくても構わない。残りの人生を、お前と共に過ごしたい」
突然のプロポーズに、頭が真っ白になった。
「ま、待ってくれ。俺、まだ——」
「答えは急がない。でも、俺の気持ちは伝えておきたかった」
アルは立ち上がり、部屋を出ようとした。
「待って」
俺は彼の腕を掴んだ。
「俺も、話したいことがある」
「何だ?」
「この二ヶ月半、お前と一緒にいて、気づいたことがある」
深呼吸して、言葉を紡ぐ。
「俺は、もう完全に高橋ケンタじゃない。リリア・アルテミスでもない。二つの魂が混ざった、新しい俺だ」
「ああ」
「だから、前世の価値観に縛られる必要はないんだって、最近思うようになった。
男とか女とか、そういうのを超えて、今の俺として生きていいんだって」
「リリア……」
「そして、今の俺は——お前を見ると、胸が熱くなる。一緒にいると安心する。
離れると寂しい。これが恋なのか、まだ確信はない。でも——」
俺は、彼の瞳を見つめた。
「お前と一緒にいたい。それだけは、確かだ」
アルの目に、涙が浮かんだ。
「リリア……!」
彼は俺を抱きしめた。力強く、でも優しく。
「ありがとう。それだけで、十分だ」
その温もりの中で、俺は思った。
これが、愛なのかもしれない。
そして運命の日が来た。
王都の北、封印の地に、巨大な魔力の渦が現れた。
魔王の配下、魔将軍が封印を破って現れたのだ。
「行くぞ、リリア」
「ああ」
俺たちは、封印の地へと向かった。
そこにいたのは、巨大な人型の魔物だった。
全身が黒い鎧に覆われ、禍々しいオーラを放っている。
「聖女と聖騎士か。貴様らごとき、我が主の足元にも及ばぬ」
「試してみるか?」
アルが剣を抜く。聖騎士の力が、刀身に光を宿す。
戦闘が始まった。
アルの剣技は見事だったが、魔将軍の力は圧倒的だった。
一撃一撃が重く、アルが押されていく。
「リリア、回復を!」
「分かってる!」
俺は回復魔法を唱える。アルの傷が癒えていく。
だが、魔将軍の攻撃は止まらない。
「ふふふ、所詮はその程度か。貴様らの絆など、薄っぺらい」
「黙れ!」
アルが渾身の一撃を放つ。だが、魔将軍はそれを片手で受け止めた。
「絆が足りぬ。互いを信じる心が、浅い」
「そんなこと——」
「では試してみるか」
魔将軍が、俺に向かって魔法を放った。
「リリア!」
アルが俺をかばう。黒い魔力が彼の体を貫いた。
「アル!!」
「大丈夫、だ……これくらい……」
嘘だ。血が溢れている。致命傷だ。
「アル、アル!!」
俺は必死に回復魔法を唱える。だが、傷が深すぎる。力が足りない。
「なぜだ……なぜ治らない!」
「フハハハ! 絆が弱いからだ! 互いを真に愛していないからだ!」
「愛して、ない……?」
違う。俺は、アルを——
「リリア……」
アルが俺の手を取った。
「いいんだ。お前が、無事なら」
「何言ってるんだ! 死ぬな!」
「前世で、お前を守れなかった。でも今度は、守れた。だから——」
「馬鹿! 約束しただろ! 一緒に生きるって!」
涙が止まらない。
前世の記憶が、鮮明に蘇る。病室のアキラ。俺を見つめる、悲しそうな瞳。守れなかったことを、ずっと後悔していた瞳。
そして今、同じ瞳が俺を見ている。
「もう、いいんだ……」
「よくない!」
俺は叫んだ。
「俺は、お前を愛してる! 前世から、ずっと! 気づかないフリをしてたけど、本当は知ってた! お前が俺を愛してくれてたこと! そして俺も、お前を——!」
その瞬間、俺の体が光り輝いた。
聖女の力が身体から溢れるのを感じる。
「これが、真の絆の力……!」
ガルドスの声が響く。
「互いを愛すると認めたとき、聖女と聖騎士の力は最大になる!」
俺は全ての魔力を込めて、アルを治癒した。傷が塞がっていく。呼吸が戻る。
「リリア……お前……」
「まだ終わってない。一緒に、倒すぞ」
俺たちは立ち上がった。手を繋いで。
「行くぞ、アル」
「ああ」
聖女と聖騎士の力が、一つになる。光の奔流が、魔将軍を飲み込んだ。
「馬鹿な……これほどの力が……!」
「これが、俺たちの絆だ」
光が消えたとき、魔将軍は跡形もなく消えていた。
封印の地に、静寂が戻った。
「やった、のか?」
「ああ、やったぞ、リリア」
アルが俺を抱き上げた。
「お前は、すごいよ」
「お前もな」
俺たちは、笑い合った。
魔将軍を倒した後、封印は完全に修復された。
魔王が復活する危機は、去った。
俺とアルは、英雄として讃えられた。
だが、俺たちにとって一番大切なのは、互いの存在だった。
「リリア、あの時の言葉、本当か?」
城の庭園で、アルが尋ねてきた。
「どの言葉?」
「愛してるって」
「……本当だよ」
顔が熱くなる。女の体は、恥ずかしさが顔に出やすい。
「俺、前世で気づいてたんだ。アキラが俺を見る目が、友達のそれじゃないって。
でも…あの時は認めたくなかった。男同士だったから」
「リリア……」
「でも今は違う。俺は女で、お前は男で、堂々と愛し合える。
不思議だよな、性別が変わったことで、前世では言えなかった言葉が言えるなんて」
「運命だな」
「ああ、運命だ」
アルは膝をついた。
「改めて聞く。リリア・アルテミス、俺と結婚してくれ」
「……条件がある」
「何だ?」
「時々、ケンタって呼んで。前世の俺も、お前との思い出の一部だから」
アルは微笑んだ。
「分かった、ケンタ。いや、リリア。お前のすべてを愛してる」
「俺も、アル。お前のすべてを愛してる」
俺たちは口づけを交わした。
性別を超えて、世界を超えて、運命を超えて。
前世の約束は、今世で果たされた。
そして、新しい物語が始まる。
完




