ルームメイトと観覧車
よろしくお願いします
「卒業前にお弁当持って遊園地に行こう」
二段ベッドの下にいるルームメイトの声で目が冷めた。
時計は深夜三時過ぎを指している。
こんな時間に誰かと電話?
三年近く一緒に過ごすけど初めてだ。
昨日口喧嘩したからか?
そっと下を覗く。
何だ、寝言か。
布団に戻り、目を閉じたが気になる。
卒業まで半月もない。
退寮の準備もあるし、行くとしたら今週末。
お弁当って、まさか自分で?
新入生オリエンテーションの飯盒炊さん。
ルームネイトが作ったカレーはプールの匂い。
先生のストップが入り、事なきを得た。
目を開け、スマホを引き寄せる。
起きたら確認することとカレンダーに書き込み、もう一度目を閉じた。
部活最後のトレーニングで走る。
図書室のベランダに近づくと目はルームメイトを探す。
本をこよなく愛するルームメイトは図書委員。
今日は最後の図書当番。
『観覧車に乗って、一緒に夕日を見た二人は永遠に結ばれるらしいよ』
部活仲間との雑談。
どこの少女漫画だよと呆れ笑っていた。
補欠合格の自分が首席合格の秀才と同室。
何の罰ゲームだと嘆いた。
ギリゆるキャラと笑われる自分と学園の麗人と称えられるルームメイト。
絶対に合わないと思っていた。
だけど。
高い場所が苦手なら下のベッドを譲るよ。
洗剤で食べ物を洗ってはいけないよ。
勉強でわからないところは教えてあげる。
秀才だからじゃない。
麗人だからじゃない。
声を荒げず助ける瞳の優しさに惹かれた。
卒業後は海外留学するルームメイト。
連絡先を教えてくれなくて初めて口喧嘩した。
このまま卒業は嫌で、起きがけで仲直りにと遊園地に誘う。
驚きつつ快諾し、お弁当は自分が作ると笑んでいた。
ルームメイトは賢いけど色恋の類に疎い。
騙すようで心が引ける。
当番終わりに雑巾を干しにベランダへ。
下を見ると項垂れた様子のルームメイト。
きっと最後の部活を悲しんでいる。
明るいルームメイトは学園の人気者。
面白みのない自分を親友と呼んでくれた優しい人。
卒業後に受ける手術は成功率が低いから嘘をついた。
口喧嘩の仲直りに遊園地に行くことになった。
自分にとっては初恋の人との最初で最後のデートになるだろう。
何より大切だから観覧車には誘わない。
ノートを破り、紙飛行機を作って飛ばした。
落ちてきた紙飛行機を追い拾うと翼に文字。
『一緒に帰ろう』
微笑む姿が天使のよう。
観覧車に乗らなくても大丈夫。
いくらでも時間はある。
天使は騙せない。
高所が苦手を理由に観覧車を諦める。
読んでくれてありがとうございました