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②羽根の隠し場所

ニャ天使の羽根は、ふわもふの毛並みに隠してあるので。

背中をなでる時はお気を付けください。

もし嫌がる素振りを見せたら。

それは羽根を畳んで隠している途中。

折れたり壊れたりしないように。

きちんと隠すまで少々お待ちくださいませ。



「まる子ぉ。抱っこさせてえやあ」

飼い主にぎゅううっと抱きしめられ、頬を摺り寄せられる。

「あーん。まる子は真っ白ふわふわで気持ちエエわあ。

ほんまにこんな可愛いコ、他に居らんわあ」

ちょっと力が強くて。

困ったにゃあ、とまる子は思ったけれど。

寄せられる頬からは涙の匂いがしたので。

我慢して「んにゃ」と。なるべく優しい声で応えた。

それから30分ほど。

飼い主は柔らかさと温かさを味わって。

涙の原因となる寂しさをナントカ溶かして。

やっとまる子を解放した。


次の日、まる子はキャリーに入れられて。

動物病院の待合室に居た。

「まるこー。久しぶり。どないしたん?」

すぐ近くに置かれたキャリーから、サバトラ猫が声を掛ける。

「ちょっとお腹がゆるくって。

たぶん整腸剤を処方されると思う」

「ああ。粉のヤツな。苦くない薬やからエエやんな。

またアレか?

飼い主さん、旦那の浮気で落ち込みよって。

カナシサとかサミシサとか、代わりに飲んでやったんか?

腹壊すほど飲まんでもエエやろに」

「だって。あんまりたくさん溜め込んだら。

飼い主さん、また病気になっちゃうかも知れないし。

ルカはどおしたの?タイはお留守番?」

「まあ。オレらも同ンなじや。

かてーほーかいの危機を救ったんやで」

「へえ?それはすごいわね」

「話聞かせたるワ」

この動物病院は、設備も新しくて評判も良い。

だから平日でも待合室は混雑していて。

飼い主同士は、時間潰しのお喋りで盛り上がっているし。

患者達も。お喋りで気を紛らわす。


「2番目の息子が色気付きよって。

大学生の姉ちゃんが風呂入っとおトコ、覗いとるんや。

洗面所で、手え洗たり。歯磨き何回もしよって。

タイは姉ちゃんのコト気に入っとおんで。

許せん!て怒ってもおて。

姉ちゃんと母ちゃんの入浴時間を、逆にしたったんや。

そんで、息子。

母ちゃんのヌード見て。目ぇ覚めたみたいでな。

家庭内に平和が戻って、一件落着や」

ルカは、ふふんにゃん!とドヤ顔だ。

「ルカのお家のお母さんて。確か…」

「せや。

お餅みたいにぷよぷよしとって。

お腹ン上乗ると、めっちゃ気持ちエエねん」

「そおなの…。

トラウマにならないと良いわねえ」

「ニンゲンやで?

虎にも馬にも成れへんで?」

「まあ。確かにそおね」

まる子は、にゃにゃんと笑う。

逆にルカは急にげんなりとした様子で丸くなる。

「大丈夫?」

「そン時の作戦がな。まあ単純やけど。

台所でオレらが騒いで、何ンかひっくり返して。

汚れた身体洗うて貰うだけやったんけど。

黒おて臭あてベタベタする何か、かぶってもおて。

おまけに少し口ン中入ってもて。

オレげーげーしたんや」

「あら、それは大変。

それでさっきから、ソースの匂いがしてたのね」

「おもいだしたらまたきぶんわるうなってきた…」

まる子は慌てて、にゃあにゃあ大声をあげた。

やっとルカの急変に気付いた飼い主はお喋りを止めて。

大急ぎで病院スタッフと一緒に、奥の処置室へ入って行った。




「そんなコトがあったのよ」

日向ぼっこ用の大きなガラスの前に、まる子は座る。

目の前はウッドデッキ。

地域猫用に、まる子の飼い主はごはんと水を置いていて。

ガラス越にまる子とお喋りしているのも。

古株の地域猫ヨハネだ。

白黒ぶち柄で。口元まわりの黒色が神父の髭のよう。

「ははは。それはええなあ。

ルカもタイもすっかり家族の一員やな」

「ほんとにね。

2人一緒に引き取って貰えて良かったわよね。

まだまだ半人前の仕事しか出来ないんだから」

「2人揃っても一人前にはならんけどなあ」

まる子はキョロキョロ庭を見渡す。

「今日はクロチビちゃんは?

何処かでお仕事中?」

この地域では、ヨハネがニャ天使の指導係なので。

よく見習いニャ天使達を引き連れている。

クロチビは熱心に修行しているコで。

いい加減ヨハネがうんざりするくらい、まとわりついて。

色々質問したり教わったりしている。

「あいつはなあ」

ヨハネはゆっくりと目を瞑る。

「空に戻ってったワ」

「え…。

だってまだ、あんなに幼くて。

時間だってたっぷり持っていたじゃない」

「一応止めたんやけどな。

奥さんが臨月で。

子供が生まれるまでは、死にたあ無いて願おとった患者に。

自分の時間を全部やってもた」

「ニンゲンに?

そんな高度な技、見習いで出来るワケないじゃない」

「そおや。

せやから、無理やり時間剥がすために。

車道に飛び出して行きよった」

「そんな…」

「ほんま無茶しよって。

時間は、ばらばらに飛び散ってまうし。

なんとか時間のカケラ集めて。

そのニンゲンにくっつけたんで。

息引き取る前に、生まれたばかりの息子と会えたみたいや」

「そんな強引なやり方して。

きっと、すごい痛みだったでしょうね…」

「オレの後継げる、見どころ有るヤツやと期待しとったのに。

早過ぎや」

深いタメ息をつき。シッポを揺らしながらヨハネは去って行く。

「ねえ!」

まる子はガラスに張り付いて声を掛ける。

「今晩、公園に行くわ。

一緒にお月さまの光を浴びましょう。ね。きっと来てね!」


そしてその夜。

誰も居ない夜の公園のベンチには。

身体を寄せ合って、温かさを分けあう2人の姿があって。

普段は隠してある背中の羽根を重ね合っている様子は。

ひとつに繋がって、何かを補い合うハート型に見える。




特別な幸運とか奇跡とか。

そんな輝く出来事じゃなくても。

ほんのちょっと。気休めかも知れないけれど。

あなたが、心おだやかに過ごせますように。

そんな想いがふわもふの姿を持って。

いつもすぐ近くに居るのです。

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